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4-10話 理想と現実

ハルバードを振るう。

一閃、二閃、三閃——。


だが、斬っても斬っても終わらない。

サヨナキドリの分身(ミラージュ)が、視界を埋め尽くしていた。

前も、後ろも、上も下も。

どれが本体かわからない。

いや、全部が“敵”だ。


「くそっ……!」


腕が痺れる。

それでも、止められなかった。

止まった瞬間、冬子が——。


俺はフレイムウイングを展開し、背中から火炎を噴き上げた。


「フレイムフェザー!!」


無数の炎の羽根が空を裂き、ミラージュを貫く。

一体、また一体と幻影が消えていく。

爆ぜる光、焼ける空気。

それでも、まだ多い。


「数で押し潰すつもりかよ……!」


ハルバードを振り続ける。

右腕が悲鳴を上げる。

視界が狭まり、呼吸が荒くなる。


——その時だった。


一瞬、ミラージュの動きが“揃った”。

ほんの一拍。

だが、それで十分だった。


「今だ……!」


俺は一気に突っ込んだ。

真正面、光の奥。

そこに——冬子がいた。


燃えるような光に包まれ、

巨大な装置と繋がれたまま、

それでも……確かに“冬子”だった。


「冬子!!」


俺はブライXを無理やり近づけ、コックピットを開放する。

警告音が鳴り響く。

そんなもの、知るか。


——だが。


遅かった。


「鋼くん……」


その声は、もう風に溶けかけていた。


「ごめんな……俺は……バカだ……」


喉が震え、言葉がうまく出てこない。


「お前を見つけるために……戦ってきたのに……こんな……」


「……私は……」


冬子が、微笑んだ。

あの、いつもの、優しい顔で。


「私は……鋼くんに……自分の理想を……押し付けて……」


「違う!!」


叫びが、空間を裂いた。


「俺は……俺は……お前の理想になりたい!!」


視界が滲む。


「なりたいんだ……!ならせてくれ……冬子……!」


一瞬、冬子の光が強くなった。


「……あり……が……とう……」


その言葉を最後に、

冬子の身体は、無数の粒子へとほどけていった。


指の間をすり抜ける光。

掴めない。

何も残らない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


喉が裂けるほど叫んだ。

世界が、音を失った。


——そこへ。


「ふん……バカな女だ」


ヘルズの声が、氷のように刺さる。


「たった一人のために、自ら消えるとはな」


俺は、ゆっくりと顔を上げた。


「……ふざけるな」


声が、低く、静かに落ちる。


「お前の理想には……うんざりだ」


粒子が、俺の周囲に集まり始めた。

冬子の光だ。

優しく、あたたかく、確かに“生きていた”証。


「見せてやるよ……」


粒子は、俺とブライXにまとわりつく。

機体が軋み、形状が変わっていく。


「俺たちの……理想を!」


青いラインが装甲を走る。

ブライXは、今までよりも細く、研ぎ澄まされた形へ。

背中から——


アストラルフォトンの羽根が、広がった。


「……ブライX(エクス)マキナ……こいつでな!」


ヘルズが鼻で笑う。


「ふん!パワーアップしたところで!ナイトメアミラージュ!」


再び、無数のサヨナキドリが現れる。

だが——。


「アストラルビット!」


青く輝くエネルギー体が、俺の周囲に展開する。

一つ、二つ、三つ……十を超えるビット。

それぞれから、細いビームが放たれた。


ミラージュが、次々と撃ち抜かれていく。


「攻撃できてるなら……」


俺は、冷たく言い放つ。


「全員、始末すればいい」


「この木偶人形できそこないめ!」


ヘルズが吠える。


「そのAOも、木偶の坊だ。ただのクズには……」


「——言われたくないだろうな…お前には!」


俺は、ビットを引き寄せた。


「アストラルハルバード!」


三つのビットが融合し、

蒼く輝く槍へと形を成す。

それは、冬子の光そのものだった。


「それが……何だというのだ!」


ヘルズのサヨナキドリが突っ込んでくる。


俺は、真っ直ぐ構えた。


「——終わりだ」


サヨナキドリが生み出すミラージュは、触れた瞬間に切断され、光の破片となって霧散していった。


「無駄だッ!」


ヘルズの本体が突進してくる。

鳥の嘴を思わせる機首が、一直線に俺の胸を狙う。


「遅んだよ!」


翼を叩き、俺は急降下と同時に機体を反転させた。

すれ違いざま、ハルバードを横薙ぎに振り抜く。


——ギィンッ!


装甲が裂け、火花と黒煙が夜空に噴き出した。


「ぐっ……!」


だが、サヨナキドリは落ちない。

破損したはずの機体が、なおもこちらを睨みつけてくる。……いや、違う。

動かしているのは機体じゃない。

ヘルズ自身の執念だ。


「なぜだ……なぜ理解できん……!」


通信越しに、苛立ちと焦燥が滲む。


「天命の時計で、私は宇宙の王となる……!」


「……なに?」


一瞬、操縦桿を握る手が止まった。


「時空間を移動し、我々より弱い存在へ侵略する抗えぬ相手を支配し、世界を“正しく”並べ替える……それが我が理想よ!!」


吐き気がした。

こいつは狂っているんじゃない。

——本気だ。


「……ふざけるな」


声が、自然と低くなる。


「弱いから奪う? 理解できないから壊す?それのどこが“理想”だ……!」


ヘルズは激昂していた。ただの怒りではない理解されなかったことへの、滞りだった


「黙れ!!お前たちのような感情の生き物が、宇宙を語るな!」


サヨナキドリが、最後の力を振り絞る。

ミラージュをばら撒き、本体が死角から突っ込んでくる。だが……見えている。


「……終わりだ」


アストラルビットが俺の周囲に集結した。

翼の蒼光が収束し、胸部へと圧縮されていく。


「アストラル……ビーム!!」


蒼白い奔流が解き放たれた。

空間を焼き、幻影を消し去り、一直線にサヨナキドリを貫く。


「ば……かな……」


断末魔すら許されず、機体は爆散した。

夜空が一瞬、昼のように白く染まる。


俺は、静かに地表へ降下した。


……勝った。

確かに、そう思った。


だが。


煙の中から、何かが動いた。


「……まだだ」


壊れたサヨナキドリの残骸の中。

無理やり開かれたコックピットから、ヘルズが這い出してくる。


「空間移動は……できないか……」


息を荒くしながらも、笑っていた。


「……しかし、問題ない」


その手に——天命の時計。


「空間が駄目なら……時間だ」


背筋が凍る。


「やり直す……最初から……この失敗も……貴様も……なかったことにする……!」


時計が、不気味な音を立てて回り始める。

針が、逆回転を始めた。


「やめろ!!」


翼を打ち、全力で突進する。

だが——間に合わない。


「はは……ははは……!」


ヘルズの笑い声が、歪んで重なった。


世界が、崩れる。


光に包まれ——

焼け落ちたはずの街が、逆再生のように形を取り戻していく。


——そして。


俺は、大事なことを忘れベッドの上で目を覚ました。

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