久しぶりに喋ると会話が続かない
僕と電話の相手……エリスであろう人物はしばらくしてから話を再開する。
「……久しぶり」
「……うん」
挨拶を交わしてから間が空く。
何から話したらいいか分からないのだ。
しばらく、お互いに喋らなかったがその沈黙をエリスが破ってくる。
「……私の事覚えてる?」
なんてあまりに間抜けな質問が飛ばされた。
「覚えてないわけ無いよ」
「……そっか」
そうやって言うエリス。
……彼女がどういう表情をしているのかは分からないけれど、言葉からして僕に覚えられてる事を不本意だと感じている節は無くて安心した。
「……あの愚神、契約だけはきっちりしてくれたんだ」
「……やっぱり、エリスもそういう認識なんだね」
安心して呟くエリスに対して、何気なく僕はそうやって言葉を返した。
しかし、その言葉を黙って聞きすごすほどエリスは鈍感では無くて。
「やっぱりって事は奈月くんも何かあったのね」
「そうだね。エリスが消えてから、環境が変わったせいでバタバタしちゃって」
「他の誰も、私を覚えてなかった?」
「うん、そう……だね。クラスメイトも、知り合いも、先生も……如月さんも」
僕はそうやって彼女の疑問に答える。
「如月も……そうなの」
……エリスが自分の境遇を理解しながら消えていった事。
短い言葉からそれが感じられて、僕はなんて言っていいか分からず、携帯を持っていない方の手を強く握る。
「にしても、環境が変わったなんて変な話ね。例えばどんな風になったのよ?」
僕はその質問に心をどきりと跳ねさせながら、当たり障りの無いところから触れていく。
「そうだね……例えば、昼休みに一緒にご飯を食べるのは霜切さんになってた」
「あー、分かるわね。それはイメージ出来そう。……不本意だけれどね」
「不本意なんだ」
僕はエリスの言葉に驚いて、思わず復唱してしまう。
彼女はそれを聞いて、すごい早口に言葉を返してくる。
「だって、私が奈月くんの隣にいたはずで、まるでそこが奪われてしまったみたい。……別に、あの子が悪いわけじゃないし、悪意がないのも知ってる。……むしろ、下心を持った願いをした私が悪いのも分かる。……だけど、納得できないもの。私だって、奈月くんの隣に居たいのに」
「……えっと」
僕が困って一言呟くと、向こうにもそれが通じたのか、一旦話をやめてくるエリス。
「……取り乱したわ。ごめんなさい。他は?」
「えっと……後輩の子に、告白された……らしい」
「は!? ちょっと! 何を寝言喋ってるのよ!?」
落ち着いた一瞬後に、さっきより更に慌て出すエリス。
……エリスっていつもは結構クールぶって冷静なんだけど、一旦落ち着きをなくすとこういう風に忙しい感じになるんだよね。
「……あ、いやその、断って話は受けなかったみたいなんだけどね」
「……そ、そうなのね。……よかった、のかしら?」
……そうやって肩透かしを食らったように彼女が一転声のトーンを下げると、「次は?」なんて聞いてくる。
どんどんと喋りたくない事が増えていくから、その言葉に死の宣告みたいだな、なんて思う。
「……アパートの僕の部屋だった場所に知らないおっさんが住んでて」
「……私が消えた事関係ないと思うのだけれど、なんででしょうね……」
どんどん喋る事は重なって、
「クラスメイトにロリコンいたでしょ? あれと図書委員で一緒になって」
「……アホっぽいように見えて、実は奈月くんと相性いいわよね。アレ」
そして、段々と話す事は無くなってついに、如月さんの事についてまで喋ることになる。
「……生活がまるでエリスの生活環境みたいに変わった」
「……どういう意味よ」
「……僕の家、多分元々は一般的な中流家庭くらいだと思うんだけど、エリスの実家みたいになってた」
「例えば?」
「住んでる場所はエリスの住んでたマンションの部屋、実家は凄い大きな豪邸、一緒に暮らすメイドの人がいる。……いや、隠しちゃダメだね。如月さんが一緒に暮らしてる」
「……ああ、なるほどね。さっきの話よくよく考えれば、奈月くんと如月に直接の接点は無いと思ってたのよ。……どうやって如月が私の事を覚えてない事に確認が取れたのかと思ったわ」
エリスはこれだけの情報で別の疑問も解決させる。
これだけだったら、彼女が賢い……だけで、話は終わっていただろう、がしかし、話はこれで終わらずに。
「……奈月くん、隠しても無駄よ。正直に答えてね」
「う、うん」
「……あなた今、婚約者がいるんじゃない?」
……エリスはそんな脈絡も文脈も欠けらもない発言をぶち込んできたのだった。
久しぶりでもm事務的会話なら出来るよね




