第28話 クリパー 思い遣り③
「そろそろ寝よっか?」
ふすまを挟んだ隣の部屋から奏ちゃんの声が聞こえた。
奏ちゃんと同じ部屋で寝ている愛理栖と、
隣の部屋で眠る僕。
少し寂しいけれど、温かい布団の中で、僕は今日あったことを思い出していた。
※愛理栖視点
「奏さん、実はあたしも夢があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
私の声が、静かな夜空に溶け込んでいく。
「いいよもちろん、話してみて」
奏さんの温かい言葉に励まされ、
私は自分の気持ちを打ち明けた。
5次元人になりたいという不思議な願望。
でも、同時に感じる不安。そして、大切なものを忘れてしまっているような感覚。
「つまり、5次元の存在に生まれ変わってしまったら、夢は叶うけど自分の体がどうなるか、
自我がどうなるか不安っていうわけね」
奏さんの言葉に、私は思わず涙をこぼした。
「そうなんです。それに、そうなったら私に今まで優しくしてくれた人たちに申し訳なくて……」
私の言葉に、奏さんは優しく抱きしめてくれた。
「ねえ、愛理栖ちゃん。理由は他にもあるんじゃない?」
「わかりますか?」
「わかるよ!愛理栖ちゃんの顔、まだ言い足りないって浮かない顔してる」
「奏さんに隠し事はできないですね。実は私、聞こえてしまったんです……」
私には聞こえていた。それは私がひかるさんとドライブに出発してすぐ、彼が激しい頭痛で一瞬意識が飛んだ時に、私の心の中に聞こえてきた話だった。
愛理、ガタン!!
「!? 奏さん、今の音、近くから聞こえませんでした?
それに誰か男の人の声もしたような……。
大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、たぶん積み上げてた段ボールの空だと思う。トイレに行くからついでに見てくるね」
奏さんはトイレから戻って来た後も、私の話を親身になって聞いてくれた。
「私、ひかるさんがいままで生きてきた大切な記憶が無くなっちゃうなんてそんなの絶対嫌です!!私のせいです。私がいるからひかるさんがこんな目に。記憶が消えるのが私だったらいいのに。私なんて生まれてこなければよかったのに」
私は涙で顔がくしゃくしゃになった。
「本当に辛かったね。よく頑張ったね。でも、生まれてこなきゃって、それは違うよ愛理栖ちゃん。愛理栖ちゃんとお兄さんのこと、うちが全力で相談にのるよ。だから、自信をもって!」
奏さんの言葉が、私の心にじんわりと染み渡っていった。
翌日。
病院の廊下は静かで、窓から差し込む陽の光が淡い暖かさを感じさせた。
愛理栖は詩織の病室のドアをそっとノックし、中に入った。
「詩織ちゃん? 私が車椅子を押すから、
一緒にロビーに来てもらっていいかな?」
愛理栖は優しい笑顔を浮かべながら声をかけた。
詩織は少し驚いた様子で目を見開いた。
「愛理栖ちゃんじゃないですか。
大丈夫ですけど、どうしてですか?」
愛理栖は微笑んで答えた。
「来てもらったらわかるよ」
詩織は少し戸惑いながらも頷いた。
「は、はい。わかりました」
愛理栖は詩織の車椅子を慎重に押しながら、
ゆっくりとロビーへ向かった。
道すがら、患者たちの視線が二人に向けられたが、愛理栖は気にすることなく進んだ。
二人がロビーに到着した先に僕は待っていた。
「ひかるさん、詩織ちゃん連れて来ましたよ」
「サンキュー! 愛理栖」
僕は愛理栖に感謝の言葉を返した。
ロビーに集まった人々のざわめきが少しずつ収まる中、詩織は不安そうな表情を浮かべていた。
突然の呼び出しに戸惑いながらも、
愛理栖に連れられて会場に到着した彼女は、
姉の後ろ姿を見つけて声をかけた。
「お姉ちゃん!」
詩織ちゃんの声には、少し緊張が混じっていた。
奏ちゃんはその声に応えて振り返った。
「詩織も呼ばれたの?」
詩織ちゃんは頷いた。
「そうだけど、今から何か始まるの?」
「うちも知らないんだ」
奏ちゃんは首をかしげながら言った。
二人は顔を見合わせながら、不安と期待の入り混じった表情で周囲を見渡した。
会場にはたくさんの患者や職員が集まり、
みんなが何かを待ち望んでいるようだった。
愛理栖は優しく微笑みながら、
二人を見守っていた。
「みなさんお待たせしました」
僕と愛理栖は病院の患者さん、職員の方の前に立った。
「今から紙芝居を皆さんにおみせします!」
僕は大きな声で、そしてゆっくりと朗読を始めた。
『むかしむかし~』
僕と愛理栖は登場人物ごとに交代しながら紙芝居を読んでいった。
「おねえちゃん、これ……」
詩織ちゃんは目に涙を浮かべながらそう言った。
「そうだね! うちも驚いたよ」
『~言った言葉の意味がわかりました。
おしまい』
僕と愛理栖は紙芝居を最後まで読み上げた。
紙芝居の後、紙芝居を聞いた患者さんとその家族、職員の方から盛大な拍手が巻き起こった。僕は最初不安だったが、皆の笑顔と拍手を見て、心から安心し、嬉しくなった。
「ありがとうございます。
実はこの紙芝居の作者の方に今日特別にお越しいただいています。
加多来詩織先生です。 みなさんもう一度盛大な拍手をお願いします」
僕がそう言うと、愛理栖が詩織ちゃんの車椅子を押し、中央正面に移動した。
「それでは先生。 ファンのみなさんに一言お言葉をおねがいします」
僕はそう言うと詩織ちゃんにマイクを渡した。
※今回の要約※
詩織の病気をきっかけに、愛理栖とひかるは奏と協力し、詩織の書いた童話を紙芝居にして病院の入院患者やスタッフの前で披露した。
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