500 巨大ユムシと三人の女3
グランドアーマードユムシは、じっと魔力を回復させながら、イライラとしていた。
攻撃を加えてもなお、死ぬでもなく逃げるでもなく、周りをうろちょろと鬱陶しく動く、小さな生き物たちに。
特に、あの一番小さくて黒いのは、むかつく。
こちらが黙っているのを良いことに、殴るわ蹴るわと好き放題だ。
しかも一番小さい癖に、あれの攻撃は、ちょっとだけ痛い。
......考えていると、さらにイライラとしてきた。
「......ユ、ギャア!」
ちょうど、その時だ。
グランドアーマードユムシは、己の魔力が概ね回復したことを自覚した。
「ユギャア......」
同時に、それまで抑えていた原始的な殺意が全身からあふれ出す。
今こそ、殺戮の時だ。
皆、ぷちっと潰してやる。
「ユギャアアアアーーーーーーッ!!」
彼はその殺意に突き動かされ、威圧的に鎌首をもたげ、絶叫を放った!
すると......それと同時に!
「らあああああーーーッ!!」
一番小さくて黒いのが、こちらに向かって駆け寄って来た!
「ユギャアッ!!」
真っ向勝負か!?
望むところよ!!
グランドアーマードユムシは周囲にコドロキゾ鉱石の欠片を浮かばせて、黒いのに向けて、先ほどと比べて弾速が二倍以上向上した【魔鉱石弾】を一斉に射撃した!
ダガガガガガッ!!
「らッ、らッ......らああッ!!」
しかし黒いのは、ジグザグと不規則に進路を変更しながら走り抜け、【魔鉱石弾】の狙いを絞らせない!
全ての攻撃をかわした黒いのは瞬く間にグランドアーマードユムシの近くにまで到達し!
「らあああああッ!!」
大ジャンプ!
そして!
......グランドアーマードユムシの頭部に音もなく着地し。
そこに、ぺたりと。
うつぶせになって......はりついた。
「ユギャ?」
てっきり殴られるのかと思っていたグランドアーマードユムシは、その衝撃がないことにまず困惑した。
そして次に、この黒いのの意図がわからず、困惑した。
密着すれば、攻撃されないとでも思ったか?
バカめ。
そしてそう嘲笑いながら、黒いのに向けて、次なる【魔鉱石弾】射出の準備を始めた。
......その時だった。
ピリッ。
痒みとも、痛みともとれる、とても小さな刺激が。
彼の全身に、走ったのだ。
「ユ、ユギャッ?」
正体不明のその刺激に動揺し、グランドアーマードユムシは身じろぎをした。
すると、その小さな動きだけで。
彼の身を守る、鉱石の鎧が......ボロボロとはがれ、零れ落ち始めたではないか!
「ユギャアアアアーーーーーーッ!?」
訳のわからぬ、この事態!
グランドアーマードユムシは、混乱と羞恥のあまり、絶叫した!
◇ ◇ ◇
この時、彼の体に何が起きていたのか。
エミーは一体、何をしたのか。
その答えは......【剥離】である。
エミーはかつてマーツ男爵家でメイド見習いをしている時に習得した異能、【剥離】を使用したのだ。
通常は汚れを浮かせて落とすだけの、家事に役立つこの異能だが。
膨大な魔力量を誇るエミーが、全力で使えば、どうなるか。
その答えが、先程の結果だ。
......巨大ユムシの鎧を、はがすことができるのだ!
とは言え、これは簡単な行いではない。
グランドアーマードユムシは家の床や壁とは違って、生きている。
しかも彼も、膨大な魔力持ちだ。
本能的に、必死になって魔力を操作し、エミーの【剥離】に抵抗する!
「ぐ......ううう......!」
そんな彼に己の魔力を注ぎこみ【剥離】の効果を無理やり発現させることは、エミーにとっても重労働だ。
彼女は額に玉のような汗を浮かべ、歯を食いしばり唸りながら、必死になって【剥離】を発動し続けた。
「ユギャアアアアッ!」
しかもこのグランドアーマードユムシ、すぐに鎧がボロボロとはがれていく原因がエミーであることに、気づいた。
故に、物理的にも必死に抵抗する!
頭をブンブンと振り回し、エミーを振り落とそうとする!
「う、う、う、ああああああ......!!」
しかしエミーは、はがれない!
その理由、いつもであれば【紙魚】ではりついているからだが、今回は違う。
【紙魚】とは真逆の作用を発現する【剥離】を全力で使用するために、エミーは今回、純粋に物理的な力技で巨大ユムシにはりついていた。
つまり、ただただ全力でもって、単純にしがみついていた!
しかしその全力が、規格外なのだ。
振り回されたくらいでは、彼女は決して吹き飛ばされない!
ボロボロッ!
その代わりに、はがれたコドロキゾ鉱石の欠片が、宙を舞う!
「ユギャアアアアッ!!」
次にグランドアーマードユムシは、【魔鉱石弾】を用いて、自分ごとエミーを射撃し始めた。
彼自身は、未だ鎧は残っているため、この程度痛くも痒くもない。
しかし、この黒いのにとっては、違うはずだ。
殺せずとも、何やら得体の知れない術の行使に集中している今ならば、ダメージはあるはず!
ダガガガガガッ!!
そんな算段のもと放たれた【魔鉱石弾】が、しがみついているために動けないエミーの体に、次々と命中する!
「うぐ、あああ、ああああああ......!!」
しかしやはり、エミーはその手を、離さないのだ!
常人であれば、一撃食らえば体が弾け飛び死ぬような【魔鉱石弾】を何十とその背中に受けながら、呻きながらも、【剥離】の魔力を注ぎ続けるのだ!
ボロボロ、ボロボロッ!
さらなるコドロキゾ鉱石が、グランドアーマードユムシの体から、はがれ落ちた!
「ユギャアアアアッ!?」
グランドアーマードユムシは、ついにはこの黒いのに恐怖を感じ、滅茶苦茶に暴れ始めた!
ごろごろ、ごろごろと大地を転がって、黒いのを押し潰そうとした!
「あああ、あああ......らあああああーーーーーーッ!!」
しかし、潰れない!
黒いのは、巨大なグランドアーマードユムシの質量でもってのしかかっても!
決して、潰れない!
丈夫過ぎる!!
そして彼が暴れれば、暴れるほど!
ボロボロ、ボロボロ、ボロボロと!
彼の鎧が、はがれ落ちていくのだ!
はがれ落ちた鉱石の欠片を再度はりつけようとしても、それもうまくいかない。
何故なら現在のグランドアーマードユムシの体表は、エミーの【剥離】の力を発現し続ける魔力で、覆われているからだ。
エミーが彼の体から離れれば、彼の鎧は瞬時に復活する。
しかし、エミーが、はがれない!
そして、ついに。
......ついに!
グランドアーマードユムシは......丸裸になった。
激しく発光する、その本体が。
満点の星空の下に、晒された!
「ユギャアアアアーーーーーーッ!?」
恐怖!
怒り!
羞恥!
ごちゃまぜになった感情が、彼にこの日一番の絶叫を発せさせた!
「ア!?」
そして、この時。
彼は、ようやく。
黒いのが、彼の鎧をはがしている間、すっかりその存在を忘れていた残りの小さな生き物のことを、思い出した。
何故なら、彼の魔力的視界に。
その全身からあふれ出す魔力によって黄金色に光り輝く、シメガマモの姿が映ったからだ!




