574 殺気の主の正体は
「ムノーデス刑事!アカシテリカは、大丈夫!?」
「うん、大丈夫ぅ!何とかねぇーーー!」
ジメジメとかび臭く、真っ暗な地下道にて。
焦りながらそう尋ねた私に対して、この小太りのおっさんはいつも通りのんびりだ。
ニコニコ笑いながら、そう答えた。
思わずほっと、胸をなでおろす。
......でも。
思わず、首を傾げる。
「お前、良く、私を見つけられた」
「あはは、たまたま帝国時代に作られた、地下道の地図を持っていてねぇ!しらみつぶしに探さなきゃって思ってたらぁ、いきなり見つけちゃったってわけぇ!ボクって、超ラッキーだよねぇ!」
「しらみつぶし?」
「そうそう、しらみつぶしぃ!」
「......一人で?」
「まさかぁ!警察官総動員で、キミのことを探してたんだよぉ?ボクのパパは、偉い人なんだぁ!いっぱい人も動かせるってわけぇ!」
「............」
私は無言のまま、耳を澄ます。
私のファンタジー聴覚は、この近くから人間大の生き物の足音を、捉えていない。
改めて【魔力察糸】の制御に集中するも。
......やはり人間は、この近くにはいない。
一人も。
強烈な、違和感。
<エミー>
オマケ様が静かに私の名前を呼び、警戒を促す。
でも、さすがにこれは、言われずとも、だ。
「............」
私はムノーデス刑事を、じっと見つめた。
目の前のムノーデス刑事には、今まで見てきたムノーデス刑事と違いはないように思える。
スン、と鼻を動かし、ファンタジー嗅覚で匂いを嗅ぐ。
こちらにも、違和感はない。
おそらく、目の前のムノーデス刑事は、本当にムノーデス刑事。
偽物ではない。
「さ!こんな真っ暗なところ、長居するのはごめんだよぉ?エミーちゃん、早く外に出よう?アカシテリカちゃんが、待ってるよぉ?」
「待て」
のんびりと喋りながら、こちらに近づいて来ようとするムノーデス刑事を、私は後ずさりながら止めた。
「......どうしたのぉ?」
ほんの少し間を置いて、ニコニコしながら首を傾げる、人当たりの良さそうなおっさん。
私は、気づいた。
気づいてしまった。
違和感を覚える原因が、他にもあることに。
「私、今、サングラスも帽子も、していない」
「......そうだねぇ」
「なのに、お前、すぐに私だとわかった。なんで?」
「そりゃあ......声が聞こえたしぃ?『誰だ!?』ってぇ」
「私は、黒髪黒目」
「............」
「私は、呪い子」
「............」
「それをお前は今、初めて知ったはず。なのに顔色一つ変えない。なんで?」
「......ボクはそういうの、気にしない方だからねぇ!」
私が警戒心を露わにして投げかける問いかけを、ムノーデス刑事は飄々とかわしていく。
<他にも、『実はこっそりと、エミーが黒髪黒目であることを晒している場面を見た』、『市場での騒ぎを事前に調べて知っていた』など、いくつも言い訳はできますね>
......アカシテリカのようには、いかないね。
でも。
こいつは......なんか怪しい。
周囲に人がいないのだって、もしかしたら偶然かもしれない。
でも。
なんだか、怪しいんだ。
しばらく続いた町暮らしで鈍っていた勘が、急速に鋭くなっていくのを感じる。
ぼんやりと私を包んでいた、温く穏やかな......何か、空気のようなものが、冷えてはりつめていくような感覚。
それは、とても残念なことではあるけど。
私が生きていくには、間違いなく、必要なこと。
とにかく、ダメだ。
今のこいつを、信じちゃダメだ!
「そのポケットの中、何が入ってる?」
少しずつ、少しずつ後ずさりながら問いかける。
私はムノーデス刑事が、ずっと右手をポケットにつっこんだままであることが、気になったんだ。
「イカだよぉ?」
「イカも、入ってるかもね。でも他にも、入ってるかも。ポケット、裏返して見せて」
「............」
私は、決して警戒心を解かなかった。
その様子を見て。
「はああ......」
ムノーデス刑事はため息をつきながら、がっくりとうつむいて肩を落とした。
そうしてから、顔をあげる。
すると、その表情は。
それまでの、ニコニコ笑顔はどこへやら。
ぞっとする程の......無表情。
「勘が良くて、本当、嫌になっちゃうな」
そしてムノーデス刑事は冷たい声でそうつぶやきながら、ポケットから何かを取り出した。
それは、深い紫色をした......宝石のような球体だった。
「それは......?」
私がそう、問いかけた。
次の瞬間!
「!!」
ムノーデス刑事は、私を忌々し気に睨みつけながら、強烈な殺気を放ち始めた!
<こ、この感じは......!>
私は、この殺気に覚えがあった!
より詳細に言えば、殺気の乗る魔力の質に、覚えがある!
最近で言えば、博物館の宝物庫から出た後......廊下で微かに感じたのは、この殺気だった!
そして、それだけじゃない。
私は以前から、何者かの視線を感じていた。
決して、友好的なものではない視線だ。
それと同時に......博物館で感じたものと、同質に思える殺気も!
つまり......!
「ここ最近......ずっと私とアカシテリカを観察していたのは、お前かムノーデス!?」
私は腰を落とし拳を構え、戦闘態勢を整えてから、叫んだ!
「ご名答......は、は、は」
それまで隠していた己の魔力を威圧的に放出しながら......ムノーデス刑事は私の問いかけに頷き、感情の乗らない、乾いた笑い声をあげた!
「より正確に言えば......ただ観察していたわけじゃない。キミがアカシテリカちゃんと離れる隙を、うかがっていたのさ」




