譲れない戦いの巻
急な斜面を転がり落ちていく、クレアとメルル。
鋭い枝や、細かい石が突き刺さったが、ジェイムの安否を気遣い、とにかく千年樹を目指した。
やがて、クレアの目は、ジェイムの姿を捉えた。
「あれは?」
大量に出血するジェイムと、あの忌まわしき黒き魔女。
クレアは、ジェイムの身に何が起きたのかを瞬時に悟った。
クレアの存在に気付いたジェイムは、力を振り絞り怒号を上げる。
「来るな! 来ては駄目だ」
一瞬、足を止めたクレアだったが、それに対し言うことを聞くはずもない。
「別に、アンタを心配して来たんじゃないからね。え~と……そう、千年樹を間近で見たかっただけよ」
その様子を伺いながら黒き魔女は、ニヤリと笑う。
「お前……生きていたんだね。嬉しいねぇ。全員纏めてなぶり殺してやろうかね」
「うるさいわね、おばさん。もう、アンタなんかに負けないんだから」
「お、おばさん? 言わせておけば貧乳ハムスターが。今度は石にしてあげようかね」
それを聞いて、メルルが笑い転げる。
「貧乳だって。ニャハハ」
――ボゴッ――
クレアの拳が、メルルの脳天を直撃する。
「いった~い……」
「メルル、アンタは引っ込んでなさい。黒き魔女! あたしが相手よ」
「クレア……そいつは俺達の敵う相手じゃない……逃げるんだ」
「イヤよ。これはあたしの為でもあるの!」
「クレア……」
「面白い……まずはお前を血祭りにしてやるわ」
黒き魔女は、両手を突きだした。
その指先からは、うねりを上げながら、濁った水が集まり始める。
「貧乳ハムスター、これでも喰らいな!」
濁った水は大きな壁となり、クレアに襲い掛かって来た。
それに対して、クレアも負けじとアクアの魔法を詠唱する。
激しくぶつかり合う、水と水。
クレアは必死に地面にしがみつき、黒き魔女の魔法を受け流そうとした。
バチバチと電気を帯ながら、一進一退を繰り広げ、遂にはクレアの目の前にまで濁った水は押し寄せて来る。
「このままでは……」
クレアは、持てるだけの魔力を更に追加していく。
「アンタ、バカ、バカ、バカ――っ!」
一気に押し返した水の魔法は、黒き魔女の濁った水さえ味方につけ、飲み込んだ。
「のわぁぁ……」
黒き魔女は濁流に飲み込まれながら、強固な岩に叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……」
「クレア、凄いじゃん」
「メルル……まだ終わっていないわ……アイツはまだ生きている……」
「えっ! そうなの?」
メルルは身を隠すように、戦線から遠ざかる。
逃げ腰だが、懸命な選択であろう。
――ガラガラ――
崩れ落ちた岩の間から、黒いローブが徐々に露になる。
「ぺっ……どうやら、魔法のカンを取り戻したようね。ならば、約束通り石にしてやるわ」
黒き魔女は、指先一点に魔力を集中し、クレアに狙いを定める。
クレアは魔力を使い果たし、未だその場に身を置いていた。
「くっ……」
立ち上がることも、逃げることも出来ず、クレアは黒き魔女を睨み付ける。
「石におなり――っ!」
眩い閃光が、クレアに向かってくる。
「クレア――っ!」
クレアに向かって、意識が飛びそうなジェイムは駆け出した。




