ピンチはチャンスの巻
◇◇◇◇◇◇
一方、クレアは既に横穴に戻ってきていたが、何故か胸騒ぎがしていた。
「ジェイム……」
今までの経験を考慮すると、ジェイムの身に何か起きたに違いない。
クレアは本能的に、ジェイムと人面樹が落ちていった海へ辿り着いていた。
「ジェイム……いるの? いたら返事をして――っ!」
波打ち際の音にクレアの声はかき消され、もはや絶望的と思われた。
しかし、その声は確かにジェイムの耳に届いていたのだ。
「クレア――っ! 俺はここだ!」
僅かに水面に顔を出すジェイム。
どうやら人面樹を葬ることには成功したようだが、自らの体力はかなり衰退していた。
「ジェイム、今助けるわ」
クレアは弱まった魔力を何とかかき集め、ウェーブの魔法を放つ。
完璧とまではいかないが、形だけはウェーブになった。
クレアはウェーブに飛び乗り、ジェイムに近付く。
あと、五メートル……。
あと、三メートル……
あと、一メートル……
「もう少し……」
クレアはモフモフとした体の水気を切り、短い手を差し伸ばした。
「クレア、済まない……」
ジェイムが、前足を差し出した時だった。
「うごっ……」
ジェイムの後ろ足は何者かに絡まれ、渦潮の中に引き摺り込まれていった。
「ジェイム――っ!」
クレアは、咄嗟に自分の身を投げ出した。
水中で、ハムスターの姿は圧倒的不利。
しかし、迷っている暇などなかった。
一刻の猶予も許さない。
「クレア、来ちゃ駄目だ。お前まで巻き添えにするわけにはいかない……」
呼吸が小さくなるジェイムの足に絡み付く奴の正体……それは大王イカだった。
大王イカは触手を自在に操り、ジェイムに絡み付く。
「ジェイム――っ! 今助けるから――っ!」
クレアは無意識のうちに、ジェイムのもとへと泳いだ。
当然のことながら、モフモフが邪魔して、どうしても浮き上がってしまう。
そんな様子を見て、大王イカはクレアにも襲い掛かる。
――シュパ―ン――
勢いよくクレアに絡み付く、大王イカの触手。
「こぼこぼ……息が出来な……い」
ジェイムもクレアも、気を失う寸前まで来ていた。
これ以上、酸素が供給されなければ待っているのは『死』あるのみ。
大王イカは、海底の奥深くに二人を引き摺り込もうとした。
やがて、日の光も射さなくなり、暗黒に満ちた世界がやって来た。
もはや、どちらが天で、どちらが底辺かもわからないくらい、感覚も麻痺して来ていた。
薄れ行く意識の中で、クレアはそっとロザリオに手を添えた。
今までも窮地を救って来た、ジルバーグから受け継いだロザリオ。
「お願い……」
暗黒の海底に光が射す。
光の出所は、勿論そのロザリオ。
クレアふと意識が戻り、一か八か人間の姿になろうと試みた。
しかし、思う通りの姿にはなれなかった。
巨乳でも貧乳でもない……
ツインテールにカチューシャ、大きな眼鏡に……ピンクのフリルのついたメイド服……そして絶対領域からはみ出るムチムチとした太股。
その姿になった途端、クレアは魔力を取り戻し、剣術も取り戻し、更には水中でも息が出来るようになった。
そう、クレアは窮地に追い込まれたことで覚醒したのだ。
「ジェイム、今助けるわ!」
クレアは触手を意図も簡単に振りほどき、そう言った。




