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美少女おっさんと長男と地味子

いつも読んでいただきありがとうございます

 学校祭。日頃の学習や活動の成果をあらゆる方法で発表し、互いに鑑賞するイベントである。

 緩い言い方だと、各学年や学級ごとに、演劇やダンス、合唱、軽音楽というステージ発表を、教室内展示、模擬店を出店したりする。また、山車行列を作って街を歩くケースもあったりする。

 幼稚園なら発表会、小学校だと学芸会、中学生以降は学校祭または文化祭と呼ばれている。

 この学校祭の準備期間や終了後からカップルが増えていたりするんだが、私にはそういう特別なイベントは関係なかった。

 いいもん! 妻がいるからいいもん! 

 どうも、嫉妬ばかりする美少女おっさんの鈴木です。

 妻からまた指令が入ったわけです。

 息子の学校祭仕事で行けなくなったから写真撮ってきて、と。

 妻、仕事大変だな。

 そういうわけでね、つい先日息子の高校で痛い目を見た、というか息子が同性愛に目覚めているのではないかという疑念を感じ、辛い思いをした中、またその息子を見に行かなければならなくなった。

 どうするか……男同士というか同性とかは人口増加に寄与しないから駄目だとか、そういう時代じゃないからね。ただ、私がなんとなく受け入れられないだけなんだ。まあ、百合は見ていても見苦しくないが、男同士はちょっとあまりみたくない、というものであって、結局あれだ、私もただのゲスの中の一人というやつさ。

 さて、そんな男同士が好きな長男(※主人公の鈴木宏がそう思い込んでいるだけ)にあってくるのはちょっと腰が引ける。

 学校祭で仲良くなった男友達とイチャイチャしているところとか、私は目撃したくない。

 いずれにせよ、いつか話し合わなければいけない、そして認めてあげなければいけない時が来る。

 その前に学校祭でお父さんとしての姿で一度見に行かなければならないと思った。


「お兄ちゃんの学校祭一緒に見に行こう!」


 そう、娘が来るまでは。




 ロングヘアを緩く巻いてインナーカラーがちらちら見えるヘアスタイルの娘由紀、きっと学校祭で年上の男を意識しているのかもしれない。ち、色気づきやがって……いけないいけない。娘の成長を暖かく見守らなければならない。いや、でも、変な虫が湧いてきたら私は我慢できるだろうか。とりあえず私と同じ年齢層のおっさんと付き合っていると娘から言われたら、勢い誤ってそのおっさんを呪い殺すと思うのでやめてほしい。


「高校の学校祭って、ちょっと怖いようで行ってみたいじゃない。でも、お父さんがいれば百人力だよね」


 なんとなく娘の気持ちはわかる。一回りも二回りも大きく大人に近づいた高校生の先輩は、何も悪い人たちでもないのに威圧感を感じたな。だから、高校の学校祭だなんて、中学生の時になんて絶対行かなかった。

 でも、高校生になると、中学生とか小学生が学校祭に来てくれるとめっちゃくちゃ嬉しかったんだよな。不思議だよな。


「それで、お父さんはいつもの姿で行くんでしょ?」


「むむむむ」


 そうなるよね。娘とおっさん姿の私は一緒に歩けば天然お巡りさんホイホイ。

 悪気がなくてもお巡りさんが寄ってくるのが目に見えている。

 高校の中であれば、まあ父兄だな、と思ってくれるだろうけど、その直前が全くダメだ。

 そういうわけで、いつもの美少女姿のまま私は娘と出かけることにした。


 そういえば、この姿って息子からめちゃくちゃ嫌われていたな。ひと悶着あったくらいだし顔も覚えられているかもしれない。

 まあ、直接会わないで遠目で写真を撮れば、いや、娘に写真を撮ってもらえばいいじゃないか、それでいこう。


 一般開放された学校祭の高校は、色んな格好をしたコスプレ状態の高校生と一般客が混じりあっており、普段の高校にはないお祭り騒ぎの活気があった。浮かれている子供たちがとても眩しくて、もう私はそんな時代にもう戻れないんだ、という切なさを感じた。

 他の生徒の波を避けながら、進んでいると


「ところでお兄ちゃんの教室はどこなの?」


と娘の質問を受ける。これは、答えられなくて父親としての資質を問われてしまうイベントに違いない。


「お兄ちゃんは2年C組だから、2階の真ん中辺りじゃないか?」


 お父さんはちゃんと覚えているんだぜ。お兄ちゃんのクラスルームがどこだって。まあ、異世界で生活して戻って来た直後にはすっかり忘れていたけど。ちゃんと調べ直したからね!

 娘が2年C組の教室を見つけて、引き戸に手をかける。戸がガタガタと音が鳴るだけで開かない。娘はもう一度力をかけるが開かない。

 2年C組の教室は鍵がかかっており、中に誰かがいる様子もなかった。


「ねえ、お父さん?」


 娘が、ちょっとどういうことなの、と言いそうな少し不機嫌気味な顔で私を見た。

 いや、他のクラスがクラスルームで出し物をやっているからといって、うちの息子のクラスもクラスルームで出し物をするというわけではないではないか。まあ、そういうこともあるよね。


 困ったなあと思っていると、後ろから気配を感じて振り返ると、


「ねえ、あんたたちなにやってんの?」


と高校生の女の子3人から声をかけられた。着崩した制服姿でブラウスのボタンが2つ目まで空いていて、スカートもすこぶる短くて、髪の毛の色も明るい茶色だし、これ校則的に絶対にダメだよな、と思うお父さんです。ああ、お父さんの髪の色はピンク色だから一発指導教室行きだよね。地毛証明書みたいの作らないと。

 くちゃくちゃと風船ガムをかんだりふくらませているやつや、チュッパチャプスという棒付きの飴玉を咥えているとかなんか頭ヤバそうだ。


中坊ちゅうがくせいが高校で男漁りしてんの? うけるぅー」

「背伸びしてめかしこんできたの?」


「えっと、鈴木英智ひでとものクラスはどこで出し物しているの」


 風船ガムを膨らませて割り、ガムを指で整えて口の中にもう一度入れている女の子が


「はあ? 自分で探せよ」


と塩対応する。いやあ、面倒くせえのに絡まれたな、と思っていると、真ん中にいたリーダーっぽい女の子が、


「……ちょっとまて、英智? C組の鈴木か? おまえ、鈴木のなんだ?」


と食い気味に聞いていた。


「妹ですけど」


 娘がそう答えると、しばらく、私たちと女子高生3人との間で間があった。

 鬱陶しそうな表情を急にニコニコとして娘の背中を叩き始めた


「いやー、鈴木君の妹さんかー! とても似ているし、可愛いね。展示場所に一緒に行こう」


 なんだ、急に態度を変えて、裏路地なんかに誘き出して変なことをしたらお父さんは許さないぞ、と思って警戒した。しかし、まばらであるが子供や親子連れが通っている、物理の教室までの道を案内された。

 物理の教室の前に看板が立っており、『こども理科じっけん教室』と書かれていた。


「鈴木くーん、妹さんたち連れてきたよ」


 リーダー格の女子高生が1オクターブ高い声で言うと、この前、通りすがりにスカートが捲れていたことを教えてくれた眼鏡っ子の地味子さんが出てきた。

 地味子さんは、地味な雰囲気はあるが、ぱっちりしたおめめに、ぷるんとした血色のいい唇をして、かなり可愛い。かっちりとした制服の着こなしのせいか、地味な感じがする。これは、モブのくせに可愛いとは何、と思われる謎の存在だ。しいて例えるならば攻殻機動隊の公安9課の女性オペレータガイノイドみたいな極めて美人なモブだ。明らかにモブだとわかるのにすごく美人だとか美少女とか、なんかいいよね。


「さっきも来ましたよね、鈴木君迷惑そうでしたよ」


「はあ? お前は関係ないだろ。お前は鈴木君のなんなのよ、お母さんのつもりか? せっかく、鈴木君の可愛い妹さんを連れてきたのに」


 ビリビリと音を立てるような視線の撃ち合いをしているように見えた。

 つまり、これは、我が息子の取り合いに違いない。流石、私の外見遺伝子を継がなかったイケメン長男。悔しいけど……、我、誇らしいぞッ! それなのに男しか興味ないとか、お父さん悲しいぞ!


 男の取り合いという、視線というか死線をくぐり抜けた目つきの地味子さんが私を見て、不思議そうな顔をした。

 

「あれ……あなたは、不審なロリバ……げふんげふん、妹さん?」


「いえ、妹さんと呼ばれている由紀の連れです」


 今、不審なロリババアって言おうとしなかったか?

 ロリババアって言動とか行動した記憶がないぞ。


「あんまり騒がないでくれ。他の人たちに迷惑……って由紀か。他の人に迷惑かけるんじゃないぞ」


 白衣姿の長男の英智ひでともが実験の持ち場から離れてやってきて、疑似ハーレムの女たちと由紀に注意をした。

 そして、私と目が合った。


「君はー……妹の友達?」


「連れです」


 お父さんは嘘は言っていない。連れられてきたのだがら連れだ。

 英智は細めた目で私を脅すように微笑んだ。少しの間のやり取りだったけれど、覚えていたようだ。

 女を遠ざけるためだけの態度がとても秀悦すぎる。


「まあ、妹の友達なら追い出したりはしないよ」


 追い出す以外はあるよ、という含みに感じてならない。

 由紀が耳元で囁いた。


「どういうこと? お兄ちゃん、お父さんに冷たくない?」


「英智はお父さんがこんな美少女姿になってしまったことは知らない。それどころかこの美少女にはとても冷たいんだ」


「それって……まさか、お兄ちゃん……」


「そうだ、彼はバラ族(男性の同性愛者)の疑いが濃厚だ」

 

 英智は妹と私を連れて、実験の持ち場に戻り、モクモクと白い煙が出ているビーカーにバラの花を入れた。このバラもきっと、自分がバラ族であることをアピールしているに違いない。


「ビーカーの中には液体窒素が入っている。液体窒素の温度はマイナス196℃。こうやってバラの花を入れると、一瞬で凍り付く。取り出して握れば、このとおり」


 英智の拳に握りこまれたバラは粉々に砕け散った。

 細めた瞳で、次にこうなるのはお前だ、と言っているような気がしてならない。


「さて、この液体窒素の中に一瞬だけ指を入れるとどうなるでしょうか?」


 妹と私に問題を投げかけてきた。私は知っていたので、娘の回答を待って、じっと娘を見ていた。


「えっと……マイナス196℃なんだから、指も凍る」


「長時間入れると確かに指は凍るけれど、一瞬だけなら……」


 そう言って英智は手を液体窒素の中に入れて、すぐに手を外に取り出した。

 娘はヒィッと、悲鳴を上げたが、英智の指は血色のいい指のままだ。


「指の温度で液体窒素が一気に気化する。すると、気化した窒素が指と液体窒素の間に隙間を作り、一瞬の間なら指に液体窒素が触れない。だから凍結しない。由紀、何事も経験だやってみろ」


「えー、怖いー」


 由紀はそう言いながらも、面白そうなもの見つけた、というようなにやけた顔をして、指を液体窒素の中に入れて、すぐに戻した。


「うわ、すご!」


 一瞬、もくもくと出る白煙様の水蒸気が増え、由紀の声が物理教室に響いた。


「君もやってみる?」


 英智が私に同じように指を入れてみないかと、言って来たが断った。指を入れた瞬間に、腕を掴まれて指を凍傷させられそうなそんな気がした。


 その後、私は娘と息子のツーショット写真を撮りまくり、妻に送りつけた。妻から『GJ』と返信があった。これでミッションコンプリートだ。同時に娘に写真を送り、『友達のために撮ってあげた』体を作り、不審な美少女にならないよう気をつけた。


ーーー

美少女おっさんの長男 英智


 物理教室から妹とその友達が出て行くところを見守った。

 妹にその友達はいつからの知り合いか、と尋ねたら最近だと答えた。

 怪しい。俺たちの野球部を切り崩すために俺の妹に接近する工作をしている可能性がある。

 しかし、本当にただの友達の可能性もある。

 しっかり確認してからの対応をしなければ……。

 俺の持分のお客さんの対応時間が終わり、交代して物理教室の準備室で休憩していると、眞田舞(さなだ まい)が労いの声をかけてきた。眞田舞は、風紀委員みたいにきっちりと制服を着て、眼鏡をかけた黒髪長髪の女子だ。地味な感じがするが、二重まぶたの大きな目にプルプルと震えそうな唇など、校内の美少女ランキングがあれば上位に食い込むこと間違いない。それを感じさせないところが謎の地味さを際立たせている。


「妹さん、可愛かったね。彼氏いるんですか?」


「聞いたことないからわからないけど、いないから女友達と学校祭に来たんじゃないか?」


「あー。そうだね。悪い虫がつかないか心配じゃない?」


「そこまで、シスコンじゃないよ」


「そういえば、妹さんのお友達なんだけど、この前、この高校の中をウロウロしていたんだよねー。何か知ってる」


「俺もそれ知りたいんだ。この前、野球部の練習風景を撮影していたから、もしかしたら、どこかの回し者なんじゃないかと思ってね」


「鈴木君も見たことあるんだ。知り合いじゃないんだ。悪い言い方になるんだけど、変な子だよね。前に話した時に、娘がいるとか言っていたし……」


「年齢を誤魔化している、ということか。妹の友達と言っていたけど、どういう繋がりだ……。もしかしたら、妹は騙されているんじゃ……いや、むしろ」


 なんてことだ、妹は弱みを握られているのだ。

 帰り際に、無理に元気な顔を作って、


『お兄ちゃんがどんな事(男子のことが好き)になっても、私は味方だからね』


とよくわからないことを言っていた。それは、弱みを握られた妹が敵に回るようなことがあっても、臆せず、自分の思うまま行動しろという意味だったのだ。なんたる不覚。


「謎のロリババアに、妹さんが騙されている?」


 眞田には真実は伝えるべきではない。妹のためにも、このことを知るのは最小人数であるべきだ。


「ああ、間違いない。妹と繋がりを持って、俺に接触し、野球部に何らかの工作を仕掛けてきたとは……大人はエグいことをする」


 あのピンクヘッドロリババアめ、次会った時はお前の本性を暴いてやる。

 そして、俺は野球部と家族を守る!

感想、ブックマークなどありがとうございます。

とても励みになっております。

誤字脱字報告も助かっております。


液体窒素を使う実験は、危険がいっぱいですので、詳しい大人の方と一緒にやってください

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― 新着の感想 ―
[一言] >私たちと女子高生3人との間で間があった。 >鬱陶しそうな表情を急にニコニコとして娘の背中を叩き始めた >「いやー、鈴木君の妹さんかー! とても似ているし、可愛いね。展示場所に一緒に行こう」…
[良い点] -40度の世界では、バナナで釘が打てます&バラが粉々に壊れます@Mobil1 お父さんが幼い頃のCMです(たぶん) [一言] とうとうロリババアが工作員認定されてしまった… 息子の為にがん…
[一言] 妹に不本意な勘違いをされたお兄ちゃんの明日はどっちだ
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