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48話:黒ヘビと始める無人島生活

 ~ 無人島生活1日目 ~

 

 初めて訪れた『Japan World (武士世界)』の太陽は、既に真上を大きく過ぎている。

 この絶海の孤島におけるボクの目標は「黒ヘビを飼い慣らすこと」だけど、何をするにしてもコンディションを整えなければ始まらない。


「傷の手当はしてもらったけど、流石に身体へのダメージが大き過ぎる。まずは何か食べて、体力を回復しないと……」


 翌日には傷が治り、元通りになっていた地獄とは違う。

 血も流し過ぎたし、このまま空腹で倒れて動けなくなると“詰む”可能性もあるだろう。

 お腹が「グ~」と鳴り、ボクの視線は綺麗な海原の景色ではなく、後方にある緑が濃い野山に向いた。


「とりあえず島を回ってみるか。妖怪がいるって言ってたけど、動ける内に水も確保したいし」


 ボクに要件を伝えた後、おじいちゃんは「隠れ家(アジト)へ帰る」と口にして早々にその姿を消している。

 どうやって帰ったのかは知らないけれど、連絡手段は無く、頼れる相手もいない以上、まずはこの命を明日に繋がなければならない。


(泣き言を言っても始まらないし、今出来ることを精一杯やろう。地獄での4000年に比べたら全然マシだよ)


 右腕を無くして以前よりも弱くなってしまったボクに、ようやく見えてきた希望の光。

 楽観視は出来ないものの、絶望する様な状況でもない。

 痛む身体で足を踏み出し、それからしばらくは食べ物を求めて山の中を散策した。


 ――結果。

 日が暮れる前に“良いこと”と“悪いこと”が判明する。


 先に良いことから言っておくと、山の中で小さな沢を見つけた。

 これで少なくとも飲み水に困ることは無いだろう。

 

(まぁ、沢の近くにいる“妖怪”をどうにかすればだけど……)

 

 “悪いこと”とは、この化け物のことだ。

 全体的には人型ながらも、どういう訳か頭が「釜」。

 身長は2メートル程で、手と足の先以外は身体全体に黒い毛がうじゃうじゃと生えている。


 見るだけで鳥肌が立つ不気味な出で立ちだけど、アレがおじいちゃんの言っていた「妖怪」に間違いない。

 死人から生まれた『Japan World (武士世界)』固有の化け物だ。


(元が人間ってのは流石に気が引けるけど……やるしかないよね。アレはもう人間じゃないんだから)


 釜の妖怪が動く気配は無く、水を飲むためにはアレを何とかするしかない。

 これは遊びではないのだと、自分へ言い聞かせるように左手でナイフを握り締め、駆けだす!!


 一瞬で距離を詰め。

 釜の妖怪に一撃を入れた――その一撃が、頭の釜で“弾かれる”!!


(反応されたッ!?)

 

 ナイフを弾き返した釜の妖怪。

 今度は自分の番だとばかりに、釜の頭で頭突きを繰り出してくる!!


「くッ!?」


 1発2発と頭突きを避けつつ、こちらも隙を見て反撃を入れる。

 しかし、それら全てが釜の頭で防がれる!!


(ちょッ、どんな反応速度してんの!?)


 頭突きを繰り出したその頭で、ボクの一撃を防ぐ釜の妖怪。

 明らかに並の反応速度ではない。


(この妖怪、普通に強い……ッ!!)


 今更ながらボクは思い出す。

 おじいちゃんの去り際、その最後の言葉を――。

 


『ホッホッホッ。島の妖怪を甘く見るでないぞ? 今のお主では勝てぬ猛者ばかりじゃろうが……まぁ死なん程度に頑張れ』



 おじいちゃんは確かに言った。

 この島にいる妖怪は、今のボクでは勝てない相手だと。


 事実、それを実感するだけの“純粋な強さ”をこの釜の妖怪には感じる。

 2発、3発とナイフを振るったところで、相手に致命傷を与えられる手応えを一切感じられい。


(駄目だ、本当に勝てない……ッ!!)


 現実を痛感した今のボクに出来ることは、釜の妖怪から必死に逃げることだけだった。



 ■



 ~ 無人島生活2日目 ~


「ぷはーッ、生き返った!!」


 天国にも昇る気分とは正にこのことか。

 日が昇り、改めてやって来た昨日の沢に「釜の妖怪」はおらず、ボクは乾き切った喉をこれでもかと潤した次第だ。

 これで当面の活力は取り戻し、今日一日に淡い希望を抱くことが出来る。


(とは言え、黒ヘビに関しては相変わらずさっぱりだよ。うんともすんとも言わないし、はてさてどうしたものか……)


 “バグを操れ”とおじいちゃんは言うけれど、操る以前にそもそも姿を見せてくれない。

 まずは右肩から出てきて貰わないと何も始まらないもが、「ぎゅるるる~」と鳴ったボクのお腹が優先順位の列に割り込んでくる。


「流石にそろそろ何か食べないとマズいね。海に魚はいるだろうけど……海水が傷に染みそうで嫌だなぁ。身体中傷だらけで塞がってない傷も多いし。――うん。海は最終手段にしとこう」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



「おっ、コレは……どうだ?」


 海の幸が駄目なら山の幸、という訳で。

 山に入って10分、ついに食べ物を見つけた。

 背が低いつたみたいな枝の木に、紫色で手のひらサイズの果実が沢山実っている。

 既に熟成が始まっているのか、その果実の半分程は紫色の皮が割れて、黒い種を内包した白いジェルみたいな物が確認できる。


「独特の甘い香りがするね。変わった見た目だけど食べれるのかな?」


 『世界管理学園』で色々と習ったとはいっても、『Japan World (日本世界)』の植物まで詳しく習った訳でもない。

 沢の水はそのまま飲めても、流石に食べ物となると毒があるかどうか心配だ。


(果実に毒がある場合、大抵は“種”の方に毒があるって聞いたことあるけど……とはいえだね)


 下手に知らないモノを口にして、そのまま死んでしまう展開は流石に避けたい。

 誰か毒見でもしてくれたらいいのに、なんてあり得ない期待を抱いたところで――


「痛ッ!?」

 

 右肩に痛みが走った。

 そして――パクリ。



 “黒ヘビが果実を食べた”。



「………………」


 ただ呆然と見守ることしか出来ない。

 ボクの右肩から『バグ』の黒ヘビが出て来て、紫色の果実を丸飲みにしたのだ。

 そのままボクの目の前でモグモグと咀嚼し、美味しそうに喉をグルルルと鳴らしている。


(何これ、どういう状況? 何もしてないのに黒ヘビが出て来たんだけど……ん? なんか口の中が甘い様な……)


 最初は気のせいかなと思ったけれど、そうではない。

 確実にボクの口の中が甘い。

 今まで味わった事のない初めての甘みだけれど、口の中に感じるこの甘みは、紫色の果実から漂って来る香りから連想された甘みだ。


 つまりこれは、もしかして――。


「ボクと黒ヘビの味覚が“繋がってる”?」



 ■



 ~ 無人島生活3日目 ~


 昨日、丸一日かけて黒ヘビについて調べてみた。

 結果、わかったことがいくつかある。

 

 1つ、“ボクと黒ヘビは味覚を共有している”。


 これについては紫色の果実で実証済みだ。

 どういう理屈かは知らないけれど、身体に寄生されている為だとしか言いようがない。


 2つ、“黒ヘビは甘党らしい”。


 普段はボクの身体の中に隠れている黒ヘビだけど、甘い果実を食べる時だけは、勝手に身体から出て来るようになった。

 それもキノコや山菜を食べる時は姿を見せず、紫色の甘い果実を食べる時だけ、赤い瞳を嬉しそうに光らせながら右肩から出て来る。

 これはもう「甘党認定」して間違いない。


 3つ、“黒ヘビを制御出来る気がしない”。


 ――何を差し置いても問題はここだ。


「はぁ~、おじいちゃんは『バグ』を操れって言うけど、何をどうすれば操れるようになるんだろう?」


 まずはコミュニケーションを取ってみよう。

 そう思って話しかけても無視されるし、その上触ろうとすると「シャァアーッ!!」とボクを威嚇して、身体の中に引っ込んでしまう。

 黒ヘビが出て来る際の“痛み”は徐々に落ち着いてきたけれど、これは操る以前の問題だ。

 ボクも甘いモノは好きだし、ここは同じ甘党同士、手と手を取り合って仲良くしたいところだけれど、生憎黒ヘビには取り合う為の手が無い。


「さぁ出て来い、そして動け~~」


 何とか黒ヘビを操ろうと念じてみるも、目ぼしい成果が出ないまま日が暮れていった。



 ■



 ~ 更に1週間後(無人島生活11日目) ~


 これといった成果も出ないまま、ボクは島の海岸沿いを徘徊していた。


「はぁ~、どうやったら黒ヘビを扱えるようになるんだろう? 果実を食べる時しか出てこないし、妖怪にも未だ勝てないし……」


 窯の妖怪、だけではない。

 おじいちゃんの言葉に嘘偽りはなく、出会う妖怪の全てが本当にボクより強かった。

 相性がどうこうという話ではなく、純粋に素の強さが違う。

 技の出せない左手のナイフ捌きで勝てる相手ではなく、未だにこれといった勝機を見いだせないまま敗走を重ね続けている。


(食事もキノコと山菜ばっかりで飽きた。魚も1週間食べて流石に飽きたよ……)


 緑の濃い山と豊かな海に囲まれた絶海の孤島。

 食料は豊富なので死なない程度には食べられるけれど、やっぱり同じような食事ばかりだと飽きが来る。

 贅沢な悩みだとはわかりつつも、別の食べ物を欲してしまうのは致し方のないことだろう。


「もっと体力も付けたいし、お肉でも食べられれば最高なんだけど……ん?」


 ガサゴソと、近くの茂みが激しく揺れた。

 鹿か、猪か、どちらにせよお肉だ!!


 そう思ったのも束の間。

 茂みから現れたのは、体長2メートル程の“牛の顔をした巨大な蜘蛛”だった。

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