予期せぬ襲撃
少し書き直しました。
読んでいただけて嬉しいです!
フジヤマのギフト「竜騎士:全ての竜を総べる者」の実証実験というと少し違うが、装備を整え3人はドリコラ山脈にやってきた。
この山をしばらく登ると切り立った山々の合間、飛竜たちの里として知られている『飛竜の棲家』がある。到着までには丸一日ほどかかる。
久しぶりの友とのパーティ。ポツポツと現れる魔物を倒しつつの道中は楽しかった。前世のネットゲーム内で培ったチームワークが実戦でどれほど通用するのかと少々不安に思っていたが、すぐさまそれが杞憂だと知る。
蓋を開けてみれば面白いほど綺麗に決まる。フジヤマと真昼の冒険者として数年の経験が大きかったように思う。様々な人達と組み、動きを合わせてきたのだろう。
アムステルは転生者鑑定を受けたあと、国の有事の時以外、悠々自適な生活とこれから起こるであろう事柄に備える日々を送ろうかと思っていたが、冒険者ライセンスを取って冒険者として暮らすのも良いかもしれないと思った。
苦戦するような場面は一度もなく、道中は真昼の魔法鍛錬に付き合ったり、これまでの各自の半生を話し合ったりしながら休憩や仮眠を挟みつつ過ごした。
途中からは雪山となり厳しさが増すが、出会す魔物の数も減り、防寒対策も万全で来たのでむしろ3人は意気揚々であった。
3人が目的地の『飛竜の棲家』に着く頃には空は快晴。数時間前まで前後不覚の吹雪だったことなど嘘のようだ
周囲を見まわし「なんだかギャラリーが多いな」と思ったが、それ以上は特に気にせず走り出した。魔力探知に優れたアムステルが先陣を切って目標を探す。すぐ後ろにフジヤマが続く。
襲われかけていた人々にドーム状の防御壁を張り、目指すはこの群れの主。漆黒の古き竜だ。
何事かと襲いかかってくる飛竜たちに目眩しや睡眠の魔法を掛けつつ進む。人との距離を保ち、平和に暮らしていた彼らの縄張りに踏み入ったのはこちら。なるべく怪我はさせたくない…が、相手はこの世界の食物連鎖の頂点だ。魔法抵抗にも長けている。魔力消費がなかなかキツイ。長期戦になればお互いに擦り傷程度では済むまい。
(あんまり出てきてくれるなよ…)
徐々に上がる息に内心嫌な汗を覚えつつ走る。アムステルへ向く竜達の敵視を、時折フジヤマが取ってくれるので隙はつきやすい。
真昼は離れた場所からポーション付きの矢を構えている。
強く漏れ出る魔力の方へ向かっているといよいよ目標が目に入る。既に臨戦態勢の黒き巨躯。有りったけの強化魔法をフジヤマへと叩き込みアムステルは少し後ろに下がった。ここからはフジヤマの仕事だ。
フジヤマと漆黒の竜との力比べを真昼がハラハラと見守っていた。構えるポーション矢の集中は切らさない。ギフトを確認してから鷹の目の精度は上がった気がする。今は姿を見せないが、すぐそばに感じる妖精の気配が補助してくれているようにも感じる。
程なくして決着がつき、首を垂れる漆黒の竜に対しフジヤマが何事かを話すとその竜は高々とひとつ咆哮し、他の飛竜たちに掛けられたアムステルの魔法を解いた。咆哮ひとつで状態異常魔法を全て解かれたアムステルはコッソリと舌を巻いた。
***
飛竜の棲家に迷い込んでしまったらしいエンターナ王国騎士団員たち。彼らの帰り支度が整うまで此の地の片隅に置いてもらえるようにフジヤマが黒き竜に口を利き了承を得て、その旨を騎士団員たちに伝えた。竜たちを刺激せぬ限り襲われることはないだろう。
予期せぬ人助けとなった。
驚きつつ感謝を伝えてくる騎士団員たちにフジヤマが軽く手を挙げ、3人は下山を始めた。
王都のギフト鑑定は明日だなぁ、などと話しつつ、しばらく来た道を下っていた。
それは一瞬のことだった。
黒い鳥のような何かが強風に乗り真昼の眼前を掠めた。
黒いそれはそのまま空へと舞い上がり発火、燃え尽きた。
油断していたつもりはないが、思っていたよりもフジヤマと飛竜の親交がすんなりと上手くいったことで皆がホッとしていたかもしれない。
弾けるように溢れた真昼の血が雪山の表面を染める。思わずと言った様子で姿を現した妖精が真昼の周りをグルグルと心配そうに回る。
「真昼!大丈夫か!?すぐ治してやる!」
アムステルとフジヤマが慌てて駆け寄り、非常事態だからとアムステルが治癒魔術を行使しようと手を翳した。が、
「アムさん駄目!これ呪いだっ。解呪した人に跳ね返るやつ!」
目元を両手で抑えつつ蹲る真昼が静止の声を上げる。
派手な出血をもたらしていた左右両方のこめかみの傷口は次第に塞がっていき、そこに小さな魔法陣のような紋が刻まれた。と、同時に真昼の艶やかな紅茶色の髪が根本から白く染まっていく。
驚くアムステルとフジヤマの見守る先で、ゆっくりと真昼が目を開いた。
その瞳は白く濁り、瞳孔に動きがない。
「真っ白だ。見えない…」
「くっそ!」
毒づくフジヤマと共に周囲を見渡すが人の気配はない。
先ほどの鳥のような黒いものはおそらく式神。わざわざ魔力探知がしづらい式神での攻撃。おまけに呪符で作られていたのだろう、対象に被弾してすぐさま発動する仕組み。
狙いはアムステルだけではなかったのか。それとも真昼の鷹の目を有用と判断し、潰しにかかったのか。
わからないが相手は確実になんらかの形でコチラの状況を把握していたに違いない。この山に来ることも知っていたのだろう。
「ごめん。私のせいだ」
アムステルが呟いた。
15歳になりステータス確認が済んだこの折、向こうから何か尻尾を出すのでは?と多少の思惑がアムステルにはあった。ゆえに2人と合流してから防音魔法はわざと使用していなかった。
やはりどこかに耳がしかけてあったのだ。
パーティの安全確保はリーダーの義務。今まで、それを怠ったことなどなかった。
(やられた…)
標的は自分のみだと思っていた。まさか他の者に被害が及ぶなど考えが及んでいなかった。
甘かったか、と胸の奥が苦しい。
こうなっては2人に早急に話しておかねばと思っていると頭上に影が差した。
大きな体に大きな翼。漆黒の古き竜は驚くほど静かに3人のそばに着地した。
その頭から赤い妖精ティルシーが飛び立ち、真昼の周囲に舞い戻った。どうやら呼びに行ってくれたらしい。
黒き竜はフジヤマをひとつ睨み、
「お前…」
と、唸った。低く地を這うようなその声に「あ」とフジヤマが答える。
先ほどは思念か何かで話しているようだったが竜と人は普通に会話もできるらしい。アムステルが感心していると、どうやら不機嫌な黒き竜がフジヤマを責め立て始めた。
「何か有ればすぐに頼れと言っておいただろう!!」
「す、すまない!さっきの今で、まさか何か起きると思わなくて、すっかり頭から抜けていた」
フジヤマが珍しく焦っている。
「そもそも下山に我の背中を使えと言ったのに断りおって!承諾していればお前の番がこのようなことにはならなかったのでないか!?」
「ごめん!ヤトノカ!仰るとおりだ!」
黒き竜はヤトノカと言うらしい。
先ほどの猛り狂っていた飛竜の棲家の主だとは思えないフレンドリーさが面白い。が、地を這うようなこの声で雪崩が起きたりしないかアムステルは心配になってきた。
「そこなる吸血鬼。フジヤマの番を被害に遭わせた奴に心当たりがあるな」
フジヤマと真昼が自分に顔を向けたのが分かる。急に話を振られたアムステルがゆっくりと頷く。古き竜ヤトノカはなんでもお見通しか。
「ある。でもここでは話せない。どこか絶対防音みたいな場所を知らないか?」
ヤトノカは逡巡の後、「乗れ」と皆を背に乗せ飛び立った。
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