↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
151/301

第5章の23 過去からの招待状


 うさぎ狩りから二日。勇輝は朝から晩まで稽古づけの日々を送っていた。

 晴々とした朝から剣の打ちこみをやっている勇輝。

 それと同時刻。

 如月ではホールに全員が集まっていた。

 皆一様に硬い表情でテレビに視線を注いでいる。


「動いたわね」


「丁寧にご招待状ったぁ、おもしれぇ」


「本当に気に食わない女ですね。無関係な人たちを巻き込んで」


 テレビのアナウンサーが伝えているのは連続殺人。一夜で五人が殺された。

 鋭利な刃物で首をはねられた死体。

 ビルから落ち、血だまりのなかにある死体。

 焼け焦げた死体。

 川を流れているところを見つかった死体。

 公園の木に杭で打ちつけられていた死体。

 そしてそれらが同一犯だと決定づけたのが死体の右手に刻まれた模様。

 人間には模様か記号にしか見えないそれは、彼らには意味を持つ文字だった。一人に四文字ずつ刻まれている。


「神の名を持つ憐れな子どもたちへ。一週間後、森の入口で待て……か」


 錬魔が死体の文字を繋ぎ合わせた文をもう一度口にした。


「神の名……か」


 弥生は次々に映し出される現場映像を見ながら喉の奥で笑う。


「疎ましい因縁ね」


 癒慰が吐き捨てるように言い、皆も同意の表情を浮かべる。


「つうかこのこと勇輝に知らせねぇとな」


 はたと思い付いたような秀斗の言葉にそういえばと彼らも表情を柔らかくした。


「誰が行くの?」


 全員で朧月夜に行くわけにもいかない。彼らは互いに顔を見合わせた。

 目があった瞬間、火花が散った気がする。

 暗黙の了解で全員が拳を握った。

 そしてすっと息を吸い、


「じゃんけん、ぽん」


 仁義なき戦いが始まった……。






 勇輝は自室で食休みを取っていた。午後から体術を習う予定だ。もし剣が使えなくなった時は拳で戦う必要があり、体術をやることでさらに身のかわしが速くなるらしい。

 同室の二人はうさぎ狩りの褒美で一日休みをもらっており朧月夜にはいない。

 信之は朝早く出ていき、純は朝、勇輝を眺めて過ごしてから本部に行ってきますと言って出ていった。

 午後の鍛錬まではあと一時間以上ある。

 勇輝がベッドの上でごろごろしていると軽いノックの音が聞こえた。勇輝はがばっと跳ね起きて返事をする。


「どうぞ~」


 誰だろうと思いながらベッドから下りてドアへと近づく。

 目の前でドアは開き、ついで姿の見えた人物に勇輝は目を丸くした。数拍じっと見てしまう。


「久しぶりだな勇輝。元気そうでなりよりだ」


 銀の髪をした彼女はいつもの無表情でそこに立っていた。腰には愛剣の月契を佩いている。


「え……弥生?」


 予想外の来客に勇輝がどう対応してよいかわからずに戸惑っていると、弥生はさっさと部屋に入ってきた。


「狭い部屋だな」


「いや、これが普通だからね」


 如月と比べてもらっては困る。これが一般的な家庭の一室である。

 弥生は机に備え付けられた椅子に座り、物珍しそうに部屋を見回している。

 勇輝はもう一つの椅子を引き、弥生と向かい合うようにして座った。

 一週間以上ぶりに弥生に会うと、なんだかほっとした。心のどこかで如月のメンバーに会いたいと思っていたのだろう。


「楽しくやっているか?」


 しばらく見ない間に勇輝は日に焼け、傷もちらほら見える。詰め込まれて訓練された結果だ。


「うん、毎日剣を振ってるよ。みんな強くていい人でよくしてもらってる」


「確かに、前よりは強くなっていたな……」


「え?」


「いや、なんでもない」


 ぽつりと呟いた弥生の言葉は小さく、勇輝は全てを聞き取れなかった。


「えっと、そういや弥生はなんでここに?」


 話を切って黙った弥生に、勇輝はそう尋ねた。まさかもう帰って来いとは言わないだろう。


「今日のニュースを知らないのか?」


「ニュース? ……あ、そういえば今朝食堂で誰かが話していたような」


 特に興味も湧かなかったので覚えていない。

 ほとんど知らないことを分かった弥生はその説明から始める。


「昨夜連続殺人が起こった。どれもレガーシアが関わっている」


「殺人!?」


 勇輝は目を見開き、すぐに辛そうな表情を浮かべた。


(また犠牲者が増えた……)


 レガーシアのせいでたくさんの人が死んでいる。全く無関係の人が何人も。

 勇輝は心の中で冥福を祈り、手を合わせる。

 死者を悼む勇輝の表情に弥生は胸に苦しみを覚えた。


(人間が死んだことを、悲しんでいるのか?)


 弥生はわずかな戸惑いを振り払うように続きを話した。


「そしてその死体には魔術界の文字が彫られ、それによれば一週間後に戦いになる」


「一週間後……」


 それは後一週間しか鍛錬できる時間がないということだ。


「六日後、勇輝はここを出て如月に帰ってこい」


「わかった」


 あと六日でどれほど強くなれるかはわからないが、全力でやるしかない。


「今秀斗が綾覇にそのことを言いに行っている」


「あ、秀斗も来てるんだ」


「あぁ。じゃんけんで勝ったのは私なのに、なぜかあいつもついてきたんだ」


「うん……なんでだろうね」


 その理由が分かる勇輝は、あははと曖昧に笑ってごまかした。

 そして最近の如月の様子などを聞いていた時、ドアが開いた。


「秀斗かな」


 二人は話を止め、ドアへと顔を向ける。カチャリとドアが開き、ただいまです、と純が入って来た。


「げっ……」


「……え?」


 思わず呻いてしまった勇輝と、知らない人が部屋にいて驚く純。


「え、うわ……あぁ!」


 だがそれが誰かすぐに気づいた純は、無意味に口の開け閉めを繰り返し言葉も出ないらしい。


「誰だこいつは」


 戸口で固まったままの純に弥生は不審そうな視線を投げかける。それがまた純の心臓を締め付けた。


(弥生様……)


 プロフィールに写真は無くても、伝え聞く容姿と雰囲気だけで純は彼女が崇める弥生だと気づいた。恐るべきファン魂である。


「同室の純。えっと……如月のファンらしいよ?」


 ファンというか、追っかけというか。だがもうこれは信者のレベルではないかと勇輝は思い始めていた。

 純は弥生に魂を取られたようにぼうっとしている。勇輝は純の前に立ち肩を掴んで大きく揺さぶった。


「純~戻ってこーい」


「はっ……勇輝さん。今僕、神様を見た気がします」


「よし。純、深呼吸しよっか」


 勇輝は純の身体の向きを変え、弥生を見えないようにしながら、純に優しく話しかける。

 純は言われたとおりに深呼吸をする。


「心が落ち着いたらあっちを見てみよう」


 すっと弥生の方を指し、勇輝の手を視線で追った純は、


「はう……」


 と吐息を漏らして再び固まった。


「勇輝さん、夢のようです。ぼ、僕の目の前に弥生様が……」


「目障りだ、失せろ」


 弥生は煩わしそうに純を見やる。人間に対する弥生の態度はまだまだ冷たい。


「弥生様の罵声……心地いい」


「純! 帰ってこい! 危ない方向に走るな!」


 がくがくと勇輝は揺さぶり、純は少し正気に戻ったように見えたがまだ目はとろりとしている。


「勇輝、こちらにこい」


 弥生は純を無視することにしたのか、勇輝を呼んだ。

 勇輝はしばらく迷ったが純を置いて弥生に近づく。純はすーっと壁にそって移動し、部屋の角で直立した。


「ペンダントをつけているか?」


「うん。あるよ」


 勇輝は疑問を感じつつ胸元からペンダントを手繰り寄せて見せた。皆の紡命珠が入ったそれは、勇輝を守ってくれるものだ。


「やはり力が弱まっているな」


 弥生は自分の紡命珠に触れると眉根を寄せた。指を通して紡命珠に力を注ぎこむと、くすんでいた珠が透明度を増した。


「あ、すごい」


「一度割れたからな。その分力が逃げたんだ」


 調和のとれた六つの珠は優しい色をしている。

 勇輝がペンダントを服の下に戻した時、バタンとドアが開いて金髪頭が転がり込んで来た。


「勇輝~! ひっさしぶり!」


 秀斗がにかっと笑って片手をあげた。勇輝の肩に腕を回し、わしゃわしゃと頭を撫でる。


「相変わらず小せぇな!」


 小さいという言葉にすかさずアッパーを決める勇輝。秀斗はわざと言ったらしく笑いながら痛がっていた。


「秀斗……様」


 突然入って来てじゃれあいを始めた秀斗を、純はきらきらとした目で見つめていた。その熱烈な視線に秀斗も気づき、部屋の隅で銅像となっている純を指差す。


「こっちのちっこいのは誰?」


「同室の純……その、如月のファンでさ」


「ファン?」


 へぇと秀斗は純を見、爽やかスマイルを浮かべた。


「如月の秀斗だ。よろしくな」


 純はがくりと膝をついた。あまりの幸せ《ダメージ》に身体が耐えられなかったらしい。


「純!」


 勇輝は崩れ落ちた純へと駆けよって顔を上げさせる。彼は遠い目をしており、天国でも見ているかのように穏やかな笑みを浮かべていた。


「秀斗様に挨拶された……もう僕、死んでもいいです」


「早まるな! 気を確かに持って!」


 弥生と秀斗を見てショック死などされては洒落にならない。


「そいつおもしれーな」


「こっちに来ないで!」


 興味をそそられたのか二人に近づいてきた秀斗を勇輝は鋭い声で制した。もし純が間近で二人を見たら、もし秀斗が純に触れでもしたら……。考えるだけで恐ろしい。


「秀。お前は人間を誑かすのが上手いな」


「え、弥生もしかして嫉妬? ジェラシー?」


 不愉快そうな弥生の声に、秀斗は嬉々としてそう返す。弥生の目が鈍く光った。


「後でこの広い鍛錬場で遊んでやろう」


「オッケー。無限鬼ごっこだな」


 そしてこの後もくだらないやりとりを繰り返し、勇輝が鍛錬の時間になった頃に帰っていった。

 その後純はぼんやり如月ファイルを眺めて過ごしたようだ。ファイルに新たな一ページが増える日は近い。

 そして鍛錬場に出て来た勇輝は、また弥生が第一師団を叩きのめしたことを知るのだった……。





 時は少し遡り、弥生が勇輝と話している頃。秀斗は一人執務室を訪れていた。

 十年前に比べると壁に飾られている剣の数が増え、少女だった綾覇は妙齢の女性となっている。

 秀斗はソファーに座り、向かいにいる綾覇を見てしみじみと呟いた。


「十年って怖ぇな」


 綾覇の目がぎらりと光った。


「それはどういう意味?」


「なんでもないっす」


 殺気を感じた秀斗は乾いた笑いでごまかす。


「つうか来て早々弥生がやらかして……すんません」


「今回も派手にやったわね」


 綾覇は苦笑を浮かべて窓の外に目をやった。第一師団は執務室の前にある広場で鍛錬することが多い。なので全て綾覇から見えていた。


「やっぱり前にも……」


 彼らは弥生を見た途端、目の色を変えて挑みかかって来た。中には前回の雪辱を晴らすと叫ぶ者もいて、秀斗はまさかと見ていて冷や汗をかいたのだ。


「いい薬になったけどね。今回やられたことでさらに燃えるわよ」


「相変わらず熱いっすね……」


「それで? 今日ここに来た用件を聞こうじゃないの」


 綾覇は足を組んで膝の上で頬杖をついた。胸が前に出されこぼれんばかりに強調される。

 秀斗は気まずくなってすっと視線を逸らし、本題に入った。


「勇輝のことなんだけど、後六日で返してほしい」


「六日? 期限は決まってなかったけど……少し短いわね」


 朧月夜に訓練を受けにくる者は短くて一カ月は訓練を受けないといけない。だが後六日しかないとなると、勇輝が訓練を受けた期間は半月に届くか届かないかだ。


「できるとこまででいいんだ。一人で戦ってくれなんて思ってねぇよ」


「……わかったわ。重点的に鍛錬してあげる」


「ありがと」


 綾覇は身体を起こし、背もたれに背を預けた。


「勇輝君、あんたと同じことを言ってここに来たわ」


 その言葉に秀斗はあははと照れくさそうに笑った。

 秀斗が強さを求めてここに来たのは絶望の中にいた時だった。その苦さが胸の中に蘇り、なんとも言えない気持ちになる。


「俺よかいい瞳をしてるだろ」


 暗い、思いつめた瞳をした秀斗と明るく決意に満ちた瞳をした勇輝。二人は正反対のようで、心の底にあるものは同じだった。

 綾覇は二人を重ね合わせてくすりと笑った。


「えぇ、それにいい根性してるしね」


「俺より才能もあるしな」


「確かに、どんどん吸収していくわ。教えがいがあるってものよ。もうあんたのような教え子はいらないわ」


「いやぁ……まじ面倒かけました」


 はっきりそう言われると少し傷つく。


「秀斗君。あれから剣は握ってるの?」


「いや全く。向いてないことをしたってしゃーないんで」


「戦闘で必要になる時もあるでしょ」


「そん時はそん時で」


 あははと笑って手を振る秀斗の手を綾覇はちらりと見た。


「ふ~ん。せいぜい死なないようにね」


「守りのスペシャリストが死んでたまるかよ」


 秀斗はバカにすんなとニッと笑う。


「んじゃ、そろそろ勇輝の顔を見に行くぜ」


 秀斗はそう言ってソファーから立ちあがった。


「弥生ちゃんによろしく言っといて。いつでも負かせてあげるわ」


 綾覇は勝気な笑みを浮かべてひらひらと手を振る。秀斗はドアを開けると、一度綾覇を振り返って意地悪そうな笑みを浮かべた。


「小皺とシミには気をつけろよ~」


「うるさい!」


 綾覇の怒声を聞きながら秀斗は執務室を後にしたのだった。






 みんな勇輝に会いたいんですね^^。この回で一番の幸せ者は純でしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。