序章 婚約破棄されたお嬢様
不定期更新です。よろしくお願いします。
「君との婚約を放棄する!」
ただいま、私の前では愛しのオルレお嬢様がアタオカ野郎、げふん、げふんリエジー様に婚約放棄されております。
リエジー様は普段からカッコいいものの冷たいお顔はいつも以上に冷たく、眉間に深い皺が。まさに鬼のようなお顔。笑ってる子供は泣き顔に、泣いている子供はさらに泣くようなお顔です。ただ、女達には不思議とキャアキャア言われているようです。
顔が整ってる貴族って得ですね。
そんな怖いリエジー様に睨まれこのお披露目会で婚約破棄されお嬢様は泣き崩れる――いう訳でもなく少し考え込むように顔を伏せて、それとなく振り返ってリヤリ、いえニコリと微笑まれました。
もちろん、分かっておりますわ!このメイド、サリー突撃です☆
…とその前にここまでに起こったことを皆様に説明しなければ。
♢♢♢
ことの次第は二日前。
お嬢様のお屋敷にて
「あら、クリスタ。どうしたの?」
「失礼します。サリー殿。」
お嬢様お披露目会に向けての準備を進めていると突如人の気配がしたので振り向きました。
そこにいたのは、このお屋敷の影であるクリスタです。
「はぁ、毎回毎回すぐに気付かないでくださいよ。なんか俺の心ズタズタなんだけど。ってそんなことはともかく見てください、これ!」
彼が差し出してきたのは報告書。ん〜どれどれ。
〈報告〉
・お嬢の婚約者が浮気していると噂である。(今更)
・相手はあの学園三大美女とも言われるレイア嬢。
・お嬢の婚約者が怪しい人間と仲良さそうである。
・お嬢の婚約者の目が冷たい。(今更)
・お嬢の婚約者はお嬢のお披露目会で婚約破棄する予定である。
書いたやつ、クリスタ
今更が半分を占めた報告書でした。
「サリー殿、これに加えてお嬢の新しい婚約者の見繕いも始まっているとの噂でしたが、これはおそらく正しいかと。」
「殴る」
「やめてくだ…そんな俺を殺意の篭った目で見ないでください。そもそも原因はお嬢の婚約者じゃないですか!」
クリスタの必死の訴えが効いたのか珍しくサリーは大人しくなったように見えたが違った。
「それは…そうですね。それに冷静に考えると私のパンチ程度では軽すぎますもの。では、クリスタ。さらに心に傷を負う、ボコボコリエジー大作戦の計画を練りましょう。」
「はぁ、俺は不参加…というのは冗談で、参加します!ぜひ、参加されてください!」
「よろしい。」
睨まれて圧倒的力の差を見せつけられクリスタは大人しく降伏するしかなくなった。
「それで、サリー殿。まずは何をするんだ?」
巻き込まれることに慣れているクリスタは諦めてボコボコにすることを想像しているのか不気味に笑う彼女に話しかけた。
「ふふふふふ。そうですね。作戦は思いつきましたわ。後はお嬢様にお話と協力を求めることですわー!協力、してくださるかしら?」
「あのお嬢ならすると思うぞ。」
なにせ、アンタと同類だからな!
クリスタは心の中で呟いた。二人の血の気の多いところはよく似ていると思う。心底
「そうですわね!お嬢様は素晴らしきお方ですから。その作戦はズバリ――」
♢♢♢
お嬢様の合図を見て執事に扮したクリスタと目くばせして私は一歩前に出た。
「リエジー様、発言の許可をくださいませ。」
リエジー様は眉を顰めつつ許可を出します。
「貴様はなんだ?無礼だな。だが、面白い。許そう。」
「ありがとうございます。ハルリオン伯爵の長女、サリーと申しますわ。オルレお嬢様のメイドにございます。」
「ふん。婚約破棄された哀れな主人への庇いか。」
とたん、バカにしたように私とオルレお嬢様を見つめるリエジー様。うざい。ボコボコにしてやる。
「いいえ、庇いなどではございませんわ。オルレお嬢様は少しだけ運動不足ですの。良ければ記念に戦ってあげてくださいませんか?…きちんと契約勝負で。」
私のお願いには流石にリエジー様も驚いたようです。武が中心のこの国で契約勝負とは大きな何かをかけて行われるものですから、それに負ければ名誉を汚されることは間違いないのです。ただ、すぐに表情を戻して口を開きます。
「よかろう。そうだな、このオルレ一人では心細かろう。オルレとお前でかかって来い。」
舐めかかった態度にイライラするものの、お嬢様一人では心臓に悪い。だが、これでは名誉はリエジーが負けた時のみ守られるのではないか。よし、いい意味で裏切ってやろう。
「そうですわね。そうしてもらいますわ。ただ、リエジー様ももう一人付けてくださいませ。二対二ですわ。」
こんどこそもっと大きく目を見開くリエジー様。
ふふ!これで勝ってこそ乙女なのですよ!
「わかった。して、条件はどうするのだ?」
「そうですね。では、勝った方は負けた方から1000イオルもらうというのはどうでしょう。」
お金で解決です!1000イオルは私の給料の約10年分。つまりは結構高額ですけどね。
まあ、お金なんて要らないのですがお嬢様にプレゼントしますし。あとは、体裁ですよ。体裁。私はあいつをボコボコに出来ればいいのですから。
ん?誰が払うのか?私に決まってるではないですか!お嬢様に払わせられるわけないでしょう!そもそも負ける気ないですし。とはいえ、そのぐらいは色々あって持っている。商売もしてるしね。
「うむ。」
リエジー様が頷くのを見て私はいそいそと一枚の紙を取り出す。契約勝負の契約書です。それにさらさらとさっきの事柄を書き連ねていきました。
「これでよろしいでしょうか?」
「ああ。」
「わたくしも構いませんわ。」
オルレお嬢様とリエジー様に了承をそれぞれいただき魔法で印を押してもらう。よし、作戦通り。
「では、この後お披露目会が終わればで。」
「うむ。せいぜい頑張るように。」
偉そうにしやがって。すぐにその体を折ってやります!(物理的に)
そのまま一旦去っていく野次馬…貴族達とリエジー様をオルレお嬢様と見送る。そして、示し合わせるように人気のない壁際へいき…
パチン!
小さく手を合わせた。
二人のリエジーとの戦いはもうすぐ始まろうとしている。
読んでくださりありがとうございます。続いては戦いです。ポイントやブックマークしてくれれば作者は泣くほど喜びます。