2-1
ほぼ説明回です。
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「改めまして……長尾晶です」
(助けていただきまことにかたじけない。拙者、モリタケマツと申す)
(もー、タケマツさん、ことば!言葉!)
(む、むぅ。ワシはタケマツともう……です)
「カ、カヅキさん、無理に変えなくてもいいんじゃ……」
(でも、こっちの人が聞いても変らしいよ?溶け込まなくっちゃ!)
「そうなの?」
(日本語で話してるつもりなんだけど、こっちの人達にも通じちゃうのよね)
(うむ。詳しい者によると言語ちーとだとか言っておった。まぁ便利なものじゃ)
「おー」
タケマツを湖の底から解放した晶。
無事、水から上がりゼロ達とも合流出来た。
晶はカヅキ、タケマツを体から出した。
そして湖の側にある石の川原で座り込んで話を始めた。
言語チートが備わっているらしい。
ご都合である。
誰にとってのご都合かは秘密である。
言語チートと聞いて嬉しそうにしている晶。
そうこなくっちゃとか思っていそう。
(マスター)
「おっと、この大きいのがアークワイバーンのゼロです。俺の配下です」
(私はゼロです。マスターの一の配下です。困ったことがあったら相談する様に)
(おぉ!これはご丁寧な挨拶、痛み入る。モリタケマツ……です。魔物と話せるとは思いませなんだ……)
「私の支配下では念話は使えますので」
ゼロからのプレッシャー。
その意図を正しく理解した晶は成長していると言っていい。
人との関わりあいを魔物に教わるとか……どうなのか?
晶のためになっているからいいのだろう。
ゼロの紹介をしている。
何となくゼロが先輩風を吹かしている気がする。
序列は大事なのかも知れない。
そしてカヅキにジーッと見られ、ぎこちなくしゃべるタケマツ。
晶と同じくらいの体格を小さくさせている。
霊体なのだけれども。
萎縮させ過ぎであろうカヅキ。
タケマツはゼロと話せる事に驚いている。
晶の力は普通にある物ではないらしい。
「それからぴよこです。癒し担当です」
(ぴよこ……黄色い毛玉ですな)
(カワイイ……)
「ぴ」
ぴよこは自分の名前を認識しているのか、呼ばれて反応した。
小さい羽を上下にパタパタさせている。
一生懸命な感じがとても可愛らしい。
尻の蛇は大人しいものだ。
晶が喉の辺りを指で撫でると嬉しそうに目を細めていた。
その様子をカヅキが羨ましそうに見ている。
体がないからね。
撫でられまい。
「カ、カヅキさんにタケマツさんの事は少し聞いています。古い日本の方だそうですね?」
(あー、日本と言うそうだな。国の名前が一致したから間違ってはおらんだろう)
(タケマツさんの言う国は相模の国とか駿河の国、そういう国です)
「おぉ。日本って呼称は昔からじゃなかったんだっけか」
(そうみたいですね)
(隣ですら違う所じゃった。そうそう動けるものでもなかったしのうぅ)
「そうなんですね。えっと、聞きたい事がいっぱいあります」
(そうか)
「はい。私はこちらに来て間もないのです」
(ならば聞きたい事が多かろう。ワシは結構過ごしているでな。聞くがええ)
(私もアキラさんと大差ありません。聞きたいです)
(うむ)
カヅキもこちらの事に詳しくないらしい。
聞く気満々だ。
と言いながらも目はぴよこを追っている。
ここにいるのは人、霊体、大きな魔物、そしてぴよこだ。
殺伐とした戦闘の後だし、癒しを求めるのも無理はない。
そう言えば晶のタケマツに対する口調は堅い。
年上が相手になるとそうなってしまうのだろう。
就活先の人事担当、コンビニの店長、周りの大人は目上の人ばかりだったから仕方ない。
悪い事ではない。
今の所は。
だが、こちらで会う者達の中には下に見てくる者もいるだろう。
「では……向うに帰る方法はあるのでしょうか?」
晶の言葉にカヅキが俯いた。
(この目で見た事はない。一人だけ戻ったと言う話は聞いた事がある)
「方法があるのですね!」
(まぁ、落ち着きなされ。一人だけなので条件、手順などは判らない。だがあちらの者達が集まって出来ている集落がある。そこで詳しい話も聞けるだろう)
「えっ!あっちの人がいっぱいいるんですか!?」
(おるな。人づての話も合わせれば二十人はこちらへ来ているであろう)
「そんなに……」
(外国の人も来ているそうですよ)
「あ、あぁ、そうか」
日本人、外国人、最近の人、古い時代の人、様々だが結構来ているらしい。
(帰ると言ったが帰ったのを確認出来た者はおらん。その一人が帰れると言って消えたらしいからの)
「なるほど……帰ったと言う証拠にはなりませんね。でも可能性はある」
(はい。私もそう思います)
(ワシはこちらでの生の方が長くなってしまったからな。もう覚えている事も少ない)
「どのくらいいるのですか?」
(こちらに来てから……数百年、ここで死ぬ前は二百年ほど生きておった)
(凄いですよね……)
「えっ!?にひゃ、二百年!?数百!?」
(うむ。間違っておらん。二百年以上だ)
(老いず死んでも生き返るんですって……)
「不老不死って事!?」
(不死は微妙ですが、そんな感じみたいです)
「はぁ!?」
(仙人、妖怪、そういった類の存在になってしまったのだ。ワシだけではないぞ?お主達もそうだろう)
(みたいです……)
「お、俺も不老不死?仙人?」
タケマツが二百年以上生きる存在だと聞き、驚く晶。
驚きっぱなしである。
カヅキも遠い目をしている。
ゼロとぴよこは大人しく聞いている。
いやぴよこは地面を突いていますね。
小石を食べているらしい。
(ワシはここで死ぬ前に、こちらの違う所で一度死んでおる。数百年の刻がかかったが体を取り戻せた……あれは辛かった……)
「に、二百年の前に数百年って!?そ、それに受肉するんですか……俺達何なんだ……仙人?」
(人間は止めちゃっていると思います……)
「は、はははっ」
タケマツが遠い目をしている。
いつも淡々としてそうなのに……よほど辛い時間だったと思われる。
晶が渇いた笑いを漏らしている。
受け切れないのであろう。
人間ではなくなっているという事を……。
まぁ、あれだけの破壊力を使えていたのだから察していてもおかしくはなかった。
(良く判らぬが怪力をもたらせた力を神気と呼んでおる)
「神気、なぜ神なんですか?」
(知人が言っておった。神殿の者が神の気配に似ている……と)
「神の気配!?神様がいるのですか?知っているって事ですよね!?」
(そうらしいぞ。神殿や教会の者の治癒術は神の力を借りているらしい)
「おぉぉぉ!何か凄いですね」
(神託とか言うので話が出来るとか。その時に気配を感じるらしいぞ)
「俺達が……まぁ尋常ならざる力だとは思いますが……」
(ワシは純粋で大きい力、そして元に戻る力だと思っておる。今は、お主に支配されとる様じゃが、これも戻るじゃろう)
(復元力ですね。そう、そうですね支配も解除されちゃいますね)
「復元力……そっか」
(あとは傷が治ったり、汚れが消えたり……肉体が戻ったりかしら?)
「一緒にしていいのか?それ……」
(む、もう一つあったか。魔力の隠蔽が出来る。神気で体を覆えば魔力が隠せるのだ)
(魔物は魔力が多いモノを喰らおうとします。だから隠した方が安全みたいです)
「ほー」
(ワシらの魔力は多い。が、魔法を使える者は少ないのじゃ。せいぜい身体強化くらいかの)
(異世界人で天職に魔法系の人はいないそうです)
「な、なん……だと……」
(がっかりしますよね……)
(神気、この力自体は良いモノだ。それは間違いない、死んでいる間の刻を考えねば……のぅ。そしてワシらの血、肉はこちらの者にとっても使える)
「血、肉……?」
タケマツから語られる、神気、神の気配。
タケマツは彼らが持つその力に付いて、二つの力だと説明している。
ネクロマンサーの力、これも解除されてしまうらしい。
カヅキは既に聞いていた話の様だ。
それから魔力、魔法に付いて……晶はショックを受けている。
魔法を使いたかったのだろう。
ヒーローっぽくド派手に……。
カヅキも同意らしい。
そしてタケマツの口からでた言葉。
晶は小さく復唱している。
何の事だろう?と言った表情だ。
カヅキは、また俯いている。
(魔物が喰えば強くなる。そして血は薬になる。こちらにあるポーションという物に混ぜると効果が上がる)
「そ、それって!」
(はい。ご想像の通りです。私達の様な存在は狙われます)
(うむ。だから遠くに集落を作って守っておるのだ。こちらの都などにもおるが相応の実力がいる)
「ひどい話じゃないですか……」
(私も狙われた所をタケマツさんに助けてもらったの……逃げた先、ここで死んじゃったけど……)
タケマツの説明を聞いて青ざめる晶。
その先が想像出来たのだろう。
平和ボケとまで言われる世界に生きていたのだ無理もない。
いや、戦いが身近な世界でも酷い話だろう。
餌や薬にされてしまうなんて……。
晶は顔を顰めて嘆いている。
力を得て、明るい未来しか想像していなかった。
カヅキの顔も似たようなものだ。
タケマツは憮然としているものの、淡々としている。
(そうだな。だから抗わねばなるまい)
「抗う……」
(力を使いこなし、集団になるのだ)
(私達も合流しようとは思ったの。でも難しかった)
「そっか……」
(だが流れも変わって狙われ難くは成っておる。刻が経っておるので今は判らぬが)
「流れ?」
(昔、妻、子供を攫われ、殺され怒り狂ったモノがおったのだ。そして国を相手に一人で戦った)
「妻、子供……ひでぇ」
(ああ、酷い話だ。戦いの結果、そのモノは死んだ。相手の国を半壊させてな)
「亡くなったのですね……って国を潰したんですか!?」
(ここの隣にある大陸、中央大陸の中心にあった帝国はそのままではいられなくなった。都は半分消え、属国は離反した)
「お、おぉぉっ!」
妻子を殺された者、その者は戦ったという。
晶は想像力豊かなので、共感している。
拳を握りしめて今にも何かを殴りそうだ。
酷い話だと怒っていた晶であったが、その者が成した事を聞き興奮している。
一騎当千、男ならば一度は夢見る妄想。
それを実現した男がいるという。
晶も興奮しようというものだ。
そう、英雄譚。
悲しき英雄譚。
(そのモノは今も霊体で存在しておるだろう。人の住めない不死者の領域、そこにおるはずだ)
「凄まじいですね」
(表だってワシらの様な存在を狙う者は減った)
「おぉ!」
(各国や色々な組織、その上の者達しか知るまい)
「そう、なんですね」
(ただのぅ……黒髪、黒目で直ぐ知られてしまうのだ)
(外国の人は力さえ隠せば平穏に生きられるそうです……)
「何たる差別……」
悲しき英雄によって異世界人の乱獲は抑えられているらしい。
だがタケマツの言によれば見た目でばれてしまい、何らかの事に巻き込まれやすいと。
カヅキが補足する。
黒髪、黒目でなければ無事に生きられると。
その差に愕然とする晶であった。
(死んで霊体になると地に縛られ移動出来なくなるのだ。そこで神気は体を作ろうとする。地脈や龍脈、周囲にある魔力は神気に変わって溜められ、いつか体が出来る。ただ周囲の状況によってどのくらい刻がかかるか変わるらしい)
「……ちょっと情報を咀嚼します」
(情報を整理しきれませんよねぇ……。ここは湖の主とスライムがいるので魔力が結構持って行かれていたの)
「う、うん」
短時間で得られた情報は晶に衝撃を与えまくった。
それはもう大きく。
聞きたい事は山ほどあったが、もう既に一杯一杯である。
だからぴよこと戯れようとするのは無理もない事。
晶がぴよこの喉をくすぐっている。
ぴよこも遊んでもらえると思ったのか晶の手にすり寄っていた。
晶の顔は微妙だが、ぴよこは嬉しそうに見えた。
人はそれを現実逃避と呼ぶ。




