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21世紀のカジノプロ、無一文で異世界へ。  作者: ゆうひずむ♪
裏切るのはいつだって『確率』ではなく『人間』だ
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第32話 ホロの戦い

 バカラはルーレットほど、簡単にはいかない。

 だから負けることもあるだろう。

 それでも、ホロに戦い方を仕込むことは出来た。


「ホロ、これ以上バカラに関して俺から教えることはない。あとは自分一人で頑張ってみろ」

「えっ……?」

「もうバカラも怖くないだろ? 戦い方もわかったろ?」

「そう、ですが……どこか行くのですか?」

「あぁ、クゥーエ草を採りに行ってくる」


 今回のルーレットでホロが当てたのはラインベットだ。いつもの六分の一の配当しかない。

 これではたとえ100倍の条件をクリアしようと、大きな収入とまではいかない。

 だから遅くなりはしたが、少しでも足しになるようにとクゥーエ草を採りに行く。

 今からダッシュで行けば、日が沈み切る前に戻ってこれるだろう。


「そ、そんな……私一人じゃ不安です……ッ!」

「はぁ……仕方ない」


 俺はわら半紙にメモを書き、それをホロに手渡した。


「そこに気をつけるべきこと、ベット金額がどこまで上がると危険かなどを書いといた。だからそのメモを俺だと思い、その指示からはみ出さないよう気をつけろ」

「…………」

「そんな不安そうな顔をするな。お前なら出来ると信じてるから、俺はクエストを受けに出かけるんだぞ? 俺の期待を裏切らないでくれ」


 カジノプロとしての必須要素に『自信』がある。

 勝てる――そう信じた道をどんな状況に陥ろうと覆さない、自分自身を信じる心。

 ホロにはまだ、そうした自信が足りない。


 いや、以前のホロにはあったものだ。

 それがホロをブラックジャックへといざない、結果としてクエスト一ヶ月分以上の損失を出した。それを境に、ホロは自分への自信を失くしてしまった。


 カジノは本当に天邪鬼だ。

 自信が有りすぎれば、その自信に溺れ。

 自信が無ければ少しづつ死んでいく。

 どちらに振りすぎても、カジノプロとしては失格。

 本当に天邪鬼だ。


「信じてるからな、ホロがしっかりと勝つことを」

「……頑張ります」

「よしっ! 行ってくる」


 俺はホロを置いて、カジノを後にした。



     ♪     ♪     ♪



 ルーレットを攻略し、バカラも攻略したとなれば、残るホロの課題はブラックジャックのみ。

 しかし、このブラックジャックが一番の難所。

 ルーレットでは的中率にものを言わせ、カジノの勝ち方を教えた。

 バカラでは勝率50パーセントのゲームを体感することで、適正ベット額がどの程度にあるのか身体で覚えさせる。


「だが、ブラックジャックの勝率はそれ以下だ」


 ブラックジャックは47勝53敗のゲーム。バカラよりも勝率は低い。

 そして肝になるのが『ダブルダウン』『スプリット』などの選択肢で、あとから賭け金を上乗せすることが出来る。

 しかし、これが賭け金を決めるのを難しくしているのだ。


 バカラのように単純な半丁博打なら、想定外が起こることはありえない。

 ところがブラックジャックの場合は、負けた時の金額が最初のベット額より増える可能性がある。

 だからそうした可能性も考慮し、バカラよりもさらに低い金額でベットするのが正しい。しかも賭け金を増やすべき場面が来ることに備えて、全部のチップを一度の勝負に注ぎ込むわけにもいかない。


「極めつけはカウンティングだ」


 ブラックジャックで勝つための絶対条件。

 場に出たカードを全て記憶し、目当てのカードがどれくらいの確率で出るのかを予想する技術――カードカウンティング。

 もっとも、ホロに教えるつもりのハイローカウンティングで、そこまでの芸当は出来ない。せいぜい勝負時がわかる程度のものだ。

 そんな簡易なカウンティングでも、習得はなかなかに難しい。


「まぁ、もう少し様子を見てからか……」


 ホロはバカラの攻略を始めたばかりだ。

 安定して勝てるようになるまでに、まだ時間がかかるだろう。

 今は自分の作業に集中するべきだ。


「ふぅー、こんなもんでいいか」


 俺は集めたクゥーエ草を自前の麻袋へと入れていく。

 最初の頃は見分けるのに時間がかかったが、今ではちょっとした考え事をする余裕すらある。

 成長してるのはホロだけじゃない。


「日が沈み切る前に帰らんとだし」


 俺はすぐさま冒険者ギルドへと戻った。

 麻袋を差し出すと、いつもと同じ受付嬢がテキパキと換金を済ませてくれる。


「今日はお一人なんですか?」

「あぁ、今日は一人です」

「珍しいですね。女の子のほうは?」

「カジノにいるはずです。今から迎えに行きます」

「まるで家族のようですね」


 受付嬢の言葉に、俺は一瞬固まった。

 家族、か……。地球から呼び出された俺に、この世界に家族はいない。

 何年もカジノプロとして世界を回っていたから今更ではあるが、もう会えないとなると多少の感慨も沸いてくる。


「ホロが待ってるかもしれないんで、行きますね」


 俺はそんな気持ちを誤魔化す……あるいは振り払うように会話を打ち切って、冒険者ギルドを出た。

 カジノは目と鼻の先。五分とかからずたどり着く。


「……いた」


 ホロはちゃんとバカラのテーブルに座っていた。

 いつだったかのようにブラックジャックのテーブルに座ってなくてホッとする。

 俺はホロへと近づこうと足を進め


「ユーのところのおチビ、頑張ってるの」


 横から声をかけられた。

 バニーガールのナーシャだ。


「見てたのか?」

「ちょっとだけなの。でも凄い真剣にやってて驚いたの。あれは勝負師の顔つきなの」

「ほぉ……」


 ちょっとだけ見てみたくなった。

 ナーシャに勝負師と言わしめた、ホロの真剣な表情を。

 俺は気付かれないように、少し遠目からホロのことを観察した。


「ノーモアベット!」


 ディーラーがカードを配っていく。

 ホロはバンカーに青チップ3枚を賭けていた。


「ナチュラル(エイト)――バンカーの勝利です」


 ディーラーが言っていたナチュラル8とは、二枚のカードの合計が8だった場合のことを指す。

 バカラというゲームでは最大三枚までカードを引くことが出来るが、ことナチュラル8、ナチュラル(ナイン)が、プレイヤーかバンカーどちらかに出た時点で三枚目が引かれることはなく、即時決着する。

 そして8という数字は、バカラではかなり強力な数だ。その8を引いたバンカーが勝利を収める。


「ノーモアベット!」


 ホロがもう一度、青チップ3枚をバンカーに賭けた。


(……自分でベット額を調整したか)


 俺が教えた通りなら、ここは青チップ2枚に減らしていた所だろう。

 それを自分の意思で、青チップ3枚で勝負した。


 いい傾向だ。

 結局のところ賭け方というのは、どういった形で賭けてもよい。

 マーチンゲール法、ウィナーズ投資法、チャンピオンシップ法などなど、どんな賭け方をしたって負ける時は負けるし、勝てる時は勝てる。

 大切なのは『安全圏から抜け出さない』こと。

 それを肌身で感じるには、やはり自分で考えてベットするのが一番だ。

 だから、俺の言った通りの『型にはまった』やり方ではなく、自分で考えて賭けていることはいい傾向なのだ。

 と、横にいるナーシャがクチを開く。


「ナーシャは結構あのおチビを見てるけど、ずっとバンカーにしか賭けないの」

「何か問題でも?」

「問題なんてないの。でもその分、どちらが勝つかって当てる楽しみを、あのおチビは放棄してるの。本気で勝ちに行ってるの」


 なるほど。

 ナーシャは天然ボケウサギだが、人のことはよく見ているらしい。

 俺はもうしばらく、ホロの戦いっぷりを見学することにした。

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