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イケメンだらけの宇宙艦へ転移しました~天の海の魔法少女~  作者: 高瀬さくら
1章.スペースシップへようこそ

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98.発情期

『みゃーん』


 とたんに、珀蘭の姿が消えた。


「珀蘭!?」

「また抜けられた……」


 スヴェンの苦さが混じる情けなさそうな声を聞いて、サリヤは「珀蘭は誰にも止められませんから!」と叫んで魔力を探る。


「アーサーさんのところです」

「キャプテン?」


 予想していたかのように、スヴェンが顔をゆがませる。


「追いかけます」

「こら。飛ばない」


 転移しようとしたサリヤの腕をスヴェンが掴む。珀蘭と同じような扱いをされたような気がするけれど。たぶんまちがってないだろう。


「俺が一緒に行くから」


 そして歩き出そうとして慌てて振り返る。


「そうだ、そのままでいい? 化粧とか待つよ。今のままでも問題ないけど」


 寝起きの素顔を晒したことに慌てて顔を赤くして、部屋へと戻ろうと思ったけど、珀蘭を追いかける方が先だと思い直す。


 ドアから離れて、壁に寄りかかり背を向けて待つスヴェンはこういうことに気が利く人。


 鏡を見て顔と髪を手櫛で直した後、スヴェンを急かして、急いでブリッジに向かう。


 部屋に入ると、ブリッジ内に鳴き声が響いていた。防音効果があるブリッジ内だから外には聞こえないけど、中では戸惑いと苦笑の雰囲気が漂っている。


『にゃー、にゃーん、にゃーん』


 アーサーの足に体を擦り付けて甘える珀蘭。アーサーに懐いているとは思っていたけど、まさか発情期でこんなに甘えてしまうなんて。彼が苦笑しながら両腕で脇を持ち上げる。


 べろーんと珀蘭の体がお腹を向けて伸びる。


「サリヤ嬢?」

「すみません、その――」

「発情期ですよ、キャプテン」


 サリヤの言葉を拾い、スヴェンが続けてくれる。


「今までこんなこともなかったし、私も初めてです。珀蘭はまだ幼獣なのに」

「仔猫でも数か月で発情期を迎える子もいるからな」


 キャプテンが胸に抱き上げて、喉を撫でると嬉し気に鳴く。


『みゃーん』


 彼の表情が柔らかいもので、今の艦は緊急時でないということがわかる。むしろ休憩時のように、アーサーは珀蘭を愛でていて楽しんでいる。


「去勢は、とこれは神獣には失礼だな。とはいえ、今は相手もいないし。かわいそうだが我慢してもらうしかないな」

「仕事の邪魔をしてしまって、その上煩くてすみません」

「いや、気に入られて光栄だよ」


 珀蘭を受け取ろうと手を伸ばすと、噛みつかれる。


「珀蘭!?」

「こら」


 キャプテンが軽く珀蘭の頭を叩きかけて手を止める。もちろんしつけのためだから構わない。ただ彼が手を止めたのは、サリヤが珀蘭と同期していると思い出したからだろう。


(この今で!?)


 それまでは、忘れられていたのに。


 美しい彫像が動きを止め、無表情からほんの一瞬、片目だけがちらりと伺うようにサリヤを見た。


 その視線を受けて、サリヤは思わず顔を赤くした。アーサーが顔に出さないでいてくれたのに自分でばらしてしまった。彼の顔がすぐに真顔になる。


 同時にドアが開き勤務に出てきたラルフが、姿を現す。


 固まった雰囲気に、ラルフは怪訝そうに眉を顰めるけれど、何も言わずに自分の席に着く。


『にゃーにゃーにやー』


 甘える珀蘭の声だけが響いている。時には、赤ん坊の泣き声にも聞こえる。だまりなさい、と言いたいけれど、この子の本能だ。


「サリヤ嬢。――部屋で休みなさい」


 アーサーの言葉にサリヤは何も言わずに頷く。


「け……いいえ、そうさせてもらいます」


 部屋で休む。それで、落ち着くのか。そもそも動物の発情期さえどのくらい続くのかも知らない。


(珀蘭はいつ落ち着くの?)


 同期している間、サリヤもずっとこの感覚が続くのか。熱と変な疼きに拳を握り締めて耐える。肩があがって、激しい呼吸を沈めるように胸を押さえる。


「送りましょうか?」


 ラルフの淡々とした声。けれど、これまでとは違う、声と顔に感情が見え隠れしている、心配そうだ。わずかにサリヤは首を振る。ラルフがまだ気がついていないといい。


 鳴き続けの珀蘭に対しては、クルーたちが「犬かと思っていた」「猫なんだ」と不思議がられている。キャプテンたちが普通に振舞ってくれているから、サリヤの状況に誰も気が付かない。


「いいえ、一人で戻ります。珀蘭が落ち着いたら、私の中に戻るよう呼び掛けてみます」

「このあとは非番だから、部屋で預かろう」


 アーサーに言われて、サリヤは驚いたけど、思わずうなずいてしまった。珀蘭は嬉しそうに彼の胸に体をこすりつけている。


(立派な制服に毛がついてしまったらどうしよう)


 基本毛が抜ける獣ではない。サリヤの部屋にも衣装にもついたことがない。でも、さすがにすりすりしてきたら衣装についてしまうかもしれない。


 サリヤも自分の変な感覚に耐えられそうもなかった。逸る気持ちに任せて、素早く身を翻して、ドアから外に出た。


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