連鎖
一週間後
荒木の件は一部のマスコミに発覚することとなり、向陽電機は社内調査委員会の設置を正式発表した。そこには、外部の第三者もメンバーとして入る。
宮下は総務課長職を外され、自宅待機が命じられた。同時に、過去数年分の勤怠管理について外部監査が入ることになった。
亡くなった社員の件についても、遺族側と改めて協議を行う方針が示された。
夕方 福寿事務所
正木がニュースサイトを見ながら口を開いた。
「ホワイト企業と言われている会社も、実態は分からないものですね。それにしても今回は酷すぎましたよ…」
「看板だけでは、中身は分からないってことよ」
工藤がコーヒーを口にする。
「ブランドを守ることを最優先にする、そういうことよね。そして組織は、問題そのものより、問題を外へ出した人を危険視する」
「荒木さん、どうなるんでしょうか」
「退職される意向みたい。但し、会社都合として、不当な扱いについての解決金についても話をしてきたわよ」
福寿は即答した。
「あ、ところで紗知。懲戒請求取り下げが来たわよ」
工藤が鞄から一通の封筒を取り出した。
「私のところにも」
そう言って、福寿も封筒を机の上に置いた。
「あれだけ大騒ぎして、こんな形で圧力をかけてきたのに…」
正木が二通の封筒を見比べている。
「勝ち目がないと思ったからよ。それでもね、懲戒請求なんて出されたら萎縮する人もいるからね」
工藤が溜め息をつきながら、正木に言った。
「でも、荒木さんもそうですけど、工藤先生と福寿先生も、何も間違っていない。それなのに、さも悪いことをしたように事実が作られようとしていた…気味が悪かったです」
正木が深刻な表情を見せた。
「ね、そういうことなの。論点をずらして、ありもしない事実をでっち上げる。姑息で卑怯よ」
福寿が正木に向かって言った。
「相変わらず重いテーマ扱うわね、紗知」
「淳子も楽しそうだったじゃない」
「まぁね」
二人は顔を見合わせ、少しだけ笑った。その様子を見た正木は、「信じられない」という表情を見せた。
正木が、空いたカップにコーヒーを注ごうとすると、事務所の電話が鳴った。 正木が受話器を取る。
「はい、福寿社会保険労務士事務所です」
数秒後、正木の表情が変わった。
「先生…相談希望のご連絡です。内部通報に関して、と…」
福寿と工藤は、無言で視線を合わせた。
終わっていなかった。
この様な問題は、きっと社会のどこかで、今この瞬間にも起きているのだ。
終




