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白月のエルフ  作者: 鳥部 本太郎
第二章 禁忌に抗う者たち

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16.エルフ脱獄大作戦_5

 

 白いローブの裾が地面に擦れないように、バンビは指で少しつまんで持ち上げながら山道を進んでいた。


 隣を歩くディンと共に、二人はまもなく白月の塔の正門へ辿り着こうとしている。


「正面から入るのは初めてだね」

 ディンが塔を見上げながら声を掛ける。


「そうですね。……ディン、あまりキョロキョロしないように。堂々としていましょう」

 バンビは小声で釘を刺した。


 肝心な時に何かやらかしそうなディンからは、目を離せない。


「アアラ、ちゃんと病院に帰ってるかな?」

 ディンがぽつりと呟く。


 バンビは胸元の懐中時計をローブの隙間から取り出し、時間を確かめた。

「六時十分か……検診は七時からと言っていましたね。病院はここからそう遠くありません。間に合うでしょう」

 そう言って懐中時計を懐へ戻す。


 五分ほど前にアアラを病院へ向かわせ、塔への潜入はバンビとディンの二人で行うことになっていた。

 潜入といっても、今回は正面から“眠り師”に扮して堂々と入る作戦だ。


 顔を隠す仮面を付けてはいるが、正体が露見すれば計画はすべて水の泡。細心の注意が求められる。


「もうすぐ出迎えがあるはずです」

 正門が見えてきた頃、バンビが声を落として言った。


 段取りは、父の残したメモのおかげで頭に入っている。


 司祭役の父はすでに塔の中にいるはずだ。


 メモにはこう記されていた。

 【午前5:30 案内人に従い白月の塔に入る。/午前6:00頃 眠り師達が到着して合流】


 塔の入口近くから、黒い仮面を付けた女性が二人の方へ歩み寄ってきた。仮面は顔の上半分を覆い、金色の模様が舞踏会を思わせる洒落た装飾を施している。


 眠り師が付ける、ただの丸面に黒く塗られた簡素な仮面とは大違いだった。


「眠り師様ですね。お待ちしておりました」

 女性は深々と頭を下げる。


「はい。あなたは案内人の方ですね。すみません、お待たせしました」

 バンビは声の高さを抑え、なるべく落ち着いた口調で返す。


「直ちに門を開けます。中へどうぞ」

 案内人は扉の前まで行き、鍵を差し込み、ぐるりと回した。


 ガチャン、と重い音が響く。

 扉は両開きになっており、右、左と順に押し開かれていく。軋む音が静かな空気を裂いた。


「どうぞ……お入り下さい」



 二人は塔の内部へ足を踏み入れた。

 中は想像以上に広いが、物が少なく殺風景なせいで広く感じるだけかもしれない。


 案内人は左側の扉を押して閉め、右側の扉に手を掛けた瞬間、ふと動きを止めた。


 外を覗き込み、何かを考え込むように周囲を見渡す。


「ど……どうかされましたか?」

 緊張で声が上ずりそうになるのを、バンビは必死に抑える。


「あ、いえ……眠り師様お二人と、“法術師様”の三名が来られると伺っておりましたので」


(法術師? ナリル先生のことか……)


「ああ、伝えていませんでしたね。途中で魔道車が故障してしまって。今、法術師様が修復をしてくださっています」


「まあ……そうでしたか。それは大変でしたね。ここで法術師様をお待ちになりますか?」


「いえ、修復がどれほどかかるかわかりません。私たちだけで儀式を遂行させて頂きます」


「……承知しました。では、お二人をエルフの元へご案内します」

 そう言って、案内人は入り口の扉を再び閉めた。


「こちらへどうぞ」


 塔の奥へと歩き出す案内人の背を追いながら、バンビは内心ほっと息をつく。


(今のところ順調……僕とディンの体格で怪しまれるのが一番の不安だったけど、問題なさそうですね)


 この女性も本物の眠り師と面識があるわけではないのだろう。

 怪しいと感じたら仮面を外すよう言われてもおかしくない。


 やがて案内人は格子状の扉の前に立ち、取っ手を握って横に引いた。

 キィィ、と高い音を立てて扉が開く。

 中は箱のように狭い空間で、壁際の棚の上に水晶が一つ、静かに置かれていた。


「では、中へお入りください」

 案内人の言葉に従い、二人は中へ足を踏み入れる。


(何だこの狭い部屋は……隠し部屋か?)


「では私はここまで。お二人は最上階へお進みください。長老と司祭様が上で待機しております。エルフも牢獄におりますので……」


 扉の外で深く頭を下げる案内人。



(……………………ん?)

 状況が飲み込めず、バンビは首をかしげた。


「あの……階段はどちらでしょうか?」


 案内人は一瞬沈黙し、ゆっくり首を傾げる。


「階段? え……階段から登られるんですか? 最上階まではかなりの高さがありますよ……」


「いや、他に方法があるんですか?」


 ──沈黙。

(しまった……変なこと言った? 怪しまれてる?)

 背中に冷や汗が流れる。


 案内人がようやく口を開いた。

「もしかして……魔導昇降機を使用されるのは初めてですか?」


「まどう……しょーこーき?」

 バンビは間の抜けた声を漏らしてしまった。


「はい。そちらの水晶に魔力を込めて頂ければ、最上階まで自動で昇りますので」


 バンビは振り返り、水晶を凝視する。


(な、何だそれ……聞いてないぞ。構成図にもなかった)


 サイコキネシスは使えるが、魔法はまるで使えない。

 水晶に魔力を込めろと言われても、やり方など知らない。


 横を見ると、ディンは額から滝のように汗を流し、仮面が風圧で上下するほど「ふしゅー、ふしゅー」と鼻息を漏らしていた。


(やばい……なんとか誤魔化さないと……!)



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