第三章 2
墓守研修、二日目。
相変わらず嫌々向かったクロムとネオだったが、仕事を始めた矢先、墓守を辞めていく理由の『三割』と遭遇してしまう。
その後、負傷を理由に早退しレニーの銀の馬車に揺られて向かった先で、二人は『墓守の矜持』を知ることとなるのだった。
昼頃に騎士団本部へ戻り、食堂で第四軍団長ケイレブと偶然会い、二人でルテナの過去の話を聞くことになる。その時、騎士の一人を引っ張って第二軍副団長のディックがケイレブへ第一軍団長ラジームへの苦情を言いに来る。
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二人が負傷してから一時間後、レニーが墓場へ駆けつけた。
馬車を降りたレニーは、仕事中だったルテナと一緒に家へ入ると、指示通りに白い制服に着替え直していた二人を見つけて安堵の息をついた。
「ああ、よかった。命があって何よりだよ」
「「…………」」
無言でふさぎ込む二人を見て、察したレニーが眉を下げた。
「苦い経験をしたようだけど、すまないね。新人墓守は誰もが通る道なんだ。これは正しい騎士ほど抱え込む問題だ。だから辛い気持ちになってる君達は『正しい騎士』だよ」
ルテナと同じような事を言われ、沈黙を守っていると、彼女が書類をレニーに渡した。
「二人共この時間で切りあげてもらう事にしました。送ってあげて下さい」
「わかりました」
「それと、さきほど一人、成仏されましたので、後はよろしくお願いします」
「了解です」
レニーは書類を受け取り、四人で外に出て改めて門の近くを見れば、小さな細長い袋が丁寧に置かれていた。
ネオを襲った少年の遺体だということは二人にも理解できる。
レニーは布を僅かに剥いで、遺体の番号と、書類と照らし合わせて最終確認を行う。
その間に、ルテナは二人に話しかけた。
「お二人共、明日は元の職場と墓地、どちらでも好きに出勤して構いませんよ」
「……お払い箱ってことかよ」
クロムの悪態にさらりと返したルテナが飄々と笑う。
「よく解ってるじゃないですか。今日の事をまたやりたくないなら、真面目に仕事をこなすことですね。このために研修に来てもらったんですから」
「「……!」」
真相を聞かされ、二人が絶句する。
確かに今日の出来事を体験したら墓守などなりたくない。
この経験をさせて、真面目に業務をさせるための研修。
完全にしてやられたことを知っても言い返せない。悔しいが、〈騎士王〉と彼女の算段は効果覿面だった。
だから、せめてもの抵抗と反抗心で射殺さんばかりにルテナを睨みつける。
確認を終えたレニーがそんな二人に気付いた。
事情を把握でもしたのか長い溜息を吐いた彼がルテナに話しかける。
「……隊長って、実は不器用でしょう?」
「何がです?」
「いや、いいです」
そして、レニーは近くで佇んでいる二人へと顔を向けた。
「さて、遺体を乗せるから、先に乗っててもらえる?」
「…………」
頷いた二人が素直に従うと、レニーとルテナは馬車から新しい遺体を降ろし、成仏した少年の遺体を運び込む。
作業を終え、レニーが御者台へ上がりかけ、思い出したようにルテナへ向き直った。
「そうそう、すでに情報は入手しているかと思いますが、念のため。最近連続殺人事件が起こってるんです。通り魔の辻斬りで、昨日のご遺体と、今運んできた方も犠牲者なんですよ。まだ捕まってないんで、もしかしたら死体がまた来るからもしれません」
「首都に来る時、前情報にありましたねぇ……了解しました」
短く答えたルテナに手を振り、レニーは馬車を出す。
門が重々しい音と共に閉まるのを見届け、馬車が走り出す音が遠ざかるのを耳をそば立てて聞いていたルテナは、聞こえなくなったと同時に、その場にしゃがみ込で頭を抱えた。
「あっっっっっっっぶなかったぁぁぁ!」
ずっとポーカーフェイスでいたルテナがどっと汗を噴き出す。
本気で危なかったのだ。
彼らに基本を教えたし、想像以上に体力も真面目さもあったために気を抜き、目を離した所為で、命を落とす寸前だった。
そんな事、隊員を預かる者として、あってはならないことだ。こんなところを戦い方を伝授してくれた師である軍団長達に見られたら、ぶん殴られるどころじゃ済まない。
ただでさえ、彼女の前職は要人護衛。『守護騎士』としてすら失格の所業だった。
ともかく、これで二度と墓地には来ないだろう。
ルテナはふらふらと疲弊した顔で立ち上がった。
「……あー。やっと終わった……」
予想では一日で彼らの研修は終わると思っていたのだ。
それが一日ずれた上、見ていない間に研修目的のライヘが現れ、怪我までさせるとは。
「……あーあ、やっぱり教えるのは無理だわ……」
ルテナが遠い目をする。
『何事も挑戦だ』
ガリウスがよく言っていた台詞。
教わりたくはなかったが、皮肉にも私兵の時はガリウスから、その後も様々な達人達からたくさんの事を学んだ。その中には戦闘技術だけではない。リーダーとしての在り方もだ。
例えどんな苦境だろうと、窮地に立たされようと、上に立つ者は余裕をもって堂々と、端然としているべし。そうしていなければ従う部下達に狼狽や怯えが伝播し、勝てるものも勝てない。失敗にさらに失敗が重なり犠牲者が出かねない。
子供の頃から、部下をどう鼓舞するか、ラルフからも教えられた。
不思議に思っていたが、どうやら子供の頃の『獣人襲撃事件』の時にノイドを一喝して共に戦ったのが原因らしい。アレを見て『リーダーの素養がある』と思われたようだ。
ガリウスは飄々と笑って余裕を見せる事で、ラルフは力強く鼓舞する事で、部下達に突き進む見本を示していた。その背中を追うように、部下達も勇んで自然と付いて行く。
ああいうのが、『人の上に立つ者』の理想なんだと、ルテナもまた彼らを見て教わった。
だからだろうか、ラルフを尊敬している不良騎士がいると聞き、彼らにラルフの教えを伝えてみようと、二人を預かった。
……が、理想として勉強はしてみたが、実際にやってみて上手くいった試しがない。
今までの部下は、遥か年上で経験豊富な大人ばかりだったのだ。黙っていてもついてきてくれてとても楽だったし、優秀過ぎて、教えるどころか教わる始末。
こんな体たらくでも、〈騎士王〉も承知の上での派遣なのだ。咎めたりはしまい。もとより充分に懲りたはず。
『最後の仕上げ』は人生経験の長いレニーがやってくれる。きっと彼ならこの仕事に関しても、正しく理解し、二人の性格も修正してくれるだろう。
そして、『騎士』と『墓守』の矜持の違いを叩き込んでくれる。
ルテナは嘆息し、シャベルを足元に刺して一瞥した。
「どうしてこうなったんだろう……」
思わず呟いてしまう。
本当は、こんなはずではなかったのだ。
騎士になるつもりも、墓守になるつもりもなかった。それどころか、本当は主婦にもなれないと分かっていた。
ただ、子供の頃に噂を聞いたのだ。
口に出し続けていれば理想へ近づいて行くものなのだ、と。
その当時、ルテナはかなり『非常識』な子供だった。
人には決して言えない。けれど、その時だけは辛うじて『仕事』として認められていて、咎められない状況にはあった。
だから、それが知られる前にその仕事を辞めようと思っていたが、もう一人の友人が心配だったことと、故郷に居続ける限り誰もがいつかは知る仕事だったから、周りに流されて辞められなかった。
自分の性格を修正するためにも、結婚して子供を作って幸せに暮らしたい。
そういう当たり前の女らしい日常を口に出していれば、『常識』の枠の中で平穏に暮らせるのではないか、と淡い希望を持っていた。
出来れば、子供の頃の過ちを目を閉じて耳を塞いで、何もなかったことにして、上辺だけでも幸せに暮らしたかった。
しかし心のどこかで、その平凡な生活は無理だと分かっていた。この性格が変わることはないし、堕ちるところまで堕ちていくと思っていた。
それを、何を勘違いしたのか、ガリウスが才能と言って拾ってくれた。
おかげで今でも咎められはしていない。
奇跡としか言いようがない。
「……まぁ、隊長の役目は失敗したけど……このまま居られても仕事に支障がでるし……」
さっきとは打って変わって暗澹と呟き、広大な墓地の奥へ視線をやる。二人は気付かなかったようだが、一番奥に一本の木の墓標が立てられていた。
その時、不意にこの場所ではあり得ない少年の声が背後から聞こえた。
『この人殺しめ』
憎悪しかないその声音に覚えがあり、ルテナは口元に笑みを浮かべて肩越しに振り返る。
「やぁ、バーク兄、久しぶり」
しかし、声をかけたがそこには誰もいなかった。
「……なんだ、声だけ? ま、幻なのは分かってんだけどさぁ」
口元は笑っているのに、その瞳は死んだ魚のように暗く濁っている。ここに人がいたらきっと恐怖を覚えるような表情だ。
ちりん。
後悔と反省中のルテナの腰の鈴が涼やかな音を奏で、再び腕が土から生えてきた。
「……あー……仕事するかぁ……」
ルテナはため息を吐いて、シャベルを掴み、ズルズルと引きずりながら墓地の中に入って行く。
かなり短かったですね。次の回も短いのでくっつけようかとも思ったのですが、全く場面が違うので短く分けさせていただきました。
★後書きにてお知らせ。
あらすじにも曜日指定や予定を書いてありますが、不可思議と同時進行で投稿すると一週間に二つ投稿となってしまい……無理です(断言)。
というわけで、週に一回交互に、イデアール→不可思議→イデアールという感じに週一で投稿させていただこうと思います。こうすれば、まだどちらも終わってないので、少しは余裕が出来るはず……?
……。
…………。
………………。
だったらどちらも金曜投稿予定で良くないか? お休みの土日にゆっくり読んで貰う感じで。
……不可思議のあらすじ予定曜日も、変えておきます。ころころ投稿曜日変えてすみません(平身低頭)
そして余裕が無くなったら、またどっちか止まるかもしれません(めっちゃ遅筆)




