2-23
2-23
イザベル達の家、教会の屋敷に泊まらせてもらった晶とイェン。
少し早めの朝食もいただき、既に迷宮内を歩いている。
例のごとく扉を押しながらだ。
そして満員。
「昨夜は面白いモノを見た……」
「ふわぁ……まだ眠い。ぴよこが子供達に追い掛け回されてたけど逃げ切るとは思わなかった」
「アキラのぴよこは大人気だったな。最後なんかは凄かった」
「俺の頭の上に来たぴよこを追った子供達にたかられた。あんな経験は初めてだ」
(いいなぁ!いいなぁ!!)
(子供まみれじゃったの)
「アキラの姿が見えなくなってたぜ」
「おう。あれは熱かった。子供って体温高いのな」
「そうなのか」
食事の時にぴよこを見た子供達が大興奮。
みせてー、さわらせてー、なでるーと大人気。
子供達の大群が迫ってくるのを見て逃げ出したぴよこ。
無理もない。
テテテッとテーブルの上、長椅子、床と縦横無尽に走って逃げていた。
子供達は楽しそうにしながらぴよこを追いかけていた。
最後にはほとんどの子供が参加していたと思う。
それでもぴよこは逃げ切った。
謎歩きで壁、天井をスタタタと移動した時には大歓声が上がった。
子供達を笑顔で見守っていたシスターさん達は口を開けたまま茫然となっていた。
うん、謎歩行は驚くよね……。
そんな状況も年嵩シスターとスレンダーさんの一喝で収まった。
ピタッと子供達が止まったのは凄かった。
怒ると怖い人達なのだろうと解った。
そして食事の後は風呂に入った。
子供達の後ではあったが。
迷宮都市コドだけではなく中央大陸では珍しくない風呂。
お湯を出す魔導具のおかげで風呂に入れる。
孤児院の施設という事で湯船も大きかった。
それで晶はご機嫌になっていた。
晶は南大陸とタマギ島でも風呂に入っていた。
どちらもアレス関係の屋敷でだけだった。
タマギ島では大衆浴場はあるが個人の風呂は多くないそうだ。
ドンではこれから建設だといっていた。
良い文化である。
風呂の後にシスターさん達とイザベル達を交えて話をしていた。
年嵩の優しげなシスターはジーナさん。
スレンダーさんはレベッカさん。
他のシスターさん達は子供達を寝かせるので忙しそうだった。
改めてイザベル達を助けた礼を言われていた。
晶達は素直に礼を受け取っていた。
思う所はあろうが助けた事実は間違いない。
そこを否定してもしょうがないと思ったのだろう。
迷宮で対価を貰う前にポーションを譲り渡す。
普通はない展開らしい。
命を繋ぐかも知れない重要物資だからだ。
ジーナさんは教会付きのシスターさんで責任者。
しかも治癒の魔法が使えるそうだ。
治癒の魔法……魔法とは言っているが実際は神様の力を借りている奇跡の一種らしい。
治癒の神様の意思にそぐわぬ行動をすると奇跡の力が使えなくなるとか。
だから教会の人間は信仰心が篤い。
治癒の対価にお金をもらい生活している。
それ以外にも教会本部からの支援があるそうだ。
だから子供達が一杯いても何とかなっていると。
そして晶の包帯姿を見て、お礼に治しましょうか?とジーナさんが言ってくれていた。
ちょっと事情がありまして……と治癒を断っていた晶。
偽りの怪我なので語尾に向かい声が小さくなっていた。
イザベルとジェーンの話も出た。
二人共成人したばかりだという。
アレスと同じ歳。
成人しても孤児院にいられるようだ。
職人の弟子などは住み込みの仕事を探すらしい。
ここは迷宮都市なので冒険者になる者が多く、成人して教会を出て行った者達はクランを結成して下の子達の面倒を見ているそうだ。
イザベル達は半分冒険者、半分教会のお手伝いという事で、まだここにいる。
そしてスレンダーさんこと、レベッカさんが冒険者の指導をしている。
現役の冒険者でもあるらしい。
凄腕だとイザベルとジェーンが鼻息も荒く自慢していた。
地下五階のゴブリンまでという約束で迷宮行きを許されていたとか……地下六階のオーク部屋にいたのは稼ぎに目が眩んだと。
晶達との話が終わったら説教は確定らしい。
軍曹殿のお叱りだ、しっかり怒られて欲しい。
なんたって約束を破って怪我人を出したのだから。
なかなか楽しい一日になっていた晶達。
野営でなく寝床で眠れるのは嬉しそうだった。
▼
「空いた!と思ったら彼らのダッシュだ。凄い気迫だった」
「あれは気後れしてしまうな」
「眼力も凄かった。石にされそうな感じ……」
「アキラなら逆に石にしちまいそうだ」
「なんでだよ……」
「ま、ボスオークが俺達の相手をしてくれるさ」
「おう」
歩いていた先でオーク部屋の扉が開いて冒険者達が出て来た。
と思ったら、晶達の側で部屋待ちをしていた冒険者達が凄い形相でダッシュしていた。
晶達も走ったが、隣で目をひん剥いて威嚇され負けていた。
雄叫びを上げて通路を走っていた彼ら。
必死さが違った。
彼らにも理由があるのかも知れない。
どこでもいいから戦ってお金儲けだーという晶達では負けても仕方あるまい。
素直に引いていた。
そんな晶達の目の前の扉は地下十階にあった。
ボスオークがいるという部屋だ。
また四つの扉が並んでいる。
待っている冒険者達はいない。
「いくべ」
「イェン、今日は戦っていないけど大丈夫か?」
「んー、大丈夫だ。オークなら問題ないさ」
「そか。なら行こう」
「おう」
(無理するでないぞ)
(アキラさんに死なれると困りますからねー)
(カヅキさん……そこは素直に俺の身を心配しつつ応援でしょう……)
(おにぎりのうらみー)
(えぇっ!?)
(冗談です)
今日初めての戦闘がボスとか。
それをやれそうな晶達がおかしいのだろう。
散歩のついでみたいだ。
タケマツとカヅキからのお言葉。
忠告とツンデレ?
カヅキがおにぎりの恨みとか言っている。
冗談ではなく真面目に食べたいのだろう。
受肉するまでの我慢だ。
晶の体内に格納されていると神気の溜まりがいいらしい。
タケマツもそう言っていたからそうなのだろう。
どの程度早まるかは判らない。
晶が脳内会議をしている間にイェンが扉を開けた。
晶もイェンに続いて入る。
「地下五階のゴブリンと同じだな」
「あぁ。部屋の広さ、造りも同じだ」
「明るくなった後は……黒い煙が出たぞ」
「用意はいいか?イェン」
「おうともよ」
黒い煙の後にはオークの集団がいた。
ゴブリンの時と同じような構成。
一番後ろに巨体オーク。
通常のオークが二m前後の身長で横幅がある。
それを上回る大きさ。
他のオークが武器か盾、杖なのに対し、ボスは金属の胸当てを着けている。
両刃の戦斧も持っている。
重そうだが振れるのだろうか?
さすがに使えない武器を持っては出て来ないか。
「イェン、右の小隊を頼む」
「おう。オークだから慎重にいくぜ」
晶がイェンに右のオーク小隊を任せている。
五体のオークで構成された小隊が二つ。
それにボスだ。
計十一体。
「後ろにメイジらしきヤツがいるぞ!」
「何とかするさ」
晶がイェンにオークメイジの存在を伝える。
そしてまたも突撃していく晶。
「うらぁっ!!」
晶が一番前に出ていた盾オークを盾ごと蹴飛ばす。
盾オークが吹き飛ばされると思ってもいなかったであろう後衛達はモロに巻き込まれる。
剣オーク一体が難を逃れていたが、晶は無視。
そのまま杖を持っていた個体、オークメイジの頭を踏みつける。
相撲の四股のような踏みつけ。
オークメイジは血の花を咲かせる。
汚ねぇ花火というヤツだろう。
倒れた槍オークが晶の足を薙ぎ払ってくるが後方へ飛び退き躱す晶。
そのままの体を捻り剣オークへ向かっている。
「ブギィッ!」
雄叫びを上げて迎撃しようと剣を振りかぶっている。
「おせぇ!!」
オークの剣が振り下ろされる前に間合いを詰めていた。
そしてジャンプしつつ平手で顔を殴る。
晶が平手で殴ると手加減にもなる。
その結果は爆散。
ストレートで殴ると穴が開く。
迷宮のオークからは肉がとれない。
倒せばいいのだろう。
起き上がって来た残り三体。
盾持ちは顔がひしゃげている。
鼻、口から血を流している。
初撃の蹴りを盾で受けてなお、ダメージが大きそうだ。
ふらついている盾オークの横をすり抜け、後ろにいる槍オークと剣オークの間に飛び込む
アキラが消えた?いや低い体勢で足払い。
晶がやると倒れるだけではなく足が千切れ飛ぶ……。
倒れた二体の頭を蹴り飛ばしている。
ついでとばかりに盾オークも後ろから蹴っていた。
五体のオークが無残な姿に。
(アキラさん強いです……)
(カヅキでもこれくらいは出来るはずじゃぞ?)
(私は訓練中でしたから……神気を扱うのは結構難しかったです)
(性格的に向いてないってのもあるのぅ)
(そりゃそうですよぉ!乙女ですもの)
晶の暴れっぷりを評価する二人。
タケマツ的にはこの程度といった感じだ。
異世界人前衛はそれほど強い。
カヅキは女子高生だったと言う。
それは戦える方がおかしい。
おかしいと言えば晶は十分おかしい。
おかれた状況が状況だったとはいえ、すでに暴れ慣れている。
戦闘民族出身だったのかも知れない。
首を寄越せとか言っていたのかも。
「イェンの方へ行かせても不味いよな。やっちまおう」
晶は五体のオーク小隊を屠り、ボスオークへ詰め寄る。
ボスオークから感情は読み取れないが腰を落とし戦斧を構えていた。
ここは戦う場所だ。
どんな相手だろうと戦うのだろう。
ヒュゴッ!と空気を裂くような音。
それと共に戦斧が通り過ぎた。
音だけではなく風も流れた。
重そうな両刃の戦斧を軽々と扱っているボスオーク。
小隊の戦いを見ていたのか先に動いていた。
待って受けても何ともならないと解っているのだろう。
喰らったら終わり。
晶の攻撃は全て一撃必殺だった。
「当たったら……痛そう」
戦斧の攻撃を引いて躱した晶。
冷静に相手の攻撃力を見ている。
経験値は溜まっているようだ。
「当たらなければ意味はないっ!だな」
ボスオークが更に振るって来た戦斧を紙一重で躱している。
あぁ、戦斧を振った状況では躱しようがない。
がら空きの右わき腹へミドルキック。
鎧の上からだが効果十分。
金属はひしゃげ、砕けた部分もあった。
「ブ、ブギィッ……」
吹き飛ぶボスオーク。
息も絶え絶えといった感じの声。
血を吐き、まき散らしながら床を転がっていく。
だが生きているし戦斧も握ったままだ。
「お、タフだな。迷宮は頑丈だから踏み込んでも穴が開いたりしない。足場がいいならもっと力を込めるか……」
ボスオークを仕留めきれなかったのが悔しかったのかぼやいている晶。
起き上がろうともがいているボスオークに歩み寄っていく。
相手にすれば死神が近寄ってくる。
そんな感じだろう。
死の足音。
先に戦斧を左足で踏み抑え、右足で蹴っていた。
タフなボスオークも動かなくなる。
晶は疲れているどころか息も乱していない。
神気、恐るべし。
「イェンはっと……後三体か。ちゃんとオークメイジを先に潰したな」
晶は自分の仕事は終わったとばかりにイェンの方を見た。
お、ぴよこ出撃。
オーク達の魔石に興味があるのかな?
先に倒したオークは魔石になっているモノもいた。
ぴよこが魔石を突いて転がしている。
自由なお子さんだ。
(イェンさんは堅実ですねぇ)
(最大でも二体までしか相手にしていないのぅ。それも盾でいなす程度)
(後ろのオークはウロウロしてますね)
(位置取りが上手いからじゃの。あれなら前のオークが邪魔で戦えまい)
(さすが天職、剣士)
(じゃのぅ)
みなでイェンの戦いぶりを見ていた。
晶のような派手さはないが確実に一体ずつ倒している。
若いのに爺さんのような渋さだ。
伊達にアレスの護衛を務めていた訳ではない。
それが良く解る。
今、何をすればいいのか優先順位を正しく理解。
実践している。
そして最後の一体も危なげなく倒していた。
「ふぅっ……やっぱオークは油断ならない、しかもオーク部屋のとは格が違うな」
「お疲れさん」
イェンがぼやいている。
オーク部屋のオークより質がいいらしい。
装備も上っぽい。
「なぁ、アキラ。南大陸のオークはかなり強いと思わないか?」
「そうか?」
(イェンのいう通りじゃな。今でたオーク達は南大陸のオークに近い強さを持っておった)
(そっか)
「だと思うぜ。今の奴らは同じくらい強かった」
「た、確かに手ごわかったな」
(嘘はいけませーん)
(くっ)
それでも南大陸の森にいたオークの方が強いらしい。
イェンもそれを感じ、タケマツも把握していた。
晶には差が解らないようだったが話を合わせている。
それをカヅキに見破られてもいた。
「それでもこれか……アキラと比べちゃいけないって解っているんだがなぁ……」
イェンが辺りを見回している。
ボスオークは既にいない。
イェンは自分と晶の差を感じているようだ。
戦う者として焦る気持ちがあるのだろう。
そして自戒している。
「ふふっ。先で待ってるぜ!!」
(言ってみたいセリフだったんですね)
「おう!いつか追いついてやらぁ!!」
(あれですね……イェンさん、アレス王子の側を離れたとはいえアキラさんの口調に近くなってますー)
(朱に交わればというやつじゃな)
(やべぇ!リスペクトされてる!?)
(えーっ、ただ楽なんじゃないかとー)
晶は調子に乗っている。
ノリノリで絶好調。
カヅキに突っ込まれていた。
イェンは青春まっただ中、そんなセリフを返していた。
熱い男、イェン。
晶とイェン、戦友だけでなくライバル的な友情も育むのだろうか?
一部の人に注目されそう。
そしてカヅキがイェンの口調について言及している。
確かにアレスの側では真面目な口調だった。
晶が楽にいこうと言い砕けた口調になったが、砕けすぎであろう。
これがイェン本来の姿なのかも知れないが。
晶とイェン、迷宮探索は順調であった。




