06 コンビニとはある意味道具屋である。
呆然としたままふらふらと歩き出していたらしい。足が何かにぶつかって正気に戻った。…何かと思ったら、さっきまで持っていた箒だった。いつの間にか落っことしていたみたいだ。
前も横も上も樹、樹、樹の現在。じゃあ後ろは?
振り返ると後ろには、変わらず明かりが眩しい当店が立っていた。森の中にぽつんと、店舗だけ立っていた。
たくさんの樹が所狭しと並んでいるのに、店の周りだけぽっかりと空間が空いているのも、なんだかおかしい気がする。
「とにかく、店を開けたまま離れる訳にもいかないし、一回戻ろうか」
一人言だけど、声に出さなきゃやってられない気分だった。
店の周りが激変して、店内にも変化がないか少し心配していたけれど、店の中は何一つ変わっていなかった。お客様が誰もいないのもいつも通り。
時間は朝5時過ぎ。とりあえず母さんに電話しようと携帯を取り…圏外。
「あれ?なんで??」
携帯も店の固定電話も全く繋がらない。音信不通である。
「落ち着け、落ち着け…パニックになったら何も出来なくなる。」
ぶつぶつと呟きながらレジ中をぐるぐる歩き回る様子は、自分でも不審者っぽいとは思う。思うけど、そうでもしないとパニックを抑えられそうになかった。
歩きながら、出来るだけいつもと同じ状態に戻ろうとする。
「よし、一回落ち着いて考えよう、紅茶飲もう、うん」
事務所でカモミールを淹れながら、これからどうするか考えよう。
現状、電話は繋がらないし一人で店にいても何も変わらないだろう。
となれば、店外のあの森を探索しに行くべきだと思う。道具をちゃんと整えて、装備して万全の状態で。
これがRPGとかだと、最初の街を出る前に道具屋や武器屋を回るんだろうけど、私にはそんな必要はない。
何故ならここは何でも揃うコンビニ!食料や日用品が種類多しと揃っている。
家業がコンビニで良かったと初めて痛感した。
「大体これくらいかな。あんまり多すぎても動きにくいしね」
私は揃えた装備を見てうんうんと頷いた。
おにぎりなどの軽食をいくつかと、ペットボトルを数本。懐中電灯や絆創膏に包帯は絶対に必要だろう。それにペンやノート、カッターナイフやライターも装備。それらを全てリュックにぶち込む。
装備はもちろん全て自腹である。別にレジを通してみたら意外と高額で、経費で落とそうか真剣に悩んだりなんてしてません。ちゃんと自分のお金で買いました。はい。
ちなみに、服装はいつものユニフォーム姿のままで行くことにした。私服よりも動きやすいし、毎日ずっと着てるユニフォームの方が落ち着くからね。
それに、いくら万能のコンビニと言えども、RPGで言う鎧等の防具は取り扱っていないから仕方ない。靴下やTシャツは売ってるんだけどね。
店内の明かりを全部消して、自動ドアも閉め切って外に出る。相変わらず前も横も樹の大群である。
振り返ると真っ暗の店は少し不気味で見慣れなくて、ちょっと心細くなった。
「大丈夫、一人で仕事するのには慣れたじゃない。店外探索も仕事の一つだと思えば、仕事モードになれば、大丈夫のはず。」
ユニフォームの胸についている名札をぎゅっと握りしめる。そこに書いてある『時間帯責任者』の文字を見ると、少し勇気が出た。
過酷と言われるコンビニ店長の仕事を、これでももう半年ほぼ一人で続けてきた。その苦労に比べたら、こんな森だって大したことないように思えてくる。
本当に色々と大変なんだよ…コンビニ営業も。
「よし。行こうか」
そうして私は懐中電灯のか細い光を頼りに、暗い森の中へ歩き出した。
私はRPGでは装備をしっかり整えてから街を出るタイプなのです。武器防具、大事。