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第4章 エピローグ (裏)


 つかつかと阿修羅は幸を片手に抱いて廊下を歩いていた。大理石で作られた廊下を、極力足音をたてないように歩く。廊下を行く人はまばらで彼に気づいたものは立ち止まって礼をした。


(……少し頭が痛いな)


 軽い二日酔いになったようで、少し飲みすぎたと反省する。昨晩から明け方にかけて行われた阿修羅対錬魔の飲み比べは結局勝敗がつかず、両者とも動作に異常をきたし始めたので秀斗が強制終了したのだ。

 二人がソファーに倒れこんだ時には、秀斗以外全員が死んだように寝ていた。そして数時間睡眠をとり日が高く昇ってから鎖羅と如月を後にしたのだ。

 阿修羅はちらりと幸に目を落とした。幸は大人しく阿修羅の腕に収まり、阿修羅と目が合うと嬉しそうに手を伸ばす。

 阿修羅はすっと口角をあげると視線を前に戻した。もう目的の扉は見えている。

 この屋敷の中で唯一門番がいる部屋。黒騎の長がいる部屋だ。黒騎内ではボス、一部では陛下と呼ばれる男がそこにいる。

 阿修羅はすっと息を吸い、心を鎮めた。

 阿修羅がアフランに切り替わる。


「アフラン様、どうぞ中へ」


 彼に気づいた門番が中に取り次ぎ、阿修羅を通した。暗い部屋が扉の奥に広がっている。

 縦に長い部屋の奥、階段を少し昇ったところに王はいる。その傍には仮面の従者も控えていた。

 アフランは玉座に座る王を一瞥し、燭台の明りを頼りに歩みを進めると階段の手前で跪く。


「陛下、望みのものを持参いたしました」


「来い」


 王は表情を変えずに抑揚のない声でそう命じた。

 アフランは黙って立ち上がり玉座へと続く階段を上る。そして階段を登りきったところでもう一度跪いた。

 王は横に控える男を一瞥すると、男は音もなく闇に紛れて消えていく。

 彼の存在が消えたことを確認すると、王は闇の触手を伸ばして幸をくるみ取った。

 アフランの腕から温かみが消え、幸はきょろきょろと頭を動かして阿修羅を探す。


「……すばらしい」


 王は口角をあげ、幸を自身の目の前で浮遊させる。幸は王が視界に入った瞬間、火がついたように泣き始めた。

 王は不愉快そうに眉をひそめ、アフランも泣き声が頭に響いて煩わしそうな表情を浮かべる。


「器風情が……失せろ」


 王はそう言い捨てると、硬質化させた闇で幸を貫いた。ぴたりと泣き声が止み、次の瞬間には赤子は弾けてその姿を消す。

 残ったのは丸く小さな黒い塊。流動的でありながら霧でもなく、闇でもないもっと複雑にからみあった何か。それに闇の触手が巻き付き、隙間なく埋め尽くす。


「くくく……やはりあの戦場は他のどこよりも憎しみや恨みを吸っている。これほど上質な負のエネルギーは他にない」


「噂以上の惨状でした。空間を境にしてあの大地には草一つ生えず、俺も闇を纏っていなければ三十分で死に至るでしょう」


 王は目を閉じて戦場跡にしみ込んだ憎しみを味わいつくすと自身の闇を収縮させた。

 自分の力が回復したのが分かる。


「それが奴らと同じ空間にあるとはな……天つ人と接触をしたのか?」


 王はひじ掛けに肘をかけて頬杖をついた。その眼は愉快気に細められている。


「はい。なかなか愉快な奴らです」


「ほう……いずれ奴らは狩る。それまで何度か接触を図れ……くれぐれも感づかれるな」


「御意」


 アフランは頭を垂れて慇懃に返答する。


「それと、レガーシアが完成した」


 低くどこか楽しげな声で告げられた内容にアフランは弾かれたように頭をあげて王の顔を見た。蝋燭の火に照らされた顔は愉悦の表情を浮かべている。


「レガーシアが……」


 四人いる幹部のうち二番目に記された名前。何年か前に幹部入りしてから、姿を見せたことは一度もなかった。


「陽動はレガーシアに任せる。お前は今まで通り憎しみを集めろ。器は適当に影に持たせる」


「御意」


 アフランは再度深く礼をすると立ち上がり、踵を返して階段を下りていく。


「――阿修羅」


 アフランが階段を下りきった時、そう王が声をかけた。アフランはぴたりと止まり、阿修羅として振りかえった。


「何ですか? ボス」


「今度のレガーシアはお前の好みの女だ。そのうち会えるだろう……楽しみにしておけ」


 王は含みのある笑みを浮かべて顎をしゃくって扉を指す。


「わかりました。覚えておきます」


 阿修羅は王に向き直って礼をすると、足早に部屋から出て行った。外の光に触れ、目を瞬かせながら歩きだす。


(なぜボスは俺の名を呼んだんだ……?)


 今まで本名を呼ばれたことは一度もなかった。彼がアフランとして幹部に入ってからは一度も……。


「レガーシア……」


 阿修羅は口の中でその名を反復し、廊下を歩いて行った。鎖羅が待つ氷騎へと続く廊下を……。


うん、短い。こっちサイドは無駄話をしないね。

さて、これにて四章は終了いたしました。なんだかんだで長かったですね。


次章は……それなりに長そうです。四章に入りきらなかったものが割り込んだり、ブラック要素が増えたりと、作者としても楽しみな章です。


何よりも、五章はこの話のタイトルに迫る章ですから。


そしていつも読んでくださっている方がた、ありがとうございます! 作者は見直し期間に入ります。(ひさしぶりに一章を読んだらひどかった、が、手のつけようがない) そして幕間に設定を公開しようと思います。(ネタばれはしません、できません)

 

 では、五章でまたお会いいたしましょう!

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