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飛竜の棲家

読んで頂けて嬉しいです!

この世界での竜種は特別だった。

淀んだ魔素から無限に生み出される魔物とは明確に区別され、他の動物と同じく子孫を残して繁栄し、生態系の頂点に君臨していた。


実例は少ないが人里におりてきて人命を脅かす個体のみが討伐対象となり、通常はお互いに棲み分け、一定の距離を保ち、竜種と人々は上手に共存していた。

地域によっては『女神の遣い』として信仰する者達もいるほどだと聞く。

竜種の方も人の寄りつかない山脈や森の奥深くに巣をかまえ縄張りにさえ近づかなければ好んで人を襲うことはなかった。

そう、縄張りにさえ近づかなければ…。


ある日ーー

険しい山への遠征訓練中、悪天候が続き

前後不覚の吹雪の中、いつの間にかルートを外れたエンターナ王国騎士団の一行があった。

一行は運悪く飛竜たちの棲家へと迷い込んでしまう。

もちろん飛竜たちの棲家になど普段ならば絶対に近づくことはないのだが、その時ばかりは辿り着いてしまった。

これが運命なのだと団員達は覚悟を決める。

当然のように飛竜たちは侵入者を排除しようと襲いかかってきた。


----が、その刹那


マントを翻し彼女たちが風のように現れた。

驚き、声も出ずに固まっている屈強な騎士団員40人ほどの目の前で彼女たちは、たった3人。

まるで踊るかのような連携で猛攻を退け、飛竜たちを瞬く間に手なづけた。

そう、討伐したのではない。

お互いに多少の怪我もあったようだが、あろうことか怒り狂う飛竜たちに立ち向かい見事に手なづけたのだ。


飛竜たちの目から怒りの色がなくなったあと、盾と剣を持つ男が一際大きな飛竜に何事か話しかけている様子が見える。まるで対話するかの様な不思議な光景。

弓持ちの華奢な体躯の女性は笑顔で他の飛竜の体表を撫でたりと嘘のような景色が広がっていた。竜達は先程までとは一変、大人しくしている。

唖然としつつ一部始終を見守っていた騎士団の面々に対して、鮮やかな桃色髪の女が振り返りこう言った


『何見てんだよ。ぶっ殺すぞ』


***


時は少し遡る。

ステータスウィンドウを開き、各々が自身のギフトを確認した後、珍しく輝く瞳をもってフジヤマが「飛竜の棲家に行きたい」と言ってきた。

飛竜の棲家とは、この国にある山脈の切り立った崖の間にあるという文字通り飛竜達の暮らす場所だ。


フジヤマのギフト名は『竜騎士(ドラグーン)』

注釈には『全ての竜を統べる者』と書いてあるそうだ。

具体的な効果は分からない。だから何が出来るのか試しに行きたいのだろう。

あわよくば飛竜を従えたいのだとフジヤマは言う。


それを受けてアムステルの顔は渋い。

竜種は自らより強い者に従うのだ。力を見せつけなければならない。

ギフトがあるとはいえ簡単なことではないだろう。

命を奪うわけにはいかないが手加減して挑むのも難しい。

完膚なきまでに力の差を見せつけるのは骨の折れることだろう。大なり小なりこちらの怪我は避けられまい。相手は凶暴な飛竜、重傷を負うかもしれない。

そして場所が悪い。飛竜の棲家は年中雪に覆われた山脈にある。極寒のその環境ではアムステルの治癒魔術はあまりにも相性が悪い。


この世界の魔法は残念ながら万能ではない。こと『治癒(ヒール)』というスキルにおいては本当にギフト頼みになってしまう。

前世において、どのゲームをやる上でもアムステルのメイン職はヒーラーであった。いわゆるヒーラー脳なのも自覚しているが、今世それ関連のギフトは授けられなかった。苦心の末、手持ちのスキルを調整し度重なる試行錯誤でなんとか治癒らしいことが出来るようにはなったが


(アイツがいればなぁ…)


思い浮かべるのは同じく転生し、長閑な片田舎で暮らしていると眷属のコウモリから報告を受ける前世からの友だ。


これは仕組まれた転生だ。

同じ時期に複数人の転生者など、どの国の歴史を遡っても記録がない。

誰かの意思と何者かの絶大な力が介入している。

今が何待ちの時間なのか、理由がなんなのか見当もつかないが企ての張本人であろう者はまだ動かない。

しかしいずれ動き出し、今度こそ私を殺しに来るだろう。前世でのあの夜、1人で帰ろうとした際の粘つくような視線。汗ばむような恐怖心。

何とも言えない嫌な予感に踵を返し、1人で帰るのをやめたのだ。

前世の平和な日常の中では分からなかったが、今にして思えばアレは殺気だ。


あの時の帰り道、友の同行に救われ、相手を上手く撒く事も出来た。

その友は今世、小さな村で平和に笑顔で暮らしているのだ、いずれ始まるであろう血を見るような出来事には可能ならば巻き込みたくはない。

あの村を出て王都に来ると言うのなら本人の安全のためにもその限りでないが…。


さて、どうしたものか。


「私の治癒魔術ではなぁ…」


顎に手を当てて思案するアムステル。


「そっか。治癒は私もフジヤマも出来ない。知り合いの冒険者に治癒術師はいるけど、まさか飛竜の棲家に付き合ってくれとも言えないしね」


真昼が溜息をつく。

真昼の妖精。アムステルの眷属。

それらを見た夫、フジヤマが羨ましそうにしていたのをその妻はちゃんと気付いていた。フジヤマが平静を装っているのにもシッカリ気付いていた。

チラリと隣を見ると、難しい顔でステータスウィンドウを眺めるフジヤマ。

役に立ちそうなギフトやスキルがないか見ているのだろう。

真昼は思う。なんとかしてあげたい。


「あ」


目を閉じ、腕を組み、天井に顔を向けていたアムステルが呟いた。


「これいけるかも」


取り出したのは腰に下げていたポーチ。


「真昼、これを貸そう。中にしこたまポーションが入ってる。フジヤマが傷を負ったら、すかさず弓矢で撃ちこんでほしい」


どれどれと真昼がポーチを受け取り、中を探って驚いた。


「え!これマジックアイテム!?」


いくら探しても店には無かった。噂を聞くこともなかった。

異世界転生モノの本などでよく見た『無限にモノがしまえるポーチ』だった。


「すごい!無いんだと諦めてたのに!どこに売ってたの!?」

「私も探し回ったけど見つからなかったから作ってもらったんだ。偉大な錬金術師様に」


私も欲しい!俺も俺も!と盛り上がる2人にアムステルはニヤリと笑い、言葉を続ける。


「矢は『マジックアロー』を覚えちゃうといい。真昼ならすぐに使いこなせる。魔力が続く限り無限に出せるし創造力で鏃(やじり)も危なくない物に出来る」

「わかった!」

「これでなんとかいけそうだ」


3人は飛竜の棲家に向かう準備を開始した。

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