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ハズレと言われたガチャスキル、猫と一緒に毎日回してます 〜孤児院育ちの少年は、魔石を一つずつ集めて少しずつ強くなる〜  作者: はわわわわ


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第32話 久しぶりの苔むす祠

第32話 苔むす洞、ふたたび


苔むす洞の入り口は、前と同じ顔をしていた。


草原の端の、ごつごつした岩山。その根元に、ぽっかりと黒い口が開いている。中から、ひんやりとした、湿った土のにおいが流れてくる。


「……なんか、なつかしいな」


トーマが、盾を背負い直しながら言った。


「まだ、一か月ちょっとだよ」


「一か月ちょっとで、いろいろありすぎたんだよ」


それは、そうだった。


その朝の無料ガチャは、【N】炭の棒だった。地図を描く日に、ちょうどいい。袋の中には、紙の束も、炭の棒も、たっぷり入っている。三階の地図を、今日こそ最後まで描く。


フードの中で、ルルがもぞもぞと動いた。顔だけ出して、洞窟のにおいを、くんくんと嗅いでいる。


「よし、そろったな」


振り返ると、ガルドさんが立っていた。


左の肩には、まだ包帯が巻かれている。腰の剣は、今日は置いてきたらしい。代わりに、ランタンを一つ下げていた。


その横に、もう一人。口ひげの大きな体が、腕を組んでいた。


「ボリスさん?」


「ガルド一人じゃ、いざってときに指導役が足りんだろうが」


ボリスさんは、どん、と自分の盾をたたいた。


「剣を振れんやつが付き添いじゃ、ギルドの決まりに引っかかる。だから、わしも行く。トーマの盾の使い方も、見てやらにゃならんしな」


「余計な世話だ」


ガルドさんが、ふん、と鼻を鳴らした。でも、断りはしなかった。


ダンさんとニコさんも、少し遅れて走ってきた。ダンさんは槌を肩にかついで、ニコさんは弓を背負っている。


「悪い、遅くなった!」


「ダンが寝坊したの。あたし、ずっと家の前で待ってたんだから」


「してない。……ちょっとしか」


四人と、ルルと、指導役が二人。


久しぶりの、苔むす洞だった。


◇ ◇ ◇


一階は、前と何も変わっていなかった。


壁一面の光苔が、ぼんやりと青白く光っている。ランタンがなくても、足元が見えるくらいだ。


最初に出てきたのは、スライムだった。


ぷるん、と通路の真ん中で揺れている。体の中に、白っぽい核が浮かんでいる。


いつものように、腰の袋に手を入れかけて、止まった。


手が、投石紐を探していた。


紐は、もうない。縁側の木の箱の中で、眠っている。


「レン」


後ろから、ガルドさんの声がした。


「手で投げろ。この距離なら、それで足りる」


うなずいて、腰の袋から、石を一つ取り出した。


川原で拾った、丸い石だ。にわとりの卵より、ひと回り小さいくらい。小石、と言っても、指でつまめるような石じゃない。手のひらに握ると、ずしりと重みが伝わってくる。


狙う。


小石投げ+3。狙ったところへ、まっすぐ届ける。


腕を振った。


ひゅっ、と石が飛んだ。スライムが核を横に逃がす前に、石が核の真ん中を打った。


ぱきん。


スライムが、ぷしゅう、としぼんだ。


「……当たった」


当たり前のことなのに、少しほっとした。


投石紐の石とは、まるで違った。紐の石は、空気を裂くような音がした。手で投げた石は、ずっと静かで、ずっと軽い。届く距離も、たぶん半分もない。


でも、まっすぐだった。


小石投げは、ちゃんと、俺の手の中に残っている。


「次、上!」


ニコさんが声を上げた。


天井の暗がりから、洞窟コウモリが二匹、ばさばさと飛び出してきた。一匹は近い。もう一匹は、通路のずっと奥の、天井すれすれだ。


近い方に、石を投げた。羽の付け根に当たって、コウモリがくるくると落ちる。


奥の方は、届かない。


そう思ったときには、もう、ニコさんの矢が飛んでいた。


ひゅん。


奥のコウモリが、壁にぶつかるように落ちた。


ニコさんが、弓を下ろして、にっと笑った。


「遠くは、あたしの番ね」


「……はい」


「レンは、近くのを落として。あたしは、遠くのを落とす。それでいいでしょ」


それで、いい。


前を見ると、トーマが盾を構えて、通路の真ん中に立っていた。その少し後ろで、ダンさんが槌を握り直している。


紐がなくても、俺には、パーティーがある。


ガルドさんは、壁にもたれたまま、何も言わなかった。ただ、ランタンの火が、少しだけ揺れた。


◇ ◇ ◇


二階に下りて、しばらく歩いたところで、ルルがフードから飛び降りた。


とことこと、通路の真ん中まで歩いていく。


そして、床の一か所の上で、ぺたんと座りこんだ。


見覚えのある場所だった。


夏に、ルルが寝転がって、お腹を見せて、床をてしてしと叩いた場所。あるはずのない落とし穴が、隠されていた場所だ。


「ルル、そこは……!」


思わず手を伸ばしかけたら、ガルドさんが、ブーツのつま先で床をこつんと叩いた。


「もう埋めてある。調査のときに、ギルドが石を詰めた」


ルルは、その上で、前足で床をてしてしと叩いた。


てしてし。てしてし。


それから、くるりと仰向けになって、お腹を見せた。


あの日と、同じ格好だった。


でも、尻尾は、ふくらんでいなかった。ふわふわのまま、ゆらゆらと揺れている。


「……確かめてるのか?」


ルルは、仰向けのまま、「みゃ」と鳴いた。


ダンさんが、ぶっと吹き出した。


「埋まってるか、見てくれてるんだな」


「ルルちゃん、えらいね」


ニコさんが、しゃがんでルルのお腹をなでた。ルルは、されるがままに、目を細めていた。


ボリスさんが、口ひげの下で笑った。


「なるほどな。こいつが、あの晩、門の内側を……」


言いかけて、ボリスさんは、ちらりとガルドさんを見た。ガルドさんは、何も言わなかった。


ボリスさんは、咳払いを一つして、それ以上は続けなかった。


◇ ◇ ◇


三階は、やはり暗かった。


光苔は、ほとんど生えていない。ガルドさんのランタンと、ボリスさんの松明だけが頼りだった。足音が、こーん、こーんと、遠くまで響いていく。


でも、前とは、空気が違った。


湿っているのは同じだ。でも、あの、少し生臭いにおいがしない。


「牙トカゲがいなくなったからだ」


ガルドさんが言った。


フードの中のルルは、耳を立ててはいたけれど、毛は逆立っていなかった。


紙を広げて、炭の棒を握った。


描きかけの地図を、頭の中に呼び出す。階段から南へ三十歩。広い部屋。そこから西へ、細い通路が二本。ここまでは、夏に描いた。


方向感覚で、頭の中に、新しい線を引いていく。


北側の通路。東へ曲がる細い道。行き止まりの小部屋が二つ。罠の印は、ガルドさんが古い地図と照らし合わせて、一つずつ確かめてくれた。


爪あとのある通路も、通った。


壁の溝は、まだそこにあった。ガルドさんの頭よりも高いところまで、四本の線が斜めに走っている。


でも、削れたところは、もう白くなかった。灰色にくすんで、溝の底には、うっすらと苔が生えはじめていた。


トーマが、溝を見上げて、小さく息を吐いた。


「……でかかったんだな、やっぱり」


「うん」


「でも、今なら」


トーマは、背中の盾に手をやった。それから、腰の剣の柄に。ユーリさんの剣だ。


「今なら、逃げなくても、すんだかもな」


「調子に乗るな」


ボリスさんが、トーマの頭を、がしっとつかんだ。


「牙トカゲは、大人が四人がかりで倒した相手だ。見習い一人で、盾一枚で、どうにかなるもんじゃない。……ただな」


ボリスさんの手が、トーマの頭を、わしわしとかき回した。


「門の前で下がらなかったやつが言うなら、ちょっとは聞いてやる」


トーマは、髪をくしゃくしゃにされたまま、むずがゆそうな顔をしていた。


◇ ◇ ◇


最後に、奥の通路に入った。


あの日、ずる、ずる、と何かを引きずる音が聞こえた通路だ。


細い通路を抜けると、天井の低い、丸い部屋に出た。床の土が、大きく、浅くくぼんでいる。何か大きなものが、何日も、そこで体を丸めていた跡だった。


「ここが、寝床だったんだな」


ダンさんが、くぼみのふちに、そっと槌を置いた。


この部屋を描けば、三階の地図は終わりだ。


壁に沿って、歩数を数えながら回った。北の壁、東の壁。南の壁。


西の壁のところで、フードの中のルルが、ぴくりと動いた。


足を止めた。


ルルの毛は、逆立っていなかった。尻尾も、ふくらんでいない。


でも、じっと、壁の一か所を見ていた。


まばたきもせずに。耳を、ぴんと前に向けて。


「……ガルドさん。ランタン、こっちに」


ガルドさんが、ランタンを持ち上げた。


岩の壁に、細いひびが一本、走っていた。


そのひびの中から、何かが、のぞいていた。


黒い、石だった。


小指の先ほどの大きさ。つやつやと黒くて、まるで、岩の中から芽を出したみたいに、ひびから、ちょこんと突き出している。


最初は、ただの黒い石だと思った。


でも、ランタンの光の中で、その表面が、ほんのかすかに、赤黒く揺らいだ。


とくん。


音がしたわけではない。でも、そう見えた。


息が、止まった。


あの窪地。森の奥で、どくん、どくんと脈を打っていた、巨大な黒い柱。


あれと、同じ色だった。


「……触るな」


ガルドさんの声が、すぐ後ろでした。いつもより、ずっと低かった。


「誰も、触るな。近づくな」


ボリスさんが、無言で松明を掲げた。口ひげの下の口が、きゅっと結ばれていた。


トーマも、ダンさんも、ニコさんも、動かなかった。


ルルは、黒い芽を、じっと見つめたままだった。


怖がっている、という感じではなかった。毛は、ふわふわのままだ。


ただ、とても嫌なものを見ている。そんな目だった。


「レン」


ガルドさんが言った。


「この場所を、地図に描け。正確にだ」


「……はい」


炭の棒を持つ手が、少しだけ震えた。


西の壁。床から、俺の胸の高さ。ひびの右側。


紙の上に、小さな黒い丸を描いた。その横に、「黒い石・さわるな」と書き足した。


◇ ◇ ◇


ギルドに戻ると、ガルドさんは、まっすぐに奥の部屋へ向かった。俺も、地図を持って、ついていった。


ハロルドさんは、地図の黒い丸を見て、しばらく黙っていた。


太い指で、その丸を、とん、とん、と二度たたいた。


「……大きさは」


「小指の先くらいです。ひびの中から、生えてるみたいでした」


「脈は」


「打っていた、ように見えました。かすかにですけど」


ハロルドさんは、ゆっくりと息を吐いた。それから、ガルドさんの方を見た。


ガルドさんは、黙って、首を横に振った。


十五年前には、なかった。


言葉にしなくても、そう言っているのが分かった。


「三階は、また閉じる」


ハロルドさんが言った。


「一階と二階は、このままでいい。森にいるオスカーたちに、知らせを送る。騎士団にもだ。……あっちの柱がどうなっているか、それも聞かなきゃならん」


ハロルドさんは、地図を手に取って、もう一度、端から端まで眺めた。


「いい地図だ。三階の、全部が描いてある。この黒い丸がなければ、誰も気づかずに、あの部屋で休んでいたかもしれん」


カウンターに戻ると、リゼさんが、銀貨を一枚、俺の手のひらにのせた。


「三階の地図の代金。描きかけの分は、もう払ってあるけど、ハロルドさんが、これは全部で一枚だって」


「……いいんですか」


「いいの。続き、ちゃんと描いてくれたもの」


リゼさんは、そう言って笑った。でも、目は、少しだけ奥の部屋の方を気にしていた。


◇ ◇ ◇


ひだまりの家に帰ると、まず、院長先生に、銀貨の半分を渡しに行った。


地図の代金は、いつも半分。これは、最初の地図のときから決めている。


銀貨一枚は、帰り道に、ベルンさんの店で銅貨に替えてもらっていた。五十枚を、院長先生に。残りの五十枚が、俺のぶんだ。


院長先生は、いつものように「ありがとう」と受け取ってくれた。それから、俺の顔をのぞきこんだ。


「何か、あったの?」


「……三階に、変な石がありました。ガルドさんとハロルドさんが、ちゃんと調べてくれるそうです」


院長先生は、少しだけ眉を寄せた。でも、それ以上は聞かなかった。


「そう。じゃあ、今日は、温かいスープにしましょうね」


それだけ言って、台所へ戻っていった。


◇ ◇ ◇


その夜。


寝床の上で、目を閉じても、あの黒い芽が、まぶたの裏から消えなかった。


とくん、と揺らいだ、赤黒い光。


ルルの、あの目。


考えても、分からないことだった。ハロルドさんとガルドさんが、ちゃんと調べてくれる。オスカーさんたちにも、騎士団にも、知らせが行く。


俺にできることは、地図を描くことだった。それは、もう、やった。


……でも、眠れなかった。


寝床の下から、袋を引っぱり出した。


毛布の上に、銀貨の山が四つ。その横に、今日の銅貨が五十枚。


じっと、見た。


月に一回。そう決めた。冬のはじめに、一回。


……今は、冬のはじめだ。


いや、違う。冬のはじめの一回は、もう少し先にするつもりだった。もっと寒くなって、雪がちらつくくらいの頃に。


でも。


地図の代金は、報酬とは別のお金だ。


この五十枚は、四つの山とは、関係がない。


もし、山を一つ崩しても、ここに五十枚ある。三枚の山が一つ減って、銅貨が五十枚増える。


つまり、ほとんど、減っていない。


……いや、減ってる。銀貨三枚は、銅貨三百枚だ。五十枚じゃ、六分の一にしかならない。


分かっている。分かってはいる。


「……地図を描き上げた、お祝いだから」


誰に言い訳しているのか、自分でも分からなかった。


鉄の鍋の中で、ルルが、片目を開けた。


金色の方の目だった。


「……でも、今夜は、回せないよな」


手元に、小魔石はない。ベルンさんの店は、もう、とっくに閉まっている。


銀貨の山を、一つだけ、別の袋に分けた。


明日。明日の朝、ベルンさんの店に行こう。


袋を寝床の下に押しこんで、毛布をかぶった。不思議なことに、さっきまで眠れなかったのが、うそみたいに、すぐに眠くなった。


◇ ◇ ◇


次の朝の無料ガチャは、【N】ボタン一袋だった。


院長先生に渡して、朝ごはんを、いつもより早く食べ終えた。


「レン、今日は早いのね」


「ちょっと、ベルンさんの店に」


院長先生は、何か言いたそうな顔をした。でも、何も言わずに、「いってらっしゃい」と手を振ってくれた。


ベルンさんの店は、開いたばかりだった。


カウンターに、銀貨を三枚並べると、ベルンさんは、眼鏡を押し上げて、俺の顔をまじまじと見た。


「おや。また、百個かい」


「……三階の地図を、描き上げたので。そのお祝いです」


「お祝いか」


ベルンさんは、くすくすと笑いながら、カウンターの下から、小魔石の箱を引っぱり出した。


「この前は、一回だけ、と言っていたねえ」


「……言いました」


「お祝いの多い冬になりそうだ」


返す言葉が、なかった。


◇ ◇ ◇


ひだまりの家に戻ると、縁側に、ミリィとポポが座って待っていた。


「レンにいちゃん、またガチャ?」


「なんで分かるんだ」


「だって、その袋、まえとおなじだもん」


ポポが、小魔石の袋を指さした。小さい子の目は、ごまかせない。


二人の間に座って、袋を置いた。鉄の鍋の中から、ルルも、のそのそと出てきて、俺の膝に乗った。


『魔石ガチャ:十連(おまけ1回)』


手を伸ばした。


ガチャの絵が、くるくると回る。


ころん、ころん、ころん、と、カプセルがいっぺんに転がり出てきた。


白。白。白。白。


青。


一つだけ、青があった。


息をのんで、それから、一つずつ開けた。


塩。包帯。手ぬぐい。ろうそく。乾燥豆。紙の束。小麦粉。いつもの白いカプセルたち。


羽根のついた、小さなおもちゃが出たときは、膝の上のルルが、ぴんと耳を立てた。


『【N】羽根のおもちゃ

 棒の先に、ふわふわの羽根がついたおもちゃ。

 猫が、とても喜ぶ。』


棒を振ってみせると、ルルは、膝の上から、ぱっと飛びついた。羽根を前足ではさんで、ごろんと転がる。ミリィとポポが、きゃあきゃあと手をたたいた。


……また、ルルのものが出た。


ガチャの神様は、やっぱり、猫好きだ。


それから、青いカプセルを開けた。


『【R】投げ手の手袋

 手のひらに、薄い革を張った毛糸の手袋。

 石がすべらず、冬でも指がかじかまない。』


灰色の毛糸に、手のひらと指の内側だけ、こげ茶の革が張ってあった。


はめてみると、俺の手に、ぴったりだった。指の長さも、手のひらの幅も。


腰の袋から、石を一つ握ってみた。


革が、石の表面に、しっとりと吸いつく。毛糸の厚みで、石の冷たさが指に届かない。それなのに、石の重みと形は、ちゃんと手のひらに伝わってくる。


投石紐の練習で、指の皮がむけたことを思い出した。冬の石は、冷たい。かじかんだ指では、まっすぐ投げられない。濡れた石は、指からすべる。


投石紐みたいに、石を強くしてくれるわけじゃない。


でも、冬の間じゅう、俺の指を守って、いつもどおりにまっすぐ投げさせてくれる。手で投げると決めた、今の俺にちょうどいい手袋だった。


最後に、もう一つの白いカプセル。


ぱかり。


『【N】生活魔法:そよ風

 すでに持っているスキルです。

 生活魔法:そよ風が、生活魔法:そよ風+1になりました。』


「……来た」


思わず、声が出た。


重なった。


画面の説明文が、少しだけ書き換わっていた。


『【N】生活魔法:そよ風+1

 そよそよと、風を送る。

 前より少し強く、少し長く、吹く。』


おまけの十一個目は、干しいもだった。


◇ ◇ ◇


縁側の端に、ろうそくを一本立てた。


着火で、火をつける。ろうそく三本分の火が、ぽっと灯った。


縁側の反対の端まで、歩いた。前なら、ここからは届かなかった距離だ。


手のひらを向ける。


風よ。


ふわり、と風が流れた。


前よりも、ほんの少しだけ、しっかりした風だった。縁側の板の上を、すうっと渡っていく。


ろうそくの火が、ゆらりと揺れて。


ふっ、と消えた。


「……届いた」


ほんの少しだ。ほんの少し、強くなって、ほんの少し、遠くまで届くようになった。


洗濯物が、前より早く乾く。火かごの上を通す風も、前より長く続けられる。


たぶん、それだけのことだ。


でも、重ねれば、ちゃんと育つ。


羽根のおもちゃを抱えたまま、ルルが、風の通り道で、ひげをそよがせていた。


◇ ◇ ◇


その夜、寝床の上で、もう一度、袋の中を数えた。


銀貨の山は、三つになっていた。


「……あと、三回」


口に出してから、気づいた。


十連は、月に一回。


そう決めてから、まだ、八日しかたっていなかった。


鉄の鍋の中で、ルルが、羽根のおもちゃを抱えて丸くなった。そして、俺の方を見ないまま、ふん、と小さく鼻を鳴らした。


やっぱり、ガルドさんに、少し似ていた。


あの黒い芽のことは、いつの間にか、少しだけ遠くなっていた。


目を閉じる前に、一度だけ、思い出した。


ひびの中で、とくん、と揺らいだ、赤黒い光。


それから、それをじっと見ていた、ルルの目を。


(第32話 終わり)


――――――――――――


【ガチャ記録】第32話まで


ガチャを授かってから 140日目 / ガチャLv.5


回した回数:合計146回(無料108回・魔石38回) ※100回目(天井)は第25話で使用済み。次の天井は1000回目


今回出たもの

・魔石ガチャ(十連・おまけ1回):【N】塩一袋、【N】包帯、【N】手ぬぐい、【N】ろうそく十本、【N】乾燥豆(一袋)、【N】紙の束、【N】小麦粉(小袋)、【N】羽根のおもちゃ、【R】投げ手の手袋、【N】スキル「生活魔法:そよ風」(重複で生活魔法:そよ風+1に)、【N】干しいも

・無料ガチャ:【N】塩一袋、【N】石けん、【N】乾燥豆(一袋)、【N】包帯、【N】手ぬぐい、【N】小麦粉(小袋)、【N】炭の棒、【N】ボタン一袋


これまでに出たもの

・特別枠【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)


・スキル:【N】小石投げ+3、【N】方向感覚、【N】生活魔法:着火+1、【N】生活魔法:そよ風+1(少し上達)


・装備・冒険の道具:【SR】風読みの投石紐(第28話で切れた)、【R】革の小盾(トーマに)、【R】丈夫な雨合羽、【R】丈夫な革の胸当て(レンが着用)、【R】厚手の外套(レンの体に合う大きさ)、【R】投げ手の手袋(レンの手に合う大きさ)、【N】砥石(トーマに)、【N】革の小物袋、【N】丈夫な縄、【N】丈夫な靴ひも、【N】革の手袋(投石紐の練習用に)、【N】革の水筒


・食べ物:【R】大きな燻製ハム(孤児院の晩ごはんに)、【R】干し果物の詰め合わせ(ダンとニコにも)、【R】堅焼きパン(大箱)、【N】じゃがいも(一袋)、【N】乾燥豆(一袋)×6、【N】干しいも×6、【N】小麦粉(小袋)×4、【N】乾燥ハーブ×3、【N】干し魚(塩なし)(ルルのごはん)、【N】塩一袋×13


・レシピ・本:【N】レシピ「じゃがいももち」(院長先生に)、【N】レシピ「はちみつケーキ」、【N】生活魔法の入門書(着火が少し上達)


・手当て・身の回り:【N】包帯×13、【N】手ぬぐい×11、【N】石けん×8


・布・裁縫:【R】厚手の毛布(孤児院に)、【R】大きな布地(院長先生が子どもたちの服に)、【N】縫い針と糸×7、【N】ボタン一袋×4、【N】革ひも×2、【N】指ぬき、【N】毛糸の靴下(小さい子たちに)


・台所・家の道具:【N】木のスプーン×2、【N】釘一袋、【N】木の器×2、【N】鉄の鍋(孤児院に)


・紙・灯り:【N】紙の束×10(地図の下書きに)、【N】炭の棒×8、【N】ろうそく十本×4


・庭:【N】青葉草の種(孤児院の庭に)、【N】青葉草の束(ダンの家に)


・おもちゃ・ルルの宝物:【N】猫じゃらし(ルルの宝物)、【N】毛糸玉×2(ルルの宝物)、【N】木のコマ(小さい子たちに)、【N】ビー玉一袋(小さい子たちに)、【N】羽根のおもちゃ(ルルの宝物)


読んでいただき、ありがとうございます!


久しぶりの苔むす洞。

二階では、ルルが「もう埋まってるよ」と、てしてし確かめてくれました。


そして三階の奥で、小さな黒い芽を見つけてしまいました。

あれは、いったい何なのか。


レンは「地図を描き上げたお祝い」で、二回目の十連を回しています。

「月に一回」と決めてから、八日目のことでした。


次回は〔今日の19時〕に更新します。

森から、騎士団が帰ってきます。

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