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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
30 森の中の素敵なおうち編!
724/724

724 今回の教訓

 深い、青だ。




「「............」」




 ダラケルスとフレットは、戦闘で焼け焦げた小さな草原の上に仰向けになり、雲一つない初夏の空を眺めていた。

 吹く風は心地良いそよ風で、降り注ぐ日差しはポカポカと暖かい......。


 が、二人は別に、仲良く日向ぼっこをしているわけではない。

 疲労困ばいであるが故に、動く気力が湧かないだけだ。




「............」


 それから、10分程度の時間をかけて。

 なんとか起き上がるだけの気力を充実させたフレットは、無言のまま上半身を起こし、すっかりフレームが歪みレンズにヒビの入った眼鏡をついと指で押し上げて......隠れ家を、ヒドゥン・インヘリターを眺めた。


 未だにパチパチと小さな火花を散らし、黒煙を細く噴き出しているそれは、もはや誰がなんと言おうとも、“残骸”であった。

 まず、キノコの如く上に伸びていた隠れ家部分は完全に吹き飛び、なくなっていた。

 フレットが魔力貯蔵器を撃ち抜いたことにより発生した爆発で、消滅したのだ。


 本来であればフレット達も、その爆発に巻き込まれて死んでいても、おかしくはなかった。

 追い詰められ、極限状態であったとは言え、ずいぶんと無茶なことをしたものだ。


 何故彼らが生きているのかと言えば、それはエミーのおかげだ。


 フレットの弾丸が魔力貯蔵器を破壊し、魔力が暴走し爆発を起こすまでの数秒間で......エミーはヒドゥン・インヘリターの周囲をぐるぐると、肩から伸ばしたあの不気味でどす黒い巨腕を使って囲み、壁を作ったのだ。

 おかげで爆風や炎はフレットたちを焼かず、天高く吹き上がった。

 その威力たるや凄まじく、まるで童話に出てきそうなかわいらしい外観のあの隠れ家は、すっかり消滅してしまったというわけだ。


 一方、地下から這い出てきたセミの幼虫のような部分は、辛うじてある程度の姿を残していた。

 あくまでも、ある程度だ。

 すっかり黒焦げになっているし、半分以上は吹き飛んでなくなっている......これではあの中に隠されていた魔道具、あるいは設計図等のギャシキヌーの遺産は......すっかり焼き尽くされてしまっているだろう。


 遺産を手に入れて、ゼナーリニに凱旋、跡継ぎに返り咲き、弟を見返し、栄光の未来へ......。

 今、こうして......少し落ち着いてみると、わかる。

 具体性のない、吹けば飛ぶような未来図だ。

 どうしてあの日......フル商会の後継から外されたあの日、この未来図片手に家を飛び出すことができたのか......全くわからない。

 今のフレットは、ちゃんとそう思える程度には、冷静だった。

 長年頭の中に巣くっていた“靄”が晴れ、実に思考が明晰になった気分だった。


 しかし、まあ。

 あまり具体性のないもので、あったとは言え、それはここ数日の彼が生きるための精神的支柱ではあったのだ。

 それが、すっかり燃え尽き、煤となってしまった。


 フレットは途方に暮れ、静かに頭を抱えた。




「......で、どうするよ、ここから」




 するとここで、心底疲れ切った......そんな声色を乗せた言葉を後ろから投げかけられ、フレットはゆっくりと振り返った。

 それは、ダラケルスの声だ。

 ダラケルスは未だ起き上がる気力も湧かないらしく、草むらの上で仰向けになり、ぼんやりと青空を見上げていた。


「先程の、爆発ッ......おそらくゼナーリニからも、観測されていただろうッ、故にッ......」


「あと数日もすれば、オレみたいに小遣いが欲しい斥候系の冒険者たちが、状況確認依頼を受けて調査に来るだろうよ」


「そうだッ......だから私はッ、その連中に保護をッ......」


「ばーか」


「なッ......」


 突然の、罵倒!

 フレットは顔を赤らめすぐさま10倍の語彙量で怒鳴ろうとしたが、口が動かなかった。

 疲れていたからだ。




「その前に、あいつらが動く」


 フレットが反応を返す前に、ダラケルスがようやく起き上がりながら目線をやったのは、間抜けにも頭から地面に突き刺さったままの黒服達......ドンゴズゴズ会の構成員たちだ。

 身動き一つしていないが、死んでいるとも思えない。

 この世界の住民は、大概が丈夫である。


「だからッ、なんだッ......」


「今回、あいつらが地面に突き刺さってんのは、ほとんど自滅だ」


「そうだッ」


「だが、その事実に、連中の上層部は納得しねぇ......」


「はあッ!?」


「誰かを悪者にしてケジメをつけなきゃ、腹の虫がおさまんねぇのよ」


 社会の底辺に身を置き、闇組織の有様を遠巻きに眺めてきたダラケルスは、理解していた。

 暴力を至上とするドンゴズゴズ会は、敗北や失敗を特に嫌う。

 なめられたくないからだ。

 そして、『最終的に勝てば良い』という論理で、確実に報復に走る。

 その報復対象が、本当に報復するべき相手かどうかなんて、関係ない。

 報復して、それが成功して、組織の面子が保たれる。

 そういった体面が整う。

 それが、連中の一番重視することだ。




「なら、誰が悪者になる......?わかるよなぁ?」


 それは、この事件の関係者。

 つまり、生き延びたダラケルスとフレットである。

 フレットは言葉を失い、パクパクと口を開け閉めした。


 ちなみに、エミーは爆発を防ぎ、ダラケルスとフレットが無事であることを確認すると、何も言わずにどこかへ去って行った。

 隠れ家が壊れた以上、あの超人少女がこの地にとどまる理由はないのだろう。

 おそらくもう、戻っては来ない。




「逃げるしかッ、ないのかッ......」


「ああ、そうだ。オレは、いつだって逃げ続けてきた、『逃げのプロ』だ。逃げてばかりの人生を歩んできた。だからこそ、肌でわかる。今は最高に、逃げるべき瞬間だ。間違いない!」


「なんだその、情けない自信に裏打ちされた、情けない確信はッ!?」


 つっこみを入れつつも、フレットはダラケルスの言葉の大切さを理解していた。

 よろよろと起き上がりながら、間抜けな恰好で地面に突き刺さっている黒服達に目をやる。

 確かに、バーデンガジュー達が意識を失っている今なら......自分達を死んだことにして、逃げ出しやすい。

 千載一遇の、好機かもしれない。


 ......死んだことにする?

 それは全てを、捨てるということだ。

 故に、一瞬だけフレットはそれを躊躇したが......。


 パチパチと火花を飛ばす黒焦げのヒドゥン・インヘリターを......煤になった未来図を再度眺めて首を横に振り、すぐさまその躊躇を放り投げた。


 だって、彼にはもう、これ以上失うものがない。

 未来図はない。

 これから弟のものになっていく商会にも、絶対に戻りたくない。


 ならば......逃げるしか、なかった。




「......では、『逃げのプロ』に聞くがッ......貴様......お前は、どこに逃げるつもりだッ......?」


 覚悟を決めたフレットは、大儀そうに起き上がるダラケルスに、そう問いかけた。

 ダラケルスは、その眠たそうな覇気のない瞳を、まっすぐフレットに向け......言った。


「......わからん」


「はあッ!?」


「だってオレ、地図とかよく覚えてねぇし......」


「ふざけるなよッ、何が『逃げのプロ』だッ!?」


 フレットは眉間に皺を寄せ、後ろになでつけるように整えていた髪をぐしゃぐしゃにかきむしりながら、高速で思考!


「ならば......南だッ!!カランザムム領に向かうッ!!少し距離があるが、あそこは聖女組合の支部の力が強いからなッ!!闇組織は好き勝手できんッ!!さらに言えば入領税も、後払いが可能だッ!!素寒貧でも門前払いされんッ!!比較的福祉にも篤く、再起への態勢を整えやすいッ!!」


「おおーーー」


「『おおーーー』じゃないッ!!お前、少しは頭を使えッ!!」


 素直に感心し、拍手を送るダラケルスに対し、フレットは顔を赤く染めながら怒鳴りつけ、踵を返して歩き始めた。

 未来に向かって!




「......おい、そっちは、北だぞ」


「............」


 しかしそれは、全く検討違いの方向......!

 フレットは無言で足を止め、再び顔を赤く染めた。


「影、見ろ。大体今くらいの時間なら、伸びている向きが、北だ」


 ダラケルスは、底辺冒険者だ。

 時計も方位磁石も、持っていない。

 しかし、持っていないが故の、それなりに正確な体内時計と、生きるための知識は、自然と蓄えていた。


「......そうだッ!!死亡工作ッ!!忘れるところだったッ!!」


 フレットは恥ずかしさをごまかすように大声を上げ、上着を脱いだ。

 そしてそれを......ヒドゥン・インヘリターから飛び散る火花に押し当てる。

 すると上着はぶすぶすと煙をあげながら燃えあがる。

 フレットは適度に焦げ付いたそれを振り回して火を消して、あまり風で吹き飛ばされないよう草の茂みにひっかけた。


「ほおーーー」


 ダラケルスは間抜けな感心の声をあげながら、それにならった。

 その後もいくつかの死亡工作を行い、いよいよ今度こそ出発の準備が整った......そのタイミングで。


 ダラケルスとフレットは、無言のまま向かい合った。




 ......おそらく、二人とも、言いたいことは同じだ。


 だがしかし、ダラケルスはずっと一人で生きてきた。

 だからこそこういう時、それがどんなに簡単なことであれ......どう、言葉を発して良いか、わからなかった。

 わからなかったからこそ、彼はずっと一人だった。


 故に、フレットが、必要な言葉を吐いた。




「なあ、ダラケルスッ......一緒に、行こうじゃないかッ!!お前の力が、私には必要だッ......うまくいくかは、わからんがッ!!」




 顔を赤くし、眉間に皺を寄せながら......まくしたてるように早口でそう言って、フレットはその右手を前に差し出した。


 以前の彼であれば、ダラケルスを言いくるめてゼナーリニに向かわせ、囮に使うくらいは平気でやった。

 しかし、思考の“靄”が晴れ、少しだけ......彼は素直になった。

 自分の、足りていないことを、認められるようになったのだ。


「............」


 ダラケルスは、その右手をじっと見つめてから。

 己もまた......右手を差し出そうとして。


 それがずいぶんと汚れていることに気づき。

 ごしごしと、服でこすってから。


 フレットの右手を、己の右手で握りしめ、にやりと笑った。




「......ま、なんとかなんだろ」




 かくして。


 性格も能力も嗜好も異なる......初めは反目しあっていた二人の男は手を組み、破滅に向かう彼らの人生の転落は、止まった。


 彼らは、神々も読みえなかった未来への道筋を、か細いながらも拓き始めたのだ!




「まったく、よぉ」


 握手を終えたダラケルスは、ボサボサの頭をかきながら、苦笑した。


「初めから、こうしてりゃよ......あの隠れ家だって、手に入っていただろうになぁ」


「......言うなッ!!空しくなるッ......!!」


 フレットは眉間に皺を寄せて、額を抑えた。




 びゅうと、初夏にしては冷たい北風が吹いた。




 されどもその風は、彼らの背中を強く押した!

【聖女組合】

 組織についての描写はまだないので、詳細は記載しないが、とにかく『聖女』に関する組織。

 聖女の能力を分類し、等級分けして、公認している。

 大魔導マジュローグ『殺害』の黒幕であると疑われる程度には、彼(彼女?)と対立していた模様。

 関係者として明確に既出なのは、第22章に登場したアド・バーンス。

 

【章末のご挨拶】

 拙い素人小説にお付き合いいただいている読者の皆様にお伝えする、感謝の言葉。

 本当にいつも、ありがとうございます。


 本章のテーマは、『争いって、空しいね』です。

 実にありきたりですね!

 ダラケルスも、フレットも、エミーも、もし我を張らずに妥協しあえば、隠れ家を手に入れることはできました。

 それなのに三人とも独り占めしようとしたから、ギャシキヌーの遺産は永遠に失われてしまいました......。

 空しいね!


 だけど三人とも、これからも適宜争いながら、好き勝手に人生を生きていくのでしょう!

 特にエミーは、大小さまざまな争いに巻き込まれ、あるいは争いを巻き起こしながら、これからも進んでいきます。

 喜劇も悲劇もあるでしょう。

 今後ともお付き合いいただければ幸いです。


 本章は短く終わらせることを念頭に設計し、実際に短く終わったわけですが、やたらと出力に時間がかかりました。


 『オマケの転生者』は、作者が物語をつくるための習作でもあり、そうである以上『なんでもやってみよう!』というスタンスで制作されています。

 その習作が長すぎて、「作者が元気なうちに完結できんのか?」という不吉な考えが最近頭を過り始めましたが、まあそれは置いといて。

 とにかくそれ故に、本章のようにエミーの影が比較的薄くなるお話も出てくるわけですが、そうなると、とても描きにくい......。

 「自分が、とにかく描きやすい」キャラクターとして造形されたのがエミーなので、それは当然なんですが。

 実力不足をひしひしと感じますね!

 というか、自分の実力って、全く成長していないのでは?

 悲しいね!


 ......どうでも良いことをつらつらと書きましたが、とにかくこれで、第30章は完結です!

 次章は、しっかりとエミーが主役です。

 お楽しみいただければ、幸いです。

 どうぞよろしくお願い申しあげます。

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― 新着の感想 ―
毎度楽しませてもらっています 不幸ばかりのエミーがいつか報われて幸せと安住の地が見つかることを願ってます
争いって空しいよね でも争っちゃう だってにんげんだもの みつお
Seems like the winds are starting to blow in their favor, or did her epic battles start to affect th…
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