1-12
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「こいつにも名前はいるよな!なんて付けようかなぁ」
晶、ウキウキである。
「うーん、ひよこ、鶏、コカトリスか……」
(楽しそうですね)
「おう!更に仲間が増えるんだからな!」
(は、はい!)
晶が胡坐を掻いたまま考え込んでいる。
両手の上では黄色い毛玉が卵の殻を突いている。
そして晶の様子を見たゼロが話しかける。
晶からは元気な返事。
それを受けたゼロは嬉しそうに見える。
ふむ……更にという言葉が嬉しかった模様。
ちゃんと仲間のうちに数えられているのが嬉しかったのだろう。
晶は天然ジゴロなのだろうか?
天然は天然でも意味は違いそうだ。
無意識って怖いね。
「よし決めた!お前の名前はぴよこだ!!」
「おーい聞いてるかー?お前の事だぞ?」
「ぴ」
「そうだお前の名前はぴよこだぞ」
「ぴーっ!」
晶が黄色い毛玉に話しかけるが卵の殻を突くので忙しかったのか無視された。
追撃で声をかける晶。
晶の声に漸く気づいたらしいひよこ。
首を傾げているが短い首なので判り難い。
だが可愛らしい。
改めて晶が宣言すると、ひよこことぴよこは大きく鳴き声をあげた。
そして晶の手の上に座り込みブルブルしている……。
これは……。
「むっ?」
(震えていますね)
「だな……ゼロに名前を付けた時もこうだったな」
(ネームドモンスターになるって事ですかね)
「あー、そうだったな。そうかも」
(私は強く進化しました)
「可愛らしさが無くならないといいな……」
ブルブルと震えているぴよこを見て晶とゼロが話をしている。
名付け……簡単にしていますが晶だからなのでしょうね。
代償なしで他者に力を与えるとか……異常である。
いや代償はあるか……。
晶はぴよこのかわいらしさが損なわれて欲しくないらしい。
強さはどうでもいいのか?
どうやら晶にとってぴよこは癒し枠になる模様。
ま、まぁ晶とゼロでは殺伐とした光景しか生みませんからね。
良い事かと。
そしてゼロはぴよこという名前に付いては何も触れない。
マスターである晶に物申すつもりがないのかは定かではない。
いや、そもそも名前の良し悪しが判らない可能性が高い。
突っ込んでくれる人のいない悲しさよ……ぴよこ……。
メスならまだしもオスだったら嫌かもしれない。
凶暴な姿形に進化したらどうするのだろう?
似合わなそうである。
ぴよこはブルブルしている。
▼
「ぴぃっ!」
ぴよこが動いた。
「お、おぉ。おはよう」
「ぴよ」
(進化が終わったようですな)
「おう。ぴよこはどこが変わったのかな?」
「ぴー!」
晶は律儀に両手で抱えたままでした。
もう日は落ちています。
結構な時間かかりました。
心なしか晶の両手の方が震えている気がします。
地面に置けばよかったのに。
そして晶はぴよこの様子を伺う。
「大きさは変わっていないかな」
(ですな)
「パンクヘアーが一層王冠になってる……」
(偉そうですね)
「威厳がある様な無い様な」
「ぴぃ」
(何だか感情が籠っていますね)
「お、おう。そんなはずはないって非難された気がする」
「ぴっ」
(賢くなったのでしょうかね)
「そういや念話じゃないな。ぴよこ念話は使えないのか?」
「ぴ」
(だめそうですね。名付けではなくマスターの死霊使いの力の方ですかね?)
「あー、そっちかぁ。俺が作らないと念話は無理か」
(おそらく)
「話したかったな……まぁいいや。見た目の変化は王冠が王冠らしさを増したくらいか」
ぴよこのツンツン頭は、まさに王冠になっていた。
八本のツンツンが天に伸びている。
威厳に付いては微妙だが王族っぽい。
「尻の蛇は……あんまり変わってないな。銀色っぽくなったくらいか」
(私の色に似てます!)
「お、おう」
(大物になるに違いありません)
「そこは同感だ」
ぴよこの尻に付いている蛇は金属の様な質感になっていた。
綺麗なワイヤーといった感じである。
顔の部分もその程度しか変化は見られなかった。
ゼロは自分に似た変化を喜んでいる。
爬虫類仲間。
そして晶はぴよこが只者ではないと確信しているかの様である。
ほぼ親馬鹿であろう。
「話せないから何が出来るかなんて聞けないか……」
「ぴ」
晶が呟くとぴよこが動き出した。
晶の手の上を歩き、腕を伝い、晶の体を頭へ向かって歩き出した。
「なっ!?」
(なっ!?)
「ぴー」
晶の頭、短い髪の上で座り込むぴよこ。
そう、ぴよこは晶の垂直な体を歩いて登ったのだ。
爪は建てられていない模様。
飄々とした気軽さで登っていった。
驚き呆然とする主従。
それに対し満足げなぴよこ。
そう言えば、晶の問いかけで動き出した様に見えた。
まさかぴよこは言葉を理解するのであろうか?
ぴよこの様子から察するに、偶然の可能性は高いと思うが……。
「今どうやって登ったんだ!?」
(不思議な動きでした)
「ぴー!」
ぴよこは嬉しそうな鳴き声をあげて体の横に付いている小さく未熟な羽を上下にパタパタしている。
ただ感情を表している様だ。
(なるほど、可愛いとはこれですか……なんとなく解りました。保護欲をそそられますな)
「えっ、何なにー?」
(手で掬い上げて見てやってください)
「気になる」
ゼロが晶の頭の上で起きている事に付いて感想を述べる。
何が起きているか判らない晶は気になる。
そして優しく手でぴよこを包み込む晶であった。
「か、かわいい……」
晶は手の中の様子を見て言葉を漏らす。
疑問をすっとばし、可愛さに目をとられる晶。
可愛いは正義なのか?
正義なのであろう。
ぴよこのパタパタを見つめるのであった。
疑問はどこへいったー!
「ぴ」
小さな羽でのパタパタを止めたぴよこ。
晶の手の中から飛び出す。
「あっ!」
晶が止める間もなかった。
「……えっ!?」
(また不思議な動きです……)
晶の手から飛び出したぴよこは羽をパタパタさせて降下した。
地面に付く前に妙な動きがあった。
ツィッと滑る様に前へ歩いたのである。
そう言うと何がおかしいんだと言われるであろう。
説明し辛いが、落下速度を殺し地面に着いたかどうか何の衝撃もなく前へ進んだ様に見えた。
「ぴ」
「はぁ?」
(これはまた……)
更に不思議な動きは続く。
ぴよこがフワフワと浮いたのである。
飛んだという感じではない。
まさに浮遊。
それだけならゼロが飛ぶ時に似ているので驚かない。
驚くのはその後の動きであった。
晶の胸の辺り、その高さまで浮いたと思ったら直角に曲がりスーッと晶の所へ行った。
ぶつかる!と思った瞬間にクルリと回転しぴよこの足が晶の胸に付いた。
そして再び晶の頭へ……。
晶の頭の上が気に入ったのか、座り込んでご満悦に見えた。
ちなみに、晶の髪型は短髪と言っているが、面接で不快に思われない程度の長さという意味だ。
もちろん染めていない。
黒髪だ。
艶やかかどうかは判らない。
ひよこの巣に何とかなりそうなくらいの長さでもある。
まさか寝床を作ったり?
トイレの躾が必要かも……。
「訳が解らん……」
(ワイバーンが飛ぶ時と似ていましたが違う力の様ですね……私も解りません)
「これはあれだな」
(なんでしょう?)
「見なかった事にして日常へ戻るのだ!」
(はぁ……)
満足げなぴよこを除いて混乱している。
そして晶が混乱に終止符を打つべく解決策?を出す。
問題の先送り、スルー。
晶が就職出来ていたら必須になっていたであろう技能。
それを受けて溜息かと思う様な返事をするゼロ。
何と言ったらいいのか判らなかったのであろう。
まぁ、ぴよこと意思の疎通が出来ない今、深く考えても答えは出ない。
しょうもない解決策だが、間違ってはいない。
頭の上に黄色い毛玉。
その毛玉は楽しそうにパタパタしている。
晶は遠い目をして空を見つめている。
暗視が効いているので星は見えていない。
シュールである。
妙な仲間が増えたのであった。
名前にセンスなんて要らないのです。
遠い目。