1話 中
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「じゃあ『タマ』で確定したんだ? 」
リビングでテレビを見ながら僕達は雑談に興じていた。
「一周回って無難な名前だね」
「あいつも結構喜んでると思いますよ」
「そうかな~? 」
タマはテレビの画面を見ながら不思議そうな顔をしている。
「タマ~? 」
「? なんだ?? 」
「呼んだだけ」
「そうか」
「タマ~」
「? なんだ?? 」
「呼んだだけ~」
「・・・・そうか」
「タマ~」
「なんだよ!! 」
かいちょーがタマを呼んで反応を確かめて遊んでいる。
可哀想に、お前最初は悪い奴みたいな雰囲気を醸し出してたのに。今じゃただの飼い主に遊ばれる猫だ。
「ひ、陽? なんでそんなに温かい目で見つめてくるんだ?? 」
「お前も大変だなって思って」
「そうなんだよ! 」
「いきなりデカイ声出すなよ」
「ごめんなさい」
なんだろう? すごくからかいたくなるな、この子。
「好きな娘っていじめたくなるよね~」
かいちょーがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「陽、私の事が好きだったのか!? 」
「はぁ? 」
「だから桃花とは付き合わないのか!? そういう事だったのか!? 」
「ちょっと待って、何言ってんだ」
「や、やめておけ! 陽!! 私は人型だけど猫だぞ!? このままだと獣〇になっちゃう!! 」
「よぉし、歯ぁ食いしばれ」
どうすんだよ、この空気。
さっきまでニヤニヤしてたかいちょーがものっすごい暗い顔になって俯いちゃったよ?
謝りなさい??
「ワンコくん、好きでもない女と同棲してるの? 」
「いや、勝手に居座ってるのはかいちょーじゃないですか」
「うん、まぁ、そうなんですけど、え、全然意識しない? 」
「う~ん、意識しないって言うか、意識出来ないって言うか・・・・かいちょーの事は好きなんですよ? でも、なんでだろう? かいちょーとは付き合わない気がするんです」
「そっか・・・・」
うわぁ、なんか申し訳ない気持ちになるよ。
何も悪い事してないんだけどなぁ・・・・。
「(やっぱり、あの時の事が・・・・)」
「え? なんて?? 」
「なんでもないよ」
かいちょーはそっぽを向いて口を尖らせてしまった。
さすがのタマも良くない空気を察したのかオロオロとしている。
「あ、えっと、ひ、陽、今日は桃花と帰って来なかったんだな!」
話を逸らそうと気を使うタマ。
「うん、まぁ、色々あってね」
「あの女は誰だ? 」
「女・・・・? 」
お、食いついてきた。
「ワンコくん、女の子と帰って来たの? 」
「はい、そうですね」
「誰? 」
気のせいか、かいちょーの顔に焦りが見える。
普段の飄々とした態度からは想像出来ないくてなんか怖いな。
「雪菜ちゃんです」
「!? う、嘘でしょう・・・・!? いくらなんでも早すぎる。こんなのって・・・・」
なんだ、この反応は。
なんでこんなに焦ってるんだろう?
ヤキモチかな??
「ワンコくん、明日からは絶対にあの娘と帰るな。そして出来るだけ関わるな」
む、なんでこんな事言われなきゃならないんだろう??
「なんでです? 」
少しだけイラッとしてしまい、強めの口調で聞き返してしまう。
「なんでもだ」
「理由を言ってください」
「今は言えない」
「じゃあ約束は出来ません」
「ダメだ、約束してくれ」
「無理です」
「同じ生徒会役員ですよ? 」
「それでもだ」
「クラスメイトです」
「それでも」
「友達です」
「ダメなんだ」
見ると、会長の目には涙が溜まっていた。
「信じてくれ、『陽くん』」
初めて『陽くん』と呼ばれた。
理由はわからない。
でも、彼女の気持ちは本気なのだと感じた。
「お願い・・・・」
じっと見つめてくる会長から目を逸らしてしまう。
「無理ですよ・・・・」
僕はその場から逃げ出した。
「ひ、陽!? 」
「ごめん、タマ。」
「桃花!? なんで!! 」
「追わないで、あげて」
☆☆☆
翌朝、なんとなく僕達の間には気不味い空気が流れていた。
「じゃあ、わたし、先に行くから」
「・・・・いってらっしゃい」
その日、高校生になってから初めて、僕は1人で家を出る事になった。
「じゃあ、タマ。留守番よろしくね? 」
「うん、まかせて・・・・」
静かな朝だ。
今日は風香ちゃんも日直なので朝早くに出かけて行った。
一人の時間が、こんなに寂しいとは思わなかった。
「・・・・ダメだな」
ダメだな。
なんで、僕はこんななんだろう。
会長はいい加減な人だ。
でも、絶対に意味の無い事はしない。
あの人には何度も救われている。
それなのに
それなのに・・・・
「きゃっ!? 」
「うわっ!? 」
曲がり角にさし当たった時、誰かとぶつかってしまった。
「すいません、大丈夫です、か・・・・? 」
そこには、姫川 雪菜が倒れ込んでいた。
「ん、斉藤、くん? 」
「あ、あぁ、おはよう」
早速出会ってしまった。
「何かあったの? 」
「え? 」
「斉藤くん、なんだか辛そうだよ」
雪菜ちゃんに話しかけられた。
彼女は、あまり人と話しかける様なタイプでは無い。
そんな彼女が話しかけてくる程、僕は悩んでいたのか。
「うん、大丈夫。なんでもないよ」
話せる訳が無い。
だって、会長に「姫川 雪菜と関わるな」って言われたんだよ?
こんなの本人に言える訳ない。
「そっか」
「うん」
微妙な空気が流れる。
また気を使わせてしまったな。
申し訳なさを感じながら、僕は雪菜ちゃんと一緒に登校した。
☆☆☆
「ひなたくん」
教室に着くと、僕の周りに何人ものクラスメイトが集まってきた。
雪菜ちゃんは教室に入るとスタスタと自分の席まで歩いていった。
「どうしたの? 風香ちゃん」
代表して話しかけてきた風香ちゃんに聞き返す。
「ひなたくん、姫川さんと付き合ってるの? 」
んん? どこから来た噂だ? これは
「ひなたくん、会長さんと付き合ってるんじゃないの? 」
「いや、どっちも付き合ってないけど」
うん、嘘は吐いてない。
「ほんとに? 」
「うん」
僕の言葉に顔を見合わせるクラスメイト達。
「でもさ、一緒に住んでるんだよね? 」
「うん」
「キスもしたんだよね? 」
「うん」
「ほぼ毎日一緒に登下校してるよね? 」
「うん」
「付き合ってないの? 」
「付き合ってないよ? 」
あらためて確認されると不思議だな
ここまでの事をしてるのに、なんで僕は会長と付き合ってないんだろう??
「なんで急に? 」
「う~ん・・・・あのね? 私達、今までひなたくんと会長さんの関係に疑問を抱かなかったんだ」
「うん? 」
「あのさ」
風香ちゃんがはっきりと口に出す。
「2人の関係って、はっきり言って、『異常』、だよね・・・・? 」
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