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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
17 なぎ倒せ、エミー!花と夜明けと死神編!
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328 (呪い子)ばあちゃんとの出会いと、朝の風景

「あんた!そこで、何やってんだい!?」


 ヌムブリばあちゃんに初めてかけられたのは、確かそんな感じの言葉だったと思う。


 その時私は、この王都に来てから、まだ数日で。

 ここの人たちは、黒髪黒目をそれほど差別しない......そういうお国柄の場所であったとしても。

 私がお金を持っていない以上、当然のことながら、ご飯を買うことができなくて。

 薄暗い日陰に捨ててある飲食店から出た残飯を、こそこそとあさっていた......そんな時だった。


「............」


 私はオマケ様と脳内で行っていた残飯品評会を取りやめ、ゆっくりと振り向いた。

 するとそこに日の光を浴びながら立っていたのが、ヌムブリばあちゃんだった。


 細身で、杖をついていて。

 長い白髪を、後ろで一つに縛っている。

 きれいな人だなと、私は思った。

 若い頃は、さぞやもてもてだったろうな。

 もしかしたら今でも、もてもてかもしれないけど。


 さて、そのばあちゃんは。

 振り返った私の顔を見て、随分と驚いた顔をしていた。

 目を見開いて、ぽかんと口を開けていた。

 黒髪黒目の人間というのは、この世界では大層数が少ない。

 もともとが少ない上に、多分、色々あって......すぐに死んじゃうから。

 だから、見慣れない私の色に、ばあちゃんも驚いたんだろう。

 しばらく、黙りこくっていた。


 だけど、ヌムブリばあちゃんは、しばらく呆然とした後に首を振って気をとり直し、私に問いかけた。


「......あんた、腹が減っているのかい?」


「............」


 私はいつだって、お腹が減っている。

 こくりと頷いた。

 そうしたらばあちゃんは、にかっと笑って。


「なら、ついてきな!うまいもん食わせてやるよ!」


 そう言って薄暗いゴミ捨て場から、私の手を握って引っ張り出して、そのまま明るい通りを歩き始めた。


 ああ、この人は、良い人だな。


 私はそう思った。


 ならば、すぐにでも、別れるべきでは?


 とも。


 だって、私は呪い子。


 私と一緒にいると、その人はいつか不幸な目にあう。


 私の人生経験上、それは迷信でもなんでもなく、事実だ。




 だけど。


 結局、その後、一月とちょっと経つけど。

 私は、ヌムブリばあちゃんと、一緒の家に住んでいる。

 季節は、夏が終わって、もう秋だ。

 街路樹も紅葉が始まっている。


 良い人を不幸にしないため。

 特に事情がないのなら、その人とはすぐに別れるべきである。

 そう、思ってはいるんだけど。

 私は、ヌムブリばあちゃんとは、別れていないのだ。


 何故か、と言えば。


 ヌムブリばあちゃんは......。




◇ ◇ ◇




「エミー!朝ご飯だよぉー!」


 下の階から聞こえる、そんなヌムブリばあちゃんの声を聞いて、私はぱちりと目を覚ました。

 ベッドからぴょんと跳ね起きて小さな窓のカーテンを開けると、もうお日様がのぼっている。


<......おはようございます、エミー>


 おはよう、オマケ様。

 脳内の同居人に挨拶をして、朝の簡単な体操。

 手首足首、首、腰、肩。

 ぐるぐる回して、伸ばす。

 そうしてから大きく息を吸えば、目もぱっちりだ!


「早くおりてきなぁー!」


 またしても、ばあちゃんの声。

 すぐに行かなきゃ。


 私は床に空いている穴から飛び降りて、一階へと移動した。


 ......今、私が寝泊まりさせてもらっている部屋は、ヌムブリばあちゃんの花屋の、屋根裏部屋みたいな場所なんだ。

 本当は梯子をかけていちいち上り下りするんだけど、私はそんな面倒くさいことをしなくても、跳躍すれば事足りる。


 音も無く一階の床へと着地したら、お隣の台所へと移動する。

 燻製肉の焼ける、良い匂いがする。

 台所をのぞけば、既にヌムブリばあちゃんは朝食を始めていた。

 小さな食卓テーブルの上には、隣の裏通りのパン屋のパンと、トポポロックの燻製肉を焼いたもの、それとヤマピッピの目玉焼きに、なんか赤い、トマトに似た果物。


「この赤いの、何?」


「ポノノチだよ」


「ふーん」


 何それ?


<幻想大陸原産の果物ですね。この国は他大陸との貿易も行っているようですし、苗が入ってきて、栽培されているのかもしれません>


 ふーん。


「さ、早く座んな。飯が冷めちまうよ」


「わかった」




◇ ◇ ◇




 さて、食後である。

 ヌムブリばあちゃんは一旦食器を台所にさげて、新聞らしきものを読みながらお茶を飲んでいる。

 前世の記憶と比べれば、大分小さくて薄いけど、確かにそれは、新聞だ。

 この世界にもそういう文化があったのだなと、私はこの家に来て初めて知った。


 食卓テーブルの向かい側から何となくそれを眺める。

 『ナンガ山の山奥に、謎の村を発見』、『ナンケーロの食べ方』、『大魔導死去』など、様々な見出しが躍っている。


「あ」


 その中に一つ、私は、どうにも気になる見出しを見つけた。

 それは、『もうすぐ夜明けの日』という、社説のような小さな記事だった。

 その文章の中身には、特に興味は無い。

 私が気になるのは、見出し。

 『夜明けの日』という、言葉。


 『夜明けの日』って、結局なんなんだろう?


<そう言えば昨日、ヌムブリも口に出していましたね>


 うん。

 その時も、気にはなったんだけどね。


<質問できませんでしたからね>


 ばあちゃん、怒ってたからね。

 でも、今なら。




「ねえ、ばあちゃん」


「何さね?」


 読んでいた新聞をかさりと食卓テーブルの上に置いて、こちらに目を向けるヌムブリばあちゃん。

 私はテーブルによりかかりながら、椅子の上で足をぷらぷらさせつつ質問した。


「『夜明けの日』って、何?」


「ああ......あんたは、知らないか。浮浪児だったもんねぇ」


「今はもう浮浪児じゃない。旅人。私は旅人エミー・ルーン」


「はいはい。東から大冒険をして、ここまでたどり着いたんだろう?」


 ばあちゃんはカサカサと新聞をたたみながら、にこにこと笑った。

 この人にはこれまでの私の旅路を何度も聞かせているんだけど、どうもそれを私の作り話と思われているらしいんだよなぁ。


<まあ、エミー、あなたは割と、無茶苦茶な人生を生きていますからね。正直にこれまでのことを話しても、荒唐無稽な作り話をしていると思われてしまうのは、仕方のないことです>


 まあ、良いんだけど。


「で、『夜明けの日』って、何?」


「......この国が、新たな第一歩を踏み出した......記念日さ。ちょうど、今日から数えて二日後だね」


 そう語ってから、ずず、と。

 ヌムブリばあちゃんは、お茶を一口含んだ。


「記念日?」


「そう、記念日だ。この国はねぇ......かつて悪い悪い王様に、支配されていたんだ」


 ことり。

 お茶のカップをテーブルに置き、遠い目をしながらばあちゃんは言葉を続ける。


「その悪い王様を、一人の英雄がやっつけた日。それが『夜明けの日』なのさ......まだあたしが、若かった頃の話だ」


「ふーん」


 色々なことを、思い出しているんだろう。

 ばあちゃんの言葉は、ゆっくりだ。

 そして、伏し目がちな......少し悲しい顔をしている。


<話がゆっくりなのは、まだ子どもであるあなたに、言葉を選んで説明しているから、という事情もありそうですね。『やっつけた』ってことは、血なまぐさい話なのでしょうから>


 別に、気にしなくても良いのにね。

 私、知らないやつがどう死のうが、どうでも良いし。


 それにしても、記念日か。




「記念日ってことは、お休み?」


「実質的にはね。でも、いくら悪い奴だったとは言え、倒されたのは王だ。神様から認められてその地を支配するのが、王様なんだよ?それを倒したなんて、公的には祝えないよ。年寄りの中には、この事件については口をつぐむ者も多い......感謝は、していてもね」


 どういうこと?


<......この世界は、エミー、かつてあなたが住んでいた世界よりも、神と人との距離が近いのです。特にこの黄金大陸内の王たちはすべからく、本当に王権を神授された神子の家系です。そんな王を弑するということは、そいつがどんなに悪い奴であっても、あなたの想像以上に、人々にとっては畏れ多いことだと......そういうことですね>


 ふーん?

 良くわかんないな。

 まあとにかく、つまり、パネッモ村の村長が何故か細かいことを教えてくれなかったのは、そのあたりのことが関係しているっぽい?


<そうですねぇ>


 でもこのばあちゃんは、割とその辺のことも教えてくれそうだ。

 せっかくなので、色々と聞いてみたいところ。


「ねえ、英雄って、どんな人だった?」


「良く知られていることだけど......黒髪黒目の男だった。あんたと同じだね」


 それは、何となく予想できてたね。

 だからこの国では、私は差別されない。

 黒髪黒目は、英雄の色だから。


「それと......おっかない男だったよ」


「おっかない?」


「そうだよ。王を倒したんだよ?そんなことできる奴が、カタギの人間であるわけがないんだ。後ろ暗い仕事を、していた男なのさ。だから皆、その英雄のことを、大きな声では語れない」


 ここで、ふと気になった。

 この、ヌムブリばあちゃん。

 その英雄について、一般的な風説を語っている......それだけではないんじゃないか。

 この人、まるで......。




「う......ごほ、ごほっ!」


 しかし、その時だ。

 ヌムブリばあちゃんが突然、せきこみ始めた。


「大丈夫?」


 椅子から飛び降りて近づこうとする私を、ばあちゃんはハンカチで口を抑えながら、止めた。


「大丈夫、大丈夫......年寄りがせきこむなんて、よくあることさ......エミー、あたしは、薬をのんでくるからさ、食器洗いを、お願いして良いかい?」


「わかった」


 そう言ってばあちゃんは、ごほごほ言いながら自分の部屋に戻っていった。




◇ ◇ ◇




 かちゃ、かちゃと音を鳴らしながら、食器を洗う。

 私には【剥離】があるからね、食器洗いは得意中の得意だ。

 私がこの手で一なですれば、食器はたちまちぴかぴかだ。


「............」


 静かに一つ、ため息をつく。


<仕方ありません。どうしようも無いのですから、あなたが気に病むことではありません>


 そうは言っても、ね。




 私と一緒にいれば、その人はいつか不幸な目にあう。

 それがわかっていて、それでもなお、私がヌムブリばあちゃんと一緒にいる理由。

 それは、ばあちゃんが、一人暮らしを寂しそうにしていること。


 そして、もう一つ。




 ......ねえ、ばあちゃん。

 私、鼻が良いんだ。

 口を抑えたそのハンカチに、吐き出した血が染みついていること。

 隠しても、わかるんだ。


 そして、【魔力視】をしても、わかる。

 ばあちゃんの体から漏れている魔力は......本当に少ない。

 これは、ばあちゃんが実は魔力操作の達人で、漏れ出る魔力を抑えているとか......そういうことでは断じて無い。

 純粋に、ばあちゃんの魔力は、かなり少なくなっている。

 どういうことかと言えば、つまり。


 ばあちゃんの体は、かなり弱っている。




 だから、つまり、ばあちゃんは。

 私のせいで、不幸になる......その前に。


 ......うん。




 まあ、その、ヌムブリばあちゃんは。




 ......もう、長くは、ないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  いろいろ小ネタがチラホラと(^∀^)ナンガ山の謎の村ってヤマオック村の事だよねー懐かしい、あの閉ざされた村も外部との交流を始めたみたいで何より。 [気になる点]  新聞記事の『大魔導死去…
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