90話:テテフの夢と探し物
~ 『Ocean World (海洋世界)』に渡航する1日前 ~
つまりは『Closed World (閉じられた世界)』から隠れ家への帰還したその日。
ロビーのソファーに座ったおじいちゃんが「ふぅ~」と一息つき、それから神妙な面持ちで“今後の話”を始めた。
「さて、明日は『Ocean World (海洋世界)』へ行ってもらおうか」
「えっ、何で『Ocean World (海洋世界)』に? 洞窟の下見はしたんだから、今度こそ本格的に『原始の扉』を探すんじゃないの?」
「残念ながら、その為に必要な“番貝”を持っておらん」
「あー、あの貝か」
別名は夫婦貝。
常に相方がいる方を示す習性があるらしく、覇者:レオパルド曰く洞窟探索の必需品との話だった。
「っていうかおじいちゃん、洞窟で迷ったらどうするつもりだったの? 蓄熱光石を分かれ道に置いても駄目だって、レオパルドもそう言ってたよ?」
「ホッホッホッ。近頃は歳のせいか物忘れが酷くてな、昔の話など忘れた」
「そんな訳ないでしょ。都合よく年寄りぶらないでよ」
「ホッホッホ。それ以上問い詰めるとキレるぞ? いいのか? ワシがキレたら手が付けられんぞ?」
「………………(駄目だ、質が悪すぎる)」
近頃の老人は物忘れが酷い上に、凄く簡単にキレるらしい。
近所にこんな人がいたら引っ越しを考えるレベルだけど、幸か不幸かタダで住ませて貰っている立場では、強く言い返せないのが痛いところ。
ため息を1つ「はぁ~~」と吐き、それからボクは話を元のレールに戻す。
「確認だけど、『Ocean World (海洋世界)』に行って番貝を捕って来ればいいんだね?」
「左様。アレは『Ocean World (海洋世界)』にしか生息しない珍種の貝じゃからな。市場に出回っておるモノもあるにはあるが、貴重な代物で中々に値が張る。タダで手に入るならそれに越したことは無い」
「わかったよ。捕る際に何か注意点とかある?」
「いや、特には無い。簡単な“密猟”じゃからな」
……ん?
文脈に何か引っかかりがある。
と言うか、誰でもそこを気にするだろう。
「いやいや、流石に密猟は駄目じゃない? 『Fantasy World (幻想世界)』でも幻獣の密猟で捕まった訳だし」
「そうは言っても致し方なかろう。『秘密結社』が狩猟許可など取れる筈も無い。バレぬようこっそりとやるんじゃ」
「………………」
「“脱獄者”が何を躊躇っておる? お主は既に立派な犯罪者。今更小さな罪を1つ2つ重ねたところで何も変わらん」
「ぐっ」
この言葉はグサリと刺さった。
今更だけど、相当後戻り出来ない状況にボクは自分の身を置いているらしい。
「わかったよ。毒を食らわば皿までって言うしね」
最早どうにでもなれ。
少々どころか完全に投げやりな答えを返し、さっさとシャワーでも浴びようかと歩を進めたところで「あ!!」と声がした。
「ドラの助だ~。何処にもいないと思ったら、やっぱりもじゃる丸が連れ去ってたんだ」
パルフェが2階の手すりから顔を覗かせ、螺旋階段をトトトッと降りて来る。
そのすぐ近くにいたテテフは手すりをヒョイと飛び越え、宙に浮ける“魂乃炎”を使うことなく、ボクの目の前にストンッと着地。
すぐさまズイッと顔を寄せて来た。
「おい、何処行ってた? 肉の買い出しか?」
「違うよ。ちょっと『Closed World (閉じられた世界)』に行ってたんだ」
「えぇ~? ドラの助だけズルーい。私達も行きたかったのに」
降りて来た不満げにパルフェが頬を膨らませ、その隣でテテフが「うんうん」と頷く。
「パル姉の言う通りだ。何でお前だけ勝手に行った? 肉祭りでもやってたのか?」
「……うん、テテフはちょっとお肉から離れようか」
会話に無駄なお肉が入って来て一向に話が進まない。
そもそも「肉祭り」って何?
語感にパワーがあり過ぎてむしろ興味が湧いたけど、そこを掘り返すと話が長くなりそうなので止めておこう。
――というやり取りを経て、早くも見兼ねたおじいちゃん。
これ以上無駄話を長引かせてなるものかと言わんばかりに、「オホンッ」と咳払いしてから口を開く。
「こやつには“下見”をさせて来たんじゃ。計画を一段階進めようと思うてな」
「ふ~ん、そうなんだ。っていうか計画って何だっけ? 毎日楽しく過ごすこと?」
「違うぞパル姉。毎日美味しい肉を食うことだ」
「どちらも違うわ馬鹿者。旧世界:地球へ向かう作戦をいよいよ本格始動するんじゃ」
このおじいちゃんの台詞で。
「あー、そう言えばそんな話があったかも?」とおぼろげに思い出したパルフェに対し、テテフは「はて?」と首を捻る。
思い返すと、組織の目的を聞いたのはテテフがコノハの治療を受けていた時だ。
その場に居なかった彼女が知らないのも無理ない。
それからボクはおじいちゃんに頼み、今一度『秘密結社:朝霧 《アサギリ》(←この名前すらパルフェは覚えてなかった)』の目的を振り返ってもらった。
覚えておくべき要点はそんなに多くはない。
その1。
最終目標は『世界管理術』。
新たな世界を創造出来る、神の“魂乃炎”を入手すること。
その2。
『世界管理術』は、既に存在しないと思っていた旧世界の『地球』に眠っている。
その3。
旧世界の『地球』へ行く為には、特別な世界扉である『原始の扉』を使う必要がある。
その4。
『原始の扉』は4つ存在し、その内の1つは『Closed World (閉じられた世界)』の洞窟にある。
これらの話を簡単に振り返り。
全てを聞き終えたテテフの目は、猛暑日の太陽並みにギラギラと輝いていた。
「肉だ!! 肉祭りだ!! おいジジイッ、肉食べ放題の世界も創れるのか!?」
「その世界の是非はさて置き、可能かどうかで言えば可能じゃろうな」
「よし、アタシは地球に行くぞ!! 今すぐだ!! 急げジジイ!! 肉が腐る!!」
「……狐の娘っ子よ、もうちょっと口の利き方には気を付けろ。キレるぞ?」
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――
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かくして。
洞窟探索の必需品となる番貝を捕りに、ボク等は『Ocean World (海洋世界)』へやって来た次第だ。
初日はバカンス気分満載のパルフェ達に流され、ただただ海で楽しく遊んだだけに終わったけど……まぁ頑張るのは明日からでもいいだろう。
パルフェのマッサージで体調も万全になったことだし、明日に備えてそろそろ就寝に――。
「次、ドラの助が私をマッサージする番ね」
「えっ、ボクがするの? やるのは苦手なんだけど……」
「何事も経験だよ。互いに互いを癒せたら最強でしょ? ほらほら早く~」
ウキウキ顔でパルフェがうつ伏せに寝て、足をバタバタとしながらボクを急かす。
慣れないことで気が進まないけれど、マッサージしてもらって何もお返ししないのは不義理か。
「一応頑張ってはみるけど、下手でも怒らないでね?」
「大丈夫だよ。この前マッサージしてもらった時、私すっごく気持ちよかったもん。ドラの助はマッサージ師の才能あるよ。神の手を持つ男だね。まぁ男っていうか男の娘って感じだけど。あははははっ――いたッ!?」
■
~ 翌朝(午前4時前) ~
太陽が昇り始める前に、ボクは静かに目を覚ました。
隣に目を向ければ、大きなベッドの上でパルフェとテテフが気持ちよさそうに眠っている。
そんな彼女達を尻目にこっそりと部屋を後にし、そのままホテルの外に出る。
目の前には見渡す限りの大海原が広がっておりオーシャンビューには事欠かないけれど、“大陸が存在しないこの世界”においては、オーシャンビューではない場所を探す方が大変か。
――『Ocean World (海洋世界)』。
全てが海で満たされた海洋生物の楽園。
先にも述べた通り“大陸が存在しない”故に、ボクみたいな普通の人間が過ごせる場所は非常に限られている。
その限られた場所の一つが「観光島」だ。
氷山みたいに海の上を漂う人口の島で、現在ボク等が滞在しているのも観光島の一つである『アーロラ島』となっている。
「さてと、日が明ける前に番貝を捕らないとね。ちゃんと仕事しないとおじいちゃんに怒られちゃう」
昨夜パルフェにも説明したけど、ボクがこの世界に来たのは番貝捕獲の為だ。
彼女達がどれだけ遊ぼうと勝手だけど、ボクまで一緒に遊んでいては話が進まない。
(確か海岸沿いの岩場に生息してるって、出かける前におじいちゃんが言ってたっけ? とりあえず昨日のビーチに行ってみるか)
と言っても、目の前が海なので移動に時間はかからない。
ものの十数秒でビーチに到着。
全てを飲み込みそうな暗い海の不気味さを尻目に、ボクは一人で散策を始めた。




