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「ボクの攻撃を避けるとは何事だ!?」
「くっ!馬鹿のくせに……」
貴公子フォックスが指先から放ったレーザーを青羽魔族が回避。
青羽魔族が盾戦士のズィールを蹴り飛ばし、やっと青羽魔族がフォックスへの道が開いた直後の場面。
まだ手が届くような距離ではなかったのに、避けるとは……どういう反射神経と身体能力を持っているのか、青羽魔族。
青羽魔族とズィール、一対一では青羽魔族の方が上。
しかしフォックスとズィールが組んでいると、やや青羽魔族が攻めあぐねるようだ。
少なくとも盾の後ろにいるフォックスに攻撃は届いていない。
青羽魔族は左右へ体を動かしつつフォックスとの距離を詰める。
「ズィール!」
だがフォックスが盾戦士を呼ぶとズィールが二人の間に割って入る。
青羽魔族の顔がイラついた顔になる。
思うような戦いに出来ていない事への怒り、そうに違いない。
フォックスは盾戦士ズィールの名を呼ぶが、後ろにいる者達の名は呼んでいない。
余裕の表れなのだろうか?
理由は判らない。
(アキラ、ハンナの手の者からの情報じゃ。光線を放ったのはムロン帝国の第五皇子フォックス・コーデ・ムロンだそうじゃ)
(タケさん!……帝国のヤツだったかぁ)
(ここと帝国の間にはあの惨劇の傷跡と多くの山々があるのに、よく来れましたねぇ)
(ワイバーンとグリフォンの姿が見えるし、空なら越えられるんじゃないか?)
(そうなんでしょうねー)
(フォックスとヤツが率いる『麗人』というパーティは帝国以外でも強さで有名らしいのぅ)
(『麗人』……確かに目を離せない……)
(アーキーラー)
(つ、強さから目が離せないんだよぉ!)
(何が起こっているのやら……フォックスは貴光士という天職持ちで先ほどのような光線を放つそうじゃ)
(天職持ちだったか!あのレーザーは異世界人とか関係ないくらいの威力がありそうだったよ)
(しかしハンナ達、よく調べてありますねぇ……)
(いや、特に隠しておらんらしいのぅ)
(力に自信があるのか……)
(馬鹿なのかも知れませんねー)
晶達の先で戦う青羽魔族とフォックス、ズィール。
その戦いを見ている晶へタケマツから念話が入った。
いや、晶は違うモノを見ていたのかも……ビキニアーマーの女戦士とか……。
タケマツがハンナ達から聞いた情報は結構多かった。
どうもフォックスは情報を隠してはいないらしい。
確かに圧倒的な威力であった。
まぁ、情報を元に準備すれば異世界人の晶とカヅキであれば対応出来そう……今打てる手があるかは別として。
「そこの男!見過ぎッス!!」
「本当なのー」
「誰だよ、まったく……」
「辺りを見回すなッス!あんたッス!!」
「小芝居が上手なのー」
露出狂とも思える女戦士達からの声。
オレンジ頭でアホ毛ありは三下っぽいしゃべり。
声はハスキーな感じだ。
ピンク頭は不思議ちゃん系でどこぞの声優っぽく可愛らしい声。
主役が張れそう。
晶がヤレヤレといった感じで辺りを見回し不躾な男を探す。
そんな晶に追撃。
晶、見抜かれている。
やはり晶は貴公子達の戦闘よりビキニアーマーをガン見していた模様。
視線はバレバレだったらしいが……。
「すみません!見たかったんです!!」
「開き直ったッス!?」
「妙に男らしいのー」
(アホですか……)
真面目に戦っている者達を横目にアホな事を言っている晶。
相手も毒気を抜かれている。
いや素なのかも知れない。
カヅキがやりとりを聞いて呆れている。
黙っているがフローラとエルから晶へ冷たい視線が飛んでいる模様。
晶、ピンチ!
素直に言えばいいというものではない。
「うぉっ!!」
そんな晶を襲うレーザー。
青羽魔族だけでなく晶も近い距離ながら回避していた。
異常なモノが多い戦場である。
「君まで避けるのか!?」
「あんなん来たら避けるわ!!」
「普通は理解する前に当たっているのだがね……」
金髪貴公子ことフォックスが自分の放った攻撃を避けた晶に叫ぶ。
晶も必死の形相。
それほど回避に余裕があった訳ではなさそう。
まさに光の速さ、そんな攻撃を避けたのだ。
その難しさを知っているであろうフォックスが呆れている。
ナルシストっぽいフォックスが人の事で感情を露わにしている。
よっぽどの事であろう。
茫然とまではいかないが盾戦士ズィールがしっかり守っている。
頼もしい盾だ。
青羽魔族が至近距離で放った風の刃も防いでいる。
心なしかタワーシールドが光っていた。
やはりただの盾ではないのだろう。
「避けたッス……」
「おかしい人なのー」
「あれを避けるのか!?」
「化け物かしら?」
「人では……ないのでは?神の奇跡、出番?」
(アキラはおかしいー)
「良かった……やっぱりおかしいんだね」
「フローラ、安心してる場合ではない……わらわの天敵がいる」
速さも威力も抜群の攻撃、レーザー。
青羽魔族に続き晶も避けて見せた。
ビキニアーマーの女戦士達が驚いている。
彼女達の側にいる盾持ち剣士っぽい青年も驚愕の表情。
金髪縦ロールの杖持ち魔法使い?晶を化け物呼ばわりして首を傾げている。
他の者よりは驚いていない、大物なのかも。
なんせ縦ロールだし。
敵陣営最後の発言、神の奇跡と口に出している女神官。
青と白の服は神官の制服らしい。
彼女は縦ロール以上に驚いていない。
むしろ無表情。
神の力を行使できるものは普通ではないのかも知れない。
いや迷宮都市であったレベッカ達は普通っぽかった。
この子が変わっているのだろう。
晶をおかしい呼ばわりしているのは敵陣営だけではなかった。
フローラは晶と一緒に行動していて、アキラに慣れて来ていた。
むしろ慣れすぎてしまっていたのだろう。
敵陣営の反応で晶の異常性を再認識。
そんなフローラへ声をかけるエル。
表情は変わっていないが声に緊迫感が漂っている。
夜の支配者ヴァンパイアロード。
教会の神官はエルの天敵。
実際、コス家に囚われていたのは教会の手の者が原因だという。
「エル、やばいのか?」
「夜ならば負けない。昼でも一対一なら負けない」
「護衛がいるような今は、厳しいって事か」
「ちょっとだけ」
晶がエルへ視線を向けずに問いかける。
さすがにフォックスから目が離せなくなっていた。
エルは昼でも一対一ならば勝てると言っている。
護衛がいる今はちょっとだけ厳しいらしい。
プライドの高そうな彼女だ、結構厳しいとみるべきかも。
エルは高速戦闘が出来る。
その彼女が厳しいのだから、結界や聖なる領域でも作られてしまうのかも……。
近づくことすら出来ない場面でなければエルが勝つはずだからだ。
「ふっ!!」
そこで戦いが動いた。
青羽魔族がフォックスから彼の後方にいる者達へ的を変えたのだ。
抑えられ暴れられない事に業を煮やしたと思われる。
そういう意味ではフォックスとズィールの勝ちであろう。
「その程度では無駄よ!」
複数の火の矢を光る魔法陣で防ぐ縦ロール。
美しい……大きな円の魔法陣が青白く光っている。
幾何学模様、何らかの文字……神秘的だ。
こういうのが大好きな晶が見惚れている。
恐らくカヅキもだろう。
「出番かね……君達は退避していたまえ」
「「はっ!」」
円盾持ちの青年がテイマー達に下がれと言った。
青年はフォックスに次いで偉いのかも知れない。
後方指揮官といった様子。
「ボクを無視しようなんていい度胸だ、褒めてやろう」
フォックスの横へ移動していた青羽魔族にレーザーが連発される。
連発も出来たのか。
ただレーザーは今までのモノより細かった。
何らかの制限があるのだろう。
「ぐわっ!……っちぃ!」
青羽魔族もさすがに避けきれていなかった。
いくつかのレーザーが命中。
しかし動くのに支障はないのか、まだ走っている。
舌打ちをする元気もある。
まだまだ健在。
なるほど、青羽魔族は馬鹿ではない模様。
突出して青羽魔族と対峙していたフォックス達と後方にいたフォックスの仲間達の間に入った。
同士討ちを恐れてレーザーを多用出来なくなるであろう。
気になるのはナルシストが他の者をどこまで気にするかという一点。
人の被害など、まったく気にせず攻撃を続けかねない。
「ほぉ……」
その意図に気付いたらしいフォックス。
感心している。
感心しながら放たれるレーザー。
「くっ!」
フォックスは躊躇なくレーザーを放った。
仲間達がいる方向へだ。
的であった青羽魔族がレーザーを見る事なく避けてみせた。
どうやら視覚ではなく魔力で判断していると推察できる。
まぁ、連発ではなかったのは幸いであったろう、青羽魔族にとって。
レーザーは誰に当たる事もなく森の先へ抜けていった。
「あ……」
(ん?どうかしましたかー?)
(火事……後ろで燃えてる……)
(あぁー!)
晶が声を漏らしたのはそんな時であった。
森の先へ抜けていったレーザー、その後がどうなったのか想像したのだろう。
振り返って、今までレーザーが向かった先を見ている。
赤い炎。
少しだけ見えた。
それ以上に上がっている煙が多い。
森が燃えていた……。
被害のほどは判らないが煙から推察すれば少ない被害ではないと判る。
フローラとエルも晶の見ている方を見た。
そして現状把握。
「も、森が……」
「おかまいなしか」
フローラはタマギ島育ち。
それほど広くもない島だ。
山火事などの恐ろしさを良く知っている。
ただでさえ少ない資源の消失を恐れるのだろう。
ここはタマギ王国ではないが、身に染みていると思われる。
フローラは愕然としていた。
エルは淡々としたままだ。
火事を起こしたフォックスを睨んではいたが。
「俺達の後方……ビキニアーマー達も見えていただろうに、反応なしかよ!」
(基準がビキニアーマーってはどうかと思いますが、そうですねぇ)
「敵の領地って事か!くそっ!」
晶は怒っていた。
カヅキからのツッコミは無視。
日本からこっちに来てから、森にはお世話になっている晶。
倒木から道具や食器を作ったり、果実、木の実といった森の恵みを得たりしていた晶だ。
晶のみならず動物、魔物も暮らしていた。
自分の物ではないとは言え許せないのであろう。
晶もフォックスを睨む。
既に青羽魔族とビキニアーマー達が乱戦に突入。
フォックスはレーザーを撃っていない。
先ほどの攻撃は仲間に当てない自信があったのかも。
どういうつもりなのか、フォックスの表情からは伺い知れない。
「エル、フローラを連れて大亀を潰して来てくれ」
「アキラ?」
「アキラ、様?」
低い声で告げる晶。
やはり怒っているらしい。
フローラとエルもその怒りに気が付いているようだが、言葉の真意を探るように晶の名を呼んで顔を見ている。
「青羽魔族じゃないが、乱戦の方が戦いやすそうだ。それに神官もいるしな」
「神官。解った」
「うん、解ったよ。無理しないでね」
「あいよ」
どうやらフローラの安全だけでなく、エルの安全も考えている晶。
ここは二人にとって危険すぎる戦場。
晶は自信ありそうだ。
むしろ仲間を気にしないで戦えるのは大きいだろう。
静かな闘志が漲っている。
エルが晶の思う所を察して素直に返事をする。
少し悔しそうに見えるのは気のせいではあるまい。
ある意味逃げるのであるから。
フローラもごねたりはしなかった。
ここでの実力が下の方だと判ったのだろう。
縦ロールが出した大きな魔法陣に差を感じたのかも。
(タケさん、エルとフローラをそっちに送る。エルと交代でタケさんだけこっちに来てくれ!)
(ほう、何か考えがあるのじゃな?よかろう)
(異世界人を舐めるなって事ですよー)
(楽しみじゃな)
晶がタケマツに念話を飛ばす。
晶、カヅキには作戦がありそう。
そして、フローラ、エルの二人に手を上げて走り出す晶。
もう後ろを見る事はなかった。
エルもフローラを抱えたまま、森の木々を縫うように走り出す。
大亀に向かって。
「お前の相手は俺がしてやろう!」
「仮面で顔を隠してくれたまえよ」
またもやレーザーを躱す晶。
フォックスも晶の接近を見逃したりはしていなかった。
変な奴ではあるが強い。
晶が吠える。
フォックスは淡々とした返事。
嫌味を混ぜてくる余裕もあった。
不細工な顔を見せるなと。
そう言えるだけの美貌は持っているフォックス。
ズィールは兜で顔を覆っているし、テイマー二人も仮面を着けていた。
本気なのだろう。
そう言う意味では後方指揮の青年は合格という事だ。
実際、美形の部類。
晶にとって敵の多い戦場になった。




