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9.屋根裏部屋からの追放

【前回までのあらすじ】

酒場の屋根裏部屋に住み込みで修理屋を始めたセツナとメイ。

順調に仕事をこなして町の人たちの信頼を得ていく。

すべてが順調に思えたのだが――

 単位が増えた。「秒」だけじゃなく「分」刻みにもできる。


 一秒触れている間に対象の時間を一分――つまり60秒戻せるってことだ。

 受けきれなかった仕事が全部片付いた。


 大繁盛。

 一ヶ月で、まとまったお金になる。

 この調子でいけば、港町で修理屋として幸せに暮らしていけそうだ。


 神様を探したいと言っていたメイも町に馴染んで、すっかり給仕係のお仕事が板に付いた。

 酒場の客と話すことで語学が堪能になったっぽい。

 使い方は相変わらずなので、ちょっと心配。


 毎日忙しかった。過去を忘れるのにはめまぐるしいくらいでちょうどいい。


 夜――


 狭い屋根裏部屋。ベッドから見上げる窓の外に月が浮かぶ。

 僕の隣でメイが子猫のように丸まっていた。すやすやとした寝息を立てて気持ちよさそうだ。


 独り、満月を見て思い出す。

 僕のスキルが「時間」でも、戻せるのは触れたものだけ。

 奴隷船で助けてくれた、あの女の子を救うことはもう、できない。


 今度は僕が護る番だ。

 メイがこの暮らしを気に入ってるなら、続けていこう。

 目を閉じるとスッと意識が闇に溶けて消えた。


 翌朝――


 困ったことになった。

 酒場のカウンターを挟んでミランダが僕に言う。


「これじゃ酒場の営業ができないねぇ」


 ランチ前の開店準備中にもかかわらず、酒場の前に長蛇の列が出来ていた。

 半分はメイが目当ての男性客。

 もう半分は僕の修理屋への依頼だった。


「というわけだからさ、出て行っておくれよ」


 ミランダがため息交じりに言う。

 メイが両手でほっぺたを挟むようにして悲鳴をあげた。


「なんですとおおおおお!」

「なんでもなにも、評判良すぎても困るんだよ。仕入れも仕込みもいっぱいいっぱいで、修理屋の受付までして、あたしゃ目が回りっぱなしさね」


 せっかく手に入れた居場所なのに、商売が上手くいきすぎて追い出されるなんて。


「仕込みも仕入れも僕が手伝います!」

「メイもやってますがなぜ悲しき別れを持ち出すのか!? これがわからない!」


 腕組みするとミランダは言う。


「坊やはちゃんと謝礼金の二割をあたしに預けてくれたね。普通はちょろまかしたりするもんなんだけどさ」

「そういうものなんですか?」

「本当に世間知らずの甘ちゃんだね。けど、坊やはちゃんと筋を通した」

「なら、ここに置いてください! 僕らには居場所が必要なんです!」

「うちは修理屋じゃなくて酒場なのよ」


 そう言うとミランダはカウンターに鍵を置いた。


「あんたの収めた二割のうち、一割はうちの取り分。残りの一割で家を借りてあげたから、そっちに住みなさい。町の中心からはちょっと離れてるけど、屋根裏よりはずっといいだろう」


 メイが触手ツインテールをぴょこぴょこ跳ねさせて万歳する。


「先生は一国一城の主ですか!?」

「そういうこったよメイちゃん。ちゃんとベッドルームは一つだけの物件だから、仲良くやんな」

「はい! 先生とメイはとても仲良しさんですね! わかります!」


 仲良しにも色々あることを、メイはまだ知らないんだと思う。

 ちょっと恥ずかしいな。

 ここまで考えてくれてたなんて。

 僕は女店主に頭を下げる。


「ありがとうございます。ミランダさん」

「あんたの修理は評判もいいし、直せないものは応急処置ってことで、ちゃんと依頼人に伝えてるってのも気に入ったのさ。世の中、理不尽なこともやからも多いけど、坊やは……いや、もう坊やは失礼だね。あんたは変わらず立派にやんなよセツナ」


 新居の鍵を受け取る。


 引っ越しというには手荷物すらないけど、こうして酒場の屋根裏暮らし生活は一ヶ月で幕を閉じた。

お読みいただき、ありがとうございます!


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