古き日本からの巻
一見穏やかに見えるこの田園風景。
しかし、そこに似つかわしくない一行が舞い降りた。
「クレア、魔力はまだ戻らんのか? さすがに三人ともなると、背中が痛い……」
ジェイムの言葉を冗談半分に受け取ったクレアは、
「人間になる方法を忘れちゃった」
と、豪語する。
これには温厚なジェイムもキレ、三人纏めて背中から振り落とした。
「痛いわね!」
「クレア、冗談を言っている場合ではない! 我々は空間追放を食らった人々を助け出し、黒き魔女を討伐する為にここまで来たのだぞ!」
「ジェイム、声がでかいよ」
熱くなるジェイムをメルルが止める。
だが、時既に遅く、農作業をしていた農民がジェイムの声に気付き、近付いてくる。
クレア達は逃げる間もなく、その場に止まった。
農民は不思議そうな目で、クレア達を見つめる。
「珍しい猫と、ネズミだべな。こっちさ来い」
どうやら、この農民には精霊であるメルルとナップの姿は見えず、ハムスターのクレアとジェイムしか見えていないようだ。
「あたし人間だから!」
自分がハムスターの状態だと言うのを忘れ、クレアは思わず喋ってしまった。
「ネ、ネズミが喋った……」
農民は腰を抜かし、尻餅をついた。
ジェイムはもはやこれまでと、自らも口を開いた。
「驚かせて済まない。我々は、不思議な力で喋ることが出来るのだ。俺の名はジェイム。こっちは……」
「ベスタニャ王国の王女クレアよ」
農民は頬をつねり、夢じゃないことを確認するとようやく立ち上がった。
「今まで生きて来て、こんなことは初めてだっぺよ。オラの名は田吾作、見ての通り農民だっぺよ」
田吾作は半信半疑ながらも、クレア達に気さくに話掛けた。
どうやら敵ではないようだ。
クレアは田吾作に敵意がないと確認すると、人間の姿を露にした。
田吾作には刺激が強すぎる、巨乳の方のクレアだ。
「ぶはぁ……」
田吾作は再び尻餅をつき、噴水のように鼻血を撒き散らした。
「おめぇさん、本当に人間だったんだな。しかも乳がでかいお侍さんはオラ初めて見ただ」
田吾作が驚く横で、メルルが『偽りの巨乳……本当は貧乳』と毒を吐く。
「メルル――っ!」
クレアは、メルルに向かって拳を挙げる。
しかし、メルルの姿が見えない田吾作は、クレアが何をしてるのかわからなかった。
その姿を見て、ジェイムが詫びを入れる。
「済まない。気にしないでくれ。それはそうと田吾作、我々は黒き魔女と呼ばれる女を探している。心当たりはないか?」
「はて? 聞いたことあるような、ないような……」
「ちょっとアンタ思いだしなさいよ。何なら、サービスしてもいいわよ」
「ぶはぁ――っ!」
再び田吾作は鮮血に染まる。
「ふしだらな姫様だっぺな。確かこの先の姉川で、戦が行われてるでな。そこに異国の黒い服を着た女が、軍師になってるって聞いたことあるだ」
「この先にいるのね。ありがとう田吾作」
「待つだ。戦は遊びじゃねぇだよ」
「田吾作よ、心配するな。クレアは、人並外れた身体能力を持ち合わせているのだ」
ジェイムはそう言うと、田吾作に礼をしながら背を向けた。
「待つだ!」
「まだ何かあるの? しつこいわね」
「その……何だ。オラにそのでっかい乳ば、揉ませてけろ!」
――ドフッ――
「行きましょう」
クレアはスケベ心を抱いた田吾作の鳩尾に重いパンチを浴びせると、姉川に向かって歩き出した。
ジェイムは思った。
クレアだけは敵に回してはいけない、味方で良かったと。




