498 巨大ユムシと三人の女1
「らッ!!」
ほぼ同時に飛び出したエミー、シメガマモ、聖女アドであるが、その脚力故に他二人に先んじて前に進んだのは、エミーだ!
「【大蟷螂】ッ!!」
エミーは風のように素早くグランドアーマードユムシに接近すると、その両手の指先から魔力の刃を生み出し、まるで舞うように高速で斬撃を放ち始めた!
先ほどエミーはこのグランドアーマードユムシを、割と全力で殴ったのだ。
しかし、この巨大環形動物は死ななかった。
打撃が効きにくい性質なのかもしれない。
ならば、斬撃を放とうというわけだ。
打撃でダメならば、斬撃。
それが彼女の殺戮フローチャートだ!
「らッ!らッ!らッ!らッ!......」
しかし驚くべきことに、エミーの高速斬撃ラッシュすらも、グランドアーマードユムシには、さしたる脅威ではないようだ。
エミーの斬撃は凄まじい速度で、グランドアーマードユムシがまとったコドロキゾ鉱石の鎧を削っていくが......この鎧、削ったはしから復活するのだ。
エミーが削っても、削っても......その結果宙に舞った紫色のコドロキゾ鉱石の欠片は、まるで録画映像を巻き戻しているかのごとく、元あった場所へと舞い戻っていく。
おそらくグランドアーマードユムシが【魔鉱石弾】を放っている時と同じく、念動力で操作しているのだろうが......そのせいで、きりがないのだ。
「らあああああーーーーーーッ!!」
ならば、再生するよりも速く、削りきる!
エミーはそう心に決め、さらに斬撃のペースを速めた!
これがグランドアーマードユムシの、左側面での戦いである。
一方の右側面では、ようやく二番手のシメガマモがそこまで駆け寄って来たところだった。
「うおおッ......らッ!!」
シメガマモは断続的に放たれる【魔鉱石弾】をかわしつつグランドアーマードユムシに接近し、大きく跳躍した。
そして......。
「【大草原の大鉈】ッ!!」
くるくると縦回転しながら、大鉈の斬撃を放った!
ガキィンッ!!
シメガマモの大鉈は硬質な音を立てながら、グランドアーマードユムシの鎧に傷をつけた。
そしてその傷口からは瞬く間に苔や背の低い植物が生え、さらには先ほど三兄弟が刈り払ったような蔦が伸び始め、徐々にグランドアーマードユムシの体を覆い始めるも......。
「ユギャアッ!!」
絶叫と共にグランドアーマードユムシの全身から発せられた強い紫色の光を浴びると、それらの植物はあっという間に枯死してしまった。
「ちッ......“溜め”が、足りないッ!」
グランドアーマードユムシの鎧を蹴り、跳躍して距離をとったシメガマモは悔しそうに舌打ちをすると、再び自身に向けて放たれ始めた【魔鉱石弾】を回避し始めた。
「はあ......勢いよく飛び出してはみたものの、ワタクシはどうしたものか......」
さて、左側面でエミー、右側面でシメガマモが戦っているその時、二人から少し遅れた聖女アドはグランドアーマードユムシの正面に陣取り、首を傾げてため息をついていた。
何故なら、彼女が放てる最大威力の攻撃は、結界で作りあげた巨大なハンマーで相手を叩き潰す、【結界・超大槌】だ。
しかしこの大槌は攻撃範囲が広く、グランドアーマードユムシの近くでウロチョロと戦っている他の二人を、巻きこむ危険性がある。
この状況下では、使用できない。
「......嫌がらせでも、しましょうか。【結界・小槌】」
そこで聖女アドは、ヘイトを稼ぐことにした。
彼女はグランドアーマードユムシの頭上に、無数の小槌を作りあげると......それを使ってポコポコと、グランドアーマードユムシのことを殴り始めた。
「ユギャ......ユギャアッ!!」
それが相当鬱陶しかったらしく、グランドアーマードユムシは【魔鉱石弾】を、一斉に聖女アドに向かって放ち始めた!
その結果として、エミーやシメガマモに対する弾幕が薄くなる!
「あっははは!所詮はユムシ!人間様の知恵には敵わねーか、おいいーーーッ!?」
ダガガガガガッ!!
無数に浴びせられる【魔鉱石弾】を【結界・盾】で防ぎながら、聖女アドはグランドアーマードユムシを嘲笑った!
「ユギャアアアアーーーーーーッ!!」
一方のグランドアーマードユムシは、その嘲笑を悔しがるかのように、まるで地団駄を踏むかの如く跳ねとんで、地面を揺らした。
......しかしその実、この地団駄、ただの悔し紛れの感情表現ではなかった。
グランドアーマードユムシが跳ねとぶたびに、周囲の地面に露出したコドロキゾ鉱石の塊やその他の土砂が宙に浮かびあがり、広範囲に漂い始めたのだ。
「あら......あらッ!?」
それに気づいたのは、距離をとりながら戦うことで全体の戦況を把握していた聖女アドだ。
見あげれば、漂う石の雲。
対面するグランドアーマードユムシは、【魔鉱石弾】の射出を取りやめ、何やらプルプル震えながら力を溜めている......。
「何かくるッ!!ここまで退けッ!!」
聖女アドは端的に警告を発すると、頭上に【結界・屋根】を展開した!
「!!」
その警告を聞き、初めて頭上の石の雲に気づいたシメガマモは、即座に状況判断!
聖女アドの結界に向かって、走り出した!
しかし、その時だ!
「ユギャアアアアーーーーーーッ!!」
グランドアーマードユムシが、叫んだ。
それと同時に。
......辺りの視界を閉ざす程の“石の雨”が、猛烈な勢いで降り始めた!
「うおおおおおッ!!」
シメガマモは間一髪で聖女アドの結界に滑りこみ、無事だ。
しかし......!
「あの、黒髪黒目の、お嬢ちゃんは......!?」
そこに、エミーの姿はない。
攻撃に夢中になりすぎて、聖女アドの警告が届かなかったのだ。
ドザザザザザ......!!
顔を青くする聖女アドの心情などお構いなしに、石の雨は無情にも降り続ける。
その間、数秒程。
視界が見通せるようになった時、彼女たちの周囲はすっかり土砂に埋もれていた。
そこにどす黒いローブを着た、黒髪黒目の少女の姿は......ない。
「ああ......なんてこと!この......ユムシが......!!」
聖女アドは少女を救えなかったという事実に顔を青くし、次いで己の無力に腹を立て、クールタイムにでも入ったのだろう、動きが緩慢になったグランドアーマードユムシのことを睨みつけた。
「............」
一方でシメガマモは、周囲に積みあがった土砂や瓦礫を呆然と眺めていた。
己の及ばぬ、力ある者......悪魔。
それすらも、この眼前の巨大な怪物は、退けてしまうのか。
シメガマモの胸中に、絶望が去来した。
しかし......その時だ!
ボコッ!!
そんな音を立てて、グランドアーマードユムシの近くの瓦礫が吹き飛んだかと、思うと。
「............」
そこから、頭上に土砂をこんもりと積んだエミーが、這い出して来たではないか!
((生きてた......!?))
聖女アドとシメガマモは、驚きのあまりぽっかりと口を開け、冷や汗を流した。
「............」
エミーは犬のようにブルブルと体を震わせて、己に積もった土砂を振り落とすと。
ぐうう、と腹を鳴らし。
「大分、お腹、減ってきた!」
と叫んで、いらだたし気に、足を踏み鳴らした。
((しかも、割と元気だ......!!))
聖女アドとシメガマモは、驚きのあまりぽっかりと口を開け、冷や汗を流した。




