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第二話 研究への第一歩

 しかし、研究所で働くと言っても、俺にはなんだか難しいことはよくわからない。今の今まで、ただその日の稼ぎを求めて手当たり次第に薄給の仕事を受けて来たような人間だ。研究に関する崇高な知識など、持ち合わせているはずもない。図書館などに行って、研究などの勉強を始めてみようか?……間に合うわけもないか。そもそも、あの仕事怪しいし。どうせ詐欺だろうさ。真面目にやるのも、馬鹿馬鹿しい。

 そして、二日後、俺は自宅に篭って読書をしていた。そもそも研究内容ったってそう言うのは秘密だろうし、そもそも研究内容が分かってもどんな機械を使うのだとか、どんな実験物を扱うのだとかそう言うのは俺にはわからないので、結局図書館で勉強するための本を借りるのは無理だと言う結論に達した。だから、せめてこうやって字には慣れておこうと努力しているわけだ。

「………………。」

 疲れた。なぜ俺は暴走者についての研究書を読んでいる?借りてきたのはお前だろ、と言われればそうなのだが、なぜ俺はこれを借りたのだろう?何かの感が働いたのか、はたまた、たまたま目についたやつを取ったらこれだったのか。著者も知らない人間だし。………俺が知ってる著者なんていないか。で、俺はなんでオルランド事件とかそう言う用語を覚えているんだ?生まれてこの方真面目な教育なんて受けてきていないから、さっぱり何を言っているかわからない。時々聞き齧ったことのある単語が出てくるが、それだけだ。便利屋業務でリディアが何か言っていたな、とか、あの研究員が説明の時に使っていたな………なんて。あの研究員が説明の時に使っていた………?じゃあ、もしかして暴走者に関する研究をしているのか、あの研究者は?………わからないことだらけだ。今は一旦、この難解な本を読み切ることに専念しよう。眠くなってきたが、耐えるのだ。


「………」

 気がつけば、空は明るくなっていた。おかしいな、俺が本を読み始めたのは、曇りの日の昼過ぎだった気がするんだが。窓を開けて、外の空気を吸おうとした。外にある工場の煙が部屋に入ってきた。とんでもなく煙たい。ここには新鮮な空気というものは存在しないのだ。

 俺はソファに寝転がった。いや、元からソファに腰かけてはいたが、さらに横たわるという動作を追加した。天井を見れば、この家のズタボロさがわかるだろう。電球は焼き切れ、チカチカと明滅を繰り返す。しかも、明るく光っている時でさえ、俺の目には暗く見える。電球の買い足しも、リディアがしていた。いつもどこかにフラッと出掛けては、その時の生活に必要なものを買ってくる、そんな人だった。だから、あの日、俺は何もしようとしていなかった………。

 俺は深いため息をついた。体に力が入らない。背中側から心臓に怠惰が染み込んでいくみたいだ。頭痛もするし、なんだか胸が苦しい。風邪とか病気でないことは俺が一番よく知っている。虚無に対する体の歪みだ。

「………飯にするか。」

 正直、腹は減っていない。たぶん、一週間何も食わなくても、空腹など感じないだろう。そして、そのまま緩やかに死を迎えるのだ。………そんな終わり方が楽だろうか?流石に、それはダメか。リディアに怒られてしまう。元々あいつに会った頃の俺は、不摂生に次ぐ不養生な生活をしていた。………で、俺はあいつにこっぴどく叱られて、なんとかあいつの協力のもと、だいぶマシな生活になれたんだ。今では見る影もないが。

「………」

 俺は台所に行って、食料を探した。探したと言っても、並べられた保存食のうちどれが今の俺にでも食えそうか考えている、つまり、漁っているのだ。薄灰色の汚れた台所には、何段にも積み重なった缶詰ばかりが並んでいて、そのどれもがラベルも擦り切れて、何が何だかわからなくなっているが、どんなものをどこに置いたのかは大体覚えていたため、やはり俺は食べやすいシーフードの缶詰を取った。ちょっと他より大きいが、中は大半が水だ。かさましではない、しっかりとした水煮の汁だ。飲めるが飲みたくはない。

 俺はそれを手に取って、リビングのテーブルの上に置いた。缶詰のふちにナイフを突き立て入れて、無理やりこじ開ける。そもそもこの缶詰に取っ手がついていないのがいけないのだ、今どき缶詰の缶切りを持っている家なんてほぼいないだろう、メーカーの責任だ、と思いつつも、この缶詰は古いものなので、昔の人々向け、つまり、缶切りを持っていた世代用なので、やはり俺の責任か、とも思った。

 中は味気ない魚の水煮だった。味はあまりない。それでも、食感だけは十分だった。噛めばすぐに崩れて、中の骨もまた食べられる。面倒くさくなくていい………いや、片付けが楽でいい。……同じ意味か。


 俺はソファに寝転がった。研究所に行くまで後二日。それまでに、俺は何ができるのだろう。

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