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少女Eの回想

 夢を見ていた。去年の夢だ。


 こうやって明確にどの時期の夢かなんていう事がわかるのは、この出来事が自分にとって印象深かったからだろうか。


 それとも、ただ単に落ち行く意識に最後、プレゼントされる走馬灯みたいなものだろうか。


 一瞬取り戻した意識で少し考える。


(ああ、まだ一年半前なのに。なんで、懐かしいなんて思ってしまうんでしょうね)


 私にとってこの一年半は今までの人生より価値のあるものだった……とまでは言いきれないけど、だけど間違いなく私の過ごした一年半のなかで最も好きだと断言できるものだった。


(なんで私、ほとんど気持ちは分かってたはずなのに最後の最後まで告白しなかったのかしら。変わってしまうことを恐れたから? 言ってしまえば、すぐにでも居なくならなきゃいけないから?)


 結果、気持ちを伝えて即座に彼の元から離れなきゃいけなくなってしまった。なんだか、もったいないなんて子供みたいな感想を思ってしまう。


(そんな事考えてたらまた意識が……)


 考え事をしていると急に頭がぼうっとして、目の前がちかちかする。

 このまま、意識を失ってさっきから見せられている過去の記憶を再度見せられるのだろう。

 そんな失い行く意識の中で、私は一つだけ思う事があった。


(できるなら、また会いたいな……奈月くん)


 しかしそんな想いとは関係なく、そのまま私は再び夢の世界に吸い込まれた。


 ✳︎


「お嬢様、今日はこのまま家に戻りますか? それとも、何かお買い物でもなさいますか?」


 私専属のメイド、如月が車のエンジンをかけながら呼びかけてくる。

 普段、中学では学校が終われば真っ直ぐ家に向かうから、珍しく何か提案してきたこの時のことはよく覚えている。


「別に買いたいものも無いし、人混みは怖いから行かなくていいわよ。入学試験も終わってすぐなわけだし、気を使ってくれてるのはわかるんだけどね」

「そうですか……確かにお嬢様の成績であれば問題なく推薦入試であのレベルの高校なら入れるでしょうし、万が一にダメでも一般入試がありますものね」

「ダメな時なんて考えたくは無いわね……もし落ちたらどうしましょう。引きこもりにでもなればいいのかしら?」

「普段から大概には引きこもってるじゃ無いですか。今と対して変わりませんって」

「……慰めるつもりなのか、外出ろって意味なのかはっきりしてほしいわね」


 その時、よくよく考えれば如月がたまにある休み以外では私のために働いてくれていて、外に遊びに行くなんて全然無いことに頭が行った。


 今日は十四時前には試験は終わってしまった。親の目があるから十九時頃までには帰る必要があるが、近くの遊び場なんかなら行けるだろう。

 そんな風に考えて、彼女に提案してみる。


「ねえ、どこか行きたい場所ない? なんでもいいわ。動物園でもカラオケでも、海でも山でも大丈夫……まあ、時間的にどこまで行けるか怪しい部分もあるのだけど」


 如月はこちらをバックミラー越しにチラリと見て、それから答えてくる。


「そうですね、プール……はお嬢様が嫌ですかね。ゲームセンターは音が大きいですし、土曜ですから人もそこそこ多いはずです。あとは……喫茶店でお喋りなんて妥当ですけど、お嬢様のお話は家でも聴けますから新鮮味が少ないですね」


 如月はこちらに気を使った選択肢を提示しながら、最終的にこうやって言った。


「ああ、そうだ。一時間くらい行ったところにそこそこ大きな神社があるらしいんです。少し山に入っていかないといけないんですけど、そこなら人もそれほど多くないでしょうし、私も一度行ってみたいのでどうでしょう?」


 彼女はあくまでこちらの意思を尊重してくれているようで、私に行くかどうか聞いてくる。


「神社かあ……うん、行きましょう。ちょうど先週、神社が舞台のラノベ読んだのよ。あんまりどんな場所かってイメージないし、せっかくだからお参りしたいもの」


 そうやって私がいうと如月は嬉しそうに答える。


「はい!じゃあ、出発しましょうか」


 彼女はそのまま、アクセルをゆっくりと踏んで車を発進させる。


「お嬢様って歌は好きって事ですけどカラオケとか行こうとは思わないんですか?」

「うーん、一人カラオケって最近増えてきたって言うけれどやっぱりどういう目で見られるか怖いのよね。この見た目だと目立つし、厄介ごとに巻き込まれたこともあるから」

「あー、やっぱり大変ですよねその髪の毛と目の色」

「そうなの。でもあの人達は染めるな、なんて言ってくるでしょう?」

「そうですね、旦那様と奥様は厳しいですから。でも、手入れしてても綺麗だとは思いますよその金色。髪質もサラサラですし」

「ありがと。私も嫌いじゃないんだけど……昔からよくからかわれたから」

「……悲しいことです。高校でも目立つでしょうから、先生達にもきちんと伝えないといけないですね」

「ちゃんと話した方が問題少ないものね」


 と、そこまで話したところで神社の案内板が見えた。


 時間を見るとちょうど十五時。


 少しの時間如月と話をしていたと思うとあっという間に時間が経っていた。

 彼女は話し上手だし、メイドという立場であるからだろうか聞き役に徹するのもとても上手だと、話すたび思う。


「お、見えてきましたよ。あれが目的の天風神社です。そういえば言い忘れましたけど、恋愛成就の神様が祀られているって話ですよ?」


 そうやって嬉しそうに喋る。

 ……今年で二十六歳になるから彼女もそろそろ結婚したいという思いが生まれてきたのだろうか?

 まあ、そもそも私の身の周りの世話なんていう出会いの少ない仕事をしているんだから、出会いに貪欲になるのも仕方ないのかもしれない。


 そんな事を考えていると、いつのまにか如月は駐車場に車を停め始めていた。あわてて、私も最低限の荷物だけを整えて降りるよう準備を始める。


 土曜日だからか、結構な山の上にも関わらずちらほらと車も見受けられるのだが、やはりアミューズメントパークなどとは比べるべくもない程に少なく、人もまばらだ。


 私は人の少なさに安心をしてホッとした気持ちで車からゆっくりと降りる。私が降りるとすぐに如月も降りる。


 とはいえどこに行けば良いものかと思いつつ、長めの階段の上に見える鳥居の方を見る。

 そんな私を見た如月が笑顔で言う。


「じゃあ境内を目指して行きましょうか。帰りもあるので遅くなりすぎないようにさっくりと見るような感じで」

「わかったわ。お守りなんかも売ってるんだっけ? せっかくなら買って行きたいわね」

 そんな私の言葉を聞いた如月はからかうような口調と笑顔で言ってくる。

「おっ、恋愛成就のお守り買っちゃいます? 高校デビューを目指しますか?」

「……やっぱり買わないようにしようかしら」

「あはは、もちろん冗談ですよ。恋愛成就の神社とは言っても他にもお守りあるでしょうから、色々見て回りましょうか」


 その時、返事をして目の前の鳥居をくぐろうと鳥居のちょうど真下に足を踏み入れた瞬間の事だ。

 私の『当時』の思い出と『現在』の意識がごちゃ混ぜになったような気持ちの悪い感覚を覚えて……私は、また夢から覚める。

時系列ごちゃ混ぜにして書くのって難しい……難しくない?

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