第1章の27 人を欺く鳥の声
(このじじいけっこう重てぇな……)
秀斗は龍牙隊の本部を早足で歩いていた。こちらに投げかけられる視線が痛い。
それもそうだろう。制服をきた高校生がぼろぼろの老人を担いで歩いていれば誰の目にもつく。
秀斗は隊長室の前に着くとノックもそこそこに入った。
「如月の秀斗ですけ……って美月さん。貴方が仕事してるなんて珍しいっすね」
挨拶よりも、秀斗の意識は隅で事務仕事をしている美月に奪われた。
「相変わらず失礼な……おぉ! そいつは昂乱か?」
美月は秀斗の荷物に気付くと椅子から腰を浮かした。
「そうっすよ。任務は終わったんで、こいつは好きにしてください。あ、でも今は無能状態なんで実験はムリですけど」
秀斗は昂乱を床に転がして、龍牙に向きなおった。
「死堅牢如月、任務完了しました」
「ごくろう。弥生はどうしている」
「……元気ですよ。抱きしめてやりたいほど可愛いです」
秀斗はしばしの間の後、厭味なほど爽やかな笑顔を残して隊長室を後にした。
「いや~あれはそうとうなんか来てるね。今にもぶちぎれそうだった」
「抱きしめてやりたい……か」
美月は龍牙の黒い笑みは見なかったことにして昂乱へと視線を落とした。
足先で数度小突いて起こす。
「うっ……」
昂乱は頭を押さえながら体を起こした。力は全く感じられず、体が鉛のようで、頭も割れるように痛い。
「昂乱」
冷ややかな声が頭上から降ってきた。
(この声は忘れもしない、龍牙!)
昂乱はその能力を奪おうと右手を動かすが、両手を後で縛られ身動きが取れない。
そして再び昂乱が顔を上げると側頭部に蹴りを入れられた。
そのまま壁際まで飛ばされる。
龍牙は大股で近づくと、襟を掴みあげた。
「大事な実験体なんだから怪我を負わせないでくれるかい?」
「いえ、すいません。もうこの顔を見たら殴りたくて、殴りたくて」
そう言いつつも実際の行動は足技だったのだが……。
「貴様……龍牙ではないな!」
「あぁ、そうさ。さて、今回はよくも弥生に傷を負わせてくれたな」
龍牙から発せられた声は彼のものではなく、青年の声だった。
「貴様どう、ぐはっ……」
青年は昂乱の言葉など聞かずにその頬を殴った。
昂乱はあっけなく気絶する。
「気はすんだかい? 鷺」
美月は呆れ顔でその青年を見た。
「えぇ、まだやり残したことはありますけど」
振り向いた青年はもう本来の彼の姿だった。灰色の髪に切れ長の目。
この青年こそが歩の所属する隼のリーダー、鷺だった……。




