3話 準備
あの小六病っこにごちそうしてもらった朝食後。俺は観念してクッパ先輩の指示を仰いだ。
クッパ先輩はそれに大層喜んで、おせっかいだと言いたいくらいに世話を焼いてきた。
そして執拗に俺に恩を売るかのようなあの態度・・・後々を考えるとろくでもない人間に借りをつくってしまった。
そしてそんな日から早一カ月。一カ月ともなれば、自らで自給自足の生活ができるようになっていた。
俺は今、ホームレス学科の基礎体力の補習を受けている。俺は他の生徒よりも遅れて入ってきたのだ。少しでも生徒達に追いつくために鍛えるのは当然といえる。
「筋肉筋肉! フッハッ! 筋肉筋肉! フッハッ! 筋肉筋肉!」
俺の補習を見てくれる先生はあの体験授業でもお世話になった(お世話になんてなりたくなかった)橋本先生だ。
補習を受けているのは俺以外の女子一名に男子二名。この少数でも先生が見てくれるなんてありがたいことではあるが、何故もっとまともな先生にしなかったんだ・・・!
橋本先生は「筋肉!」と叫びながら腹筋をしている。この脳筋さ・・いつみても頭をかち割りたくなる。
「おおっと! 鷹野君、遅れているぞ! さぁ腹筋! 腹筋!」
腹筋といってもこれで百何回目である。とっくに速度なんて失われて腕が震えてまともにできない。だというのに、橋本先生はまるで今が一回目であるかのような速度を保っている。
俺は先生ほど筋肉ロボじゃ・・ない・・。
「はぁはぁひぃい」
腹筋し過ぎてそんな情けない声しか出てこない。
周りを見ると、補習を受けるような生徒達だ。すでにリタイアしてる生徒や俺と同じくひぃひぃ言ってる生徒もいる。
「も、もう・・駄目だ」
俺もその十秒後にリタイア組みの仲間入りした。体制もとれずに垂直に落ちた俺の体はグラウンドの土煙をあげさせた。
けれど、そんなのが気にならないくらいに何も動かさなくていいうつぶせの体勢は気持ちよく、俺の思考能力を奪った。
「ぐ、ぐぞ・・」
そして二百回目に突入するとまた一人の生徒がリタイアした。
橋本先生の腹筋にまだ付き合ってるのは女子生徒のみ。たまげたものだ。
補習が終わり、俺は夕食の材料を探しに行こうとしたが、橋本先生に呼び止められた。
「そういえば鷹野よ。君、まだ部活を見てないんじゃないか?」
「・・部活?」
「その様子だと初耳の様だな。NEET学園にはクラブ活動がある。結構な数の部室が用意されていてな。第二校舎の二階には部室が集まっている」
ああ・・。だから三階に自宅警備員学科なのか。
「二階全部が部室・・」
一階で三年制の一学科を収納できる大きさを誇っている第二校舎だ。その一階分が部室だなんてどれだけの数なんだ?
「まぁもちろん全部って訳ではないぞ! 自宅警備員学科のジオラマもあるし、他にも美品が大量だ! けれど、ここまで部活に力を入れてる学校はそうはないではないか!」
一体誰にPRしてるんだ。
「クラブ活動をしてない生徒も多いからね、強制的に入部はしなくてもいいが・・・だが! 学園生活にクラブ活動は不可避! 青春はクラブ活動なくして有り得ない!」
それは言い過ぎじゃ・・。
「だから筋肉部に入ろう! 筋肉を愛し、筋肉だけを貴ぶ! これがきん――」
「結構です」
俺は橋本先生の言葉を遮ってきっぱりと断った。
「むむぅ。にべもなく断られてしまったな! まぁいい・・他の部活動を回ってから筋肉部を選んでくれ!」
それだけは絶対ない。
俺は橋本先生の筋肉PRから逃げるために「わかりました。今すぐ行きます」と言って、端って第二校舎の二階に向かった。
「おおっ! そんな走らなくても第二校舎は逃げないぞ! そして筋肉部も逃げない!」
おまえが逃げなくても、俺は逃げる。
第二校舎にたどり着いた俺は早速、一番階段に近い扉から見学していこうと部室の扉を開けた。
部室の形というのは自宅警備員学科の教室とあまり変わらないらしい。中高生の教室の様な部屋だ。だが、この部屋の大きさは自宅警備員学科の教室の半分もない。
「ん・・? 貴方は体験入学の・・」
そこにいたのはヒモ学科の二年担任教師、国豪先生と男子生徒三名だった。
俺は体験授業の時を思い出し、ぞぞっと寒気がした。
もしかすると・・ここは・・。
国豪先生はホモ野郎だった。授業にかこつけて生徒に手を出していたろくでもない奴だ。そんな奴が顧問を務めてる部活なんて一つだ。
「ぶ、部活見学を・・橋本先生に進められてまして、それで・・」
俺はゆっくりと後ずさりして扉の取っ手を探す。
「ああ・・それは残念ね。ここは部活じゃなくて同好会なのぉ」
「同好会?」
「部活は五名の部員が居ないと承認されないの。それまでは同好会。部費も制限されるし・・寂しいものだわ」
国豪先生の言葉に他の男子生徒も頷いた。
「活動記録も目に見えない物ですしねぇ」
「全く目に見えるものばかりを貴ぶ工場長の心の狭さと言ったら・・」
「こぉら、貴方達! 工場長の文句を下手に言うと、ただでさえ少ない部費がもっと減ってしまうわ。文句は心の中に! いいかしら?」
「「「はい。国豪先生」」」
「ど、同好会なら・・俺の目的とは違います。そろそろ退出を・・」
「いやぁねぇ。別に同好会でも入会していいのよ? それにぃ貴方が入れば部活へのリーチがかかるわ。是非・・」
俺は取っ手を見つけるとそれをぎゅっとつかみ、いつでも出ていけるように今度は体を扉まで近づける。
「オホモ達の会にようこそ」
「お断りします!」
予想通りの同好会だと分かった俺はすぱっと扉を開けて、体を倒れ込むように廊下から飛び出す。
国豪先生は逃がすか、と、俺の肩をつかもうとしたが、倒れ込んだことによって国豪先生の手が俺の手から離れた。
「待ちなさい・・。私のボーイ!」
「貴方ならきっと立派な同性愛者になれるわ!」
「ノンケなんてノンノン!」
俺を追っかけようと教室から飛び出すオホモ達の会の生徒達。俺は素早く廊下に飛び出すと、体を一回転させて横の部室へと飛び込んだ。
「あら・・逃げられた・・」
「あの身のこなし、これだからホームレス学科は」
扉の奥でそんな声が聞こえてくる。捕まっていたらと思うと恐ろしい・・。
「おやおや。君は初めて見るね」
俺が入った部室はある意味、とても分かりやすい所だった。本棚とゲーム棚とフィギュア棚がずらりと並んでおり、白い壁は全て棚によって見えなくなっていた。
このオタク臭溢れる部室・・・こんなのを集めるのは特徴的な一学科のみだろう。
「どうも・・。ホームレス学科の一年、鷹野陽です。挨拶もなしに入ってしまって申し訳ありません」
俺はかるく頭を下げた。
この部室は先ほどの同好会よりも大きい部屋だ。今、この部室にいる生徒は男子二名に女子が七名だ。だが、それでもまだ人が入れそうなのは部員数の違いだろう。
にしても女子が多い。俺はてっきりオタク部的なのかと思っていたのだが、その場合だと男子が多いイメージがある。最近は女子にもウケてるのか?
「いいえ。気にしなくていいの。結構、そういう人って多いのよね」
ショートカットの眼鏡の女の子が俺に明るい声で話しかけてきた。女の子っぽい華奢な体つき・・・。ホームレス学科には失われたものだ。
これこそロストテクノロジーといっても差し支えない物だろう。
「クスッ。貴方ってやっぱりホームレス学科の生徒ね。女の子をそんな珍しそうに見るのはホームレス学科くらいだわ」
そんな俺の様子にこれまたモデルのような体系をした女の子が俺を見て嬉しそうにしている。
「ああ。やっぱり皆、俺みたいな目をしてます?」
「ええ。男に飢えた目をしているわ」
え? ナンダッテ?
「やっぱり屈強な男子達の熱い友情っていですよねー!」
さっきのショートカットの女の子が眼鏡を曇らせて興奮している。
え? え? 何これ。
「そうよね。色気もへったくれもない女子に飽きて次第に目覚めていく男たち・・。あの筋肉質の体で押して押されて・・・。ああっ・・。萌える・・。たぎるわ!」
モデルのような綺麗な体形をしている女子が「あん。あん」と、悶えながら腐っていた。
「生ものもいいですけど、二次元も最高よ! 銀土! リヴァエレ! 黄黒!」
べつの女の子がそういう業界での専門用語を口走る。ヤヴァイ。全くついていけない。
「むむ・・。もちろんそういう方にもウケるものもいいですが、やはりセカコイなどのマジ物もいいでしょう・・。あの女には渡さない空気・・。面白いです」
しまいには二名の男子まで会話に参加してきた。
「ああ・・どれも素敵。絶対グッスマのヴァンガねんどろは購入必須よね!」「櫂アイよ!」「ツンデレ×ショタキター!」「ツンデレといえばヴォルフ!」
話はヒートアップし、俺はついていけなくなったのでこっそりと部室を退室した。
「ふぅ・・」
そういえば、この部活って何て名前なんだ?
俺は大体の見当はついたが、確認の為に教室に掲げられている標識を見た。
〝腐女子部〟
「・・・・腐ってやがる」
この部がオホモ達の会のすぐ近くにある理由が分かった。
俺はその後も何件か部活を回った。
感想はさすがNEET学園、だろう。フリーダム。あまりに自由すぎる。
「君たちもトリップ部に入らないか! 一緒に二次元にトリップしよう!」
「わー! 麻薬きめてるんですかー!」
と、現実と二次元の境目があいまいになっている〝トリップ部〟から逃げる羽目になり、
「僕達の調合技術をみよ! 科学研究部!」
「おおっ。まともだ」
「本気で・・・本気で薬を盛らないとヤバいんだ・・。国豪先生」
ヒモ学科の生徒で国豪先生の魔の手から逃げるために科学部を設立した部長もいた。
「切実だな・・」
「わかってくれるかね」
ここは科学研究部というより、国豪先生対策本部でよくないか?
「やぁここはゲーム部だよ。ゲームを製ぞ・・・うーん。主にゲームをプレイしてるかな」
そこでは男子数名がPCでエロゲを真剣にしていた。
「部長! やりました! CGフルコンプです! これで俺の桜たんは永遠です!」
「やったな! これでラスボスの役目から解放されるぞ!」
「え? 桜はむしろこれからが本番でしょう。ボスとして」
俺がそんな部員たちに冷ややかに言い放つと、部長は「黙れ! このにわかめ!」と、血の涙を流した。
「ゲームをつくろうとしない・・・典型的な部だな」
ていうか、今さらフルコンプとか盛り上がってるやつににわか扱いされたくないわ! 俺は発売してから一週間でフルコンプしたぞ!
と、妙な対抗心を沸かせていた。
俺が次はどこに入るかと部室を探していると、知り合いのろくでもない先輩を見かけてしまった。
クッパ先輩!
何故、ここにいるのか。もしかすると、どこかの部活に所属してるかもしれない。クッパ先輩が入部するような部活だ。ろくな部活じゃないに違いない。
ここの二階は一本道ではない。複雑に経路が張り巡らされていて、初めての俺は迷いそうになったくらいだ。
俺はそれを利用して、クッパ先輩に見つからないように横道にできるだけ速足で遠ざかる。
「ん? 今、誰か通ったような・・気のせいか?」
ちっ! 勘のいい奴め!
俺は素早く離れることを諦め、ゆっくりとクッパ先輩から距離を取っていく。
このミッション・・・失敗は許されん!
そして、ある程度離れたら俺は走り出した。この地点で走り出しても俺の姿を黙認することは不可能だろう。
「ここまでくれば大丈夫か・・」
俺はクッパ先輩を撒いたことを入念に確認すると、再び部室めぐりに戻ることにした。
俺は近くに部室の扉を見つけたので、そこに入る事にした。
表札には新聞部とあった。こんなまともそうな部活にクッパ先輩が居るはずがない。
「失礼します」
「む。ゴッドリバーじゃないか」
「!」
そこの部室には小六病っこがパイプ椅子に座ってお菓子を食べていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「お邪魔しました」
「遠慮することはない。ゆっくりしていけ」
小六病っこがここに居るという事は間違いなくクッパ先輩も入部してるはずだ。クッパ先輩に会う前に立ち去らなくては・・。
「いえいえ。忙しそうですし、また後日・・・」
「あれー? 陽だ」
ミッション失敗!
扉が開き、クッパ先輩が帰ってきた。そうか。クッパ先輩が俺の逃走してる方に何故か向かって来たのはこの部室に来るためか!
「人の顔を見てそうまで残念そうにするなよな、陽。ん~? もしかすると、フェリスと二人っきりでいたかった?」
「いや、それはちょっと・・」
小六病っこと長時間二人っきりなんて気が狂う。
「良いぜ、別に。フェリスも陽の事を気に入ってるだろうし、俺は構わないぜ~」
「厄介者を押し付けやがらないでください。クッパ先輩がフェリス先輩には一番です」
「うぬら・・我を一体何だと思っているんだ」
ゆらっと小六病っこの顔に筋がピキッと浮かび、それに合わせて指の関節が鳴った。
マズイ。本音を言い過ぎたか。
「「何でもないです」」
「ならばよい。ところで、久利よ。せっかくゴッドリバーが来たのだ。ゴッドリバーに部の説明をしよう」
「えー。どうせ表札見て分かってるだろ。新聞部って書いてあるし」
一般的にある部活だし、概要はとても分かりやすい。けど・・・。
「ここはNEET学園ですからね・・。一般的なものに見せかけてろくでもないものに違いないです」
俺の警戒の言葉にクッパ先輩は「NEET学園のすべてがそんなに以上って訳じゃないから」と、笑った。
「只、ニート関連の情報と学園の事件を載せるだけだ。大した事ないぜ」
普通の新聞部はニート関連の情報なんて載せないんだよ。
「へぇ。・・・あ。俺、今日見たいテレビがあるんでこれで・・」
「俺は陽があまりテレビ好きじゃないことを知っている。それと、お前の好きなニュースはいつでもやってるぞ」
チッ!
「俺ってそんなにニュースばかり見てやがりますかね?」
「おう。おまえの部屋に遊びに行くと、テレビには大体ニュースしか映ってないし」
クッパ先輩は遊びに行くと言っているが、アポをとらずに突然やってくる。しかも、大体が小六病っこに追われている時だ。
「そうだ、ゴッドリバー。今日はニート支援学科の農園についての記事を取り扱う予定なのだ。一緒に行こう」
小六病っこは思いついたが即行動。俺の許可などまるでない様に勝手に話を進めて動き出した。
小六病っこが部室の扉に手をかけると「ほれ。早くついてこい。機関の者がすぐそこに迫っているぞ」と、急かした。
「逃げられませんね・・・」
「陽もフェリスの事をよく理解してるみたいだな」
ニート支援学科の農園というのは食堂の横にある大きなビニールハウスの事だ。
本当に大きいビニールハウスで、中の植物の多さから農園というより植物園の様だ。
一応、こことは別に野外でも農作物をつくっている。その野外の方はビニールハウスとは別の場所にある。行った事はないがクッパ先輩曰く、あそこに行くと何の学校なのかわからなくなる大きさだそうだ。
「やっぱり苺やグランベリー・・果物系が多いですね」
「このビニールハウスは雨風に弱い農産物を取り扱ってるからなー。何か次第に果物系が多くなってたと思われる」
「確証ないんですねー」
俺のツッコミにクッパ先輩は「たぶんだよ! たぶん!」と、主張?する。
いや、結局確証ないじゃないですか。
なんとなく俺は屈んで、生い茂っている苺をちゃんと色づいているか確認する。苺は秋だというのに膨らんでいる。ハウスだと収穫時期が違うのか。
「ん~・・そういえば、こういうのって無償でもらえるんでしたっけ? 学生支援、なんでしょう?」
「無償じゃないぞ」
俺は苺を遊ぶ手を止めて、クッパ先輩を見る。
「無償とかにすると楽しようとする生徒が出るからな。実は農作物をあげる代わりにもらう側には条件が付くんだ」
「へぇ。それは一定ですか?」
「いんや。人によって違うかな。ニート支援学科の願い事を一回聞くとか、労働力を提供するとか物をつくるなど・・・まぁそんなもんだ」
「結構重いペナルティですね・・・」
労働力くらいだったら何とかなりそうだが、願い事は後が恐ろしい。
俺達がだらだらと喋っていると、作業着に着替え終わった小六病っこが頬を膨らませた。
「久利。我の働く姿を記事にするのだろう? それを詳しく見ようとせずにしてどうする。ほら? 我の作業着を着てもなお、薄れぬ我の妖気・・・感じるだろう?」
「ああ・・。さすが作業着だ。フェリスの妖艶さがどこにもなくなった」
クッパ先輩は貶したのだろうが、小六病っこはクッパ先輩の言葉に「妖艶さを感じていたのか・・」と、褒められたと感じて笑っていた。
笑うと普通に可愛いな。
「さて、久利も手伝うならば動きやすい格好に着替えるが良い」
「えー俺のこのイカス服装をジャージに変えろと? 見た目キツイじゃん」
と、言いながらも更衣室に向かおうとしている。最初から小六病っこの作業を手伝うつもりだったのかもしれない。
「む、久利よ。ジャージの変えならここにもある。別にここで着替えても――」
「じゃあ俺は更衣室行ってきまーす!」
小六病っこがジャージを出したころには走り出し、クッパ先輩は更衣室の方に消えた。
俺は新聞部の部員でもないのに今回のメモを取っていろと、ノートとペンを渡された。
俺は逆らうと面倒だと理解してるので、しぶしぶノートに二人が今何をしているかを書いている。
恐らくだが、二人が何をしているかという事を記事にしたいのではなく、このビニールハウスの中にどんな植物がいて、どんなふうに育てているかを記事にしたいのだろうが俺はそれを無視して二人の様子を書き続けた。
俺の好みとしては中の植物よりも、人間の動きこそが大事だ。
だが・・にしても、まじめにやらないな、こいつら。
「ククッ・・・盟約に従い、我に精霊の力を貸せ! フリュージョン!」
と言ってポーズをとった後、小六病っこは植物に栄養剤を指していく。
栄養剤や水を撒こうとするたびにそんなことを言っていて、はたして時間までに作業は終わるのかね。
「♪~AH.ROCK♪」
クッパ先輩は鼻歌交じりで雑草を抜いている。たまに雑草以外、抜いてはならない植物も抜いている。
ROCKしてないで抜く草を見分けろよ。
俺はそんな二人を呆れ交じりに見ながら、ノートにクッパ先輩は雑草を以外の物を抜いて、小六病っこは痛いセリフを言いながら作業していると書き込んだ。
「♪YES,OK? AREYO――わぷっ!」
クッパ先輩が歌っていると、頭上からホースから出た水が飛び出した。
小六病っこが水やりの最中、そこにクッパ先輩がいると分かっていて水をかけたのだ。
「フェリス! 冷たいだろうが! もう11月なんだぞ! 風邪ひくわ!」
言う事はそっちか。
「むぅ・・・透かぬな」
「何がだよ」
小六病っこは思惑が外れたと言わんばかりに残念そうにクッパ先輩を見つめている。
「いや・・服がの」
クッパ先輩は今、ジャージの上着を羽織っている。下の服は白の為透けるだろうが、水色の上着が水にぬれて透けるわけがない。
「やはり、上着を脱がなくてはいけないか・・。久利、さっさと脱げ」
「無茶言うな!」
二人とも、その後は作業をほったらかして脱げだのそうじゃないだのともめていた。
その後、俺は二人のやり取りを一言一句たがわずメモし続けた。
ふっ・・。二人とも、俺のメモに拳を震わせるに違いない。
特にクッパ先輩の反応を思うと、俺は笑いが止まらなかった。
俺達は一通りの作業を終えると、新聞部に帰ってきた。
俺はてっきりこうしてる間にも他の部員が来ると思ったが、誰も来ずに作業は終わった。
「ふむ。おぬしら助かったぞ。我が当番を頼まれておってな。困っておったのだ」
そう言って小六病っこはパイプ椅子にもたれかかった。
「・・・ニート支援学科を取材しようと言った時点で怪しい感じはしてた」
クッパ先輩は小さい声で「相変わらず花子以外に友達いないんだな」と、ぼそっと言った。
やっぱりいないのか、友達。
小六病っこの言葉にクッパ先輩は俺の事をちらりと見た。
「俺の周りはぼっちばっかりだな」
「・・・。フェリス先輩以外にそんな人がいやがるんですね」
「陽。とぼけるのは卑怯だぜ」
「何の事だか理解できませんね」
クッパ先輩はぶつぶつと「いや俺、おまえが友達いるところを一回も見たことがないんだが」と、往生際悪く言い続けていた。
俺は「ところで」と、俺は話を変えた。
「クッパ先輩。他にも部員はいないんですか?」
確か、部活の承認には五人以上の部員が必要のはずだ。
「・・・・。部活創設時には五人いたさ」
「大変ですね」
「というわけで陽。入部――」
「しませんよ」
即答だった。
「早過ぎでしょ、答え! 悩んでもなかったよな!」
「俺はまだ学校生活に慣れていないので部活とかする余裕ないんで~。無理っていうかぁ~」
「にしては余裕ある返事だな!」
俺達がそんなやり取りをしていると、小六病っこは窓を見てる時に何かを見つけたようだ。「そういえば、もうそろそろだの」と、言った。
「NEETオブカルチャー・・。フッ。我と機関との裏での勝負が始まるな」
「あ、陽。文化祭の事だから」
大変ですね。翻訳係は。
「文化祭ですか・・。この学校にもあるんですね。ないと思ってました」
「イベント期間だからなー、今。体育祭に文化祭、そして・・・・テスト」
クッパ先輩はぐっと黙って肩を震わせた。
「ああ・・。クッパ先輩は馬鹿でらっしゃりますもんねぇ」
「そういう時だけ丁寧な言葉遣いをするんじゃない! 只、得意じゃないだけだ!」
「毎期、久利は一夜漬けでのりきっておるからな。安心せよ、ゴッドリバー」
一夜漬けって安心できる要素でしたっけ?
「テストなんて知らん! 今は文化祭だけを見る!」
「そんなこと言ってると留年しますよ」
そして来年には同級生ですね。
「おまえ・・留年って言葉に異常にうれしそうだな。そんなに俺と居たいのか?」
「違います」
この敬語をやめたいからですよ。
「ふむ。魂の盟約を結んだ友が居ないのは寂しかろう。安心せよ。久利が留年するときは我も留年するとき・・さすれば、ゴッドリバーと前世ぶりの盟約を結ぼうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
半分以上何を言ってるかわからないけど、とりあえずお礼を言っておこう。
「フェリスと陽の会話って温度差激しいよな・・」
「そうでしょうか? クッパ先輩」
「うん・・。自分で振り返ってみるといいよ」
小六病っこと俺との関係なんて一回も考えたことがなかった。あれか? 先輩とその恋人。
「そういえばクッパ先輩。体育祭ってどんな感じだったんですか? やっぱりNEET学園独自の何かがあるとか?」
俺はなんとなく興味でそんなことを聞いた。NEET学園の体育祭は想像できないからだ。
「ん~。例年通りだったかな。ホームレス学科が担当教師に異常な頑張りを要求されて、後は皆だらだらしてる感じ」
ひでぇ。
みんなで盛り上げる体育祭というより、学校側がやれと言ってるからやってる感がありありと伝わる。
「あーでも、何故か競技中に罠が仕掛けられてることがあったなぁ。確か、一年の自宅警備員学科が仕掛けたって噂で・・。そいつは俺達と同じ学生寮にいるらしいぜ。自宅警備員学科なのに」
それ俺の隣人じゃん。そんなことしてたのか、あいつ。
「まぁ体育祭は毎年残念だけど、文化祭は楽しもうと思えば楽しめるから! 期待してろよ!」
「はぁ」
楽しもうと思わないといけないのか・・。
そしてそれから二日後。ホームレス学科の一通りの準備運動が終わると、俺達ホームレス学科の一年生は暁先生の前で体育座りをして集まっていた。
この体勢、小学校の体育を思い出すな。
「今日のホームレス学科の授業はここまでとする。さしあたって、もうすぐ始まる文化祭の出し物について話をしよう」
もうそろそろだと思っていたが、やはり俺達も何かやるのか。
暁先生は楽しみなのか興奮してバック転を繰り返している。しかも、バック転をしながら「楽しみだ! うはは!」と、笑っているもんだから見なかったことにして帰りたい!
「先生。話し合いって具体的に何するんですか?」
前、駐輪所で俺に話しかけてきた男子生徒が立ち上がって暁先生に質問をした。
彼は何にでも積極的な奴なのか? もしかすると、いつも損な役回りをさせられる奴かもしれない。
「テーマを話し合う、だな。テーマを決めれば出し物を考えやすくもなる。まぁ、出し物をいきなり決めるのもアリ、だぞ!」
「わかりました・・。では、話し合うという事で」
そいつの言葉にホームレス学科の一年生と達はおしゃべりをし始めた。出し物の案やテーマの案を友達と考えているようだ。
俺? ずっとしゃべってないけど? 話す奴もいないし。
「じゃあ・・何かに案を書きましょう。どんなのがいいかな・・」
「光男~。黒板取りに行けよ!」
「ああ・・うん」
そいつの名前は光男というらしい。光男はすぐ近くにある移動式の黒板を持ってくる。
「じゃあ、案を聞きます。どんなのがいいですか?」
「メイド喫茶!」「お化け屋敷!」「女装喫茶!」
「あの、ホームレス学科はグラウンドですよ? 雨天時は体育館ですけど」
光男は苦笑いだ。
体育館はもちろんのこと、他の教室よりも大きい。しかも天井が高いからそこで出し物をするとなるとかなりの大規模になりそうだ。
体育館でメイド喫茶か・・。
正直、俺はかなり期待したが考えてみればメイドの格好をするのは筋肉のついたホームレス学科の女子生徒だ。メイド喫茶のはずなのに、筋肉喫茶と言われる予感がする。
「ホームレス学科の熱き血潮を存分に発揮してくれ! さしあたって、我らホームレス学科の一年のテーマは〝筋肉〟で決まりだな!」
さらりとテーマを決めるな!
「噂で聞いたんだけど、毎年絶対筋肉がテーマの所が出るらしいね、ホームレス学科。今年は私達なんじゃなぁい?」
ホームレス学科の女子がそんなことを他の女子たちに耳打ちする。
大方、橋本先生か筋肉洗脳された奴らがそのテーマで進めたのだろう。ろくでもない。
さしものホームレス学科の生徒達も筋肉がテーマになるなんてごめんなのだろう。消極的だった意見の出しあいににわかに活気が出てきた。
「じゃ、じゃあ・・ホームレス学科のアイドル、リンゴちゃんを撮ったブロマイドとかは? 何枚かに一枚に当たりがあって、それに握手券が入ってるっていう・・」
「リンゴちゃんって三年生じゃなかったっけ? それって一年でできるの?」
という、AKBもどきの商法は却下され。
「ラーメン屋さんはどう? 食品は食堂から出た賞味期限切れのを使うの! 余り物を使うってホームレス学科っぽくない?」
「それ、衛生管理に引っかからない?」
「鳩さん! 俺は提案するぜ! アニメをテーマに使ったアニメ歴史展を開くのはいいんじゃないか!」
「自宅警備員学科が似た様なのをやってるよ。毎年そうだし」
期待を裏切らないな、自宅警備員学科。
その他にも突拍子もない様な意見が次々と出てくるが、そのたんびにツッコミが入り、次第に内容が実現不可能なものへと変わっていった。
「ホームレス学科の学生寮を登山させるのはどうだ? 一番頂上についた人には商品とか」
「なら、ポールダンス!」
「コサックダンス!」
「宇宙をテーマに宇宙旅行はどうかしら?」
「佐藤さんをターゲットにした全国的鬼ごっこを実現させよう!」
案がちっともまとまらない。黒板に書いてあるテーマの案もすでに書く場所がなくなっている。この数で多数決をしたところで数が散って、ろくな展開にはならないだろう。
この調子だと実現不可能なものが決まりそうだからな。それはまずい。
「って、待ったーー! バーン!」
効果音を口で言いおった・・。
登場からしてインパクトなそいつらは五人前後の男女入り混じった集団だった。
「誰?」
さっきからずっと黙っていた俺もそんな声が出る。
「私達は自宅警備員学科の三年生! いつもの冷やかしよ!」
正直な奴らだな。帰れ!
五人前後の中心人物と思われる女子が大して大きくもない胸を張っている。
「聞いてるのかしら!?」
ちょっ。中心の奴、むっちゃうるせぇ。
「聞いたことがあるわ。確か自宅警備員学科って三年生になると、何故か他の学科を冷やかしにいくらしいのよ。しかも、人数もわけて全ての学科とすべての学年を回るという大掛かりなものらしいわぁ」
「それは気合の入った冷やかしね・・」
またもやホームレス学科の女子生徒が耳打ちしている。
さすが女子。情報通だな。
「うん。私達の事を理解してる人たちもいるようね! 安心したわ!」
「七福隊長。落ち着いてください。とりあえず、その拡声器を置いてください」
「私、拡声器なんて持ってないんだけど」
素でそれかい。
さらりと拡声器扱いされたやたらと声のでかい七副隊長とやらは「うぉっほん!」と、咳払いをして声の調節をする。
「あーあー。うん、いいわね。早速言わせてもらうけど、貴方達全然文化してないわ!」
文化とな?
「意見を出し合ってるのはいい傾向だけど、内容がてんで現実的じゃないわ! とくにそこの眼鏡! あんた、一かいくらい意見を出したらどう!?」
七福隊長はそう言って俺を指さした。
「っていうか、ずっと見張ってやがったんですか?」
「ツッコむとこそこじゃないでしょー!」
うがーっと手を出さんばかりの勢いで手を振りまくる。
「い~い? 私達、自宅警備員三年生は冷やかすとなったら全力で冷やかすわ! だって、人付き合いも今年最後だろうし!」
そんな悲しい事をさらりと言うな。
「そうですか。何か案とかあります? 冷やかしに来たからには相応の案があると助かるのですが・・」
「まぁ確かに冷やかしは真面目にやろうとしている人たちに作用するものだからね・・って、違うでしょ! 何で私が案を出すの!」
「まともな案が出て、文化祭準備の話が軌道に乗った所で冷やかせばいいじゃないですか。俺達も幸せ。先輩方も幸せ。とってもいい案だと思うんです」
「ん? ん? そうかな? 何かちょっと違うような気がするけど・・うーん。でもこれでいいような・・?」
よし。馬鹿は扱いが簡単で助かるな。
「今、馬鹿って思った?」
「思ってませんよ」
オモッテナイヨ。
俺の提案にホームレス学科の一年生達が「おーっ!」と、感嘆の声を上げる。先輩という目上の存在に当たり前のように話していっている俺に驚いた様だ。
「ようし! 冷やかすために存分に案を出していこう! 何か案ある?」
「うわー。隊長騙された」
「これだから隊長は~。草がはえますよ」
他の隊員? も文句を言いながら色々と考えてくれているようだった。
ふむ。これで少しはまともな案が出るかな。
「やっぱり案として出されてるメイド喫茶とかいいよね。男子でそれをやったら?」
「女装喫茶と合わせてる! 女装メイド喫茶wwww」
・・・所詮、冷やかしに来たやつらのクオリティなんてこんなものだ。ぜ、全然期待なんてしてないんだからねっ!
「あ、あの・・七福ちゃん」
そこに、おずおずと手を挙げて七福に提案する女の子がいた。
「な~に? 三沢ちゃん」
三沢、と、呼ばれた少女は眼鏡のショートカットの女の子だった。
ん? 最近どこかで見たような顔だな。
「私はその・・棒アイスを手作りして、売るのとかいいと思うんだ」
「棒アイス? こんな寒い時期に?」
「うん! 寒いからこそ棒アイスを食べた男子達は震え上がる! そしてそれをちびりちびりとなめまわす彼らの姿が・・ああっ」
三沢の空気がどことなく淀んで見える。
俺は邪念を感じてその案を却下したかったが、他の生徒が「あ。これはどう?」と、新たなアイデアを展開したことによって案が動き出した。
「ならさ! 僕達で手作りした棒アイスを売りに回るってどうかな? ホームレス学科っぽくない?」
「リアカーとかでまわろうよ。そしたらもっとホームレス学科っぽくなるわ」
「いいよねー。でも、第二校舎の中も回らないと駄目でしょ。毎年来る来場者って第二校舎に行くことも多いじゃない」
「じゃあ、それは担いで持ってこう! 小型の冷蔵庫に入れてさ」
わいわいがやがや。すっかり棒アイスで話がまとまった様だった。確かに、あの邪念を抜きにしたらまともな案だと思うが・・。
「く、くふふふ・・。今年は頑張らなくっちゃ」
この浮かれっぷりを見ると素直に考えれない!
そうして俺達ホームレス学科は手押し車やワゴンなどで移動販売することに決まった。売る商品は当初、棒アイスという話だったが、それだけでは客にウケないだろうという事で棒アイスのほかに飲み物も販売しようという事で落ち着いた。
棒アイスと言っても、通常の物ではなくもっと独自性を出そうという事で今は試作品の真っ最中である。
「手作りアイス、もうカップアイスでよくね?」
「やった。コーヒー味の棒アイスができた」
と、いう事をグラウンドでやっている。
え? 砂が入る? 鉄分は人間に必要な栄養成分だぞ。
冗談だ。・・・まぁ、本番はちゃんと調理室で造るから勘弁してやってほしい。
俺はチョコクッキーとイチゴジャムを加えたアイスをつくっているのだが、つくってみてから気付いた。これ・・棒アイスにできない。
「結構うまいな」
試作といえども残すわけにはいかない。一口食べてみた。
クッキーのサクサクとした触感にチョコとイチゴの黄金比ともいえるコラボレーションはもう鉄板だろう。これでまずくなるわけがない。
「だが、棒アイスには出来ない・・」
がっかりだ。
「うおー! 転校生が何か美味そうなの作ってるぞ!」
俺が試食を続けていると、それを見た一人の男子生徒が俺のアイスをひったくった。
「美味い!」
「・・・。勝手に食っておいてその言葉か」
これには俺も本音が出る。
俺としてはツッコミのつもりだったが、低音なのもあってイラついているように聞こえた。
「あーすまん! 腹が減っていたからつい・・。光男も食べてみろよ! うまいぞ、これ!」
ぴゅーっとその男子は光男の元に行って光男に食べさせる。
「わ・・。美味しい。夜空君がこれを?」
「違うよ。転校生がつくったんだ」
「へー」
光男はちらりと俺の事を見た。
「夜空のくせに美味しそうなアイスを独り占めしないでよ」
一人の女子が夜空のスプーンを取ってアイスを食べた。
「ん。美味い。けど、これじゃ棒アイスにできない」
「これ、転校生がつくったんだ」
「あら、転校生ってこんなのできたんだ。意外に料理上手?」
「料理男子!」
「私、こんなのつくったよ。転校生に負けないよ~」
そこに新たな女子たちも加わって試食タイムが始まった。他の生徒も自らが造ったアイスを皆にあげて感想を聞く。そして次なるものをつくり始めていた。
「いい傾向だな」
俺が満足そうにうなずくと、まるで中学生の様な体型をした女の子が近づいてきた。
「転校生さん」
その子はずいっとアイスが入ったタッパーを俺に差し出した。
「私がつくったアイスです。転校生さん、これを機に・・どうぞ」
!
俺にもこんな日がやってくるとはな。これを機に、というのは・・フラグか!
「ありがとう。それでは一口」
俺はプラスチックのスプーンでタッパーにあるアイスをすくった。アイスは紫色の茶色が点々とある色のアイスだったが、恐らく紫芋とかクッキーを入れたに違いない。
それを口に入れると、何故か甘い味がしなかった。ていうか、味がしない。
「どうですか・・?」
「・・・・」
何だこれ?
光男がその時、俺が彼女からアイスを食べているのを見て慌てた。
「鷹野君! それは・・・毒物だ!」
気弱そうな彼らしからぬ断言した言い様に俺は首をかしげようとした。が、首は傾げられなかった。
何故ならば、その十秒後に俺の意識は消失したからだ。
「ぐふ・・っ」
このアイス・・途中から辛かったような・・?
「はっ!」
俺はグラウンドの端で目覚めた。
下には敷物が引いてあり、俺はそれに乗って今まで寝ていたようだ。
恐ろしいことに俺の体は汗がびっしょりで、どことなくまだめまいがする。
・・・そういえばさっき、毒物とか言ってたな。まさか、暗殺者とか。
そんな小六病っこご希望の展開が起きるはずもない。周りが彼女を毒物製造機だという事も知っているのも変だし。
「あの、転校生さん」
!!!
俺は体が恐怖を覚えたのか、何故か震えが止まらない。
「私のアイスを食べて急に倒れられたんでびっくりしました。もしかして私、賞味期限切れのを使っていたのかもしれません」
賞味期限切れの食品で腹を壊すことはできても、ああも人を倒れさせることは難しいと思う。
「他の人たちはまた毒物製造機がやったーって騒いでましたけど、毒物を喰わせていたら普通は死んでしまいますよね。おかしいです」
彼女は愛らしくクスクスと笑っていたが、俺はちっとも笑えなかった。
こいつ・・自覚なしか!
「あの、何を入れてるんです? アイスに」
「大したものは入れてません。バニラエッセンスを瓶一つにスライスした紫キャベツにピンク色をした錠剤に・・あと、生クリームとか色々です」
材料からしてアイスに投入するものじゃない!
こいつぁ・・・。
「あ。また新しくつくったんです。今度は賞味期限切れかどうか確認したんで――」
「俺チョット、風にあたってくる!」
彼女の言葉を遮って俺は第一校舎へと走り出した。
「あ、あの・・! 待って!」
待てるかぁ!
俺は第一校舎までたどり着くと、深く息を吐いた。
「こ・・殺されると思った・・」
ホームレス学科で鍛えつづけた甲斐もあったのだろう。俺は安堵の息はだしても、息が乱れる事はなかった。
「フラグ・・容易なフラグは危険だと知っていたがよもや、ここまでとは・・」
これは神が俺に彼女をつくるなという啓示か?
その時、俺の後ろから声が聞こえた。
「フラグ、とな?」
俺は後ろを振り向くと、初めて会う初老のおじいさんが居た。
「・・・学園長?」
この顔、間違いない。俺がDVDで見た学園長の顔そのままだ。
「ほっほ・・。孫が話していた鷹野君かな?」
「どうも。初めまして」
第一校舎にはどこかに学園長室があるという噂だ。もしかすると、学園長は休憩の為に第一校舎の前にいたのだろうか? まぁ確かに第一校舎前には俺しかいないが・・・何だ? この感じは。
「学園長ではなく、工場長と呼びたまえ」
「すいません・・・。工場長」
俺のプライドが許さなかったのか工場長という言葉はひどく小さかった。
学園長は俺の事をまるで品定めでもするかのようにじろじろと見てきた。その目がひどく不気味で背筋がぞくっとした。
「ふむ・・。ああ、そういえば瑠璃から伝言を預かっているんだ。私のかわいい孫がね、おまえを見に学園祭に来るらしい」
「・・・は、はあ」
「光栄です」と言いたかったが、学園長からにじみ出る妬みのオーラが俺の口をふさいだ。
くそっ。瑠璃め。おじいちゃんに会いに行くとかそういうことは言えんのか。
「私は孫が可愛い。そんな孫が遠路はるばる鷹野君の元にやってくる。その重大さがわかるか?」
「はい・・」
「うん。そうか・・。だったら、盛大にもてなして満足させよ。じゃないと、退学だから」
「わかりました」
俺は頭を下げて、その場を立ち去ろうとした。
・・・・・・・・・・・退学?
「退学・・退学と言いましたか? 今」
まさか・・・たかが孫を喜ばせなかっただけで退学と言いやがったか? このジジイ。
「うん。退学。孫を喜ばせられない男など、この学園の生徒の資格はない、って事で」
ナチュラルにまるで常識のように淡々と言ったその言葉に俺はすっとんきょんな声を上げた。
「はぁっ!?」
実生活の人間関係が陽とにかよりつつある筆者です。文章は怖いですね。
それなりに学校生活に慣れつつある陽の最大のピンチです。この学園祭の話までが文庫本でいう一冊目くらいでしょうか。
次回の更新は2週間後です。




