8.初めてのレベルアップ
【前回までのあらすじ】
転んで怪我をしたメイに「時間」スキルを使うと、あっという間に傷が治った。
汚れた服も元通り。
この力を使って仕事をするため、セツナは町の仲介役――酒場のミランダを訪ねるのだった。
昼過ぎの酒場はほどほどに空いている。
店主のミランダは、俗に言う肝っ玉母ちゃんみたいなどっしりとした人だった。
「あのよそ者嫌いのガンドが気に入るとはねぇ。あんたたち何ができるんだい?」
「メイは人間語が得意です!」
語彙力の豊富さは間違いないと思う。使い方はちょっと独特だけど。
「おしゃべりが特技なんだね。で、坊やは?」
「僕はええと……」
スキル名が「時間」じゃ伝わらないだろうな。
「修復系のスキルです。ただ、直せるものと直せないものがあります」
「修復系? そりゃすごい! ランクB以上じゃないかい?」
「上手くできないものもあるので、あんまり買いかぶらないでください」
「ちょっと見せてもらえると、あたしも人に紹介しやすいんだけどねぇ」
試験みたいだな。
僕はミランダさんが磨いているグラスを借りることにした。
グラスを高いところから床に落とす。
パリンと音がして、グラスが割れてしまった。
メイがわざとらしく驚く。
「あ、ああああ! たいへんだー! グラスが割れもうしたー! ものどもー! であえであえ!」
ミランダさんはジト目になった。
「で、ちゃんと直せるんだろうね?」
「もちろんです」
僕は割れたグラスに触れて「戻れ」と念じた。破片が集まりぴたりと吸い付いて、入ったヒビもすうっと元通り。
酒場の店主もこれにはにっこりだ。
「合格だよ。あんたら今夜はどうするんだい?」
「お金が無くて屋根のある場所で寝られるかどうかもわからないんです」
「うちの屋根裏部屋ならちょうど空いてるよ。行き場がないなら……そうだね。こういうのはどうだい? 仕事の斡旋料は宣伝費も込みで報酬の20%。仕事一件1000ギリカなら800ギリカが二人の取り分だ。家賃と朝夕の二食付き。裏手の公衆浴場も入り放題」
「え?」
「うちで住み込みで仕事してみないかって話さね」
「仕事が無かったら?」
「店の手伝いしてくれたら、本業が軌道に乗るまで面倒みたげるよ。ただし、あんたらも自分でちゃんと売り込むんだ。いいね?」
メイは両手と触手ツインテールを万歳させた。
「メイは良く働きますでしょう!」
ぴょこぴょこ動く触手にミランダはため息をつく。
「あんたやっぱり海魔族なんだね?」
「はい! そうですが!」
「ま、この町じゃ珍しくないけどさ。で、坊やの方はどうだい?」
渡りに船とはこのことだ。
「お世話になります。ミランダさん」
取り分の相場はわからない。けど、寝る場所と食事にお風呂までついてくるなんて好待遇に思えた。
奴隷にされて売り飛ばされるんじゃないなら、どこだって天国だ。
ミランダは腕組みすると頷いた。
「商談成立だね。じゃ、最初の仕事だけど、あんたらの寝床の掃除と行こうじゃないか。もう半年ほどしてないからねぇ」
ミランダからバケツやモップを借りた。
部屋の時間を戻せたとしても、綺麗になるまで半年かかる。
それなら僕とメイで掃除する方がよっぽど早い。
スキル「時間」はやっぱり万能じゃないんだと思った。
と、その時――
「ベッドありますね!」
「メイが使って。僕はいいから」
「ちょっと詰めれば一緒に寝られますよ!」
「ええと……」
女の子とくっついて寝るのはちょっとまずい気がするんだけど。
ただでさえメイに密着されるとドキドキしちゃうのに。
「それともアレですか? メイのお布団では寝られませんか!?」
俺の酒が飲めないのか感覚!?
「先生はメイをお嫌いにあそばせましたか!!」
金色の瞳に涙をたっぷりため込んで少女は訴える。
「わかった。一緒に寝るから」
「それは安心です。先生の温もりをメイは常々感じていたいのですから」
時々メイは僕の手に負えなくなる。
この先も振り回されそうだな。
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そんなこんなで僕とメイは修理屋を始めた。
売り込み文句は「今日、壊れた物ならなんでも直します」だ。
依頼が来るまでどれくらいかかるか心配だったけど、青果店のガンドが僕の活躍を広めてくれたらしい。
荷馬車の車軸をあっという間に直しちまった! あいつは天才修理屋だ!
みたいな感じだ。野次馬が多かったのも幸いした。
ミランダが酒場の掲示板に告知してくれたのも大きい。
修理屋の看板を掲げたその日に、さっそく依頼だ。
玩具や割れた花瓶なんかを預かって、屋根裏部屋で「時間」を戻す。
ついさっき壊れたようなものならいいけど、三時間前に割れた花瓶は三時間ずっと触りっぱなし。
幸い、中断してもそれまで「戻した」時間は蓄積されるみたいなので、時間さえあればちゃんと直すことができた。
落としてバラバラに砕けた陶器人形も綺麗に元通り。
なんでも限定品? だとかで商人からボーナスがもらえた。
ただ、全部が全部直しきれるわけじゃない。
大きすぎるものは無理みたいだ。
小舟や荷馬車の車軸くらいが直せる大きさの最大値っぽい。
経年劣化や寿命で壊れてしまったものもお手上げ。
精巧なオルゴールや仕掛け時計なんかだと、数時間戻しても中の部品の耐久性が保たない。
なので応急処置ということにした。
依頼主には専門の職人にきちんと修理してもらうのをおすすめする。
直したのにすぐ壊れた! と、なったら信用を失っちゃうしね。
細かく気をつけることで、ノートラブルで仕事を続けることができた。
修理で僕の手が塞がっている間、メイは酒場で給仕のお手伝い。
支給された制服はメイドっぽくてかわいらしい。よく似合ってる。
言葉遣いが面白いと評判も上々だ。
接客しながら「修理屋さんも始まりました! 壊れたらメイの先生が直すのです!」と、お客さんに宣伝をしてくれている。
メイは酒場で働き、僕は修理屋に専念した。謝礼金の20%を酒場の女店主に上納した。
依頼人はみんな「ありがとう!」「助かったよ!」「もう無理かと思ってた」「お父さんの形見なんだ」「また何かあったらよろしく頼むね!」と、満足してくれてる。
一週間もすると、全部の仕事を受けきれなくなった。
そして――
『スキルレベルが10になりました。単位指定に分が追加されました』
不意に僕の頭の中で透き通った不思議な声が響いた。
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