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42話:神の魂乃炎《アトリビュート》:『世界管理術』

 ~ 幽霊屋敷のお風呂場にて ~


 ――そろそろ湯船から上がろう。

 そう思って立ち上がると、浴室の入口に佇んでいる一糸纏わぬパルフェを発見してしまった。


「ちょッ、何で入って来たの!? ボクが入ってるのわかるでしょ!?」


 後ろを向きつつ、慌てて湯船に浸かり直す。

 先ほど目に焼き付いた光景を忘れようとボクが叫ぶと、背中から「だってぇ~」と情けない声が届く。


「こんな幽霊屋敷に一人でいろって言う方が無理だよ~。ロビーに戻っても髭モジャな“もじゃる丸”しかいなかったし」


「あ~、それは……」


 いざ反論されると彼女の気持ちが分からなくもない。

 見知らぬ不気味な家で、見知らぬ人達と一緒にいろと言われても、それはそれで確かに困るだろう。

 これはボクの配慮が足りなかったと言われてもしょうがない……のか?


 まぁ責任の所在が何処にあるにせよ。

 一緒にゴミ山を歩いたパルフェにも“匂い”は移っていた筈で、彼女としても早めに身体を洗いたかった気持ちもあっただろう。

 そもそも風呂場に入って来たパルフェを追い返す術は持たないし、彼女が浴び始めたシャワーを止める術も無い。



「「………………」」



 しばし、シャワーの音だけが響く無言の時間が過ぎる。

 非情に気まずい時間だ。


 はてさて、これはどうしたものか。 

 いっそのこと目を瞑ったまま浴室から出ようかと悩み始めたところで、今更ながら「大事な話」を聞いていなかったことに気づく。


「そう言えば、あの獣人族の子は大丈夫そう?」


「あ、うん。もう大丈夫だと思うよ。酷い栄養失調だって言ってたけど、物凄~い点滴するから問題ないって。頭の傷もそんなに大きなモノじゃないみたいだから、安静にしてればすぐ元気になるみたい」


「そっか、なら良かった。パルフェが頑張って運んでくれたおかげだね」


「えへへへ」


 嬉しそうな声が聞こえたところで、途切れることなく続いていたシャワーの音が鳴り止んだ。

 そのまま彼女がお風呂場を出て行くことも無く、「ちゃぽんッ」と同じ湯船に入ってくる。


 しかも、ボクのすぐ真後ろ。

 多少なりとも気恥ずかしさを覚えてしまったボクの心臓が動機を早める中、パルフェの手がそっとボクの身体に触れる。


 ボクの身体、その右肩。

 右腕を無くした「切断面」に。


「……ゴメンね」


 背中から聞こえて来た悲しげな、そして悔し気な声に、ボクは背を向けることを辞めた。

 水面を僅かに揺らして振り返り、互いに裸のまま、やっぱり恥ずかしいけれど、それを堪えて、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 それから柔らかい頬に左手を添え、告げる。


「全然大丈夫だよ。右腕が無くても、ボクは『AtoA』で一番強くなるから。約束したでしょ? それとも約束を忘れたの?」


「ううん、忘れるわけないよ。約束したもん」


「じゃあボクを信じて。約束は絶対守るから」


「うん……うん、信じてるから」


 今にも泣きだしそうな顔で、今にも消えてしまいそうな声で、それでも確かに頷いたパルフェ。

 その華奢な左手の小指に、ボクはしばらく悩んだ末に、自分の小指を絡ませておいた。



 ■



 至れり尽くせり。

 という言葉が相応しいのかどうかは知らないけれど、脱衣所には着替えが用意されていた。

 動きやすそうなパーカーと短パンが恐らくボク用で、モコモコな牛柄のパジャマはパルフェ用か。


 そのパルフェ曰く、可哀想なあだ名を付けられた「変態ドク美」こと医者のコノハが用意してくれたらしい。 

 アレで案外優しいところもあるんだなと、少し失礼な感想を覚えつつ着替えを済ませる。


 その後、相変わらず幽霊屋敷みたいなロビーに戻って来ると、早速おじいちゃんにからかわれた。


「ホッホッホッ。来て早々、いきなり女子おなごと風呂に入るとはな。お主も中々やるではないか」


「そういう茶化しは要らないよ。何も無かったし」


 一体何を勘違いしているのか知らないけれど、ボクとパルフェはそういう関係ではない。


「えへへへ、ドラの助って意外と大胆なんだね♪」


「……おいドラノアよ、娘っ子がこう言うとるが?」


「だから何も無かったって」


 仮に何かあったとしても、湯船から出る際に足を滑らせ、彼女を押し倒してしまった程度の事。

 ボクの意思で能動的に触れた訳でもなく、逆説的な考えで言えば「何も無かった」と言って差し支えない。


(全く、パルフェのせいで変な誤解が生まれちゃったよ)


 おかげで益々訝しむおじいちゃんの視線が痛いけれど――ともあれ、ようやくだ。

 ボクの脱獄に手を貸してくれたおじいちゃんの話、その目的をようやく聞くことが出来る。

 古びたソファーにパルフェと並んで座り、早速ボクから話を切り出す。


「それで、おじいちゃんは何者なの? どうしてボクをここに?」


「うおっほん」と、ワザとらしい咳払いを入れ。

 それからおじいちゃんはいきなり核心を突く。


「――ワシは“グラハム”。この『秘密結社:朝霧アサギリ』の長じゃ。そして組織の目的は、『世界管理術』を手に入れることにある」


「「『世界管理術』?」」


 ボクとパルフェ、二人の声が揃う。

 キョトン以外の何物でもないその反応に、おじいちゃんはさも当然と肩を竦めた。


「まぁ普通に生きておったら知らんじゃろうな。新しい世界を――使用者の望む“新世界”を創造出来る神の“魂乃炎アトリビュート”、それが『世界管理術』じゃ」


「いやいやいや、新世界の創造だなんて。そんな凄い“魂乃炎アトリビュート”がある訳……え、本当にあるの?」


「ある。『世界管理術』は実在する。手に入れることさえ出来れば、お主にも使用可能じゃろう」


「ボクにも使える、神の“魂乃炎アトリビュート”……?」


 これは凄く魅力的だ。

 才能に恵まれなかったボクにも“魂乃炎アトリビュート”が使えて、しかもボクが望んだ新世界を創れるらしい。

 あまりにも魅力的過ぎて、流石に「怪しさ」の方が打ち勝ってしまうレベルで。


「おじいちゃん、悪いけど今の話を信じろってのも無理な話だよ。何か証拠でも見せて貰えないと」


「そんなモノは無い。管理局もその存在をひた隠しにしておるからな。ただし、何処にあるかはわかっておる。――“あそこ”じゃ」


「あそこ?」


 おじいちゃんが目線で示したのは、壁に掛けられた1枚の地図。

 異様に古びていること以外、海があって大陸もある普通の地図に見える。


「あの地図がどうしたの?」


「どの世界の地図かわかるか?」


「う~ん、それはちょっとわかんないかな。ボクが育った『After World (はじまりの世界)』の地図じゃないことは確かだけど……」


 世界管理学園で色々学んだと言っても、流石に26個もある『AtoA』全世界の地図を頭に入れている訳ではない。

 一体どの世界の地図だろうと悩み、悩んだところでわかる訳もなく、必然的に「降参」を選びかけたところで、隣のパルフェが「あっ」と声を上げる。


「これ、もしかして“旧世界”の地図じゃない?」


「旧世界? 旧世界って……確か『地球』って名前だっけ?」


「うん。『AtoA』を26個に分ける前の世界だよ。家でこんな形の地図見たことあるもん。そうでしょ?」


 パルフェが自信に満ちた顔を向けると、おじいちゃんがゆっくり頷く。


「正解じゃ。まさかお前さんが当てるとは思わなんだが、この地図は『AtoA』の前身たる旧世界:地球に間違いない」


「やった!! 私ってば頭良くない?」


 ソファーの上でえっへんと胸を張るパルフェ。

 そのままズイッと頭を差し出してきたので、「偉い偉い」と適当な言葉を掛けながら頭を撫でつつ、視線はおじいちゃんに向ける。


「これが旧世界の地図だってのはわかったけど、それが『世界管理術』とどう繋がるの? まさか旧世界:地球に『世界管理術』がある、って話じゃないよね」


「いや、その“まさか”じゃ。『秘密結社:朝霧アサギリ』は旧世界の地球を目指し、『世界管理術』を手に入れる為の組織。――お主には、その為の“切り込み隊長”として働いてもらう」


「……へ?」

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