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第一話 僅かな光

 ここは、通称「アイン・シュトゥルツ」。俺の暮らす場所であり………はあ、面倒だ。全て、俺が壊してしまいたい。俺が望むのは、復讐だけだ。


 俺は大きな通りを歩いていた。どこかで、子供の泣き声が発せられている。どこかで、だ。誰もそちらに顔すら向けようとしない。俺は顔を背けた。また、道端で人が倒れている。まだ若く、おおよそ三十代と言ったところだろうか、人生を手放すのには早すぎる年だ。皆、その男の横を平然と通り過ぎる。誰も関心を寄せていない。俺は、なるべく見ないようにしながら、その男から遠ざかった。

 俺の家は、大通りから脇にそれ、路地裏をちょっと進んだところにある。昔に建てた、二階建ての家。今も昔も変わらない姿で、俺を出迎える。コンクリートで作られた壁は、冷たかった。一人で暮らすには広い我が家。俺は失ってしまった一つの影に想いを馳せ、ソファに寝転がった。

 空腹だ。だが、問題ない。俺はさっき買ってきた食事を取り出した。それを、テーブルに並べる。左から見て、缶詰、缶詰、缶詰、缶詰、缶詰、缶詰………そして、缶詰。

「………はぁ………。」

 いくら缶詰が完成された保存技術だからと言って、ここまで缶詰ばかりにする必要はないじゃないか。俺はそう思いつつも、肉の缶詰を手に取った。それと、乾パンの缶詰も。俺は台所から水を持ってきて、肉と乾パンをそれにつけた。乾燥したまま食べてもいいが、それだと味気ない。より美味しくいただいた方が、体にもいい。

「ごっそさん。」

 俺は残りの缶詰を棚の陰に置き、再びソファに寝転がった。なんだか、今日は元気が出ない。いや、いつものことだが。今の俺には生きる目的がない。だから、こうして停滞している。いつまでも変わらない日を送っていて、良いのだろうか。こんな俺を見たら、リディアはどう思うだろうか。

「………じゃあ、仕事でも探すかな………。」

 そうだ、仕事を探そう。そうすれば、何か変わるかもしれない。前の仕事は諸事情で辞めてしまっただけで、俺が悪かったとかそう言うのじゃない。俺はまだ戻れる。しかし………。

「問題は、どうやって職場を見つけるかだな。」

 良い仕事を紹介してもらえる場所など、あるわけがない。いっそ、便利屋でも開いてみるか。いや、辞めておこう。あの仕事はやめておけとリディアに言われていた。彼女曰く、精神がやられる、のだそうだ。じゃあ、お前も便利屋辞めろよ、と言ってみたことがある。しかし、彼女は断った。なんでも、今は亡き師匠の意思を受け継ぎたいのだそうだ。そう言うことなら、俺も手伝わせてくれ、と言ったが、却下された。俺を辛い目に合わせたくなかったらしい。

「……頭が痛い。」

 いつのまにか、頭の中に流れ込んでくる記憶。俺はため息をついた。こんないつのものかわからない記憶、覚えていて何になるんだ。なら、もっと前向きなことを考えようじゃないか。現に今、仕事を探すと言う前向きなことをしようとしているんだ、じゃあそれついて………と、ここで俺の思考は中断された。俺の家の扉を叩いた誰かがいたからだ。

「なんだ?来客か。」

 ソファから身を起こし、重たい足取りで扉に向かう。一応、来客を確認する錠をかけて、扉を開けた。もし尋ねてきた人物が強盗だったりした場合でも、扉が完全に開ききらない仕組みだ。それに、玄関には撃退用のサーベルが置いてある。

「あ、あのう………研究に興味はありませんか?」

「………は………え……ん?」

 あまりの驚きように、言葉が出てこなかった。まず、来訪者が小柄で気弱そうな女性だったこと。そして、一人なこと。普通、護衛に何人か連れ歩く。そうでもしないと………まあ、これ以上は踏み込まない方がいい。暗黙のルールってものがある。次に驚いたのは、彼女が持っていたのが職場紹介のパンフレットだったことだ。仕事を探しに行こうとした矢先に、まさかこんなに都合がいいことが起きるなんて。

「あ………え〜っと………迷惑でしたら…」

「いえ、大丈夫です。俺も、ちょうど職場を探そうとしていたんです。」

 半ば強引に、そのパンフレットを貰う。ペラペラとめくり、大体の内容を把握する。速読は俺の特技だ。数秒もすれば、俺は大体の内容を把握できていた。まず、感情についての研究であること、危険を伴うこと、また、さまざまな社会福祉があること。とても好条件な職場だ。断る理由がない。

「………はい。こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」

 俺は笑顔で答えた。持てる限りの全力で。ずっと使っていなかった表情筋だったから、うまく笑えていたか不安だ。職場でお世話になるのだから、関係は良くしておきたい。信頼関係も築いておいた方がいいだろう。

「えっ、あ、ありがとうございます!」

 俺はその他の入社説明を受けた。職場の場所、主な仕事の流れ、リーダーの人柄など。


 夜になっていた。俺は誰も居なくなった玄関前で、星空を見上げていた。

「………俺、生きる意味を見つけたよ。」

 無念を晴らしてやるから。ポケットに入れたペンダントを固く握りしめた。もう二度と忘れないように。

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