【最終話】私の楽園って?
この物語は1話が少し長めですが、4話完結です。
宜しくお願いします。
「あれ~この辺で魔力感じたんだけど、どこいった?」
「魔力凄かったんだけど、ちんけな小動物程度の魔力しかなくなっちゃったよ」
「くっそ、暴れられると思ったのに、拍子抜けだぜ。あー暴れてーなあ」
「やめろ、バカ」
「魔力障壁」魔法使いが魔法の壁を作った。
ドーン
「みろ、周りが吹っ飛んだだろ」
「あれ、鹿?白い?」
「レブルディアじゃないか?」剣士風の男が言った。
「まずい、カク逃げよう」
レインはカクに乗ると森の中を逃げた。
「よし捕まえてやる」
「光属性第5階梯魔法 エクイティフィールド」
「光属性第4階梯魔法 センシングアロー」
「私のエクイティフィールドは最大半径2kmの魔物の動きを1/10にさせる。遅くなったところをセンシングアローで自動追尾攻撃をするからな。私の必勝パターンだ。逃げきれんぞ」
「カクどうしたの?動きが遅くなったけど」
その瞬間、首の装飾が赤く光り、カクは元に戻った。
「よかった」
しかし矢が迫っていた。
レインも矢の魔力は感じることが出来た。
矢のスピードは、カクよりも早い。
レインは矢が近づいた瞬間に、「氷遊び」で凍らせた。
矢は凍ったものの、勢いは止まらず、ドスンとレインの背中にあたった。
「いたー」
だが刺さることは無く、地面に落下した。
二人はそのまま逃げた。
「オーフィス、やったか?」
「いや、外した様だ」
「なに?お前、この流れで外したことないだろ」
「くぅ、屈辱だ。初めて敗北を味わった感じがする」
「あのオーフィス様が、敗北か、なんかうれしいぜ」剣士風の男がバカにする様に言った。
ギロ
「あーごめんごめん」
「だがよ、オーフィスの攻撃をかわすとは、並大抵じゃないぞ、何なんだあいつら」
「サンザの言う通り。顔を隠していたけど、子供だったわね?かわいい」魔女の様な女の子が口を開いた。
「だから、僕が言った通りだったでしょ?」
短髪小太りの男が言った。
彼らは、大陸でも5本の指に入るSランク冒険者パーティのアダマントス。
リーダーはレンゲ。スキル賢者 ランク金、治癒系、解除系、防御系のあらゆる魔法が使えるばかりか、炎、風属性の第5階梯魔法も使える。
サンザ。スキル剣聖 ランク金。雷鳴より早く相手を切り裂く。グループの中でも最速。タイマン勝負ならパーティ最強。
オーフィス。スキル魔導士 ランク金。水、土、木、火、光各属性の第5階梯魔法を使える。最強の魔導士。
イーシア。スキル闇魔導士 ランク銀。闇属性第5階梯魔法を使える。
ゴロク。スキル探索 ランク金。鑑定、望遠視、暗視、顕微眼、魔力探知、罠察知という優れた探索能力を持つ。
「あれ、レブルディアでいいのか?白なんていないだろ?ゴロクだって魔力探知できなかったし?」
「おかしいなぁ?」
「やつらエクイティフィールドを無効化したのか?それともセンシングアローを無効化したのか?」
「恐らくその両方だろう」レンゲが分析した。
「ちょっと俺が見てきてやる」
・・・・ 数分後サンザが戻ってきた。
「こうなってたぜ」
「凍らされた?どうやって?。。。。全く理解できん」
「とにかくスゲー奴らってことは分かったぜ。いつか俺がぶった切る」
「で、おかしいとは、なにがおかしいんだ?ゴロク」レンゲが聞いた。
「いや、あの鹿は、魔力を制御して小さくしてたよ」
「なに、あいつそんなことしてたのか、ますますスゲーな」
「それよりも変なのは、あの子供?だよ」
「なんでだ?」サンザが聞いた。
「普通は強力な魔物の魔力の傍にいたら具合が悪くなるだろ?」
「もし、このメンバーのように強い魔力を持っていれば、そんなことはないけど」
「何が言いたい」オーフィスはゴロクの発言の要点が分からなかった。
「あの子供からは、一切の魔力を感じなかった。僕のスキルであれば、やろうと思えば虫の魔力でも感知できるけど、あの子供は、虫ほどの魔力も何もないんだよ」
「それを知っててあの鹿が魔力を抑えているのか、あるいは、あの子供には、魔力を消す能力があるかだね」
「魔力を消す能力?そんなの何の役にたつんだ?」サンザが意味が分からないという様子で聞いた。
「僕らの様な探索スキルは完全に意味を失うね」
「もし夜寝ているときに、あの子供が僕のところにやってきても、僕は何もできない。無抵抗にやられると思う。多分みんなそうさ」
ゴクリ
全員が息を呑んだ。
「お、おい、やなこと言うな。俺たちはアダマンタトスだぜ?」サンザが若干ビビっている。
「それは今だけさ。僕達より強い奴らなんて直ぐに出てくるよ」
「。。。。」
「まあ、そうやって自分を戒めるのは悪くない。慢心は危険だからな」
「そういう意味で、あいつらには感謝しよう」サンザに言われ、みんなはそれ以上その話題をするのをやめた。
・・・・
『カク、危なかったね。大丈夫』
『うん、大丈夫』
『レインは?』
『少し痛かったけど、大丈夫よ』
『でもカクの動きが遅くなったと思ったら、首の装飾が赤く光って、普通に動くようになったのはなんだったんだろうね』
『わからない。でもあのまま遅い動きのままだったら、飛んできた矢にやられていたね』
『確かにそうね。何だったんだろうね?あの人たち。急に周りの木とかが吹き飛んじゃうなんて』
『あれは、一気に魔力を放出したんだよ。あの人たち、凄い魔力を持ってた』
『カクよりも?』
『そんなことはないけど』
『じゃあ、カクも木とか吹き飛ばせる?』
『そういう魔力の出し方はできないよ』
『あの人間は、剣を使うんだろうね。ああやって多数を相手にするときに自分が優位になるようにするんだよ』
『へーじゃあ、相当強いのかな?』
『人間の中では、かなり強い方だと思う』
『そうなんだ』
『カク、私って強いの?』
『レインは、強いともいえるし、強くないともいえる』
『何それ?まあいいか。どのみち魚とりと木工細工しか作れないし』
『あ、でもね、今度は、石で作ってみたいの』
『ただ今はとにかくここから離れて、西に向かいましょうね』
二人は、森の中を疾走した。
・・・・
「ここまで来れば、追ってこれないよね。もう1時間くらいは走ってるし」
二人は、また森で夜を過ごした。
レインは、木遊びでお風呂を作ると、水遊びと火遊びを使ってお湯を入れた。
そして暖かいお風呂に入った。
『でもさ、カク』
『なにレイン』
『なんで手から水が出るの?』
『たぶん、この空間から集めているんじゃないかな?』
『ふーん、じゃあ火は』
『それもこの空間から集めているんじゃないかな?』
『ふーん、分からないってことね』
『そうだね。難しい質問だよね』
『でも、私のスキルは魔法じゃないから、それも不思議よね』
『あとはどんな事ができるのかしら』
『ちょっと見てみるね』
『見てみるって?』
『カクは、私以外の人間のスキルも見えたりするの?』
『うん、見えるよ』
『そうなんだ。怖い人が来たときとか、何のスキルか分かると、助かるね』
『「風」が使えるみたいだよ』
『え?新しく能力が発生したの?でも風ってどういうことだろう』
「風。。。遊び?」
すると、お風呂の水が回転しだした。
「ちょっと、ちょっと、なにこれ」
「解除、解除ぉ」
すると、回転は止まった。
「なんで水が回転するのよ。風って言ったのに」
レインは、今度は手を開き、手の平に風を集めるようにして念じた。
『風遊び』
すると、掌につむじ風の様なものが発生した。
「凄い。風が出た」
「もしかして」
『火遊び』
ぼぼー
「うわ、凄い、火が回転してる」
「これは恐ろしい技だわ」
・・・・
翌日、二人は再び歩きだした。
森から出て、街道を歩くと、夕方になる頃、町が見えてきた。
看板には、バレンドスと書いてあった。
レインは地図をみると、バレンドスが載っていた。
地図に載っているという事は大きな町という事である。
レインは、町に立ち寄って、国の情勢など情報を仕入れたいと思った。
しかし正面からは入れない。
レインは、必ず穴があると思い、壁の穴を探すと、直ぐに見つけることが出来た。
「カク、この穴から町に入るからね、また念話で連絡するね」
『分かったよ。気を付けてね』
『ありがとう』
レインは、穴からバレンドスの町に入り込んだ。
辺りは薄暗く、進入するにはちょうど良かった。
運よく、周りには誰もいなかった。
レインは町を歩くと、1件の宿屋を見つけた。
辺りはすっかり暗くなっていた。
カラーン
「こんにちは」
「はい、いらっしゃい」
つばの無い茶色帽子を被った小太りのお爺さんがカウンター越しに見えた。
「おや、ずいぶんと若いお客さんで」
「あの、部屋空いてますか?」
「ああ、空いてますよ」
「そしたら、1泊お願いしたいのですが」
「1泊150ギルですが、大丈夫ですか?」
「はい、持ってます。これ」
「はい、確かに」
レインは鍵をもらうと、2階の部屋を教えてもらった。
・・・・翌朝
レインが2階から降りてくると、宿屋の主人が受付にいた。
「よく眠れましたかな?」
「はい、ぐっすり」
「それは良かった」
「朝ご飯はどうします?」
「別料金ですか?」
「いや、含まれてますよ」
「そうなんですか。だったら頂きます」
「じゃあ、そこのダイナーへどうぞ。座って待っててくださいね」
レインがダイナーへ入ると、時間も遅かったためか、もうほとんどお客がいなかった。
座って待っていると、給仕係が朝食を持ってやってきた。
暫くすると、そこに店の主人もやってきた。
「如何ですか、食事は」
「とっても美味しいです」
「それは良かった」
「それで、お客さんの事をあれこれ聞くわけじゃありませんが、やはりね、だいぶお若いから、気になって」
「そうですよね。僕は一人で旅をしてまして、西の端まで行きたいと思っているんです」
「西の端ですか?」
「はい、そこから船で海を渡りたいと思っているんです」
「海を?」
「それはまた大変な事を考えてますね」
「大変ですか?」
「ええ、命懸けですよ。お金もかかりますし」
「そんなに大変なんですか?」
「ええ、最近はわりと良くなったらしいですが、数年前までは、出港した船の半分くらいしか海を渡れなかったらしいです」
「半分ですか」
「そうですよ。まだ若いんだから、そんな危険な事はやめた方がいいかもしれませんよ」
「ここから西側に向かって行くと、隣の国まではどれくらいですか?」
「そうですね、馬車で2日ほどじゃないですかね」
「あと、こちらの町には、商業ギルドってあるんですか?」
「ありますよ。何か仕事します?」
「僕は、木工のスキルがあって、木工細工が得意なんです。だからこれを売ってお金にしたいなと思いまして」
「おー素晴らしい。これは、ゴブリンじゃないですか。あの憎きゴブリンが、可愛げすらある」
「これを売りたいと?」
「はい」
「うーん。あの、私が買わせてもらってもいいでしょうか?」
「え?僕は構いませんけど、商業ギルドに怒られませんか?」
「商業ギルドは、マーケットの管理が主な役目であり、個人間の売り買いは、問題ありませんよ」
「そうなんですか、おいくらで買ってもらえそうですか?」
「1000ギルとかではどうでしょうか?」
「はい、十分です」
「おー、そうですか。ありがとうございます」
「もっとあるんですか?」
「ありますよ」
「見せて頂いても?」
「こちらになります」
レインは革のマジックバックからカクの木工細工を取り出し、それを見せた。
店主の目がキラキラと輝いた。
「こ、これは、レブルディアでは?」
「はい、そうです」
「本物を見たことがあるのですか?」
「はい、見たことあります」
「良く死なずに済みましたね。あなた」
「ええ、なんとか、見つからずに済みました」
『嘘でごめんなさい』
「それにしてもこれは、凄い、生きているみたいだ」
「これは売るとしたら、いくらぐらいなのでしょうか?」
「以前はオークションで10万でしたが、それは高すぎだと思いました」
「10万ですか。。。いや、その価値は十分にありそうですね」
「それであれば、本来そのゴブリンも1000では失礼ですね」
「いえいえ、この程度であれば、直ぐに作れますので、1000ならありがたいです」
「ちなみに、このレブルディアを作るのにはどの程度の時間がかかるのでしょうか?」
「2時間くらいですかね」
「わずか2時間でこれを作ってしまうのですか?」
「考えられない。しかしこの出来栄えは、素晴らしい」
「こんな能力を持った方がいらっしゃったとは。年齢は全く関係ないですな。素晴らしいしか言葉がでないです」
「わかりました。これは私が10万で引き取らせて頂きます。宜しいでしょうか?」
「本当ですか?」
「はい、今すぐに持ってきます」
・・・・
「こちら、10万と1000になります」
「本当にそんなに結構ですよ。じゃあ5万頂いていいですか?」
「いやいや、これには10万以上の価値がありますよ?試しに今日から受付台に乗せたら、絶対に欲しいという人が現れますよ」
「それほどではないですよ。本当に5万も頂ければ、本当にありがたいです」
「。。。。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらいますね。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそです」
店主は大喜びで、早速受付の後ろの棚に飾っていた。
レインは、そのお金を持って、マーケットへ出かけた。
そして、雑貨屋では調味料やペン、毛布などを仕入れた。
道具屋では、鍋や刃物などを仕入れた。
そして、アクセサリー屋が店を開いていた。
赤い布で日除けのターフを張っており、リースの店よりも店構えが良く、儲かっていそうに見えた。
そしてリースの物とは全く異なり、可愛いアクセサリーが並んでいた。
「あ、いい指輪してますね」
そう言って、店の女性が声をかけてきた。
女性は青い目が大きく目立ち、鼻も高く美人の要素を多く持っていた。
健康的な褐色の肌に白いノースリーブがよく似合っていた。
そして両腕の二の腕には、自作と思われる渦巻きの形をした金色のアームレットが輝いていた。
「これですか?もらいものです」
「これって、女神様も紋様ですよね?」
「そうなんですか?」
「たぶんそうですよ。私教会にいきますので、たまに見るんですけど、アルミスっていう女神さまの紋様が、そんな感じだったと思います」
「へーそうなんですか。ここに並んでるのは、お姉さんが作った物ですか?」
「そうですよ、何か気になるものありますか?」
「この鹿、可愛いですね」
「これ私の自信作なんですよ」
「お姉さんは、錬金のスキルなんですか?」
「銀ランクだから、これくらいしか出来ませんけど」
「じゃあ、この鹿のアクセサリー下さい」
「ほんと?ありがとうございます」
レインはマジックバックに鹿のアクセサリーを取り付けた。
「とっても可愛いですよ」
「ありがとうございましたぁ」
・・・・
レインが宿屋へ戻ると、宿屋の主人が待ってましたとばかりに話しかけてきた。
「あーレインさん、おかえりなさい。私のにらんだ通り、もう何人か、このレブルディアに目をつけた人がいますよ」
「そうなんですね」
「それで、相談なんですけど、これをもう少し作ってもらえませんでしょうか?私が買い取りたいと思いましてぇ。いかがでしょう?」
「あと数体ならいいですよ。ですが、私はそんなにお金が必要なわけではありませんし、それでやめたいんですけど、いいですか?」
「ああ、もう、それで結構です。ぜひお願いします」
「それでしたら、木材を売ってるお店を教えて頂けませんか?」
レインは地図をもらうと、木材屋へ向かった。
・・・・
「ヒノキの木材が欲しいんですけど」
「何につかうんだい」
「木工細工です」
「20㎝x20㎝x20㎝程度で結構です」
「それならあるよ。いくつくらい必要?」
「5つくらいありますか?」
レインは1000ギル支払い、宿に持って帰った。
すると宿に人だかりが出来ていた。
『どうしたんだろう』
「あー、レインさん、帰ってきた」
「どうしたんですか?」
「レインさん、紹介します。この方、この町の領主様のバレンドス様です」
「へ?りょ、領主さま?」
「驚かせて、すみませんね。レインさん」
「わ、私に何かご用でも?」
「この木工細工を作られたのはレインさんだと聞きましたが、間違いないでしょうか?」
『まずったかなぁ』
「ええ、まあ、そうですけど」
「私は、このような芸術作品が大好きでね。この宿の主人である、マーガスとは、よくそういう話をする仲なんですよ。それでマーガスが素晴らしい逸品を入手したというんで、見に来たというわけです」
「はぁ、はい。それで、領主様にも何かお作りすればよろしいでしょうか?」
「本当ですか?それはありがたい。このレブルディア、大変美しい。この様なものを是非とも私のコレクションに加えたいですねぇ」
「分かりました。明日までには作りますので、部屋に戻ってもよろしいですか?」
「部屋で作れるんですか?」
「まあ、大丈夫だと思います」
「そうですか。では、また明日、来ますので。お願いしますね」
そういうと、領主は帰っていった。
「マーガスさん、どういうことですか?」
「いやー、すまん、すまん。領主様はこういうのに目が無い方なんだよ。今日の宿代はいらないから、作ってくれ。頼む」
「作ると言わないと帰ってくれなそうなんで、そういいましたけど、約束したのは、マーガスさんに引き取ってもらう為だったんで、一つ減りましたよ。材料もその分しか買ってきてませんし」
「ああ、それでいいよ。すまないね。ほんとうに」
翌朝までかかったが、領主向けの作品が完成した。
昼になり、領主が再びやってくると、レインの作品をみて、領主は感動していた。
「レイン君、ありがとう。素晴らしいよ」
「それと君への報酬だが、今晩にでもうちに来てくれないか?その時に渡したいのだが?」
「え?そうですか。。。」
・・・・ その日の夕方
領主から迎えの馬車がやってきた。
「それじゃマーガスさん、行ってきます」
マーガスの表情は冴えなかった。
・・・・
「レイン君、ようこそ来てくれたね」
「さあ、座ってくれ」
レインは領主の家に飾られて装飾品の数々を見て驚きが隠せなかった。
「どうだいレイン君、みんな有名な作者のものだ」
「君の作品もここに飾るよ」
「そ、そうですか、ありがとうございます」
・・・・
レインは運ばれてくる料理が美味しく、最初は無邪気に食べていたが、次第に眠くなってきた。
「あれ疲れてるのかな?領主様すみません。なんだか、もの凄く眠くなってきてしまいました」
そして食事中にも関わらず寝てしまった。
「やっとか。最初の一口で寝るはずだではなかったのか?全く薬が効きづらい奴だ」
・・・・
目が覚めるとレインは四方を壁に囲まれた部屋にいた。
手には、金属の手かせがはめられていた。
レインは立ち上がり扉に近づくと扉を開けようとした。
しかし押しても引いても扉は固く閉ざされていた。
扉は金属で出来ており、レインの能力では壊せそうにも無かった。
------☆ 数時間前
アダマントス一行は、バレンドスの近郊にいた。
「まもなく、バレンドスに入る。改めて言っとくが、今回のミッションの対象は、領主だからな、下手をうつと尻尾をださなくなる。くれぐれもこちらの手の内は見せず、奴に近づく事だ。みんな頼んだぞ」
アダマントス一行は、先ずギルドに向かった。
「あ、あなたがは、アダマントスの皆さんではないですか?」 受付嬢が驚いて言った。
ざわざわざわ
ギルド内がざわついた。
バレンドスは、コーモランド国でも主要な都市ではあるが、大陸5指に入るパーティが来ることはめったにない。
「何かこの町で大問題でも発生しているのでしょうか?」
「おいおい、大袈裟だな。俺たちは冒険者だぜ、冒険をして生計を立てているんだ。どこでも行くだろうよ」サンザが答えた。
「それで、なんかいいクエストないかい?」レンゲが優しく聞いた。
「えーと、現在Sランクパーティの方にやって頂く様な事は、特にございません」緊張しているのか、職員の女性は少しぶっきらぼうな言い方になってしまった。
数とサンザは「そりゃそうだろうよ。AでもBでもいいから、何かあればやるよ。もう金もなくなってきたし」とちょっと声が大きくなった。
それをレンゲが少し手をあげて制した。
職員はチラリとサンザを気にしながら、
「そ、そうですか。それでしたら、森に増えてきているメタル系の魔物の討伐をお願いできればありがたいです」
と伝えた。
「メタル系?珍しいな」オーフィスが反応した。
「はい、最近増えているんです。単体であれば、それほど手こずる魔物ではありませんが、神出鬼没であり、すぐ逃げるわりに、耐久力が高く、冒険者がターゲットとしている魔物の壁のようになることもあり、討伐の邪魔になる事例が多々報告されています。更に最近集団化してまして、それがますます顕著になっているんです」
「なるほど、それは面白いですね」レンゲが興味を持った様であった。
それを見てサンザは、
「よし、それを受けようぜ、レンゲ」
とひと押しした。
「して、その場所はどこであるのか?」オーフィスが聞いた。
「こちらになります」
『方角的には、領主の家の方角だな』全員がそう思った。
「承知した。このクエストを受けよう」レンゲが承諾した。
「本当ですか。ありがとうございます」
職員は、やっと邪魔なメタル系が討伐されると思うと、小躍りでもしたい気持ちになった。
「Bランクパーティの対象ですが、なかなか受けてくださる方がいなくて。こんなことをSランクパーティの皆様に依頼するのは心苦しいのですが、お受けくださり、感謝いたします」
「気にしなくとも結構。我々は皆さんがお困りなら、それを解決するまでのこと」
「レンゲ様♡」
・・・・ 領主屋敷地下
レインの部屋の扉の前に来た領主は、扉の小窓を開けると
「レイン君、起きたかね」
「領主様、これはどういう事ですか?」
「いやなに、僕はね、君の作品に痛くほれ込んだんだよ。それで、君は僕のためだけに作品を作り続けて欲しい」
「そんなことはできませんよ」
「そうかい、それは困ったな。君が快く返事をしてくれるまでは、ここから出すわけにはいかなんだよ」
「じゃあ、もう少しよく考えてくれたまえ」
カツカツカツカ
足音が遠のいて行った。
「なんで、こんなことに」
『そうだ、カク、カク、聞こえる?』
『。。。。』
なんの反応もない。
『地下だからダメなのかな』
コンコンコンコンコン
『なんの音かしら?』
コン・・コン・・コン ココココン
「誰かいるの」
コンコン
「しゃべれないの?」
「あなた1人?」
「1人じゃないわ」
「何人いるの?」
「たぶん7‐8人…はっきりとはわからない。」
「みんなこの領主に連れてこられたのよ」
「皆さん、いつからここに?」
「さあ、もう何ヶ月になるか、何年になるか」
「そんな。。。」
・・・・ ギルド
「これは、アダマントスのみなさん、このようなところまで来てくださいましてありがとうございます」
「少しゆっくりされてはいかがです?私の部屋でお茶を用意しますが?」
「そうですか、では少しお邪魔しましょう」
・・・・ ギルマスの部屋
「しかし、皆さんの様な方が、メタル系魔物の討伐を受けてくださるとは、ありがたいです。私からもお礼を言わせてください」
「そんなに酷いのか?」
「そうですね。Aランクの冒険者でもあいつらが集団で出てくると、その時点でクエストをあきらめてしまいます」
「なるほどね。そういば、ここに来る道すがら、この町で数年前から行方不明者が増えているらしいと聞いたが、そうなのか?」
「ええ、自警団が捜査してますが、手がかりがつかめず、困っているところです」
「必要によっては我々も強力できるが?」
「そうですか、それはありがたいですね。みなさまのお力であれば、捜査も進むかもしれません」
「ただ、この件は自警団が仕切っておりましてね、我々は何にもできないんですよ」
「そうか、後で自警団にも行ってみよう」
・・・・ 自警団
「我々はアダマントスという冒険者パーティであるが、ギルマスからの話を聞いてこちらに参上した」
「何の御用で?」
「行方不明者の件だ」サンザが少しイラついた感じで答えた。
「何か情報をお持ちで?」
「いや、捜査に協力しようかと思ったのだが」レンゲが冷静に答えた。
「そうですかい、ただ町の治安の事は我々に任されているんで、どこぞの馬の骨とも分からん冒険者に頼む理由はないので、お帰りください」
「貴様、俺達を誰だと思ってるんだ」サンザの怒りが爆発した。
「やめろサンザ」
「我々はメタル魔物の討伐に出かけるとしよう。何か情報を得られたら、また来る」
「失礼した」
・・・・
「団長、変なのが来ましたね」
「そのようだな。領主様へ報告しなくてはな」
・・・・
「ゴロク、どうだった?」
「ギルマスは、嘘を言ってないね。自警団は真っ黒だよ」
「そうか、どうしようもないな」
「それでは、一応メタルたちを狩っておくか」
一行は、町の東側の森へ向かうことにした。
その道すがら、領主の家の前を通った。
「こりゃまた、立派な家だな」
「なんだ貴様ら、屋敷をじろじろ見るな」
「私たちは、討伐のため東の森に行く途中なんですよ。余りに立派なお屋敷なので見とれてしまって」
レンゲが誤魔化した。
「さっさと行け」
・・・・
「ゴロク、ここはどうだった?」
「ちょっと、わからないね。ただ、地下が広そうだよ。この家」
「領主の家なら地下室くらいあるだろ?」
「そうなんだけど、もう少し近くで見たいなぁ」
・・・・
「レイン君、どうだろう、木材を持ってきたけど、作ってくれないだろうか?」
「いやです。こんなことをしなくても普通にしてもらえれば、作りますよ」
「いや、君は僕だけのものだ。他の誰にも作品を与えてはならない」
「。。。。」
「もう少し時間が必要かい?よく考えてくれよ。時間はたっぷりある」
・・・・
「それにしても、確かにメタルが多いな。これはこれで異常だぞ」レンゲも驚いていた。
「ほんと困るわね。闇魔法ではメタルには何の役にも立たないし」
「だな、剣でもたいしたダメージが与えられないぜ。オーフィス様様だよ」
「サンザ、貴様は、会心を出せるだろうが。少しは働け」
「へいへい」
「サンザ、すまんな。オーフィスも。魔法ではお前の光属性以外、こいつらには大したダメージが与えられんのでな」
「まあ仕方ない、私しか役に立つ人間がいないとは、嘆かわしいが、一応仕事をしているふりはしておかないとな」
「俺もやってまーす」
バチーン
「5匹目ー」
・・・・
「領主様、ご報告があります」
「どうしたバーレイ団長」
「今、町にSランクパーティが来ておりまして、東の森でメタル魔物の退治を行っているとの事でございます」
「良い事ではないか」
「いえ、それが行方不明者の件を嗅ぎつけております」
「なんだと?」
「何とかならんのか」
「奴らはアダマントス。一筋縄ではいきません」
「ここは、バレンドス様もしばらくご辛抱頂ければと思いますが。。。」
「辛抱?なぜ私が辛抱などしなくてはならない。ここの領主は私だぞ。貴様が上手くやらねばならんだろうが」
「は、御意」
『くっそ、このロリコン変態野郎が!』
『しかし、このバカが暴走すると、俺までやばくなる。このバカはSランクパーティーの恐ろしさを分かってない』
『どうにかしなくては、どうにか』
『そうだ、あれだ』
・・・・ 団長室
団長は自室の金庫を開けた。
『これだ、これ』
『数年前に押収した、魔薬、これをあいつに飲ませれば、魔物化して、全てが灰になる。俺の事も出てこなくなるし、アイツはSランクパーティーに討伐される。今がチャンスだ』
・・・・ 領主屋敷
「バーレイ、また来たのか?例の件が解決でもしたのか?」
「いえ、それはまだ。ですが今日はですね。少しでもご気分を和らげて頂きたく、自警団の倉庫から逸品を探し出し持ってまいりました」
「何を持ってまいったと?」
「こちらのワインでございます」
「なんじゃそれは?」
「こちらは、遡る事256年前。酒造りスキルのランク金を持ち、世界の王族をうならせたというあの伝説のワイン職人、ケントスのワインでございます」
「なに?そのようなものが存在していたのか?」
「はい。このラベルをご覧ください」
「ほー、では、早速飲もうではないか」
「貴様も来い、一緒に飲むぞ」
「いえ、あの、私はこれから」
「何を言っておる、早く来い」
「あ、いえ」
『くっそ。飲んだふりだけしてりゃいいか』
領主は、ワイングラスを用意すると、給仕係にワインを注がせた。
「それでは、乾杯」
「はい、乾杯」
「さあ、飲め」
「そんな、領主様を差し置いて、先に飲む事などできませんよ」
「それじゃあ、一緒に飲むか」
ゴクゴク
「おー上手いな」
「なんじゃ、お前の方は飲んでおらんじゃないか」
「いえ、飲んでおりますよ」
「高級すぎて、ちびちびいかせて頂いております」
「さあ、領主様は、存分に」
「きみ、お注ぎして」
『なんで効かねえ』
「グ、グォ」
『き、きたか?』
「どうされました、ご領主?」
『従者の前だ。わざとらしくとも、介抱しているふりだけでも、やっておかないと』
ガガガァ
バンドレスの体が急激に変化してバーレイの腕を掴むとグイーーっと引き寄せた。
バーレイはそれを振り払おうとしたが、全く歯が立たずバンドレスに噛みつかれた。
ガブゥ
「ぎゃあああ」
バーレイは、バレンドスに首を嚙み千切られ、大量に出血している。
しかし、バンドレスは、まだ離さない。
バンドレスの目は黄色くなり、皮膚は鱗に変化し、その様子はさながらワイバーンの様であった。
「バ、バレンドス様」
従者は腰を抜かして、起き上がれずにいた。
ブチッ
バーレイの胴体と首が離れてしまった。
・・・・ 地下室
ゴゴゴゴ
「何か揺れてる」
「ちょっと、揺れてるわよ。なにこれ」
「キャー」
部屋に閉じ込められている人たちから声が聞こえてくる。
ドーン、ドーン
ガラガラガラ
「ぎゃおー」
「凄い声、なにこれ」
バレンドスの身体はまだ大きくなり、屋敷の天井に届いた。
バレンドスは、腕を振り上げると天井を壊し、壁を壊した。
そして、口から炎を吐き、屋敷を燃やした。
・・・・
「あ?何か出たよ」
「何かってなんだ?ゴロク」
「魔物。結構デカい」
「どこだ?」
「町の方だよ」
「なに?」
アダマントスが町に戻ると、領主屋敷が燃えているのが目に入った。
その炎の中に何か見えた。
「何かいるぞ」
「ドラゴンか?」
「おい、なんで領主のところにドラゴンがいるんだよ?」サンザが言った。
「いいから行くぞ」オーフィスが呆れながら言った。
レンゲが、風魔法で門を吹き飛ばすと、5人は屋敷へ入って行った。
ゴロクは、直ぐにドラゴンの鑑定を行った。
「これは、魔薬のドラゴンだ。大きいのは体だけで、ステータスは、レッサーワイバーンレベルだよ」
「なんだよ、驚かせやがって」
「じゃあ、俺がやるぞ」
そういうと、サンザが”竜切り”を披露した。
サンザは、レッサーワイバーンの右肩から剣を入れ、左足まで一気に切り裂いた。
ズバァン
レッサーワイバーンの身体が綺麗に割れた。
そしてオーフィスの水魔法で屋敷の火を消した。
「ゴロク、生存者はいないか」
「まって。。。燃えてる屋敷に生存者はいないよ。地下に誰かいる」
「なに?」
「9人いる」
「避難してるのか?」
「それは分からないけど」
「水が入ったから急がないとまずいね」
「みんなどけ」
「風属性第5階梯魔法 神旋風」
レンゲが風魔法を唱えると、屋敷を取り囲むように竜巻が発生し、屋敷全体を持ち上がり、瓦礫を別の場所に移した」
「ここだ地下の入り口があるぜ」サンザが発見した。
5人は地下へ入った。
「結構水が入り込んだな」オーフィスが歩きづらそうにしながら言った。
「おい扉だ」サンザが扉を見つけて叩いた。
ドンドンドン
「助けてー」
「生きてるな」
「扉を斬るから、扉から離れてろ」
「斬鉄」
ズバン、ズバン
ガラガラガラガシャンガシャン
「ああ、ありがとうございます。まだ何人かいます。お願いします」
「ああ、任せろって」
サンザが全ての扉を斬り、中から女性たちを救い出した。
その中にはレインもいた。
「あー助かったぁ。ありがとうございます」 レインが言った。
「ここの領主は、一体何をやってたんだ?」
「みんなに手枷までつけてよぉ」
サンザが興奮気に言った。
「さあ、皆さん上に行きましょう」レンゲが声をかけた。
自警団、ギルドメンバーなど、みんな集まってきていた。
そして、事件を見にきていた人の中に、数ヶ月或いは数年間行方不明になっていた人たちの家族の姿もあった。
みんな抱き合って喜んでいた。
しかし、レインだけは、一人だった。
「おい、お前は家族はいないのか?」サンザが聞いた。
「はい、僕はこの町の人間じゃないので」
「あれ?みんな女性なのに、お前だけ男なの?」
「はい、僕は多分目的が違って監禁されていました」
レインは、自分が監禁された理由をアダマントスに話をした。
「なるほど、そうすると、宿屋もグルの可能性があるな?」レンゲが鋭い目つきで言った。
「おーいみんな、こっち見てくれ」
ゴロクが呼んだ。
レインも、つられて行ってみた。
「ここに死体が二つある。一つは、魔薬で変化した奴と、自警団の制服を着たやつだ。首がちぎれてる」
「こっちは、ここの領主様です」 レインが説明した。
「そうか、この子の言う通り、こいつが領主だとすると、この自警団の奴が領主に魔薬を飲ませて被害にあったという線かもしれんな」オーフィスがさながら探偵の様な推理を披露した。
「国王に報告して、騎士団に自警団を洗ってもらう必要があるな」
レンゲは、被害にあった女性たちの近くにいくと、
「今は、自警団が信用できないから、ギルドで皆さんの話を聞きたい。女性の皆さん、ひと段落したら、ギルドに来てくれ」と言った。
「ところで、皆さんは、何なんですか?」 レインが聞いた。
「俺達は、Sランクパーティのアダマントスだ」 サンザが答えた。
「へー、Sランクですか、Sランクって強いんですよね?」
「まあな」
すると、ゴロクが不思議な顔をしてレインを見ていた。
君のスキルは、「遊ぶ」っていうのか?
ドキィ
「え?え?何を言っているんですか?」
「坊主、こいつはな、探索スキルを持っていてな、その能力の一つに鑑定眼ってのがあって、それでお前のスキルや能力が見えてるんだぜ」
「あんまりスキルの事言わないでよ。それと、この子は、坊主じゃなくて、女の子だよ。失礼だよサンザ」
「え?そうなの?ごめんごめん。髪型とかよ、男っぽくしてるから」
「。。。。」
「いえ、女の子の一人旅は危ないので、男の格好をして旅をしてます」
「なに?一人旅?そりゃお前、危なすぎるだろ。魔物もいるしよ、今回みたいに捕まっちまうし」
「二人、何を話してるの、行くよ?」
「あーイーシア、この子。。いや、この坊主が、一人旅をしてるって話を聞いていたとこだ」
「ふーん。私、この子見覚えがあるんだけど」
「どこで」
「思い出せない」
「お前な、俺達は森しか歩いてないんだから、子供なんて見るわけ。。。」とサンザは言いながら
「お前、もしかして、あの時の?」
と何かに気づいた様に言った。
「あの時?」 レインは瞬時には理解できなかった。
しかし、次の瞬間”あの時”がレインの頭にもパァとひらめいた。
「あ、魔力変わった」 ゴロクがレインの魔力が変わったことに気が付いた。
『もう、ダメだ。Sランクの人たちだったなんて。ここにカクが来たら絶対に捕まる。カクだけでも逃げてもらわないと』
レインは頭を抱えて、後ろを向いた。
「お前さ、あの時の鹿、どこいった?」サンザが聞いた。
「さあ、何のことでしょうか?」
「お前な、とぼけ方が下手すぎんだよ」
「俺達はお前の鹿を取って食うわけじゃねー」
「でも攻撃してきたじゃないですか」
「やっぱり」
『しまったぁ』
「ありゃ、アイツがやったことだ」そう言ってサンザはオーフィスに目線を向けた。そして
「アイツは単細胞で、直ぐに攻撃しようとする」
と付け加えた
「サンザ、聞こえたぞ。お前の悪口は、1万m先からでも聞こえるんだよ」
ゴゴゴゴ
手に炎を宿しながらオーフィスがサンザに向かって歩み寄ってきた。
「オーフィス。お前を負かした子だぞ」
「何のことだ?」
「・・・・こ、この子は、あの森にいた子ではないか」
「お、やっぱりお前が一番覚えていたな」
「おい、お前、あの矢をどうやって氷漬けにした」
「。。。。」
「答えたくなくばしかたないが。私の魔法を打ち破るとは、大したものだ。この大陸においてもそうはいないぞ。誇れ」
「変な奴だろ?」
「みんな、ここに集まって、何の話だ?」
「この坊主だが、見覚えないか?レンゲ?」
「いや全く」
「坊主、こいつがこのパーティのリーダーだ。これでも賢者なんだぜ」
「け、賢者って実在したんですか?」
「面白いことを言う子供だなぁ、はっはっは」
「森で白い鹿と一緒にいた子だ」
「はは、はぁ?なにぃ?」
「そうか、その話はまたゆっくりしよう。取り敢えず、君も一緒にギルドまで来てくれるかい?」
「分かりました。。。」
レインは、もう旅も、夢も、カクも全て終わったと思って、この世の終わりの様な絶望の中にいた。
『あー、東トロ村で殺されそうになった時より、今の方が絶望の度合が大きい気がする。夢が全て断ち切られたんだから、そう感じるんだろうな』
するとゴロクがやってきて、
「君さ、名前はなんていうのさ」
と聞いてきた。
「レインです」
「じゃあ、レイン。君、どうやって魔力を消してるんだい?」
「魔力を消す?」
「どういう事ですか?」
「あの森で会ったときだけど、君には魔力が無かったんだよ。今はちゃんとある。それもかなり大きいのがね」
「え?魔力って出したりひっこめたりできるんですか?」
『そういえば、カクはやってたな』
「君は無意識でやってるのか」
「じゃあ、僕達に森であったときは、隠れていたんだね?」
「そうですけど」
「なるほど、君のスキルは「遊ぶ」だよね?」
「レイン、かくれんぼのつもりで、サンザの後ろ隠れくれる」
「こうですか?」
「絶対に見つかりたくないと思って」
「はい」
「うわ、すごい。本当に消えた」
「おい、ゴロク、例の魔力が消えるってやつか?」
「ああ、やっぱりこの子の能力は凄いよ」
「レイン。君、大変な能力を授かってしまったね」
「何がどう大変なのか分からないです」
「後で話をしよう」ゴロクがいつになく真顔になっていた。
・・・・ ギルド
「それで、領主バレンドスが女性たちをさらい、自分が魔物になって、屋敷を壊し、それをあなた方が討伐したと。。。」
「そうだ。この女性達が全員被害者だ。俺たちは、この事を国王に報告しなくてはならない。バレンドス家は取り潰しになり、新たに国から領主が派遣されてくるだろう。それと、自警団だが、奴らも加担している。騎士団による取り調べも行われるだろう」
「ギルドは、特に何もなしでしょうか?」
「いや、そうとも行かない。自警団とギルドはお互いを監視し合う立場でもある。それを監視できていなかったという事で、相応の沙汰があるだろう」
「それとな、東の森のメタルは、ほとんど駆除したぞ」
「これが魔石だ」
「こ、こんなに?」
「なんだ、不満か?」
「いえ、お支払いできるお金がありません」
・・・・ 宿屋
「レインさん、お帰りなさい。何日も帰らないからどうしたのかと思いましたよ」
「ご主人、俺達は、Sランクパーティーのアダマントスという。この町で色々と調査をしていた。でだ、あんた、領主が女性を拉致していたのを知っていたな?」
「な、何のことでしょう。領主様がそんなことするはずないじゃないですか?」
「まあ、領主は死んだ。今後資料が出てくるだろう。お前も覚悟しておいた方がいいぞ」
「レイン、ここにはもう泊まる事は出来ない。荷物があれば、取ってくるんだ」
「いえ、全部マジックバックに入れてあったので、ここには何もないです。そのマジックバックも、領主の屋敷で燃えてしまったでしょうから、もう何も残ってないですよ」
「レ、レインさん、この木工細工を5万にしてもらったから、残りの5万をやっぱり持って行ってくださいよ。はい、これ」
そういって、マーガスはお金を差し出した。
一文無しのレインは、ありがたくそれを受け取った。
「レイン、この木工細工はお前が作ったレブルディアか」
「はい」
「なるほど、お前にはこんな才能もあるのか、色々と凄いな」
「店主、ちょっとダイナーを借りてもいいか?」
「はい、どうぞどうぞ」
・・・・
「おちゃです」 店主がお茶を持ってきた。
「すまんが、向こうへ行っていてくれ」
「それじゃあ、レイン、君のスキルについて、もう少し教えてくれるかい?」レンゲが聞いた。
「はい、私のスキルは先ほど言われた通り「遊ぶ」です。色々な遊びができます。例えば「水遊び」」
そういうと、レインは掌に水を出した。
それをコップに移した。
「火遊び」
そういうとレインは手の平に火を出した。
アダマントスの全員が、ゴクリと唾をのんだ。
「そして、「木遊び」はここではできませんが、先ほどの木工細工も、「木遊び」の応用です。それから蔓を伸ばしたりもできます」
「それから「土遊び」と「風遊び」もできます」
といって、掌で小さなつむじ風を起こした。
「それだけかい?」
「それと、恥ずかしいのでやりませんが、治癒もできます」
「なんで恥ずかしいんだ?」
「そして、かくれんぼなんだね?」
「それは自分ではよくわかりません」
「いや、僕は良くわかった」
「君が隠れた瞬間、魔力が無くなった。完全にだよ。こんなことは、ここにいる僕達だって誰もできない。恐らく、忍術スキルを持っている人であれば可能だろうけど。それは超レアスキルだ」
「そして、水、火、土、木、風属性に、さらに治癒」
「オーフィスの上をいっているよ」
「そして、まだあるんじゃねーか?」サンザが興奮気味に言った。
「例のレブルディアだよ。あれはテイムだろ?」
「そうだった。それがあったな」
「レイン、あのレブルディアはテイムなのか?」
レンゲが聞いた。
「はい」
「今どこにいるんだ?」
「たぶん森のどこかだと思います」
「呼べるか?」
「呼びません」
「すまん。聞き方が悪かった。呼ぼうと思えば、呼べるという事だな」
「レンゲ、この子は、僕達で保護した方が良いと思うんだけど」ゴロクが提案した。
「そうだな。これほどの能力をこのような子供が持っていると知れたら、どんな馬鹿どもが群がってくるか知れたものではない。ただ、レインにも選ぶ権利はある」
「レイン、どうだ?君がしっかりとした力を付けるまでの間だけでも、我々と一緒に来ないか?」
レンゲが優しい声でレインを誘った。
「え?私の事を、どこかの施設に預けるとかそういう事じゃないんですか?」
「君ほどの能力で無ければ、それも考えられただろうがね」
「あの、私は、親から殺されそうになって村から出てきて、必死に逃げてここまできました。自分の楽園を作りたいと思ってここまで来ました。私の唯一の友達はカクだけです。あっカクはレブルディアの名前です。カクは私の作った楽園で一緒に暮らしてくれると言っています」
一同レインの話を真剣に聞いた。
「もし、カクが良いと言ってくれればですけど、私が弱すぎるとカクにも心配をかけちゃうし、強くなれるのだったら、それまでの間、皆さんと一緒にいさせてもらっても良いかなぁと思えなくもないというか。。。悪い人たちでもなさそうだし。。。」
アダマントスのメンバーの顔がパァと明るくなった。
「そうか、よかった。じゃあ、今日は遅くなってきたし、俺達の宿に行って、休むとしよう」常に冷静なレンゲもレインに驚かされ続けて疲れていたが、レインが一緒に来てくれることに心から喜んだ。
・・・・ 翌朝 町の外
「レイン、レブルディアを呼んでくれるか?」
『カク、いる?』
『いるけど、その人たちは大丈夫?』
『うん、味方になってくれるみたい』
そして、カクが姿を現した。
「おー、これだ。あの時の白いレブルディア」
オーフィスは自分の技を破った魔物を見ると、改めて驚きと感動を覚えた。
「それにしても、レインだけでも超希少なのに、更に希少種の白いレブルディアとか、どういう組合せなんだ、いったい」サンザが驚き疲れたという様に言った。
「わたしは、力が弱いので、カクが助けてくれるんです」
「カク、俺達はアダマントスというパーティだ。よろしくな」
「それで、私が、レンゲ、こっちがサンザ、オーフィス、イーシア、ゴロクだ」
「凄いね。魔力を調整している。かなり賢い魔物だ」
「カクは、本当に賢いです。私とは念話で話をしますけど、色々な事を教えてくれます」
「魔物と念話って。初めて聞いたよ」
イーシアが羨ましいそうに言った。
「金テイマーの極一部に念話できる奴がいるとは聞いた事があるが、現存しているか分からんレベルだ」
「それが目の前にいるとは、昨日から驚かされっぱなしだ」
レンゲは驚き疲れていた。
「じゃあ、レイン、私達は、先ずこの国の王都へ行って、今回の件の報告を行う。それが終わったら、クエストの旅にでも出よう」
「あ、ちょっとまって下さい。カクの意見を聞いてみないと」
「あ、ああ、そうだったな。すまん。魔物に意見を聞くという感覚がなかったもので。。。」
『カク、私の勝手な事だけど、私、もっと強くなりたいの。この人達は、私やカクの知らない事も沢山知ってるみたい。しばらく一緒にいて、勉強しようと思ってる。カクはどう思う?危険だったりしない?』
『そうだね、この人達からは危険な魔力は感じないし、レインの事を思ってくれている様に感じられるよ。一緒にいてみ大丈夫じゃないかな』
『ありがとう。カク』
「あのう、カクは問題なさそうと思ってくれています」
「そうか、それは良かった」
「それでカクは、どうしたらいいですか?」
「レイン、僕がカクを鑑定したら、視覚偽装って能力があるのが見えた。もしかしたら、カクは見た目の姿を変えられるんじゃないかな」
「え?カクできるの?」 そういって、レインがカクの方を見た。
『わからない。自分にそんな能力があるとは、思ってもみなかった』
『普通の鹿の見た目になるとか、出来ないかな?』
『ちょっと試してみる』
「ちょっと試してみるって言ってます」
カクの毛の色が茶色になり、硬そうな鋭い角も金属の様な爪も、骨ばった体も、普通の鹿のような見た目になった。
「おー、スゲー普通の鹿の見た目になったぜ」
「カク、すごい、できたよ。これでいつも一緒にいられるよ」
「ゴロクさん、ありがとう」
ゴロクは照れくさそうに頭をかいた。
「ときにレイン、「遊ぶ」とは、魔法のスキルではないという事であるが、使っていくうちに強くなるのであれば、どんどん使っていくべきであろうと思うが?」
「俺達は、まだ威力までは見て無かったな」
「レインよ、この大魔導士であるオーフィスに、レインの最大威力を見せてもらえぬか?」
「最大といっても、魔力が切れちゃうので、ある程度大きいいという事であれば、やってみますけど。
「うむ」
「じゃあ「水遊び」」
そういうと、レインは、10m程度離れた空間に直系1mくらいの水の玉を作り出した。
「あれは動いたりするのか?」
「少しであれば」
ヒュンヒュン
「なるほど」
「火はどうだい」
「火遊び」
レインは5m程度離れた空間に直系1m程度の火の玉を作った。
ゴゴゴゴゴーーーー
「な、なるほど」
「木遊び」
10m程度離れた木の蔓が伸びている。また、木から木材を切り抜いた。
ボッコーン
「土遊び」
スポッ
10m程度離れた場所に直系2m深さ3m程度の穴が開いた。
「風遊び」
ヒューーーー
目の前で高さ1m程のつむじ風が出来ていた。
「こんな感じです」
「だいたい分かった。9歳でこれだけできるとは、将来が恐ろしいな。私ぐらいの年齢になるころには、どうなっているのか想像がつかない」
「ただ、今の課題は、出現させた対象を動かすことや、形を変えることだな。その辺は魔法と同じかもしれないな。では早速修行だ」
「え?修行?ですか。。。」
「強くなりたいと言っていたではないか。歩きながらでもできるぞ」
「ちょいまち、強くなるなら、剣術も必要だ。レインは、剣術もやらなくちゃならねえ」
「なにを言っている。レインは私の弟子だ」
「おい、お前勝手に何を言っている、レインは俺の弟子だ」
ギャーギャー
「はぁ、わかりました。両方教えてください」
こうしてレインは、魔法と剣術の2人の師匠を持つことになった。
王都まで馬車であれば3日程度の距離であったが、アダマントスは歩きで向かっており、1週間くらいかかってしまった。
その間、午前中は魔法、午後は剣術という修行を行っていた。
イーシアは、カクをいたく気に入った様子であり、しょっちゅう撫でていた。
カクも嫌がっている感じではないし、まあヨシという事にした。
剣術の方は、剣が重たすぎて、ほぼ筋トレという感じで、全く成長しなかったが、オーフィスの教えについては、かなり役立つことがあった。レインのスキルは魔法では無いものの、使用している感覚は共通のものがあり、この一週間で色々とマスターする事ができた。
レインは自分の能力を隠す必要がなくなり、今までのストレスがウソの様であった。
いよいよ、王都が近づいてきたとき、レインは、自分が不法入国者であることを思い出した。
「あの、すみません。重要な事を思い出しました」
「なんだいレイン」
「私、国境を超える際に森から入ってしまったらしく、入国手続きを行っていないんです」
「なんだ、そんな事か」サンザが呆れた様に言った。
「そんな事?」
「そんなのは俺達だって、魔物を追ったりしてればしょっちゅうだ」
「そうだったんですか?だからできるだけ町を避けて、仕方なく入るときは穴を探して入っていたんです」
「はははは、バカだなぁ」
「だって知らなかったんだもん」
「まあまあ、証明書があれば、それを見せて、理由を説明すれば大丈夫だ」
「はい、レンゲさん」
・・・・ 王都大門
「えーと、アダマントスの皆さんね。問題無しと。で一人子供ですかい?それと鹿が一匹」
「ああ、途中から一緒に王都に来ることになってね」
「そうですかい、じゃあ、坊主の証明書を見せてくれるかい」
「これです」
「レイン君だね、えーとグリス国のラクトベで発行されてるのか、10歳と。ずいぶん長旅をしてきたねぇ」
「。。。。」
「あのぉ」
レンゲが、何も言わなくていい、という素振りをしたので、レインは黙った。
「はい、いいよ。これで大丈夫だ」
レインは、王都に足を踏み入れた。
「うわー凄いですね」
「王都は初めてか?」
「はい、サンザさん」
『この大陸ではですけど。。。どうせ言っても信用されると思えないし』
『この人たちなら大丈夫かもよ、レイン』
『カクはそう思うのか。。。だったら話をしてみようかな』
「レイン、ここが宿だ。先に休んでいても良いぞ」
「レンゲさんは、どこかに行くんですか?」
「私とオーフィスは、城へ行ってバレンドスの件を報告してくるつもりだ」
「分かりました。私は他の皆さんと宿で待っています」
「凄い部屋、ここを一人で使っていいんだって。これだけ広ければ、カクと一緒にいられるよ。良かった」
レインは、日ごろの疲れもあり、ベットに横になると寝てしまった。
トントン
「レイン、飯に行くが、一緒に行くか?寝てるか?」
サンザが扉越しに話をしてきた。
「あ、今行きます」
レインはは寝ぼけて眼で扉を開けると、サンザについて行った。
夕食は、アダマントス行きつけの居酒屋に行くことになった。
アダマントスが行くと、奥の個室が用意されていた。
居酒屋では、見た目通り、サンザは良く飲み良くしゃべる。
意外だったのは、イーシア。
サンザと同じくらい飲んで、同じくらいしゃべっている。
普段しゃべらない分、飲むと饒舌になるらしい。
やっぱりカクの事が相当気に入っている様であり、ずっとカクの話ばかりしている。
「それでだな、バレンドスの件だが、自警団が相当暗躍していたようだ。国としても、今後各地域の自警団に対する規制を強化する事になるらしいぞ」
「まあそりゃそうだろな、魔薬なんか使いやがって」
「それでだな、俺達にも、それを手伝って欲しいと依頼がきた」
「冒険者がやる事じゃねーと思うが?」
「サンザの言うのももっともだ。だがな、今のところ、やる事が無いんだよ、実際は」
「じゃあ、しょうがねーな。魔物も大したのが出てこないしな」
「そこでだ、レイン、君は冒険者登録をしているかい?」
「いえ、商業ギルドでの登録はしていますけど、冒険者での登録はしていません。スキルを知られたくなかったので」
「なるほど、確かに、今まではそれが正解だったな。だが、我々と一緒にいるのだから、もう大丈夫だろう?そうすれば報酬も分けられるぞ」
「。。。皆さんにお話があるのですが、私の出身に関する事です」
「そうか、話してくれるか」
「はい、信じて頂けるか分かりませんが、私の生まれは、アメリオ大陸のエスタリオ国という場所です」
「な、なんと」
「ぎょえ」
「グリスではないとは思っていたが、まさか大陸が異なっているとは」
「それで、どうやってここまで来たんだ?」
「それなんですが、私は、国内を逃げ回って暮らしていました。そしてカクに出会ったんですが、逃げるときにある洞窟に入りました。その洞窟は、壁が赤い粘土や黄色い粘土で出来ていて、私は一度それを素材として、人形を作ったことがありました。しかし、その時は、洞窟に入ると、入口が閉ざされてしまったんです。それで仕方なく、洞窟を歩いた先が、グリス国ラクトベだったんです。そして洞窟を抜けると、直ぐに洞窟は閉じ、帰れなくなりました」
「ちょっとレインちゃん。あんた不思議すぎ。面白ーい」イーシアが酔っ払っている。
「そうなんです。私には不思議な事ばかり起きるんです。自分でも頭がおかしいんじゃ無いかと思うほどです」
「いや、君の能力やカクを見てれば、今後も君の身にどんな不思議な事が起きてもおかしくないだろう」
「だが少なくとも我々といる間は、君に危険は無いよ。安心してくれ」
「しかしレンゲよ、レインは、いつまでも守られてる弱い女の子ではないぞ」
「そうだな、この1週間でも成長が著しい。既にBランク冒険者のレベルには到達しているだろう」
「剣はまだまだだな」
「それなんだけど、レインには短剣の方が合ってるんじゃない?」
「あのなゴロク、剣は長剣じゃなきゃダメ」
「剣しか使えない場合はそうだけど、レインの魔力を消す能力は、暗殺系だし、そうすると短剣の相性がいいよ」
「ゴロク、お前はレインを暗殺者にするつもりか。こんな可愛いい暗殺者がいる訳ねーだろ」
「そうだね。僕は殺されても良いかも」
「キモ、ゴロク、キモ」
「まあ、本人次第だ。明日にでも冒険者登録してみるか?」
「はい、レンゲさん、してみます」
・・・・ コーモランド国王都ギルド
「これは、アダマントスの皆さん、今日はいかがされましたか?」
「冒険者登録だ」
「え?何の冗談ですか?」
「いや登録はこの子だ」
「お願いします」
「子供じゃないですか、しかも女の子?ですよね?」
「君ねぇ、俺たちが一緒に来てるんだぜ。意味わかる?」サンザが偉そうに言った。
「え?あ、はい」
「すみません。それでは登録しますね」
・・・・
レインの冒険者登録が完了した。
【冒険者名】レイン
【ランク】E
【スキル】遊ぶ R−
【出身】コーモランド国 王都
【登録時年齢】9歳
【性別】 女
【登録日】 ユーレックス大陸歴1845年3月12日
【登録パーティ】アダマントス
「どうだ、冒険者カードを取得した気分は?」
「男のふりをしなくて良くなったのは、楽ですね」
「ただ、スキルランク無し、と言うのがやはり気になりますけど」
「まあな、そんなやつ見た事ないしな」
「だけど、これで冒険者仲間だよ」
「ゴロクさん、ありがとうございます」
「いやぁ」
「お前、なに赤くなってんだよ」
王都では、アダマントスに子供が加入したという噂が急速に広がっていた。
大陸5指のアダマントス程のパーティに加入できる子供とはどのような能力を有しているのか?
色々な憶測が広がった。
そして、その話は残りの4パーティーにも伝わった。
・・・・
ある日、アダマントスは、コーモランド国務院から3か所の町村の自警団の監査を依頼された。
その3か所の町村は、王都から南方に位置していて、かなり王都から離れており、王都の監視が行き届いていない場所であった。
一番遠いところから、南ローバー村、ローバー町、東ローバー町である。
北と、西は、王都から派遣された領主であったため、監査対象外であった。
この3か所は、500年ほど前からローバー家が統治しており、国内で最も腐敗が進んでいる地域の一つと言われている。
アダマントス一行は、今回は馬車に乗って移動した。
馬車の操縦は基本的にはサンザとゴロクが交代で行った。
カクは馬車に乗るのを嫌がったので、後ろからついてくる事になった。
「そういえば、カクの能力をまだ見たことなかったが、どのようなものがあるのだ?」 オーフィスが尋ねてきた。
「私も全ては知りませんが、戦闘になると、ものすごい速さで動きます。そして角の色が変わって、その角で刺しますね。刺された物は、燃えるか溶けるかします」
「恐ろしい。僕は直ぐにやられるね」
「まあ、私のイクイティフィールドから逃げたくらいだからな」
「イクイティフィールド?」
「そうだ。対象の動きを1/10にする魔法だ」
「あーそれであの時遅くなったんですね」
「ん?やはり遅くはなったのか?」
「はい、ですが、その時首につけている装飾が赤く光って、普通に動けるようになったんです。それで飛んでくる矢を凍らせることが出来ました」
「なるほど、そういう事であったか」
「だが、カクの首につけている装飾か。。。。」
「その装飾とは一体何なのだ?」
「これも不思議な話なのですが。。。」
「また、不思議話ね。聞きたいわ」イーシアが興味を持った様であった。
「森で皆さんに会う少し前に、カクが不思議な魔力を感じるというので、そっちへ向かっていると、岩で埋め尽くされた洞窟を見つけたんです。岩の一部だけ開いていたので、それで洞窟だと分かりました。その岩の一部をカクの角で溶かして、中に入りました。中は人工的で、きれいな壁、床、天井だったんです。それを100mくらい進んで、その先は白い壁で、結局何もなかったんですよ。ただ帰ろうとして出口に歩いているときに、カクにその装飾と、私にこの指輪がくっ付いていたのに気が付いたんです」
「えー面白―い。ぞくぞくしてきた。その話、不思議過ぎるぅ」イーシアが興奮していた。
「これが、その指輪か。。。」
「これは女神の紋章ではないか?」オーフィスがレインの手を取って指輪を眺めながら言った。
「アクセサリー屋の人にも言われました。でも女神の加護グッズはそこらじゅうにありますもんね」
「レイン、それとこれを一緒にしてはダメじゃないだろうか?」
「そうですかね?」
「次の町の教会に寄って、どの女神か、確認しよう」レンゲが提案してくれた。
・・・・ その日の夕方、一行は、レミントルン町に到着した。
レミントルンは、王都から近い町であり、また、領主も王都から派遣されている事から、統治には問題はなかった。
一行は宿をとり、冒険者の集まる飯屋へ行くと、周りからの視線が凄かった。
レミントルンにも、アダマントスに子供が加入したという噂が広がっていた。
カツカツカツカツと靴音を鳴らして一人の男が近づいてきた。
「レンゲさん、久しぶりです」
「おー、リキアス、久しぶりだな」
「どういうことですか?」
「何だ突然に?」
「アダマントスに子供が加入したという噂を聞いて、俺はまさかと思っていましたが。。。。本当だったんですね?」
「ああ、レインだ。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします」レインは頭を下げて挨拶をした。
「。。。。いや、レンゲさん、俺や他の奴らもですが、アダマントスは憧れなんですよ、それが、こんな子供がはいるとか、どういう事ですか?」
「おいおい、リキアス、それ以上いうと、俺達全員を相手にすることになるぜ」サンザが言った。
「レインは、僕達みんなが認めた。だから仲間になった」
「ゴロクの言う通りだな」オーフィスも同意した。
「イーシア、闇魔法はここではやめておけ」レンゲは、イーシアが呪文を唱えるのを制した。
「そ、そんなに強いなら、俺と勝負しろ、お前」
「リキアス、大人げないぞ」
「しかし。。。。」
「この子の能力は、現時点では特段戦闘に特化しているわけではない。かといって、お前に劣るわけでもない」
「お前は、自力でSランク冒険者にもなれる素養は持っている。それで俺達をも超えるパーティを作れ」
「くっ」
「いいか、お前、アダマントスに入るという事が、どれほどの事なのか、ちゃんと理解しておけよ」
「レイン、気にするな。お前はお前だ」
「そうだぜ、レイン。俺がお前に剣術を教えるから、そのうちリキアスをぶった切らせてやる」
「。。。」
翌日、レミントルンを出た一行は、再び南を目指した。
一行は、森の道へ入った。
レインは倒木を見つけると、材木を取り出し、木工細工を作り始めた。
「これをやっていると、能力の向上につながるんです」
「そうだな、精度が要求される魔法には、そのような訓練はうってつけだ。恐らくレインは「木遊び」が一番得意ではないのか?」オーフィスが聞いた。
「どうでしょう、一番使っているのは、「水遊び」なんですよ」
「ほう、それはどのようなときに?」
「魚を獲るときです。私、魚を獲って生計を立てていた時もありました。あと野草や木の実も取ってましたね」
「どうやって魚を?」
「川に行ったら、岩で堰を作るんです。そこに溜まった魚を「水遊び」で作った水の玉で囲って取り出す、というやり方でした」
「なるほど、それを魔法でやると思うと、なかなか高度な技術が必要になるな。魔法であれば、水の塊をできるだけ高速で飛ばすという事になるが、水の玉に魚を閉じ込めて、それを維持するというのは、なかなかできる事ではないな。そのあたりが、遊びスキルと魔法の違いかもしれん」
「そうですね。水玉や火の玉を飛ばすことはできるようになってきましたが、やっぱり、難しいです。私には、移動させるとかの方が楽です」
「そのようだな。しかし、課題があるというのは良い事だ」
数時間後、出来上がった作品は、ブラッディベアであった。
またその出来栄えが素晴らしかった。
「レイン、このブラッディベアは片目だな」サンザが聞いた。
「はい、私がこのブラッディベアに襲われたときに、カクの友達のレブルディアが助けてくれたんです」
「そのレブルディアは私が以前治癒した事のあるレブルディアでした」
「魔物を治癒したのか?」
「はい、その時まで私に治癒能力があるとは知りませんでしたが、カクが教えてくれたんです」
「なに?という事は、カクには鑑定の能力があるとうことか?」
「たぶんそうかもしれません。ですが、視覚偽装を持っていることは自分では気が付いてなかったので、どういうことなのか?とおもいますけど」
「そうだな、自分のステータスは、ギルドで確認するか、鑑定の能力を持っている者に確認してもらうかしか方法がないからな。その点カクも同じなのかもしれない」
「そういば、ゴロクは、カクのステータスを見たのか?」サンザが聞いた。
「みたよ」
「それで、どうだったんだ?」
「ほぼドラゴンだね」
「高レベルの魔法耐性、物理耐性、状態異常耐性があるよ。もしかしたらその首輪のおかげもあるかも知れないけどね。似たよう耐性がレインにもあるし。それと、攻撃面では、見たことのない能力だったね」
「例えば?」
「ゴッデスピアス、ゴッデスブレス、ゴッデスムーブの3つ。まだ若い事を考えると、増える可能性もあるね」
「ゴッデスピアスは、岩を溶かした角の話だな、恐らく」
「可愛い」
「敵に回したら恐ろしいってことは分かったぜ。そのうち手合わせして欲しいなぁ」
「それはいい考えかもしれん。お互いに能力向上が図れるかもしれんな」レンゲが喜んで言った。
「まあまあ、カクが協力してくれればだが」
「あのぉ、カクも乗り気です」
「はははは。それはありがたい」
「それでもう一つ、レインの似たような耐性とはなんだ?」レンゲが聞いた。
「それが面白いんだけど、耐性として無病息災って出てるんだよ」
「どういう意味だ?」
「分からないけど、たぶん怪我や病気にはならないってことじゃないかな?」
「そりゃ、健康ってことだな。いい事じゃねーか」
「まあ、そうなんだけど、耐性としてだからね」
「レイン、ちょっといいかい?」
そういって、ゴロクはレインにデコピンをした。
ピト
「痛いかい?」
「ええ、少し」
「じゃあ、これは」
バチィ
レインの頭が大きくのけぞった。
「おい!ゴロク」サンザが怒って言った。
「痛いかい?」
「少し」
「たぶん、レインには相当な攻撃じゃないと効かない可能性があるよ」
レインは町で購入した短剣を使って、自分の左手の人差し指に傷をつけてみようとした。
しかし、いくらやっても傷がつかない。
「そういうことだね」
「それは、凄いな」
「ただ、今みたいに、強力な攻撃に自分の身体を支える事は出来てないから、やっぱり鍛えることは必要だよ。レインは怪我もしない、多分疲れることもないから、練習し放題だよ」
「ご、ゴロクさん、それは鬼です。私だって疲れますよ」
「ごめんごめん。早く強くなって欲しくて」
「よし、いい草原にでたな。カクとの手合わせをしてみるか」レンゲが言った。
「先ずは、提案者の俺から行かせてもらうぜ、カク覚悟しろ」
「カクもやる気です」
「じゃあ、お互い練習だからな、怪我のないように」
「それじゃ、はじめ」
「じゃあ、早速竜切りで行くぜ、あのレッサーワイバーンをやったときぐれーの力なら問題ねーよな」
うぉりゃー
「竜切りぃーーーーーーーー」
ズガン
カクは竜切りを角で受け止めた。
「やるな、カク」
カクは、剣を角で叩き落そうとするが、サンザの力が強くそこまでできない。
サンザは角に絡まった剣のままカクを持ち上げて、投げ飛ばした。
カクは、ひらりと回転し、何事も無かったかのようにサンザに突進する。
カクは、瞬間移動のように急にサンザの横に現れると、角を突き立て、サンザを吹き飛ばした。
サンザは吹き飛ばされる一瞬前に剣で角の威力を抑えたので、大きくは飛ばされなかった。
しかしそれを見越してカクが更に高速移動してサンザに角を突き立て、サンザの左腹に突きささった。
「ぐふ」
「サンザさん、ごめんなさい。大丈夫ですか。直ぐに治癒します」
「痛いの痛いの飛んでいけー」
するとサンザの傷口が閉じ、出血が止まった。
「なんだよ今の。ははははっははは」サンザは刺されて痛いはずだが、大笑いして痛みを忘れてしまった。
「今のは、呪文か?掛け声か?まあ、それは別にしても、治癒能力も凄いな」オーフィスが驚いていた。
「そこまで早く治癒できるのは、私の様な賢者クラスだ。今の様な傷は、普通の治癒術者の場合、数分は要するだろう」
「しかし、サンザを翻弄するとは、カクの強さは正にドラゴン並みだな」
「ああ、俺も凄い練習相手が出来て良かったぜ。カクの動きについて行ければ、きっと一人でドラゴンを倒せる日も来るかもしれないな。カク引き続きよろしく頼むが、今はちょっと休憩」
「では次は私の番だ」
「カクよ、私は防御魔法を出すので、カクの角で攻撃をしてくれ」
「第5階梯魔法 グランドシールド」
カクの角が赤くなり、カクがシールドに向け突進する。
ゴーン
カクがはじき返された。
するとカクは、角を青くした。
「なに、この魔力。今までと全然違うよ」ゴロクが感じた魔力は単なる魔物の魔力とは全く異なるものであった。
「私にもわかる」
カクが再びシールドに向かって突進した。
ガキン
という音がすると、シールドに穴が開いた。
「なにぃ」
すると穴が溶けるように徐々に広がり、カクが通れるほどの大きさの穴が開いてしまった。
「なんという事だ。ドラゴンのブレスにも耐えられるグランドシールドだぞ」
「その青い角は、一体なんなのだ」
「カクは、だいぶ満足したみたいです」
「そ、そうか、それは良かった。が、私はまた屈辱だ」
「第6階梯魔法が必要だな」
「そんなのあるのか?」
「文献には載っている。しかし、神話の様な話であってな、そもそも今までは必要とされるとは考えていなかった」
「だが、カクの様な強さを持つ魔物が、もし他にも本当にいるとすれば、自分のレベルを上げる必要があろう」
「カクのおかげで、パーティのレベル上げが出来そうだ。ありがとうカク」
「カクが異常に喜んでます」
カクが跳ね回って喜んでいた。
「じゃあ、ちょっとカク、私もやってみたい」
「なにぃ、イーシアが自分から動いたぁ」
「これは面白いな」
「レンゲさん、大丈夫なんでしょうか?闇魔法なんて見たことないですが」
「まあ、大丈夫だろう。それにイーシアから言い出すなんて、はじめてじゃないだろうか」
「いいかしら、カク」
カクはちらっとレインをみると、レインが頷いた。
「闇魔法第5階梯魔法 死霊軍」
「し、しりょうぐん?」
ヌチャ、メチャ、グチャ
地面から、ガイコツが現れた。
「キャーな、な、なんですかあれぇ」
レインがゴロクの後ろに隠れた。
ゴロクは喜んでいる。
ガイコツは、鎧を装着し剣を持っていた。
50体はいるだろう。
一斉にカクを攻撃しだした。
カクは飛び上がると、ガイコツの集団から脱出し、角でガイコツをつつき、倒し始めた。
倒すと、硬い脚の爪で粉々にした。
すると、魔物の死霊が出てきた。
サーベルウルフの様であった。
カクに嚙みついてくるが、物理耐性のあるカクには殆ど効果がない。
「闇魔法第4階梯魔法 デスファイア」
地面から黒い炎が現れ、カクを焼き始めた。
カクは逃げるが、火は追いかけてくる。
これは術者を倒すまで止まらない炎であった。
カクはイーシアの傍まで瞬間移動の様な速さで移動してくると、イーシアをペロリと一舐めした。
「だめ、強すぎるし、可愛すぎる」
こうして、初めての手合わせが終わった。
「どうやら、今の我々では、カクを攻略できないようだな。まいったよ」レンゲが諦めた様に言った。
「ああ、レインとカクのコンビだけでも、大陸で最強のパーティかもしれないな」
「最強のEランクパーティか、悪くないんじゃねーか」
「カクは別にしても、私はまだ弱いです。もっと強くならないと。カクに守られているばかりではどうしようもないですので、まだ皆さんといさせてください」
「はは、当然だ。まだ始まったばかりだ」
その後、サンザは暇があれば、カクと手合わせを行っていた。
色々な方向から襲ってくるカクの角は、格好の練習になるらしかった。
オーフィスも第6階梯魔法を目指して、「遊ぶ」スキルから何かを得ようとしているようだった。
レインはレインで、「遊ぶ」スキルでも攻撃魔法の様な使い方が出来ないか、日夜研究していた。
・・・・ そして旅を開始して一週間がたち、一行は北ローバー町に到着した。
町に到着すると、早速領主の屋敷へ向かった。
屋敷では、門番に国王の依頼書を見せると、滞りなく門を通過して、屋敷に入る事が出来た。
「領主の、アルバート・ソロス様ですね?我々は国王様命により派遣されてきました、冒険者パーティのアダマントスと言います」
「あなた方がアダマントスですか。お噂はかねがね伺っております。さあ、立ち話でなく、中へお入りください」
レインにとっては、こんな領主は見たことがなく、新鮮に映った。
レインの知っている領主と言えば、人々を虫のように扱う人間であり、忌むべき対象であった。
しかし、ソロスにとって領主は職業であり、任務であるという認識で動いていた。
「バレンドス領主の話は聞いています。自警団と共謀して、町を蹂躙していたと。とんでもないやつです。しかし、私が国へ報告した通り、それと似たことがローバーでも起きています。ローバー家の力はこの地域では絶大であり、この領地の地位では太刀打ちできません。皆さんの様な方に来ていただけて大変心強いです」
ソロスの報告の内容によれば、ローバーが所有する鉱山において、強制労働疑惑があるとの事であった。
この強制労働には、騙されて借金漬けにされた者や誘拐されてきた子供などが含まれている。その犯罪の多くに、自警団の共謀が無ければ成立し得ないものばかりであった。しかし、確実な証拠がなく、摘発を行えない状況であった。
アダマントスの使命は、この証拠を集める事。そして、それを元に事件団の摘発、ローバー家の
鉱山採掘場は、東ローバーから南ローバー一体に数多く分布している。
それらの管理は、最終的にローバー町の領主直轄組織で行われていた。
そして、その警備に自警団が関わっている。
アダマントスの作戦としては、先ず、冒険者の姿から村人の姿に化け、ローバー町に入り込み、レンゲ、サンザ、オーフィス、ゴロクが鉱山に潜り込む事であった。
4人は、北ローバーのギルドで偽の冒険者証明を発行し、各自携帯した。
イーシアとレインは、北ローバーから来た冒険者姉妹という設定で、ローバー町中での情報収集を行うとした。
レンゲとオーフィスはローバー町ギルドに行き、鉱山での仕事がないか確認すると、正式な募集があった。レンゲとオーフィスは、それに応募し、正式ルートで鉱山へ行くことになった。
サンザとゴロクは、賭博場に行くと、わざと負け、借金を返せないというふりをして、強制労働させられるか試すこととした。
1か月後に、北ローバーの宿に集合という事にして、自力で帰ってこられるれないメンバーがいる場合は、あきらめるという事になった。
まあ、このメンバーで帰ってこられない人がいるとは思えないし、実際は見捨てるとも思えない。
「てめー、これだけ借金して、払えませんとは、どういうことだ?」
「ねーものは、ねー」
「じゃあ、てめーの身体で払ってもらうぜ」
「なんだそりゃ?」
「ふんじばれ」
サンザは簀巻きにされ、目隠しされると、東ローバーの鉱山に運ばれた。
3日ほど経つと、サンザは馬車から出された。
ゴロクも、同じような経緯で、南ローバー渓谷の鉱山に運ばれた。
レンゲは、東、オーフィスは、南を選択し、4人が夫々別々の場所に派遣された。
一方、イーシア、レイン、カクのメンバーは、ローバー町を散歩しながら、食べ歩きをしていた。
「イーシアさん、これなんですか?」
「これはね、マース焼きっていって、小麦の生地の中に、甘く煮た豆を潰していれて、表面を焼くの。おいしいよ」
「へー、マース焼きですか、形がマースに似てるって事ですか?」
「そうね。形だけね。中身は全く違う」
「すみません。このマース焼きをください」
「いらっしゃい。豆の方?クリームの方?」
「選べるんですか?」
「2つの味を楽しめる、ハーフハーフもあるぞ」
「じゃあ、ハーフハーフで」
レインは、5ギルを支払い2つ買って、一つをイーシアに渡した。
「レインありがとう。私お金持ってなかった」
「大丈夫です。私持ってますから」
「それと、一か月近くあれば、木工細工も作って売れば、ある程度お金もできると思いますので、大丈夫ですよ」
レインはそう言うと商業ギルドへ行き、北ローバーの偽冒険者登録証を使って、商業登録を行い、露店を開くことにした。
ここまでの旅の途中で作成した商品を売る良い機会であった。更に町の人たちとの交流から情報を仕入れられるチャンスも広がる。
ただ、露店のスペースが少なく、マーケットの隅っこに追いやられた。
隣は、八百屋でスペースが大きい。
レインは、マーケットの雑貨店で仕入れた布を地面に敷き、台を置き、その上に紫色の布を敷き、木工細工を乗せた。
そして、カクには、道端に出てもらっておくようにした。
すると、カクが目立つので、子供達や、婦人方が立ち止まるようになった。
「この人形可愛い」
子供たちに受けが良い。
「これは、魔物よ、可愛くないでしょ」と母親が言う。
「でも、可愛いよぉ」
「そお?。。。まあ、よく見ると可愛げはありそうねぇ」
と、その横から
「こ、これは。。。レブルディアじゃないですか?」
「ご存じなんですか?」
「いや、本物は見たことないですが、文献では。。。」
「しかし精巧に出来ている。実物を見たことはあるので?」
「隠れながら」
「そうですか、よくぞご無事で。しかしこれは素晴らしい」
「いや、私は、魔物を研究している者なのですが、是非ともこの木工細工を購入させて頂きたい」
「はい、どうぞ」
「で、おいくらですか?」
「お客さんは、お金持ちそうなので、5万で如何ですか?」
「お金持ちそうなので5万ですか?では、そうでない場合は、金額が変わるのですか?」
「そういう事もあります」
「なるほど、私は10万と言われても買おうかと思っておりましたので、5万なら即買いますよ。じゃあ、はい5万ね」
「お買い上げ、ありがとうございます」
「お母さん、あれ5万だって」
「だから、買えるわけないだろ」
「ああ、待ってください。こういうのもありますよ」
レインは、ゴブリンと、スライムを取り出した。
「うわぁ、これも可愛い」
「これなら、お安くしますけど」
「おいくら?」
「お出しいただけるだけで結構です」
「いま100しか持ってないんだけど」
「それで結構ですよ」
「じゃあ、こっちにする」
そういって、子供はスライムの方を持っていった。母親はレインにお辞儀すると雑踏に消えていった。
「喜んでくれてよかった」
「きみ、きみ」
「はい」
「今のはどう見ても5000はするのではないですか、100とはどういうことでしょうか?」
「私の元手はそんなにかかってないので、喜んでもらえればそれでいいです。ただ、お金を持っている人から頂きます」
「では私が貧乏な格好をしてきたらどうしますか?」
「私にはわかっちゃいますから」
「鑑定能力でもあるので?」
「勘です」
「なるほど、面白い子供さんだ」
「じゃあ、また来ますよ」
「レイン、こんな調子で情報集まるのぉ?」
「まだまだ、これからですよ」
・・・・
「今日の売り上げは、63100になりました」
「1日の売り上げとしては凄いね。驚きだよ」
「そうですね。明日は午前中は木工づくりを行って、午後からまた販売します。それでマジックバックを買いたいです」
レインは、午前中木工づくり、午後販売を繰り返し、5日目にして、マジックバックを購入する事ができた。
金額は前回と同様であったが、容量は前回よりも少し大きめ2mx2mx3mとなった。
「レイン、商売センスが凄い。これで食べていけるでしょ?」
「元々は、木工細工と、魚を獲って暮らしてましたんで」
「冒険者より、こっちが儲かりそうね」
イーシアさんも何か作ってみます?
「私がやると、スケルトンになると思う」
「そういうアクセサリーもありますよね」
「そうなの?見てみたい」
「アメリオ大陸のエスタリオ国に行けばありますよ」
「遠すぎるよ」
・・・・ 14日目
「お嬢さん方、だいぶ派手に儲けているみたいでね」どこから見てもモブそうなチンピラがやってきた。
『来た来た』
「いえいえ。それほどではありません。買ってくれる方がいるので、売っているだけです」
「ほお、ちょっと顔を貸してもらえるかな?」
「いやです」
「クソガキが、生意気言ってるんじゃねー」
「自警団、助けてくださーい」
「バカか、自警団が来るわけねーだろ」
『周りも、誰も助ける気は無さそうだね』
『一旦このまま連れていかれるので、カクはイーシアさんをお願いね。何かあったら念話で伝えるから』
『わかったよ』
「イーシアさん、私は大丈夫だから、カクと待っていて」
「ああ、心配はしてないよ。宿で待ってるからね」
こうしてレインはチンピラに連行されていった。
チンピラの事務所
「おい、ガキ、お前、あそこで商売やっているが、俺達の許可なく大儲けしちゃダメだろがよ」
「商業ギルドの登録を済ませて、問題なくやってますけど」
「商業ギルドなんて、どうでもいいんだよ。俺達の方が大事なの」
「商業ギルドは、国から運営を任されているんですよ。あなた達はそれ以上の権限があるということですか」
「ガキが生意気言ってんじゃねー」
「分かりました。お金を払います。いくら払えばいいですか?」
「わかりゃいいんだ、わかりゃ」
「売り上げの半分な」
「え?そんなに?」
「なんだ、文句あるのか?」
「分かりました」
「じゃあ、明日、お前の店に取りに行くからちゃんと用意しとけよ」
「はい」
レインは解放された。
・・・・ 宿屋
「お、レイン帰ってきたね。どうだった?」
「事務所の場所が分かりました」
「まだ自警団とのつながりは分かってませんが、あそこを調べれば何か出てくるかもしれません」
・・・・ 15日目
奴らがやってきた。
「おい、来たぜ。用意したか」
「はい、これです」
「ひい、ふう、みい、よ。。。」
「ずいぶんすくねーな」
「今日は皆さん買って頂けてなくて」
「もっとしっかりやれよ。じゃねーと、そっちのねーちゃんが体で払う事になるぜ」
ゴゴゴゴゴゴ
「イーシアさん、ちょっとダメですよ」 イーシアが今にも死霊軍を全展開しそうな勢いであった。
チンピラが去っていくと、
「お前等も、嫌な連中に目を付けられたね」 と隣の八百屋のおばさんが話しかけてきた。
「でも、皆さんも払ってるんですよね?」
「我々は昔からやってるから、それほど多くは払ってないよ」
「商業ギルドや、自警団は、助けてくれないんでしょうか?」
「みんなグルだからね」
「そうなんですか?」
「この町ではみんな知ってることだよ」
「それを国に訴えるとかしないんですか?」
「できるわけないよ。そんなのがバレたら、ここにいられなくなるよ」
「そうですか。。。何か証拠でもあればいいんですけどね」
「証言ならいくらでもあると思うけど、証拠となるとねぇ。裏でつながってるだけだし」
「ちょっと私、商業ギルドに行ってきます」
「ちょっと、あんた、やめときなよ、危険すぎる」
「大丈夫です」
「こんにちは」
「はい、あーあなた、最近あなたの木工細工は評判ね」
「ありがとうございます。それで相談なんですが」
・・・・
「そう、そんな事があったの」
「そうなんです。商業ギルドに収めるお金が減ってしまいます。問題ではないでしょうか?」
「商業ギルドに収めるお金が減ってはダメよ。出店の許可できなくなるから」
「ただ、売り上げの半分を取られているんですよ?商業ギルドには払えないじゃないですか?」
「でもルールだからね」
「それでしたら、その商業ギルドから、止めるようにその人たちに言ってもらえませんか?」
「それは自警団の仕事だから、商業ギルドは関係ないわね」
「そんなことないですよね。マーケットでの問題ですよ。他の地域のマーケットでは、商業ギルドがその辺も管理してますよ」
「ここは、ローバーのやり方があるの。生意気ね」
「じゃあ、自警団に行ってきます」
・・・・ 自警団
「あの、マーケットに店を出している者ですが、変な人たちから、お金を要求されました。商業ギルドに相談したら、自警団に相談しろという事でしたので、こちらに来ました」
「あっそう、マーケットの問題は商業ギルドの管轄だから、俺達は関係ないなぁ~」
「何かおかしいですね」
「なにが?」
「そういうチンピラを誰も制御してないという事ですか?この町は?」
「家に泥棒が入っても自警団は動かないという事でしょうか?」
「この町は犯罪のし放題だし、自警団なんて無くても良くありませんか?」
「おい、ガキ、それ以上言うと、ガキであろうと、牢屋にぶち込むぞ」
「今度は脅しですか?大人のやる事ですか?それが」
「てめー何をほざいてやがる」
「おいおい、何を騒いでるんだ」
「隊長。。。」
「隊長さんですか?」
「ああ、そうだが」
「わたし、マーケットで店を出していますが、チンピラが来て、売り上げの半分を取られました。商業ギルドに相談したら、自警団に言えと言われたんです。そうしたら、この人は逆上して私を脅したんですよ」
「そうか、お嬢ちゃん、悪かったな。じゃあ、そのチンピラを連れてきてくれ。そうしたらそいつらから話を聞くよ」
「本当ですか?隊長さん、ありがとうございます」
「おう、待ってるぞ」
「隊長、あんなこと言って大丈夫ですか?」
「ああ?連れてこれるわけねーだろ」
「そりゃそうだ」
その後、レインはみんなの帰りを待って、その間大人しくみかじめ料を収め続けた。
しかし、20日目になり、チンピラの1人が、イーシアに手を出した。
「ねーちゃん、いつ見てもべっぴんだよな。ちょっと俺達のところに来ねーか?」
「もうだめか。。。」 レインは諦めた。
「パラライズ」
ぐぁ
チンピラは一瞬悲鳴を上げると、固まってしまった。
「イーシアさん、何したんですか?」
「動かないようにした」
「ちょうどよかった。この人たちを自警団につれていきましょ」
レインは八百屋にリヤカーを借りると、荷台にチンピラを乗せ、カクに引いてもらい自警団に向かった。
・・・・ 自警団
「隊長いますか?」
「おーおじょうちゃん、どうした」
「チンピラ、連れてきました」
「はあ?」
「ちゃんと、あいつらから話を聞いてくださいね」
隊長は外に出ると、チンピラ2人を確認した。
「お前らなにやってんだ」 隊長は小声で声をかけた。
「おい、おじょうちゃん、こいつらに何をしたんだ?」
「さあ?分かりません。急にしびれたみたいになって固まったんです」
その時、レンゲが帰ってきた。
「おー二人、元気にしてたか?」
「レンゲさん、お帰りなさい」
「で、ここで何してるんだ?」
「わたしの店でイーシアさんチンピラに襲われたんで、自警団に運んできたんです」
「店?イーシアが襲われた?全く状況が分からんが。。。」
・・・・ レンゲが鉱山に到着した日
棒を持った男達が、労働者を見張っている。
少しでもさぼっていたら、棒で叩かれていた。
「はい、今日から皆さん、宜しくお願いしますね」 目が笑っていないが口角だけあげている気持ち悪い男がしゃべり始めた。
「皆さんのノルマは、一日当たり100kgの採取ですよ。そんなに大変な作業ではないので、難しく考えなくてもいいですよ」
「道具は、後ろにありますからね」
「食事と寝る場所は、我々で責任をもって提供しますので、安心してください」
「それでは、そこにいる現場の責任者について行ってください」
レンゲと一緒に来た5人は、早速鉱山へ採掘に出かけた。
5人は初日という事で比較的楽な採掘場所であった。
しかし2日目以降、徐々に苛酷になり、5日目になると、強制労働者とほぼ同じ扱いになった。
レンゲが、労働者から情報を集めると、やはり借金が返せなくなりここに来たという人間が大半であった。
しかもその賭博場は、だいたい決まっていた。
賭博場の運営は、イレイワグループ、タウロタグループ、ベクレテグループの3つ。
レンゲは、鉱山の管理事務所に入り込むと書類を物色した。そして鉱山から各賭場への労働者確保の依頼をしている依頼書などを押収する事が出来た。
そしてレンゲは、労働者達を解放した。
・・・・ 自警団前
レインはレンゲに経緯を説明した
「なるほど」
「お嬢ちゃん、コイツらから話は聞いた問題ない」
「問題多ありですよ。私のお金を毎日巻き上げてるんですよ。それにマーケットの皆さんからも」
その時、示し合わせた様にほぼ同時に他の3人も戻ってきた。
そして強制労働から解放された人たちも戻ってきた。
「どうした、こんなところで雁首を揃えて」
「自警団の悪事を暴いているところだ」レンゲが言った。
「おいおい悪事とは人聞きが悪いな」
「どこがだよ」
「俺は今鉱山から戻ってきたところだが、そりゃ酷い有り様だったぞ。そこで強制労働させられた奴らの証言だと、自警団のヤーレスとか言う隊長が賭博グループの元締めだって言ってたぜ」
「ヤーレスってどいつだ?」
その時、
「隊長、隊長、ヤーレス隊長」
「大変です。鉱山から労働者が戻ってきています」
「お前がヤーレスだったのか」
うぉーーーーーー
解放された労働者100人くらいが、自警団に押し寄せた。
「ヤーレスてめーよくもやりやがったな」
ヤーレスは自警団の建物に逃げ込もうとしたが、捕まってボコボコにされ、その場で気絶した。
暴徒とかした労働者を見て、今までの怒りを抑えていた町の人も加わり、町が大混乱に陥った、。
「さて、私たちは宿に戻るか?」レンゲが落ち着いて言った。
「え?このまま放っておくんですか」
「いや、賭場を潰しに行くよ。で、後数日もすれば王国から軍がやってきて、事を収束させるだろう」
「それで、なんで宿に戻るんですか?」
「着替えようかと思って」
「ええーーー。今それ?」
「悪を討つにはそれなりの準備をしなくては。古今東西そういうもんだろ?」
「はあ」
・・・・
「こんにちは、ここはタウロタグループの賭場兼アジトですね?」
「てめーら、それを承知でここにきたのか?アーン?」サンザがキレていた。
「おめーら、うちの娘を可愛がってくれた様じゃねーか」
「む、娘?」レインは自分のことだろうか?と悩んだ。
ドカ、バキバキ、ズゴン
「片付きましたね」
こうしてアダマントスは、ほかの2つも締め上げたると最後にギルドへ行った。
「ア、アダマントス。。。」
「やあ、ギルマスはいますか?」
「ちょっとお待ちください」受付は焦りながらギルマスを呼びに行った。
・・・・
「これはアダマントスの皆さん、どうしました?」
「色々と証拠が出てきたんでね。君も、ここの領主には逆らえなかったんだろうが、覚悟はしておくべきだろう」
「な、何の事ですか?」
「鉱山の強制労働さ。自警団の監視を怠っただろう?」
「もうすぐ国王の部隊が到着する。減刑してもらいたくば、洗いざらい吐く事を勧める。抵抗する場合は、我々の敵になるつもりでいてくれ」
がくぅ
ギルマスは、うな垂た。
・・・・
「これで一気に東も南も浄化されるだろう。さて、これで落ち着いて教会に行けるな」レンゲが言った。
「???」
「レインの指輪の件だよ」
「そうでした」
「ありがとうございます」
・・・・ 翌日
「ここだな」
教会内では司祭が信者に対して何やら説教を述べていた。
「朝の祈りの時間かな?」
「少し待っていよう」
・・・・
「終わったか?」
「さて、皆さま冒険者の様ですが、当教会へはどの様なご用向きで?」
「この指輪の装飾に関係した女神様の事について知りたいと思いましてね」
レンゲがレインの手を取って司祭に見せた。
「ほう」
「この指輪ですが、女神様の紋様ではないかと確かめに来たのです」
「巷には女神様の加護を付与したという偽物が横行していますからね。実際にその様な物があれば国宝ですよ」司祭が呆れたとでも言いたげだった。
「まあこれもその類でしょうが、どの女神様の紋様かと思いましてね」
「そうですか、まあ、皆様色々信仰がありますからな。どれどれ、こちらは。。。女神アルミスですね。あちらに像がありますよ。ゆっくりごらんください」
「ありがとうございます。感謝いたします」
一同はアルミスの像の前まで来た。
レインは教会に入るのも初めてであったし、アルミスの像を見るのも初めてであった。
レインは掌を目の前に持ってきて、指輪の紋様をよく見てみると、確かにアルミスの紋様であった。
すると、指輪が赤く光り始めた。
「あの時のカクと同じだ!」
「なに、この感じ?気持ち悪い」
更に、女神の像が少し明るくなった感じがした。
しかし、メンバーには変わった様子はない。
指輪が赤く光ったことが見えていない様であった。
「レイン、どうだ、何か感じることなり、変化なりはあったか?」
「皆さんには見えていなかったかもしれませんが、指輪が光っていました」
「この指輪は本当に女神の加護があるようです」
「そして、ちょっと不吉な感じがありました」
「不吉な感じ?」
「はい、目の前が曇っていて良く見えないんですが、何らかの敵が私たちの前に現れて、荒らしていくんです。私も、皆さんもそれらと戦うんですが、あまり良くない結果というか、はっきりとは分からないのですが、平和的な感じではないです」
「それはいつ頃に起こりそうか、分かるかい?」
「これもはっきりとは分かりませんが、私の髪や背丈が伸びていましたので、数年は先かと思います」
「そうか。。。」
「今までレインに起こってきたこと、我々が見てきたことを考えると、レインの言っていることは、恐らく間違いないのだろう。そしてレインには、女神アルミスの加護が備わっていることも。。。」
「じゃあレインは、さしずめ小さい女神様ってことか?はははは」サンザが冗談を飛ばした。
「。。。。」
「おい、冗談だよ、レンゲ。そんな真面目な顔すんなって」
「いや、サンザの言う事はあながち冗談とも思えない」
「これだけの奇跡的な事が普通の人間に起こりえるのか?加護にしてもあまりにも過剰すぎる。レインがもし、女神様が遣わした使者あるいは、女神様そのものという事であれば、カクこそ、神獣ということだ。そう思えば、あのドラゴンを凌駕するような能力もうなずける」
「や、やめてくださいよ。私は、人間に育てられた人間ですよ。この指輪を装着する前は、ちゃんと血だって出ましたし。今だって、この指輪を外せば、くぅ、うっ」
「外れない…」
「そうだろうな。カクの装飾も見てみたが、つなぎ目がない。あれは、どうやって装着されたのか、全く不明だ。この前レインが説明してくれた洞窟は、恐らく女神に関連した洞窟だったんだろうな。もしかしたら、レインたちに、そこまで来させるために、わざわざ大陸を移動させたのかもしれない」
「まあ、レインが女神様かどうかは分からないが、少なくとも、我々よりは女神様に近い位置にいる事は間違いないだろう」オーフィスもレンゲの意見に乗っかった。
「あのぉ、今まで通り接してもらえないでしょうか?」
「そうだな、レインがそう思うのであれば、その方が良いかもしれない」
「それにしても。どうやら我々も女神様から運命を託されてしまったのかもしれない」
「とにかくいったん王都に戻ろう」
・・・・ 帰りの馬車の中
「私は、自分の楽園を見つけたくて旅をしているだけなんですよね。それなのに、いろんなことに巻き込まれて。。。。」
「レインの考えている楽園とは、どの様なものだ?」
「魔物がいないところに小さな家を持って、誰にも邪魔されずカクと一緒に暮らすことです。最初は一人でも良かったんですけど、カクが一緒にいてくれることになったんで、カクもずっと一緒です」
「そうだな、話を聞いていると、とても9歳とは思えない事ばかり起きているようだ。そういう気持ちになるもの分からなくはない」
「ああ、俺の8、9歳の頃と言えば、のっぱらを駆け回って、ゴブリンだとかをぶっ叩いてるだけだったからな」
「お前の場合、今でも変わってないではないか」
「まあ、強い敵が現れるのであれば、しばらく我々と行動を共にして、レベルアップを図っていった方がよいだろうな。それを倒さない限り、楽園を作るのも難しいのかもしれないしな」
「そうですね」
「レインの場合は、それぞれの「遊ぶ」能力を最大限使えるようにして、尚且つ体力も付けて行かないとな」
「体力づくりは、俺に任せろ」
「レイン、走れぇ」
「えーー」
この人たちは、とてもいい人たちだと思う。
こういう人たちに囲まれているなら私も楽園を作れるかもしれない。
けど、また迷惑をかけちゃうかな。
時間はかかるかもしれないけど、もっと世界を回って、見つけよう私の楽園。
=レイン旅立ち編(完)=
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