戦いが及ぼした確執の巻
長政は夥しい量の出血を伴い、この世を去った。
クレアの手によって。
自分の犯した過ちに嘆くクレアに、ジェイムとお市が駆け寄る。
「クレアさん……そんなに自分を責めないで下さい。長政様はクレアさんを恨んではいない筈です」
「クレア、俺もそう思う。あれは避けられぬ事故だ」
お市とジェイムがそう励ます姿を見て、黒き魔女は再び笑みを浮かべた。
「お前らを倒すことなど、赤子を捻るようなもの……話にならない……」
それを聞いたお市は、亡き夫である長政の手に握られていた槍を携える。
「今度は、この市が相手です」
その瞳は、死を覚悟したかのようにもみえる。
夫の死を嘆くよりも、その仇を取ることが先決。
この時代を生き抜く為には、そんな考えが必要だった。
そんなクレア達を弄ぶかのように、黒き魔女は縦横無尽に空を飛び回る。
やがてお市の前に降り立つと、ギロリと睨み付けた。
「お市さん、離れて!」
「!!」
クレアがそう言うも、お市は槍で戦おうとしていた。
万事休すかとクレアが駆け出すと、お市はクルリと振り返り、クレアを見据えた。
「お市……さん?」
「死ね……死ね……」
その瞳は赤く染まり、槍はクレアに向けられた。
「クレア、逃げるんだ。どうやら、お市さんはマインドコントロールされたらしい」
「なんですって? ジェイム本当なの?」
「化け猫無勢が、察しはいいよだね。お市! こいつらはお前の敵だ。夫の長政を殺した憎い奴……憎むべき相手はここにいる!」
黒き魔女はそう言い放つと、遥か後方に逃げ出した。
「黒き魔女め……」
「ジェイム、お願いまた追い掛けて! お市さんはあたしが何とかするから……」
――ビュュ――
「余所見をするな! 長政様を殺した憎い奴……」
お市はクレアとジェイムに対して、槍を振り回した。
「お市さん、話を聞いて……」
「許さぬ……許さぬ……」
「クレア、今のお市さんに何を言っても無駄だ……」
そんなやり取りをしてる間に、黒き魔女は戦線離脱し、行方を眩ました。
「術を解く方法を考えるのよ」
「そんなものあったら、信長だって死なずにすんだ筈だ。残念ながら……」
ジェイムは、諦めにも似た言葉を発した。
「そんな……こんなことって……」
お市はそんなことはお構い無しに、槍を振り回わす。
いや、少し自我が残っているのか、先ほどより動きが鈍っている。
「お市さん、あたしは貴女を倒せない……」
目を瞑るクレアに、お市の槍が迫り来る。
――スッ――
刃がクレアの眉間ギリギリに迫ったその時、お市の動きは止まった。
「クレアさん、お願いです。市を、殺して下さい……悔いはありません……長政様の元へ逝かせて下さい」
僅かなお市の意識が、クレアにそう語り掛けた。
「出来ない……出来るわけないじゃない!」
クレアがそう言いながら躊躇していると、槍に向かってジェイムが飛び掛かる。
そして、体を反転させるとその槍先をお市の心臓に向け突き刺した。
「はぅぅ……」
――ドサッ――
お市は満面の笑みを浮かべ、その生涯に幕を降ろした。
「ジェイム! アンタ何してんのよ!」
「クレア……これは仕方のないこと……これが生きるということだ……」
「ジェイム……見損なったわ。これがアンタの生きる術だと言うなら、もう一緒にはいれないわ!」
「クレア……俺はクレアの為に……」
「そこまでしてあたしは生きたくない! もうその顔を見せないで!」
「…………」
ジェイムは肩を落とし、クレアから立ち去っていった。




