虎白
エリザは、理事室を出た後に表情を変える。
(リナリアの目的が分からないわ。元の世界に帰りたいっていう理由は分かる。エルフにとってユグドラシルは神同然だから)
エリザはタケルの所へ戻りつつも、思考を続ける。
(だとしたら、報酬もおかしいし、前金としてSランクの魔石を渡すのもおかしいわ。Sランクの魔石は百歩譲って私が代わりに魔力を提供するからという理由になるけれど、果実は絶対におかしい)
(1000年に1度しか採れないユグドラシルの果実。噂が本当かどうかは分からないけど、その果実を食べたものは存在を1段階進化するという。エルフがハイエルフになるのに必須の物なのに、それを報酬にする?)
エルフだけではなく、ハイドワーフやハイジャイアントの様に、1段階進化した魔物は存在する。そして、その力は破格で、不老不死、魔力増大、魔力の精密化や特殊能力を得るなど様々だ。
(私が食べた場合……恐らく、それだけであの世界へ帰れるほどの魔力を得る可能性があるわ。ただ、可能性でしか無いからそれを当てにしてないだけかもしれないけど。それとも、それを含めて帰るための保険にするのかしら?)
ちなみに、ハイエルフがさらに果実を食べても存在進化はしない。一定期間の力の向上はするが、それならば魔石を吸収しても同じだ。
(まあいいわ、最悪、報酬をバックレられてもシーサーペントの魔石はもう貰っちゃったし。それに、もし渡さなかったら、協力もしないしリナリアが果実を持っていることを力のある魔物にバラして回ってやるわ)
嫌がらせも考えながらエリザはタケルの元へと着いた。
「どうだった?」
「やっぱり、用件は別だったわよ。ただ、さすがにここじゃ話すわけにも行かないけど」
「あはは、それは僕が聞いても大丈夫なやつ?」
「もし、私と一緒に行動するなら聞かないとダメだと思うわよ。聞いたうえで、どうするかはタケルが決めていいわ」
「分かったよ。それじゃあ、今日はどうする? 講義の予定表を見たら、午後からは予定が無かったんだけど」
「それなら午前中はタケルと一緒に行動するわ。ご飯はあるの?」
「学食があるよ。日替わりで結構おいしいんだ。まあ、やってるかどうかは先に確認しておいた方がいいかもね。もし、やってなかったらコンビニにでも行かないといけないし」
エリザとタケルは学食へ向かう。しかし、まだ通っている生徒が少ないせいか学食はやっていなかった。
「残念。今日のお昼はコンビニかな」
「私は別に何でもいいわ。気になる食べ物はいっぱいあるもの」
エリザは食事の必要は無いが、嗜好品として味は楽しめる。食費がかかるだけで、タケルにとっては負担になるだけなのだが、一緒に食事をするという楽しさの為にタケルは必要経費として考えている。
エリザとタケルは、その後普通の講義を受け、お昼になったのでコンビニに向かおうと廊下を歩いていた。
「おい、お前ら!」
後ろを振り向くと、見た事のある獣人の少女が居た。
「あ、君は講義の時に居た……えっと、魔物に名前は無いんだっけ?」
「あたしには、すでに名前がある! コハクだ!」
「じゃあ、コハク……ちゃん? 一体、何の用?」
「お前ら、リナリア様とどういう関係だ!」
「どうって、ただ朝、入り口で会っただけだけど……」
「嘘をつけ! リナリア様は忙しいお方だ。わざわざ一般生徒の為に動くものか!」
「コハクちゃんこそ、どういう関係?」
「あたしは、リナリア様に拾われたんだ! 名前もリナリア様に貰ったものだ」
虎白は白い猫型獣人のため、リナリアがそのまま見た目通り名前を付けた。しかし、コハクにとっては力のあるハイエルフから名づけをされたという誇りを持っていたため、自分以外の魔物がリナリアと仲良くする様子が耐えられなくなったのだ。
「それは良かったわね。でも、私達が偶然入口にあっただけというのは本当よ?」
「本当か?」
コハクは、疑う様にエリザとタケルを睨みつける。
「お前、弱いな。そっちのお前は……分からんけど、見た目からきっと弱いな。それなら、あたしの舎弟になれ!」
「いきなり何を言い出すのよ、この子……」
エリザは、力を測る事が出来ないくせに態度のでかいコハクに呆れる。実際、タケルは弱いけれどエリザを見た目だけで判断するあたり、痛い目に遭うのは時間の問題だろう。
「あなたの方が、私よりも弱いわよ。舎弟にはならないわ」
「それなら、あたしの力を見せてやる。勝負だ!」
「なんでそうなるの……」
コハクから、急に決闘を挑まれて困惑するエリザだった。




