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ハズレと言われたガチャスキル、猫と一緒に毎日回してます 〜孤児院育ちの少年は、魔石を一つずつ集めて少しずつ強くなる〜  作者: はわわわわ


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# 第1話 祝福の儀と、聞いたことのないスキル

# 第1話 祝福の儀と、聞いたことのないスキル


「レン、襟が曲がってるわよ」


孤児院「ひだまりの家」の玄関で、マーサ院長が俺のシャツの襟を指で直してくれた。ふっくらした手からは、朝に焼いたパンの匂いがする。


「ありがとうございます、院長先生」


「緊張してる?」


「……少しだけ」


本当は少しどころじゃなかった。今日は十二歳になった子どもたちが教会でスキルを授かる、「祝福の儀」の日だ。


この世界では、誰もが十二歳で一つだけスキルを授かる。剣術なら騎士や冒険者に、火魔法なら魔法使いに、農耕なら畑仕事に向いている。もちろんスキルだけで人生が決まるわけじゃない。それでも、これからどう生きるかを考える大きなきっかけになるのは間違いなかった。


「大丈夫だって!」


背中をばしんと叩かれて、俺は前のめりになった。振り向くと、幼なじみのトーマが歯を見せて笑っている。俺より一つ年上で、去年の祝福の儀で「剣術」を授かった。


「俺だって前の晩は眠れなかったけどさ、終わってみたら一瞬だったぞ。水晶に触って、光って、はい終わり」


「トーマは剣術だったからそう言えるんだよ」


「レンは頭がいいから、きっと賢そうなスキルが出るって。計算とか、鑑定とか」


「賢そうなスキルって何だよ」


思わず笑ってしまった。トーマはいつもこうだ。深く考えずに口にした言葉で、なぜかこっちの肩の力を抜いてくれる。


「二人とも、行ってらっしゃい。レン、どんなスキルでも、あなたはあなたよ。お昼はシチューにしておくからね」


院長先生に手を振られて、俺とトーマは石畳の道を歩き出した。


---


ルーヴェンの町の教会は、町の真ん中の広場に面して建っている。白い石の壁に、色ガラスの窓。中に入ると、朝の光が床に赤や青の模様を落としていた。


礼拝堂には、もう二十人ほどの子どもたちと、その家族が集まっていた。パン屋の息子、鍛冶屋の娘、商会の跡取り。顔見知りも多い。


「それでは、祝福の儀を始めます」


祭壇の前に立ったのは、白い髭をたくわえた年配の神官様だった。その横には、子どもの頭ほどもある透明な水晶が台座の上に置かれている。


名前を呼ばれた子が一人ずつ前に出て、水晶に手を当てる。すると水晶が淡く光り、その中に文字が浮かび上がるのだ。


「ハンス。スキル『剣術』」


「おおっ」と家族席から声が上がる。


「ミーナ。スキル『裁縫』」


「よかった、お母さんと同じだ!」


「ルーカス。スキル『火魔法』」


今度は礼拝堂全体がざわめいた。魔法系のスキルは珍しい。ルーカスは顔を真っ赤にして、何度も水晶を見返していた。


一人、また一人。喜ぶ子もいれば、少し残念そうな子もいる。それでも誰かが授かったスキルを笑う人はいなかった。この町のそういうところが、俺は好きだ。


「レン。前へ」


自分の名前が呼ばれて、心臓がどくんと跳ねた。


後ろからトーマが「行け行け」と小声で言うのが聞こえる。俺は深呼吸をして、祭壇の前まで歩いた。


水晶は近くで見ると、思っていたよりずっときれいだった。中に小さな光の粒がゆっくり漂っている。


「緊張しなくていいですよ。手のひらを、そっと当ててごらんなさい」


神官様の穏やかな声にうなずいて、俺は右手を水晶に乗せた。


ひんやりとした感触。


次の瞬間、水晶の中の光の粒が一斉に集まり、今までの誰よりも強く輝いた。


「おお……?」


神官様が目を細める。礼拝堂のざわめきが、すっと消えた。


光が収まると、水晶の中に文字が浮かんでいた。


**『ガチャ』**


その三文字を読んだ瞬間――頭の奥で、何かが弾けた。


---


――蛍光灯の白い光。


――狭いワンルームと、積み上がった参考書。


――スマホの画面で回る虹色の演出と、「確定演出キター!」という自分の声。


――雨の夜、横断歩道。眩しいヘッドライト。


「っ……!」


膝から力が抜けそうになって、俺は台座の縁をつかんだ。


知らない記憶なのに、知っている。いや、違う。これは俺の記憶だ。


日本という国で、大学に通っていた。名前は今とは違ったけれど、確かに俺だった。講義の合間にソシャゲのガチャを回すのが小さな楽しみで、ピックアップの確率を計算したり、天井までの石を数えたりしていた。


そして、あの雨の夜。アルバイトの帰り道で――。


ああ、そうか。俺は一度、死んだんだ。


「レン君? 大丈夫ですか?」


神官様の声で、はっと我に返った。気づけば額にびっしょり汗をかいている。


「だ、大丈夫です。少し、めまいがして」


「無理もありません。強い光でしたからね」


神官様は俺の背中をそっと支えてくれた。そして改めて水晶をのぞき込み、白い眉を寄せる。


「ガチャ……。ふむ。申し訳ない、私も初めて見るスキルです」


その言葉に、礼拝堂がまたざわざわし始めた。


「ガチャって何?」


「聞いたことないなあ」


「強いのかな?」


ひそひそとした声が聞こえてくる。でも、そこに意地の悪い響きはなかった。みんな、ただ本当に分からなくて、首をかしげているだけだ。


神官様は台座の横にある分厚い本をめくり始めた。教会に伝わる、これまでに確認されたスキルの記録だという。ページをめくる音がしばらく続いて、やがて神官様は静かに本を閉じた。


「記録にもありませんね。前例のないスキルです」


前例がない。


それは、使い方を誰も教えてくれないということだ。剣術なら剣を習えばいい。裁縫なら針を持てばいい。でも、ガチャは?


胸の奥が、ひやりと冷たくなった。


すると神官様が、俺の目線に合わせるように少しかがんで、しわの多い顔でにっこり笑った。


「レン君。分からないものは、悪いものではありませんよ。神様は、その子に必要なものを授けてくださいます。このスキルが何なのかは、きっとあなた自身が見つけていくのでしょう」


「……はい」


「何か分かったら、ぜひ私にも教えてください。記録に残したいのです。長生きはしてみるものですねえ」


楽しそうにそう言われて、冷たくなっていた胸が、少しだけ温かくなった。


---


儀式が終わって教会を出ると、トーマが駆け寄ってきた。


「レン! 大丈夫か? お前、真っ青だったぞ」


「うん、もう平気。ちょっと驚いただけ」


「ガチャってすげえ光ってたよな! あれ絶対すごいスキルだって。光り方が全然違ったもん」


「光り方で決まるのかな、それ」


「決まる決まる。たぶん」


根拠ゼロの断言に、俺はまた笑ってしまった。


「先に帰って院長先生に知らせてくる! レンは歩いてゆっくり来いよ!」


そう言うと、トーマは広場を走り抜けていった。止める間もない。


一人になった俺は、広場の噴水の縁に腰を下ろした。


頭の中は、まだ少し混乱している。前世の記憶と、この十二年間の記憶。二つが混ざり合って、ゆっくりと一つに落ち着いていく感じがした。


不思議と、怖くはなかった。前世の俺も今の俺も、同じ俺だ。孤児院のみんなが大好きで、院長先生に恩返しがしたい。その気持ちは何も変わらない。


変わったのは、一つだけ。


「ガチャ、か」


前世の俺なら、誰よりもよく知っている言葉だ。


試しに、心の中で強く念じてみる。――ガチャ。


ふわり、と。


目の前の空中に、淡く光る四角い板が浮かび上がった。


「うわっ」


思わず声が出て、慌てて周りを見回す。噴水のそばを通る人たちは、誰もこちらを気にしていない。どうやら俺にしか見えないらしい。


光る板――いや、画面には、こう書かれていた。


> **【ガチャ】 Lv.1**

> 魔石を投入してください。

> 必要数:小魔石 10個 / 1回

> 所持魔石:0個


画面の真ん中には、丸いカプセルの絵がゆっくりと回っている。前世で何度も見た、あの光景にそっくりだった。


「……本当に、ガチャだ」


魔石で回すらしい。小魔石なら一つ銅貨数枚くらいだったはずだ。十個で一回。孤児院の子どもが気軽に買える値段じゃない。


そう思ったとき、画面の文字が、すっと入れ替わった。


> **スキルの目覚めを祝して。**

> **【祝福の一回】を回せます。**

> 魔石は要りません。一度きりです。


その下で、見慣れないカプセルが一つ、ゆっくりと回っていた。


さっきまでの絵とは違う。透き通ったカプセルの中で、虹色の光がゆらゆらと揺れている。


前世でいう、初回限定のおまけガチャ、だろうか。


「……回して、いいんだよな」


誰に聞くでもなくつぶやいて、俺は、そっと虹色のカプセルに触れた。


カプセルが、くるくると回り始める。


光の粒が渦を巻いて、どんどん増えていく。白から青へ。青から金へ。金から、名前の分からない色へ。噴水の水しぶきが、その光を映して、きらきらと輝いた。


そして、ころん、とカプセルが転がり出た。


虹色のまま、ぱかりと開く。


> **【N】 子猫**


「……え」


ノーマル。一番下のレアリティ。


あれだけ光って、子猫。


「子猫?」


思わず声に出したのと同時に、目の前の空中がぽうっと白く光った。光は柔らかく膨らんで、俺の膝の上にふわりと降りてくる。


光が消えると、そこには――。


「みゃう」


手のひらに乗りそうなくらい小さな、真っ白な子猫がいた。


ふわふわの毛並み。ぴんと立った小さな耳。そして、こちらを見上げる大きな瞳は、片方が澄んだ空色で、もう片方が蜂蜜みたいな金色だった。


画面に、説明文が浮かぶ。


> **【N】子猫**

> ガチャから生まれた子猫。

> よく食べ、よく眠る。

> ただの子猫。たぶん。


「……たぶんって何だよ」


小さくつっこんでしまった。ガチャの説明文に「たぶん」なんて書いてあるのは、前世でも見たことがない。


虹色のカプセルなのに、ノーマル。しかも、子猫。


剣か、魔法か、何か強くなれるものが出たらいいなと思っていた。正直に言えば、少しだけ、がっかりした。


でも。


膝の上で、子猫が小さく震えながら、じっと俺の顔を見上げていた。不思議な色の両目が、まっすぐに俺を映している。


そっと指を差し出すと、子猫は鼻先をくんくんと近づけて――ぺろり、と指をなめた。ざらざらして、くすぐったい。


それから、ごろごろと喉を鳴らしながら、俺の手に額をこすりつけてきた。


ああ、だめだ。


がっかりなんて気持ちは、どこかへ吹き飛んでしまった。


「……よろしくな」


小さくつぶやくと、子猫は「みゃ」と返事をするように鳴いた。


画面は、いつの間にか元の表示に戻っていた。小魔石十個で一回。所持魔石、ゼロ個。


ポケットの上から、そっと手を当てる。そこには、院長先生の手伝いや近所の使い走りで少しずつ貯めてきた、小さな布袋が入っていた。


次からは、自分で魔石を用意しなくちゃいけない。


「まずは帰って、院長先生に、この子のことを話さないとな」


子猫を両手でそっと抱き上げると、思っていたよりも、ずっと温かかった。


ガチャから何が出るのかは、回してみるまで分からない。外れかもしれないし、当たりかもしれない。でも前世の俺は知っている。ガチャっていうのは、回してみるまで分からないから面白いんだ。


ひだまりの家に向かう石畳の道を、俺は子猫を胸に抱えて、少しだけ早足で歩き出した。


(第1話 終わり)


---


**【ガチャ記録】第1話まで**


ガチャを授かってから 1日目 / ガチャLv.1


回した回数:0回


今回出たもの

- 【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)


これまでに出たもの

- 特別枠【祝福の一回】:【N】子猫(ルル)


はじめまして、はわわわわです。

数ある作品の中から読んでいただき、ありがとうございます。


外れスキル【ガチャ】と、相棒の子猫ルル。

少しずつ、ゆっくり強くなっていく物語です。


本日は第5話まで一気に投稿しています。

第1話の最後で、相棒の子猫ルルが登場します。よければ第5話まで、一緒にガチャを回してやってください!


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