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2話 中二病の申し子

「よっと・・」

 俺は持っていた荷物を降ろして引っ越し業者に引き渡していた。何年も住んでいたアパートだったが、俺の荷物は比較的少なく、これならば引っ越し作業は手早く済むだろう。

 ここは俺の住んでいたアパートの前。

 俺は数日前、大家さんと話をつけてここから引っ越すことにした。理由はNEET学園の学生寮に移り住むことに決めたからだ。

 さすがに電車を乗り継いで何時間もかかるところには毎朝は行けない。学生寮もある事だし、ちょうどいいと思ったのだ。

 母にそのことについて電話すると、母は喜んでいるのか驚いてるか分からないようなすっとんきょんな声を上げていた。

『陽。貴方、高校に行くことにしたの?』

「違うよ。卒業すれば大学の卒業資格を取れるところだから・・・大学、かな?」

『でも、高校の勉強もしていなかった貴方が大学なんて厳しいわ』

 母は入学した後の事を心配してるのだろう。高校の勉強もろくにしていなかった奴がいきなり大学に入学して勉強についていけるとは到底思えなかったのだろう。

「専門の事を学ぶから気にしなくていい。只、言っておきたかっただけなんだ」

 一応、貯金もある。公立だから俺でも払えるような料金のはずだ。

『・・・お金は私が払うわ。貴方のお金は将来の為に取っておきなさい』

 母が「はぁ」と、俺に良く似たため息をつくと俺に学園の口座を聞いてきた。

 母と離れて長い事もあるのだろう。俺は正直、頼りたくなかったがそう言ってめんどくさくなるのも嫌だった。

 早くこの会話を切りあげるには諦めるしかないだろう。

『――わかったわ。数日中には振り込むから、編入の意思を学校側に伝えなさい』

「分かった。ありがとう。じゃあ」

 母の返答も聞かずに俺は受話器を下ろした。

 我ながら距離がある事を感じずにはいられない。いや、俺がそれをつくっているのだろう。

「はぁ・・」

「鷹野さん。お荷物はこれでよろしいですね」

 俺がため息をついていると、引っ越し業者の人が荷物を確認するように俺に言った。

「ああ・・はい。もう運んでください」

「わかりました。――おおい! 運んでよし!」

 引っ越し業者の人は引っ越しトラックの運転手に大きな声で伝えた。

 それを聞いてトラックの運転手はNEET学園に向けてエンジンをかける。

「私達は学生寮にて鷹野さんの部屋に荷物を置いておきますんで、よろしくお願いします」

「ご苦労様でした」

 ブロロ・・と、エンジンの音が鳴って引っ越し業者の人たちが立ち去っていく。

 これだけ長い間、ここに居たというのに終わりはあっという間だ。けれど、寂しさはなかった。

 新しい生活にもわくわくというより、こんなものか、といった感じだ。

「さて、と」

「お兄ちゃん」

 俺が移動しようと思ったところで、俺の後ろに人が現れた。

「瑠理か。どうかしたか」

「どうもなにも・・。お兄ちゃん、僕にお別れの挨拶をしなくいいの?」

 それを本人が言うのか。

「すまん、忘れた」

「ひどい」

 瑠璃は心底、俺を非難してるような目つきだ。これはめんどそうだ。

「あーあれだ。俺は瑠璃の幸せを願っているよー」

「棒読みっぽい。絶対おもってないでしょ」

 いや、思ってるよ。普通の男子に戻って可愛い女の子と付き合ってくれ。瑠璃は顔も可愛いから、たぶん問題なくいけるだろう。

「はぁ・・。クラスの男子と付き合っちゃおうかな」

「それはやめろ」

「・・・お兄ちゃん、嫉妬してるの?」

「そういう意味じゃない」

 同性愛者を深みにはめるような真似をするんじゃないと言ってるんだ。

「はぁ・・。僕が自分したこととはいえ、何か寂しくなってきちゃったな」

「自分で? 何か瑠璃がしたのか」

「うん。僕がNEET学園の案内書を送るようにおじいちゃんに言ったんだ」

 瑠璃はため息交じりにつぶやいた。

 そういえば、瑠璃のおじいちゃんは学校の経営者だって小耳にはさんだことはあるけど・・。

「そうか・・。あの学園を経営してるのは瑠璃の祖父だったんだな」

 さすが瑠璃の祖父なだけはあるな。

「うん。僕はあまり興味ないから概要は知らないけど、高校卒業の資格がまともになくても入れる学校だからお兄ちゃんにピッタリかなと思って」

「・・そうだな。感謝はしてる」

 概要を知れば、瑠璃はなんてことをしてしまったんだろうと後悔すると思うがな。

「そっか・・。お兄ちゃんの役に立てたなら僕は嬉しいよ」

「全然気持ちがこもってないな」

「やり返しだよ。お兄ちゃん」

 お別れだ、瑠璃。

 最後に瑠璃は俺のおでこをデコピンした。

「ふふ。さようなら、お兄ちゃん!」



 そうして俺は住まいを学生寮に移した。

 学生寮は第二校舎と同様にそれなりに整備されていて、一人の部屋もそれなりに大きい。公立の学生寮にしては破格の待遇だ。

 朝と夜は学生寮の食堂。昼は発行される食券を持てば好きに食べられる。これであの安さは素晴らしい・・。

 そしてそんな俺が選んだ学科はなんとホームレス学科だった。なんやかんや言いつつ、あのクッパ先輩が楽しんでいる学科に興味があったのだ。

 ニート支援学科は一番安定しているが面白みに欠けたし、ヒモ学科はムカつくことに俺は見た目という才能がそもそもなかった。それに、国豪先生は嫌だ。自宅警備員学科は俺の人間としての何かが許さなかった。

 ってなわけで、俺はホームレス学科に転入してきた。本来、転入という制度はないらしい。俺が転入できたのは孫娘の瑠璃のおかげという事だ。

 瑠璃のじいさんには会ったことはないが、瑠璃に相当甘いじいさんに違いない。

 そして転入する際に詳しい卒業の仕方が書いてある冊子をもらった。

 どうやら卒業するには単位を修得しないといけないらしい。その単位はカリキュラムという一定の授業に参加してテストに合格した者だけがもらえるそうだ。

 つまり、テストに合格しなければここに何年も居続けることになるし、テストに合格すればすぐにでも卒業できるというわけだ。

 テストの前に絶対出席しなければならない授業は存在するので最速でも二年はかかるらしい。

 学科ごとによって習得しないといけないものにも差はでるから必然的に学科ごとによって卒業する年が違う。

 一応、一年生、二年生と分けてはいるが、それはその学科の一年生分の単位を修得した者という事らしい。三年間ここに居ようが一年生分の単位しか取れてないと二年生というわけだ。

 そして俺は転居の次の日から授業に参加することになった。

砂煙が舞うグラウンドがホームレス学科の主な活動場所である。俺も例にもれずにそこにいた。

コロコロで動くホワイトボードに乱暴に〝鷹野陽〟と、書いてあった。

「はい。紹介するぞ。今日から転校してきた鷹野陽君だ。皆、仲良くする様に」

 二年生の橋本先生とは違うようだ。俺の担任は暁という赴任してきて一年目の教師である。

「いやぁ、眼鏡が邪魔だが良い体格をしている・・。皆もいいと思わないか!」

 そして、橋本先生の筋肉に染められつつあるとんでもない教師だ。

 しかもそれによって一部の男子生徒が「うんー!」と、強い返事をした。

筋肉の感染率半端ねー。

 いつか俺もそうなるんじゃないかと思うと悪寒がはしるわ。

「ここには席は特にない。好きな所に座ってくれ。眼鏡が邪魔だろう? 取ってあげるよ」

 なんでとるんですか?

 もしかすると、こいつ国豪先生にも染められてるんじゃないかと警戒する。

「転入という珍しい形だ。色々苦労することもあるだろうが、くじけずに頑張ってほしい」

 「はははっ」と、先生は笑い、俺はそんな暁先生の笑いを背に受けて砂の上に座った。

 この砂独特のざらざらした感触と汚れるのではないかという不安は中学校の体育以来の気持ちであり、懐かしくもある。

「それじゃあstand up! 楽しい体操の始まりだぞ!」

 暁先生はそう言って、ラジオのボタンをオンにする。

『♪~~。はい、いちに! いちに! まずは腕の体操~』

 夏休みで何度も聞いた朝のラジオ体操のBGMに橋本先生の声が録音されているというとんでもない代物だった。

 俺はあまりの驚きにこけそうになった。

 自分の授業に他の先生を持ち出すとはとんだ先生だ!

「ん? どうした。何か困る事でもあったか?」

「い、いえ・・」

 そのラジオだよ!

『筋肉の体操だよ~。ほ~ら、筋肉だよ~ピクピク』

 またこの言葉を聞くことになろうとは・・!

 俺の嘆きを無視してラジオは橋本先生の筋肉体操を流し続けた。


 悪夢の体操が終わると、俺達はNEET学園の駐輪所に来ていた。

 そこには大量の同じモデルの自転車がずらりと並んでおり、どれもよく使い込んでいる跡がある。

 ホームレス学科は授業でよく自転車を使用するらしい。そのせいか、大量に学校側が保持しているのだ。

「それでは各自自転車に乗ってこれを積んでこぐように」

 そう言って暁先生が配ったのは大量の空き缶が詰まった袋。

「?」

 俺が?マークを浮かべていると、別の生徒が「えーと・・」と、説明してくれた。

「何君だったっけ?」

「鷹野、ですが」

「分かった。別に敬語とか使わなくていいからね、鷹野君。鷹野君はこの授業が初めてだから分からないだろうけど、ホームレスは空き缶を集めてそれを業者に渡して収入を得ているんだ」

 さすが生徒。話が唐突だ。

「確かに駅の方面とか歩いていると、空き缶を積んだおじいさんが自転車をこぐのはたまに見る」

「うんうん。だから、俺達も未来のホームレス見習いとして体力づくりをするんだ。それはこの一環」

「なるほど。ありがとう」

「べ、別に気にしないで」

 たぶんだが、この男子生徒が気弱なのではなく、俺という人間に慣れていないからこその遠慮なのだろう。そいつが別の男子の元へ行くと、さっきとは打って変わった活発さでお喋りしていた。

 俺はとりあえず先生の指示通り、自転車に空き缶の入った袋をからみつけて自転車をまたぐ。

 まぁ大した距離じゃないだろう。

「それじゃあ地図を配るぞー」

 地図?

 俺は配られた地図を見て目をむいた。

「この距離・・」

 JR線の二駅分くらいの距離はあるんだが・・。

「それじゃあ頑張れ! お昼前には戻ってくるよ~に」

 え・・・。

 俺がちらっと他の生徒を見ると、生徒は何事もなかったかのように受け入れ、目的地へと自転車をこいでいた。

 さすが俺より早く入学して体力づくりしてきたことはある。彼らは重い荷物を持ってるというのに、その自転車速度は常人が出すマウンテンバイクが出す速度と変わりなかった。

 一応、俺もバイトで出前くらいはしたことある。全く体力がないわけじゃない。

 何かクッパ先輩辺りには体力のない眼鏡と思われてる気がするが、最低限の体力はある。

 行け! 頑張れ! 俺!


 二時間後。

「ひぃ・・ひぃ・・ふいぃ~」

 こんな情けない声を出しながらこいでるのは俺だ。

 出発したのは九時ごろ。今は十一時だ。とっくに他の生徒の姿は見えなく、たった一人で自転車をこいでるような気がする。

 いやまぁ、最初っから一人なんだけどさ。周りに人がいる中のこぐのと、周りに誰もいない中こぐのはなんか違くない?

 そうこうしている内にようやく目的地の焼却所にたどり着いた。

「大変だったわね。お疲れ様」

 空き缶の入った袋を焼却所に居たおばさんたちが受け取る。

「それじゃあもう行っていいわよ」

 俺はおばちゃんが持っていこうとしている今まで背負っていた空き缶の袋を見つめた。

 よくもまぁ、これだけの量を集められるものだ。おまえらは毎日空き缶を捻出してるのか?

「あの・・・他の生徒はいつぐらいに来ました?」

「え? ・・・うーん。三十分ぐらい前かしら?」

「そ、そうですか・・」

 三十分も・・。

 俺は肩をがっくり落とした。



 そうしてそれから二時間半後。

「ふぅーっ。ふーっ。はーはーっ」

 学校にたどり着いたはいいが、昼飯を食べに行く力がない程に俺は疲れていた。

 というか、腹が減ってるから立ち上がれない。だから飯を食べに行けばいいのだが、腹が減ってるから立ち上がれない。まさに悪循環。

 俺は仕方なく駐輪所で寝転がってるというわけだ。

 床が固い。背中が痛い。

 生徒達はとっくに自由時間となっている。俺がここにたどり着く一時間以上前には学校にたどり着いていただろう。

 暁先生は恐らく、俺達が出発した時点で駐輪所からいなくなっていたのだろう。駐輪所には張り紙がしてあり『帰ってきたら自由にしていいぞ』と、書いてあった。

「仕事しろ・・」

 そんな俺の言葉もむなしく、グラウンドから来る砂煙が只々鬱陶しい。

 このままいっそ寝れたらよいだろうが、この固い床で寝れるものなどそうはいないだろう。

 その辺もホームレスには必要なスキル、かもな。

 段ボールのつぎはぎでふかふかな布団などありえない。

 けど、あの学生寮のベッドは良かった・・。

 まだ三日しか使用してないが、あの感触は俺のボロボロな布団では味わえない物だった。

 一生学生でいたい・・。

 俺が感嘆の息をついたところで、日差しに影がかかった。

「ここに居た・・。自転車置き場で寝る奴3初めて見た」

「・・・・」

 そう言って寝転がっている俺を上から見てるのはクッパ先輩だ。

 そういえば、ここに転入してきてから一回も会ってなかったなぁ。

「どうも。お久しぶりでやがりますね」

「挨拶するの遅くね? まぁいいや。食堂に行くぞ、食堂。場所分からないだろ」

 たかがそれだけのために俺を探していたのか。ご苦労な事で。

 さすがに人に動けと言われては動かないわけにいかない。かなりだるいが起き上がった。

「はぁ・・。だるい」

「それを誘った俺の前で言うとは中々だな。俺は一応先輩だぞ」

「いえ・・クッパ先輩の顔を見てたら余計にだるくなっちゃったな」

「それを本人の前で言うか! 俺の顔を見てると勇気百倍の間違いだろ!」

 いや、それもどうかと・・。

 俺が心中ツッコんでいると、クッパ先輩の後ろから凄い音を立てて迫る女の子の姿があった。

 遠目から見てもその子はかわいく、いわゆる美少女だった。

 格好はゴスロリに金髪。目は青い事から見て西洋系の人間だと思うが、鼻が低い事からハーフだと思われる。背は150センチ台か?

 NEET学園でこんな可愛い子を見られるとは思わなかった。俺は素直に感激してそちらをまじまじと見つめた。

「ん? 何だよ、陽。どこ見て――!?」

 クッパ先輩の顔が固まり、一歩一歩ゆっくりと後退していく。

「? クッパ先輩の知り合いでやがるんですか?」

 こんな可愛い子と? クッパ先輩が?

 だが、前にクッパ先輩がホームレスを目指した理由が新宿辺りでナンパを繰り返しているチャラ男になりたいからだって聞いたけど・・それの予行練習として彼女を?

「いや・・これは・・」

 クッパ先輩がしどろもどろになりながら逃亡を図ろうとするが、俺が腕をつかんで止める。

「どんな関係性何ですか!」

「え。何で俺が浮気が見つかった夫みたいな感じになってんの!? あれは只の・・」

「前世から将来を誓い合った婚約者である!」

 その瞬間、その女の子が叫びながらクッパ先輩を思いっきり抱きしめた。

「なっ・・!」

 ピシャーン。

「ク、クッパ先輩に可愛い恋人が居ただと・・・!?」

 クッパのくせに・・!

「ま、負けた・・」

 俺は膝をつき、頭を垂れた。

「え。いつ、勝敗がついたの・・?」

 クッパ先輩はいまだに誤解してるらしく、俺の肩を触ってくる。

「で、貴方はどちら様ですか?」

 俺は婚約者だと言う美少女に聞いた。

「こいつの名前? あーそれはな――」

「黙れ。久利」

 クッパ先輩が代わりにこたえようとすると、その美少女は空手家も感心するような手刀でクッパ先輩のわき腹を刺した。

「ぐげぇ・・」

 その容赦のなさから本当に恋人同士か?と、疑いたくなってくる。

「我の名は前世より決まっておる。この世の仮の名など、無意味」

 あれ? このノリ、最近どっかで聞かなかったか? そしてこの声・・。

「クッパ先輩の貞操が守られた後に聞いた声じゃないか?」

「フム・・。良く気付いた。何を隠そう久利が襲われそうになったとき、久利を守ったのは我だ。そのことに気付くとは・・貴様にもガイズが宿っているな?」

「そういえば、山田花子も似たような事を言っていたな・・」

 俺は美少女の言葉はスルーして、記憶を探ってみる。

「山田花子・・。トウカは我がシュヴァルツ対戦より共に戦った盟友よ。フ、フフフ。貴様ら原生人には我とトオカを繋ぐ縁は見えぬだろうがな」

「なるほど。親友って事か」

「おまえ凄いな!」

 俺の言葉にクッパ先輩がフェリスに刺されたわき腹を抱えて叫ぶ。

「我の名はフェリス・シェーン・ライフバッハ。人は我の事をフェリスと呼ぶ!」

 ババーンっと、自ら効果音を口にしてフェリスはまるでジョジョみたいなポーズをとっている。

「して、貴様の名前は何だ?」

「鷹野陽だけど」

「そうか。ゴッドリバーか。良い名だな」

 聞いてないよ。

「む・・。ゴッドリバーという名はどこかで・・。これはボルグの記憶・・。はっ! 貴様、ボルグ・セイ・ゴッドリバーの生まれ変わり!?」

「わかったろ・・。陽」

 一人盛り上がるフェリスと見て、クッパ先輩が悟ったように俺の肩に手を置く。ようやく痛みが消えて復活したようだ。

 俺はクッパ先輩の肩に置かれた手をはたいて、理解したように頷いた。

「なるほど・・。彼女は中二病なんですね」

「うんそう。けどさ、陽。今、俺の手をはたくとき、ゴミでも見るような目をしてなかった?」

「気のせいですよ」

 フェリス。女の子が発症している中二病は別名小六病というらしい。

 彼女の事は小六病っこと呼ぼう。本名かもわからないような名前よりかはずっといい。

「ていうか、クッパ先輩。俺と一緒に昼食を食べようと言いだしたのはもしかして、彼女と二人っきりになりたくないからでやがりますか?」

「・・・てへっ☆」

 クッパ先輩はこつんっと頭をグーで軽くたたく。

「男がやると想像絶するキモさですね。逃げていいですか?」

「やめて! 俺を置いていかないで!」

「食堂に食べに行くんでしょう? 他にも人はいます。きっと大丈夫でしょう」

 俺はそう言って「じゃ。これで」と、走って逃げようとした。

「いやいやいやいや! 人とか関係ないって! あいつの目には俺しか映ってないから!」

「まぁ熱烈。そんなに愛されて幸せですね」

 恐らく、何かといっては暴力をふるう彼女だろうけど。

 最初は普通にクッパ先輩をねたんだが、あのやり取りを見ていたら吹っ飛んだ。美少女でも、許容できることに限界はあるんだな。勉強になった。

「いやぁあああああ! もう本当にお願いします、陽様。俺と一緒に来て!」

 あんたにプライドはないのか。

 下手すると、そんなプライドなど吹っ飛んでしまうような子なのかもしれない。だったら余計についていきたくないのだが・・。

「そうだ。ゴッドリバー」

 フェリスこと小六病っこは俺達のやり取りをまるで何事もなかったことのようにスルーして俺に話しかけてきた。

「そなたとの再会、我は喜ばしく思う。フム・・。ともに昼餉でも一緒にいかがか?」

「俺、友達と他に食べに行く約束をしてるんです」

「ナチュラルに嘘をついたぞ、こいつ!」

 ちっ! クッパ先輩め。さらりと俺を告発しおってからに。

「用・・? そんなものは関係ない。先輩命令だ。来い」

 なんて強引な先輩なんだ。



 俺は一緒に食べるという名の連行を受けて食堂に連れてこられた。

「へぇ。こんな所なんですね」

 食堂は第二校舎とは別の棟にあった。といっても、第二校舎とは二階に連絡通路があってそこで食堂につながっている。

 さすが全学科の生徒が集う場所。二階立てとなっていて、円形の机にはたくさんの生徒が椅子に座っている。

「注文の仕方はあらかじめもらってる食券をおばちゃんに渡して食べたいメニューを言えばOKだから」

 クッパ先輩は「早くしないと売り切れちゃうぜ~」と、言って人の迷惑を考えずにおばちゃんの元に走っていった。

「埃が立つから静かにいかないと駄目です」

 とりあえず俺も迷惑にならない範囲でクッパ先輩の元に速足で向かった。

 そこに小六病っこが俺の服の裾を引っ張った。

「これ、ゴッドリバー。我の注文を聞かずに先に行くな。我らの領地がなくなってしまうぞ」

 小六病っこは俺に注文を任せるので、自分は席とりをすると言いたいのだろう。

「わかりました。何にしますか?」

「バターテリーヌのドラゴン添えカラフレットが良い」

「日本語でお願いします」

 これだから難しい言葉を使いたがる万年思春期は困るよ。


 俺はカレーを頼んで、小六病っこが席取りしてある席に座った。

 小六病っことクッパ先輩が頼んだのは両方とも同じすき焼き定食だ。恐らく、小六病っこがクッパ先輩と同じものを頼んだんだろう。

 にしても、俺に頼みたいメニューを言った時はクッパ先輩が何を頼むか知らなかったはずだ。なのに、同じメニューになってるとはさすがである。本当に・・ドン引きだね。

 クッパ先輩と小六病っこはとっくに席に座っており、乳繰り合ってるともいえるようなよく分からない攻防を繰り広げていた。

「久利。口をあけろ」

「嫌だ! 覚えていないのか? おまえ前も同じようにあーんしようとして俺の目を潰そうとしたことあったろ!」

 どんなあーんだよ。

「あの時は久利が別の女を見ていたからだ。そんな目はこう・・プスッ❤と」

「可愛く言っても無駄だ。フェリスが俺の目を刺そうとしたことは変わらないからな」

 クッパ先輩がぷいっと顔をそむけてそんな事を言うと、小六病っこは綺麗な笑顔で箸の一本を机に突き刺そうとした。

 その箸が鉄製だったならば机を貫けただろう。だが、箸は木製だったため貫けなかったが、箸が真っ二つに裂けてるのを見てクッパ先輩が震えあがった。

「お、お、おおおまえは俺の目が見えなくなって、フェリスの姿を二度と見れなくなってもいいのか?」

「大丈夫だ、久利。我はずっとそばにいるぞ」

 そうやってクッパ先輩に手を重ねるのはいじらしいが、真っ二つに割れた箸やクッパ先輩の壊れたような笑いがその空気をぶち壊していた。

 俺はそんな二人を見ながらいつでも逃げられるようにとカレーを口に運び続けていた。

 いざという時は逃げるが、ぎりぎりまで見物してよう。

 今のところはまだ俺に被害はこなさそうだ。

「もう一回口をあけろ。あ~ん」

「ひぃいいい」

 クッパ先輩は顔をがっと掴まれて無理やり口をあけられた。

 事情を知らずに見ると、どっかの組織がクッパ先輩に情報を教えろと自白剤を飲ませている様に見えてくる。

 ぶすっ。

「痛い!」

「すまぬ、久利。失敗してしまった。だが、料理は無事に口に入った。良かったであろう」

 小六病っこはうっかり足を滑らせてクッパ先輩の口に突き刺すように箸を突っ込んでしまった。恐らく料理は無事にクッパ先輩の口内へと入ったと思われる。良かったね。

「どこが良いんだか・・。彼氏に苦痛を与えていいのか・・?」

「おおっ。久利が我の事を妻と認めてくれた。今日はいい日だな!」

「妻!? いや、フェリスは彼女でもないけどさ! そんな彼氏にしたいほど好きな奴にこんなことしていいのかって聞いてんの!」

「我と久利は20歳だからな。そろそろ・・よいのではないか?」

「よくねーよ!」

 クッパ先輩と小六病っこは20歳だったのか。なんやかんや言いつつ、俺より年下だった・・。

「さあさあさあ・・」

「ここをどこだと思ってるんだ! 陽、助けて!」

 いまだに二人は騒いでいるが、俺にとっては二人の年齢の方が大事だった。

 後、小六病っこ相手に戦う気とかこれっぽっちもないんでね。

「ふぅ・・」

「裏切り者ぉ! おまえの部屋に案内してやんないぞ!」

 ? ああ・・。

「なるほど。とうとう頭が・・」

「聞こえてるぞ、陽! 俺の言った言葉は本当だぞ。おまえが今までいたのは借屋。準備ができたからそっちに移るんだぞ、おまえは。だから俺を助けろ!」

 俺はクッパ先輩にも聞こえるような大きな舌打ちをすると、小六病っこを説得することにした。

「フェリス先輩・・。クッパ先輩は間違いなく童貞ですのでこういうことをするのは初めてだと思います。初めての野郎は雰囲気をとにかく気にするんですよ。なんたって初めて。ファーストですから」

「む。そうなのか?」

「ええ。だから明日にでもクッパ先輩の部屋に行けばきっと問題はないでしょう。とりえあえず、今だけは止めましょう」

 その言葉を聞いて小六病っこは「ゴッドリバーの言葉にも一理ある」と言って、クッパ先輩から離れた。

「ありがとう、陽・・・。勝手に童貞とか決めつけられるし、憎々しげに舌打ちはされるし、よく聞くと問題を先延ばしにしてるよね。しかも、より事態を悪化させてるような気がするのは俺だけかな」

 ・・・クッパ先輩だけです。とりあえず俺は今さえどうにかなればいいんで。

「子供ができたら名付け親にでもなりますよ」

 DQNなキラキラネームを考えておきます。

「うん。おまえってろくでもない後輩だな」

 いやぁ。照れるなぁ。



 確かにクッパ先輩の言った通り、俺が今までいた部屋はすっからかんの空き家になっていた。荷物はとっくに俺が済む本来の部屋へと運び出されたことだろう。

「・・・」

 考えてみれば荷物は最低限のしか送られてこなかった。他の物はきっと後々来るだろうと思っていたがまさかこんなことになるとは・・。

 俺はここに住むとずっと思い込んでいたせいかなのか、何だかとてもこの空っぽな部屋がむなしい。

「いやぁ、転校生とか初めてだからいろいろ遅れちゃったんだとよ。陽、決断かなり早かったし」

 クッパ先輩もまたもや案内人として俺の横に居る

 これでは体験授業の時と一緒だと思ったが、今回は案内人というか付添人が増えた。

「クク・・。これこそが境界。ゴッドリバーよ。おぬしは異空間との境界線を越えた。貴様はもうこの世には・・」

「んじゃまあ空き家という事が分かったので次行こうぜ、次」

 クッパ先輩はどこからか用意した笛をピーッと吹いて俺達より先を歩く。

「・・・蟲笛、と言うわけだな」

 にやりと笑う小六病っこにクッパ先輩はあくまで冷たく返した。

「森へお帰り」


 学生寮はある学科を除いたすべての学科が使用する一般寮、らしい。

「けど、ホームレス学科だけは別の寮になるんだよ。システムも違うし。きっと戸惑うぜー」

 クッパ先輩はホームレス学科の移動中に何だかわくわくした声音でそんな事を言った。

 一般寮は学校から自転車で十五分の距離だ。毎日電車を使って通う事を考えれば確かに近いがやはり学生寮の距離としては遠く感じる。

「実はさ、陽。ホームレス学科は校舎が窓から見えるくらい近いんだぜ。だから、これ以上遠くなる事はないから安心しろよ」

「確かに近いの。そこだけは少し羨ましい」

「そこだけじゃなくて他にもいろいろあるだろ。一人部屋だとか、お風呂が一人ひとりあるとかぁ」

 クッパ先輩のその言葉に小六病っこは珍しく眉をひそめた。

「そうか? 我はそもそもあの外観は好かぬ。それに、あれにはぷらいばしー・・・固有結界が持てぬではないか」

 何故わざわざ中二的言い方に言い直した。

 俺達は第二校舎を抜けてグラウンドを歩いている。どうやら同じ敷地内にあるらしい。

 なるほど。だからグラウンドは端が見えないのか。

 学生寮もそこにあるなら相当のサイズに決まっている。肉眼で端と端を見るのは不可能だろう。

「お。そろそろ見えてきたぞ」

 そのホームレス専用学生寮は砂塵煙る中で圧倒的な存在感を誇っていた。その大きい学生寮の影はごてごてとしていて、これが何かの遺跡だと言われれば信じてしまいそうな影だった。

「・・・・・・・・・・・」

 砂が晴れてそのごてごてとした学生寮の姿が明かされた。

「お。陽、びっくりしすぎて口も開けられないようだな」

「ええ。絶句しました」

 その外観は何故影がごてごてしてたのかすぐさま理解できるようなものだった。うん。凄い勢いで積まれてるよね。ゴミが。

「ゴミ山・・・」

「やはりゴッドリバーも同じことを思ったのか。我もこれを見たときは何のポケモンだと警戒したものだ」

 何故にポケモン?

 ゴミ山には粗大ごみがこれでもかと積まれていた。ていうか、何でこんなに積まれてて崩れないの? これ。

「芸術だな」

「そんな芸術は爆発しちまえ」

 満足げにうなずくクッパ先輩に俺は本気で学科を変えようかと悩んだ。

「・・フェリス先輩」

「む。ゴッドリバーよ。初めて先輩と呼んでくれたな。我は嬉しいぞ」

「ええ。これから同じ学科の先輩になるかもしれない人ですからね」

「待て待て待て! 本気で鞍替えしようとするな!」

 クッパ先輩は俺の腰に抱き着いて、回れ右で帰ろうとする俺を抑えた。

「中に入る内から決めつけるのは早い! もしかすると陽はこのがれきから、三年以上も住むかもしれない家を組み立てると思ってるのか!?」

「えらく具体的ですね」

 まぁ俺もそう思ったけど。

「うん。だって俺もこれを最初に見たときそう思ったからね!」

「・・・って事は違うのですか?」

「おう。この外観からは想像できないくらい中は快適だぜ!」

「本当ですか? フェリス先輩」

「俺に聞いて!」

 腰でキャンキャンわめかないでほしいなぁ。

「うむ。こやつの言う事は真実ぞ。見た目がどれだけ弱そうに見えても実際戦ってみると強いのはバトルの基本だ」

 一体何の話をしとるんだね。

「バトルの世界の住人の言葉はいいから。聞くより中に入った方が早い。行くぞ」

 クッパ先輩はすぐ体制を整えて俺の背中を押す。

「わかりましたから。自分の足で行けます」


 中の感想は・・・悔しい。

 は? と、思うかもしれない。けどそうだ。

 見た目は粗大ごみと布をくっつけたゴミ山なのに、中はしっかりとし建物だったのだ。コンクリートは最初見たときはなかったのに、入ってみるとコンクリートで中はしっかりと補強されている。

 何だかクッパ先輩がそんな俺の反応を予想してドヤ顔してるようで・・・悔しい。

 ここ、ホームレス学科学生寮の入り口は下が赤いじゅうたんが敷いてあり、受付兼監視役のおばちゃんがまるでホテルの受付のような場所で座っている。

「実はあの見た目はフェイクなんだよ。中はしっかりとコンクリート仕立てで、粗大ごみや布などを建物に組み込んでゴミ山っぽく見せてるという建物なんだ。ちなみにこれを考えたのは卒業生ね」

「卒業生・・。それはさぞ立派なホームレスになった事でしょう」

 才能の無駄遣いとはまさにこのこと。

「いいや。大工さんになった」

「え!? 就職しやがったんですか!」

 それはNEET学園生にしてはあまりにまともな道だ。

「これを考えて実現した時、あれ? 俺って才能あるんじゃね? と、思って大工になったらしいぜ」

「人間らしいですね。それはまぁ有名な大工になった事でしょう」

「そうだったらいいんだけどな。結局、その卒業生は大工のロードワークに耐えられずに辞めたんだよ」

「NEET学園の卒業生ですねぇ」

 ホームレスに成る為の体作りしかできてない辺りが、特に。

「陽もわかってきたじゃないか」

 ここの駄目さがね。

「そういえば久利よ。我は男子寮にしか行った事がないからわからぬが、一体どこから行けるのだ?」

「それを二年生のお前が聞くのか」

「当たり前だ。我はこの寮に正面から入ったことがあまりない」

 小六病っこはそこそこの大きさの胸をえっへんと張った。

「ええー。ちゃんと正面から入ってこいよ。お前がこのゴミ山を登ってる姿を早朝に見たって人から苦情はいってるんだ」

「む。大きな愛の前にはそのような些末な事など不要。にて、久利。早く質問に答えんか」

「はぁ。ここは男子寮の入り口と女子寮の入り口が別々にあるんだよ。男子寮は外から見て横の左側。女子寮は横の右側だ。ここからどっちにも行けるようになってるから監視がついてるんだ」

 クッパ先輩の言った通り、中心地点である受付から右側には女子寮と書いたプレートが貼ってあり、そのすぐ横には下に降る階段と上に上る階段があった。左側にも男子療と書いてあるプレートに同じく階段がある。

 さらに受付のすぐ横、外から見て縦にあたる位置には大浴場と書かれた風呂場があった。

「クッパ先輩。あの大浴場って一年生も入浴できるんですか?」

「おう。入れる時間である夕方の三時から九時までだったら自由に入浴できるぞ」

「ちなみに女子と男子に分かれてやがるんですか?」

 大浴場への入り口は見たところ一つしかない。ちょっと期待したいところだ。

「混浴だったら・・良かったんだけどな」

 クッパ先輩が本当に残念そうに言った。

 デスヨネ。

「久利。我は別に風呂に一緒に入りたいのならそう言ってくれれば・・」

「そうだ、陽。そろそろおまえの部屋に案内しなくちゃな」

 クッパ先輩は小六病っこの言葉を遮って速足で男子寮の方に向かって行った。

 さっきのクッパ先輩、一回も小六病っこと目を合わせなかったな・・・。


 この学生寮は地下と地上があるらしい。地下はおもに一年生が使っていて、地上の二階は二年生、三階は三年生だ。

 アリの巣みたいなのを想像していたが、実際はそんなに入り組んでなさそうだ。さっきから俺達は円形状に進んでいる。

「お。これじゃね? 陽の部屋」

 階段から遠く離れた位置に〝鷹野〟と書かれた紙が貼ってある。にしても・・雑だ。

「鍵かかってるんですかね? 俺、今持ってませんよ」

「鍵ぃ。鍵ねぇ」

「持ってるんですか? クッパ先輩」

「いんや?」

 クッパ先輩は「鍵なんて持ってるわけないだろー」と、当然のように笑って俺の部屋のドアに手をかける。

 何当然のように言ってるんだ? こいつ。

「開いたぞ」

「それは我がロックの魔法を解除したから。伯爵夫人たる我にはこのような初歩的な魔法・・造作もない」

「それはどうも」

 クッパ先輩はためらいもなく俺の部屋にずかずか入ってくる。

「おお。これがゴッドリバーの空間領域か」

「屋主よりも先に入るって有り得なくないですか」

 俺も二人に続いて部屋の中に入った。

 部屋の荷物の半数はダンボールで、もう半分は学生寮の借家にいた際に使っていたのをそのまま運び出したのだろう。むき出しのまま放置されていた。

「汚い部屋だな・・」

「整理してないから当然です」

 一体何を期待していたんだ。

 クッパ先輩は「やれやれ」と言いながらベッドの下をあさり始めた。

「何かお宝あるかな。あ、もしかするとクッションの間か!」

「ナチュラルにエロ本を探そうとしないでください、クッパ先輩。フェリス先輩をたきつけますよ」

「大人しくします・・」

 クッパ先輩は何事もなかったかのような素早さで正座した。

 この脅し文句・・・結構つかえるな。

「悪い顔! 陽がむっちゃ悪い顔してる!」

「うるさい!」

 クッパ先輩が俺を指さしてギャーギャー言っていると、野太い声が俺の部屋に響き渡った。

「フェリス・・」

 クッパ先輩は驚愕して小六病っこを見つめた。

「いつの間にそんな野太い声に・・」

「ふざけないでください」

 俺はぺしっとかるくクッパ先輩をはたく。

「いやー、さっきの声が怖くって・・。さっきの声は誰だろ?」

「あれはゴッドリバーの横に住んでいる冥界人だ。クク・・・今宵、奴は血に飢えてると見える」

 俺は壁がある程度防音の役目を果たしていると思ったがそうではないようだ。それともストレスがたまっていて、小さな声でも気になってしまったのだろうか?

 部屋の奥まで行ったが、壁は段ボールの山によって見えなかった。仕方なく、俺はそれをどかして壁を確認する。

絶句。

 本日二回目の絶句だった。

「横の部屋と俺の部屋の仕切りが布だと・・!?」

 布をたくさんの画びょうで支えているという恐るべきものだった。

 布では防音機能も減ったくれもない。そりゃあクッパ先輩の声も隣に響くだろう。

「おー陽。運良かったな」

 クッパ先輩が俺の部屋の壁を見て、感心した声を上げる。

「良かった!? これで!?」

 片方は布の壁ですが!

「いやいや。ちゃんと壁が片方あるのも運がいいし、仕切りが布って俺の友達羨ましがるぜ、きっと」

「お友達はどんな壁でやがるんですか?」

「うーん。一言でいうと馬鹿にしか見えない壁、かな?」

 ろくでもないな!

「ここって欠陥工事でもしてたんですか・・?」

「NEET学園だしなぁ。文句ならつくった卒業生に言えよ」

 ・・・最初にこれを見たとき、そいつは才能あると思ったけど大工になる前に大事なものが欠けていた!

「はぁ・・」

「それと陽。ホームレス学科の寮は他の一般寮とはルールが違うから」

 またさらなる驚きがあるのか!?

「ここは朝と夜、自力で調達してつくらないといけないから。おまえも正式に引っ越してきたわけだし、今日の夜から自力で用意しないといけないからな。そこんとこよろしくー」

 クッパ先輩は「じゃあもう行くか」と言って、部屋を出ていき、小六病っこもクッパ先輩の後をついていった。

 残ったのはまるで片付いてない荷物とまともな壁もない部屋だけだ。

「あいつら・・・来たんなら手伝って行けよ・・!」

 ぎりりっと鳴った歯ぎしりの音がしんとした部屋に響いた。



 いきなり宣告された自給自足宣言に俺は戸惑う羽目となった。

今日明日で転入してきた俺が食べられる雑草を見分けられるわけがないし、だからといって盗みを働くほどに極限状態でもない。自分で食料を見つける手立てを知らない人間はどうしようもない。

隣の奴に教えてもらおうと思い、訪ねてみたが出てきたのはホームレス学科ではなく自宅警備員学科の生徒だった。

「僕は一般寮の奴らと気が合わなかった・・・。あいつら、すぐ部屋で騒ぎ出すし・・」

「それはあなたの部屋で?」

「いや? 僕の隣の隣」

 だったら関係ないじゃないか。

「僕はね。自分の近くにいる人間が僕より騒がしいのが耐えられないんだ。わかるかい?」

「ふぅん」

 俺は一体何を喋っているのかが気になって聞き耳を立てるだろうな。俺抜きの空間で一体どんな会話が繰り広げられるのか・・とても気になる。

「ところで、あなたにホームレス学科の学生寮のルールは適用されてるのか?」

「適用されるわけないじゃないか。それと、僕の事はあなたではなく、秋元と呼べ」

 そいつは一般寮の事を思い出したのか、憎々しげに舌打ちをすると扉を乱暴にしめた。

「・・・・・・・あいつ、ぼっちなのか?」

 そしてその結果、俺は昨日の夜は何も食べていない。


 翌日。

「ぐっ・・。そういえば朝もないんだった・・」

 腹がぐーっぐーなってしょうがない。こんな中でホームレス学科のハードワークをこなしたら死んでしまう気さえある。

「何とか・・しなければ・・」

 だが、これでは昨日と同じ道をたどるだろう。俺は本当はしたくなどなかったが、こうなってしまっては背に腹は代えられぬ。

 俺はホームレス学科の学生寮の二階に向かった。

 二階も地下と変わった所がなく、俺は掲げられている表札を案内にクッパ先輩の部屋を探していた。

 つまり、クッパ先輩に頭を下げて教えを乞うというわけだ。クラスの奴は仲良くもないし、あの筋肉信者に頼るのもなんか危ないし・・。

 まさに屈辱・・。あの先輩に頼るとか、まさに悪夢。

「これであの先輩とは卒業まで縁が切れないのは決まったようなものだな」

 ん?

 俺が階段からそろそろ一周周った所で、小六病っこを見た。

 小六病っこは階段に最も近いその部屋で何やら工具を使って扉のカギ穴をいじくっていた。

「小六病っこ・・!?」

 俺はつい、心の中で呼んでいる愛称を口に出してしまった。

 けれど、驚くなという方が無理な話だろう。正直に言って、今この場で一番会いたくない相手だ。

「む?」

 小六病っこは聞きなれぬ愛称に首をかしげ、工具を触っている手を止めて俺の方を見た。

「おお・・。おぬしはゴッドリバーではないか」

「ええ。鷹野陽です。おはようございます」

「うむ。我の様な魔界に住む住人にはちとこの朝日は辛いがな」

 会話がずれてる。

「どうしてここにいるんです? フェリス先輩って一般寮の方ではないんですか?」

 昨日会った秋元という人間と同じなのか? 別の学科でもホームレス学科の学生寮にいるという変わり種。

「そうだ。だから一般寮に居を構えている」

 ・・・。

 俺はこの小六病っこが弄っている扉のプレートを見た。

 そこに書いてあったのは〝野活久利〟という四文字だった。つまり、この部屋はクッパ先輩が寝泊まりしている部屋だ。

「人の家に勝手に侵入するのは良くないと思いますが・・」

 工具を使ってこじ開けようとしてる時点で勝手に上がりこもうとしてるのは明白だ。

「ゴッドリバーよ。ゴッドリバーがここに居るという事は久利に用があるのでないか?」

「ええ・・。まぁ、一応」

 甚だ不本意ではあるが。

「ならば待っておれ。すぐに久利に会わせてやろう」

 いや普通にインターホン押せよ。

 だが、これ以上小六病っこを止めようとすると俺に被害が出るとも限らない。さすがにこんな事で小六病っこを敵に回すのは愚かだ。俺は黙って見てることにした。

「む・・。久利め。鍵を変える時に前回よりも堅牢にしよったな。だが、我にはそのようなものなど利かぬ。我には《アンロック》があるからな・・」

「・・・カギをこじ開けたのは何回目ですか?」

「忘れた」

 つまり、忘れるくらいにこじ開けたという事だな。小六病っこの言葉から察するに何度も対抗してクッパ先輩も鍵を変えてるのだろう。ご苦労な事だ。

「・・・今回は穏便に済ますのは諦めよう。ゴッドリバーよ。下がっておれ」

 そう言うと、小六病っこは背負っていたショルダーバックからDの形をしたのこぎりを取り出す。

「我にこのソードを出させたのが運の尽きよ。さあ魔剣の餌食となるがいい・・。ククッ」

 小六病っこは鍵と扉の間にのこぎりを差し込むと、ごりごりと音を出して扉を閉めているそれを削り始めた。

 だが、のこぎりが太い。削り始めてから半分もしないうちにのこぎりが自らの太さで動けなくなってしまった。

「無理そうですかね」

「我に不可能はない。魔の扉よ。我が身我が声を聴いて閉じている世界をあけよ」

 よくわかんない詠唱を口にして、小六病っこは思いっきり力を込めて扉を引いた。

 すると、半分になっていた錠が壊れ、扉があいた。

「フッ・・。我に不可能はない」

 力技だなー。

「では我についてくるが良い」

 小六病っこは軽やかにスキップしながらクッパ先輩の部屋に入っていく。クッパ先輩に会えるのがうれしいのだろう。俺もそれに続いてクッパ先輩の部屋に入る。

 クッパ先輩の部屋は俺の部屋よりもずっと上等なものだった。まるでホテルの一室だ。

 壁も両面あり、個室のシャワーまでついている。大浴場で済ませねばならない俺とは大違いだ。

『おー陽。運良かったな』

 などと言っていたが、今となっては只腹立たしい。

 クッパ先輩の部屋にはシャワールーム以外にも部屋があった。俺はそれが二年生との違いなのかを確認するためにクッパ先輩の部屋を捜索することにした。

「フェリス!? 一体どこから湧いてきた!」

「久利よ。あまりの驚きに身を引くとは愛い奴め。目を閉じろ」

「嫌だ! 離せ! 年頃の女が男のベッドに侵入してくるんじゃない! はしたないじゃない!」

「む? どうせ我と久利とは恋人同士になるのだ。関係あるまい」

「お母さんはそんな子に育てた覚えはありません!」

 クッパ先輩と小六病っこが暴れてる音が奥の方から聞こえてくるが俺はスルーした。

「お。冷蔵庫」

 俺の部屋に冷蔵庫はあるが、段ボールに入っているのでまだ開封していない。

 冷蔵庫に何か食料が入っていると思ったが、予想通り昨日の残りらしきチーズやらアイスやら様々なものが入っていた。

「調理できたら楽なんだけどなぁ」

 そう言って俺は加工済みのチーズをほおばる。

 空腹に入る食べ物は何でもうまく感じると聞くが、まさにその通りだと思った。チーズがいつもより一層まろやかに感じる。

「誰か! 誰か助けて下さ~い」

 クッパ先輩は小六病っこの攻撃を脱出して部屋の外に出ようとして、俺と鉢合わせになった。

「陽! どうしておまえがここに!」

「げっ!」

 小六病っこはその動揺の隙をついてクッパ先輩に腰にしがみつき、その勢いでクッパ先輩を倒れさせる。

 そのまま小六病っこは部屋の奥へとクッパ先輩を引きずろうとするが、そこはムカつくクッパ先輩だった。あろうことか、俺の足をつかみやがった。

「離しやがって下さい、クッパ先輩!」

 俺はもう一方の足でクッパ先輩の手を離すようにするが、クッパ先輩は頑として離さない。

「おまえも・・おまえも道連れだ、陽。へへ・・」

「最後の最後まで足掻くラスボスですね、クッパ先輩」

「とりあえず・・フェリス先輩。今は朝方、ここで勝負をかけるのは不利と思います。朝食はどうするんですか。朝食は」

 俺のその言葉にクッパ先輩を引きずろうとする力が弱まった。

「む。確かに我は腹がすいている。力が弱まっている時に敵に攻め込まれたらひとたまりもあるまい・・」

 腹がへってるという証拠に小六病っこの腹はぐぅとなった。

 結構お腹空いてたんだな。

「なぁフェリス。今日は陽の朝飯もあるか? さすがに陽だけないのは不公平だろ」

「それもその通りだな、久利よ。ゴッドリバー。今日は我が朝餉を振る舞って進ぜよう」

「ほ、本当ですか・・!」

 その申し出は素直にうれしい。俺は「ありがとうございます」と言って頭を下げた。

「おお。陽がそんなに喜ぶなんて予想外だ。結構、淡白な奴だと思ってたんだけどな」

 昨日から食べてないからそりゃね。

「ニート支援学科には学生を支援するための牧場や畑を持っておる。そこから馳走をふるまおうぞ」

 小六病っこはいざゆかん、と、先行して前に進む。

 俺達が農園に向かっている最中、クッパ先輩がこそっと耳打ちした。

「おまえ、フェリスに好かれてるな。まさかあんなにあっさりとフェリスが陽にご馳走するなんて言うと思わなかったんだぜ、俺は」

「いつもは渋るんですか?」

「おうよ。俺以外の人間を寄せ付けるだけで牙をむくような奴だからな。自分が食事を出すとか論外なんだろ」

「へぇ」

 仮に俺が小六病っこに好かれてるとしたら、一体どこで俺は彼女に好かれるようなことをしたのだろう。

「・・・クッパ先輩。クッパ先輩ってもしかして、いつもこうやってフェリス先輩に朝ごはんをつくってもらってるんですか?」

 俺にふとした質問にクッパ先輩は「え?」と、顔を引きつらせる。

「べ、べべべ別に毎日ってわけじゃ・・休日は違うぜ」

「・・・。結婚するのも時間の問題ですね」

「はぁ!? 何言ってんだ、陽! 俺はぎりぎりまで足掻くぜ! つまり、俺とフェリスが一緒になるのはありえない!」

「はいはい」

 今日はお腹が空いたから、クッパ先輩を責めるのはこれまでにしよう。

 そして俺達は農園へと向かった。


久利に思いを寄せている人が登場する回です。

わたしの中では彼女はロリ体系ではなく、バランスのいい肉付きの身長160㎝くらいのイメージです。だからこそ、言ってる言動がかなり痛い

ここからシリアスになります。しばらくすれば戻ってきますが


次回の更新は1月31日になります

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