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喧騒,喧騒,静寂

「――さっさと片付けな!!!!」


怒号が,部屋に叩きつけられた瞬間,全員がびくりと肩を震わせた。

「「「「はい!!!!」」」」と反射的に声が揃い,慌ただしく動き出す。


床に広がった水を拭き取りながらも,あちこちで小さな言い争いが続いている。

「だからお前が撒いたんだろ……!」

「お前が幽霊とか言うからだろ!?」

「まだ言うか!!」

と,雑巾を動かす手は止まらない。


「……雑巾,こっち」

「あー待ってバケツ足りない」

「Zzz……」

「いや寝てる場合じゃないって!!」

と声が飛び交い,騒がしさだけは変わらないまま時間が過ぎていく。


やがて水気が拭き取られ,部屋はなんとか元の形を取り戻した。

「……はぁ」と嶺羅がその場に座り込み,「入学初日から何してるんですかね……」とぐったり呟く。


「ほんとそれ」

と湯浅が肩をすくめる中,葱翠がふと浅葱へ視線を向けた。

「……行くの?」と,軽く問いかける。


「……行く」

と浅葱は即答する。その声音に迷いはなく,ただ事実を述べているだけのようだった。

「だから普通行かねぇって……」と湯浅が呆れるが,

「……呼ばれたから」と返され,それ以上言葉が続かない。


小さな沈黙が落ちる。

「……はぁ」と誰かがため息をつき,「まぁ,止めても無駄そうだな」とぼそりと零した声に,なんとなく全員が同意していた。


―――――――――――――


夜。


消灯時間を過ぎた寮は,昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。廊下の灯りも落ち,わずかな物音すら目立つほどだった。


浅葱はベッドの上で,静かに目を開けていた。隣から聞こえる寝息とは対照的に,その視線だけが天井へと向けられている。


「……こくはく」とぽつりと呟き,「……違う,って言ってた」と昼間の言葉をなぞる。少しだけ考えたあと,「……分からない」と小さく首を振った。


それでも,「……呼ばれた」と一言だけ残し,浅葱はゆっくりと身体を起こす。音を立てないようにベッドから降り,静かに扉へと向かった。


―――――――――――――


廊下に出ると,空気はひんやりとしていた。足音を抑えながら歩き,迷うことなく階段へ向かう。


一段ずつ上がる動きに迷いはなく,まるで最初から行き先が決まっているかのようだった。立ち止まることなく,そのまま屋上へ続く扉の前に辿り着く。


わずかに手をかけ,ためらいもなく押し開ける。ギィ,と小さな音と共に,夜風が流れ込んできた。


―――――――――――――


月明かりに照らされた屋上に,浅葱は一歩踏み出す。誰もいない空間をゆっくりと見渡し,

「……誰?」と小さく問いかけた。


返事はない。ただ風の音だけが流れ,静けさがそのまま広がっていく。


―――――――――――――


その頃。


寮の一室では,静かな寝息が続いていた。

「Zzz……」と規則的な呼吸音が響き,誰も起きていないように見える。


「……行ったか」


ぽつりと,かすかな声が落ちる。バクティーが,ほんの少しだけ目を開けた。


ぼんやりと天井を見上げ,少しだけ間を置く。「……んー……」と眠たげに息を吐き,視線だけをゆっくりと動かした。


「……ね」


小さく呼ぶと,空気がわずかに揺れる。

「……いるでしょ」と続ける声は,確認するように穏やかだった。


「……なに」

と,どこからともなく返る気配に,「屋上……ちょっと見てきて」と短く頼む。

「さっきの,気になるし」と,それだけ付け足した。


「……めんど」と小さな返答が落ちると,「……うん」とだけ返し,無理に押さない。


少しの間のあと,気配が動く。

「……行く」と渋々な声がして,窓の方へと流れていく。


「……ありがと」

と,ほとんど寝言のように呟き,バクティーは再び目を閉じた。

「Zzz……」とすぐに寝息が戻る。


部屋には,再び静けさだけが残った。

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