384 堕とせ古代の空中要塞!7
「おいいいいいッ!エンジィィィーーーッ!!どうすんだ、テメエエエエーーーッ!?」
空中要塞『ソウルコンクラー』制御室。
その中心に設置された、玉座を思わせる豪華な椅子に座る髭もじゃの粗野な大男、メグザム。
彼は青い顔のまま前方壁面を覆う巨大なディスプレイを血走った目で睨みつけながら、だんだんと床を踏み鳴らしつつ、本日何度目かもわからない怒鳴り声をあげた!
そのディスプレイに映し出されているのは、魔導ケーブル上を走り続ける黒髪黒目の少女、エミーの姿だ。
相変わらずエンジィが操作する飛行コマによる攻撃は続いているが、エミーはその動きにすっかり慣れたのか、危うげなくその全てをさばき続けている。
それどころか、時折飛行コマを捕獲しては、バリバリとそれを食べている。
金属製の、兵器だぞ!?
意味がわからない!!
「何が、『オレ様特製の、魔導兵器』だッ!!あんなもん、ただの玩具じゃねぇかッ!!全然、役に立ってねぇじゃねぇかッ!!使えねぇぇーーーッ!!」
<おいおいッ!?それは、聞き捨てならねぇなあああああッ!?>
ついには飛行コマのことを貶し始めたメグザムに、エンジィは早口で反論する!
<あの、小さなボディに、どれだけこのオレ様の叡知が詰まっていると思っているぅッ!?ほんの少し魔力補充をするだけで、連続168時間飛行可能ッ!!この凄さが、わからねぇのかぁッ!?しかも、それだけじゃねぇ、あれには本当なら物理攻撃以外にも、様々な魔導攻撃機能だって、備わっていたんだぁッ!それなのによぉ、テメエが【赤色魔導光線砲】を、無駄撃ちしやがるから、その分の魔力が足りなくなって......>
「ああああああーーーッ!?テメエ、オレが悪いってぇのかああッ!?」
<オレ様はいつだって正しいんだから、なら悪いのはテメエだろうがあああああッ!!>
「んだと、コラアアアアーーーーーーッ!?」
聞くに堪えない、幼稚な応酬!
まるで、子どもの喧嘩だ!
しかしこのやりとりは、突然制御室内に響きわたった冷徹な電子音声によって、強制的に中断させられた。
『現在、敵性存在が魔導ケーブル上をつたい、当機体へと接近中です。早急な対処を推奨いたします。繰り返します、現在、敵性存在が......』
「<............>」
その自動アナウンスを聞き、メグザムもエンジィもすっかり黙りこみ、ディスプレイ上に表示される現在状況を説明する画面に、意識を集中させた。
その画面には、地上と『ソウルコンクラー』を繋ぐ魔導ケーブル上を走る少女のイラストが表示されており、既にその少女が中間地点を越えて『ソウルコンクラー』に近づいていることがわかりやすく示されている。
さらにその横の画面......一定距離を保ったままエミーの様子を撮影し続けている飛行コマから送られてくる映像によれば、エンジィがメグザムと喧嘩するため飛行コマの操縦を自動操作モードに切り替えているうちに......そのほとんどが撃墜されてしまったらしい。
<......なぁ、相棒よぉ......>
「......なんだ」
<オレ様たちに必要なのは、感情のぶつけあいじゃねぇ......建設的な、議論だ。そうは思わねぇか......?>
「奇遇だな、オレもそう、言おうとしたところだ......」
<でも、オレ様のほうが、先に思いついていた>
「いや、間違いなくオレの方が先だ」
<なら、早く言えよ>
「お前の方こそ、早く言え」
「<............>」
さすがにこの不毛な言い争いは、長くは続かなかった。
そうこうしている間にも、エミーは『ソウルコンクラー』に向かって、刻一刻と近づいて来ている。
こんなことを、続けている場合ではないのだ。
メグザムはため息を一つついて、少しの沈黙の後、青い顔のまま提案をした。
「魔導ケーブル、つったか......?あの紫の紐をよ、切り落としちまえばいいだろ?」
あの少女は、この紐......実際のところは紐ではなく、少女が一人駆け抜けられるほどの太さはあるが、とにかくこの魔導ケーブルをつたって近づいてくるのだ。
ならば、それを切り落として、足場を無くしてしまえば良いではないか。
メグザムとしては、この己の提案は、なかなかに悪くはないアイデアのように思えた。
そもそもこの魔導ケーブルとやらが、一体何の役割を果たしているのか、彼は理解していなかったが故に。
<馬鹿野郎ォッ!んなこと、できっかよぉッ!>
しかしこの提案に、エンジィは語気を荒げて反論した。
<この『ソウルコンクラー』はよぉ!確かに生物の魂を吸収することができる......だがそれは、あくまでオレ様......と相棒の、贄なんだよぉッ!一部兵装は、魂の魔力エネルギーを流用して起動できるようにはなっちゃいるが、この空中要塞自体を動かす基本的なエネルギーは、大地から吸いあげる魔力なのよぉッ!>
しかも、またしても、早口だ。
小難しい内容なのでメグザムは思わず耳を塞ぐが、エンジィの声は頭の中に直接響くので、意味がない。
<この辺りは、他のいわゆる超古代魔導文明の遺物と、違いはねぇんだぁ!それこそオレ様の一番最初の生前では、吸い過ぎで枯渇寸前だった大地の魔力も、今の時代じゃすっかり復活してやがるッ!だからよぉ、とにかくよぉ、行く先々で大地に魔導ケーブルを接続してエネルギー補給をしなくちゃなんねぇのよぉッ!そうしねぇと、とてもじゃねぇが、サーディサンヌにはたどり着けねぇッ!だからぁ......>
「ああああああッ!だから、話が長ぇって、言ってんだろ、何度もよおおッ!」
メグザムは、己と『ソウルコンクラー』を繋ぎエンジィの声を届けているケーブルまみれの帽子を脱ぎ捨てたくなる衝動を必死で我慢しながら、髭をぶちぶちと抜いた!
「とにかくッ!その、魔導ケーブルとやらは、切れねぇッ!そうだなッ!?」
<......そうだぁ!あれ一本無いだけで、エネルギー補充の効率が段違いなんだぁ!絶対に切れねぇッ!>
「なら、どうすんだぁ!?」
<こいつを、使うううーーーッ!!>
エンジィがそう叫ぶと同時に、ディスプレイ上に新たな画面が表示される。
その画面には、黒を背景に白いワイヤーで人型の何かが立体的に描かれている!
「こ、これは......!?」
<オレ様特製の魔導兵器、その2だあああああーーーッ!!......イヒヒ、こいつに関しては、既にばっちり100%、魔力補充も完了済みよおおーーーッ!だから、絶対に、強いぞぉッ!!>
エンジィの言葉を聞き流しながら、メグザムは画面を見つめつつごくりと唾を飲みこんだ。
その人型の兵器は......ゴリラに似ていた。
筋骨隆々と形容するのがふさわしい上半身。
その両腕には、メグザム好みの巨大な大鉈が装備されており、それ以外にも体の各所に、重火器や魔導兵器がしこまれている。
そしてその上半身を支えるのは、巨大な車輪だ。
どうやらこの車輪で魔導ケーブルを挟みこみ、それをレールのように見立てて、移動することが可能らしい。
さらに言えば、このゴリラの背中からは、竜の翼のような機構が飛び出している。
もしかしたら、空を飛ぶことすら、できるのかもしれない。
「ゴリラドラゴン......!」
森の賢者の静かなる叡知、そして空舞う竜の荒々しき暴威!
その相反する二つの要素を内包した惚れ惚れするほど力強いその威容に圧倒され、メグザムは少し呆けたままぽつりと、そうつぶやいた!
<いや、そんなだっせぇ名前じゃねぇんだが......まあ良いッ!こいつの操作は、相棒に頼んだぜぇッ!>
エンジィがそう言うと、メグザムの足元の床が開き、何かがせりあがって来た。
両手で持てるように設計され、いくつかのボタンが配置されたそれは......ゴリラドラゴンを操作するための、コントローラーだ。
<操作方法は、『ソウルコンクラー』に聞いてくれぇ!『検索』って念じてから質問すれば、教えてくれっからよぉ!イヒヒ......オレ様は色々と準備があるから、この場は任せたッ!信じてるぜぇ、相棒ッ!!>
それだけ言うと、エンジィの気配がふっと薄くなった。
メグザムと会話することをやめ、制御室を離れて何やら作業に入ったらしい。
そして制御室壁面のディスプレイに表示されるメイン画面が、またしても切り替わる。
そこに表示されるのは、ゴリラドラゴン内蔵カメラがとらえた映像だ。
既に自動操縦で出撃しているこのゴリラドラゴンは、その視界の中に小さく、侵入者エミーの姿を捉えている。
一刻の猶予も無し!
(『検索』!!)
メグザムは慌ててコントローラーを握り、ゴリラドラゴンの操作を開始した!
◇ ◇ ◇
一方の、エミーであるが。
「はぐ、はぐ......もぐもぐ、ごくん」
両手で抱えた最後の飛行コマを、走りつつその腹に収めながら。
彼女もまた、ケーブルの先からやってくる巨大な人型の兵器の姿を、その視界に捉えていた。
そして彼女もまた......メグザムと同様に、その姿を見て、ごくりと唾を飲みこんだ。
その人型の兵器は......ゴリラに似ていた。
筋骨隆々と形容するのがふさわしい上半身。
その両腕には、見るからに斬れ味の鋭い巨大な大鉈が装備されており、それ以外にも体の各所に、重火器や魔導兵器がしこまれているらしき突起があるのが見てとれる。
そしてその上半身を支えるのは、巨大な車輪だ。
どうやらこの車輪で魔導ケーブルを挟みこみ、それを列車のレールのように見立てて、移動することが可能らしい。
さらに言えば、このゴリラの背中からは、竜の翼のような機構が飛び出している。
もしかしたら、空を飛ぶことすら、できるのかもしれない。
「ゴリラドラゴン......!」
森の賢者の静かなる叡知、そして空舞う竜の荒々しき暴威!
その相反する二つの要素を内包した惚れ惚れするほど力強いその威容に圧倒され、エミーは少し呆けたままぽつりと、そうつぶやいた!
そうこうしている間にも、両者の距離は近づいていく。
このゴリラドラゴンは、その太く力強い両手が握りしめる大鉈だけではなく、明らかに遠距離攻撃用の手段を備えている。
おそらくエミーは、しようと思えば、このゴリラドラゴンをうまくかわして、戦闘を回避することは可能である。
しかしそれをすれば、背後からの射撃は免れない。
危険だ。
つまり。
......倒すしか、ない!
この、巨大なゴリラドラゴンを前にして。
これまで走り続けていたエミーは、初めて足を止めた。
そして一旦引っこめていた【黒腕】を、両肩から巨大な状態で再度展開。
もともと持って生まれた二本の腕も、胸の前に構える。
一方のゴリラドラゴンも、エミーを前にしてその車輪を停止させる。
そしてその巨大な大鉈をぶんぶんと、動きを確かめるように振り回してから。
頭部に内蔵されたカメラをエミーに向けて、彼女を睨みつけた。
「ウオオオオオーーーーーーッ!!!」
そして放たれるは、威圧的な電子咆哮!
そのあまりの音量に、周囲の空気がびりびりと震える!
「らあああああーーーーーーッ!!!」
しかし、エミーも負けてはいない!
同程度の音量の咆哮を放ち、ゴリラドラゴンに対抗する!
そして、次の瞬間!
振りおろされたゴリラドラゴンの大鉈と、振りあげられたエミーの【黒腕】が、大きな音を立てて衝突した!
新たなる戦いの幕が......切って落とされたのだ!!




