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聖者の依り代  作者: 鷹司
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聖者の復活

そうして聖者(わたし)は再びこの地に降り立った

神官の服を着た従者の家の者が恭しく跪き首を垂れている

ふと、違和感を感じ手を見ると聖杖の先端の宝珠を背伸びして鷲掴みにしていた

なぜだ

内心動揺しながらもゆっくり持ち替えると磨き上げられた表面にべっとり手の跡が付いていた

顔をしかめると頭の中から声が響いた

『汚しちゃって ごめんなさい』

まだ若い女の声だ

「大したことではないから 気にしないでいい」

『ごめんね ありがとう』

今出された私の声とよく似た声は嬉しそうに答える

元気のいい声だ この状況をわかっているのだろうか?

「お嬢さん お名前は?」

『カメイリだよ』

「こんにちはカメイリ、私はビドゥ 君の体の新しい持ち主だ よろしく」

『よろしく ね?』

なんだか幼い子のようだ

女性の体を持つのは初めてだがおそらく視線の高さから14、5歳だろうに

しかしその幼さ故にか今までにないくらいに適合がいい 彼女を少し追いやっただけなのに頭に大きな空間ができてとても調子が良い

今度から選り好みせずに女性の適合者も使うべきか?

『持ち主って?』

すこし遅れて疑問に思ったみたいだ

「君をこれから頭の中の深くに閉じ込めてこの体は私が貰うんだ、君は少し見ることはできても指一本動かせない。でも世界の役に立てるんだよ よかったな」

わかりやすいように噛み砕いて

そして憐れにも選ばれてしまった依り代を馬鹿にするように言い捨てる

何度目かの定型文

依り代の精神など早めに壊れてしまった方が楽だ

存在自体を切り捨てるように酷い言葉を吐き捨てる 私を憎んで壊れてしまえ

そう思ったのに

『ありがとう!嬉しい!』

変わらぬ元気なお返事だった

前の依り代達は何度謝ろうと何をしようと許してはくれなかった

何度目かの憑依で諦め 早く壊れるように楽にできるように誘導し始めた

なのにこの子は何なんだ

これがいわゆる阿保の子か 今まで周りにいなかった人種なのでとても対応に困る

「カメイリ 本当に解って言ってるのか?」

不安になって聞いてしまう

『なにが?』

「カメイリはもう好きな物は見れないし触れないし 動けもしないし味わうこともできない、それでもいいのか?」

『いいよ、カメイリはね 役立たずなの』

「は?」

思わず変な声が出る

何を言い出したんだろうこの子は

『だからね カメイリが世界の為に役に立てるんでしょ?ならあたし頑張るよ』

その言葉に衝撃を受けた

彼女にとって何気ない言葉だったかもしれない、でも やっと自分を肯定された気がした


これまで光魔法の適性と頭の良さから天才だの聖者様だの言われて崇められてきた

だが、みんな思いを押し付けるばかりで同じ所に立とうとはしてくれなかった

私がいなければ世界は今にも壊れてしまう危うい均衡で保たれてる

穴の開いた水瓶を手で塞ぐような 私が光魔法で保たなければあっという間に崩れてしまう世界

それを知っても誰一人として同じことをしようとはしなかった

私だって辛かった

この重圧を知る前に魂に人格を刻み込んでしまった私には もう死んでも逃れる術など残っていないのに

死ねば忘れられる人達は さも犠牲者面して去っていく

みんな私を褒め讃えるばかりで人柱になどなりやしない

なのに彼女は 役に立てるなら頑張ると、何も出来ない状態にされても耐えると言ってくれた

気がつくと視界が滲み頬を何かが伝い落ちた

ああ、泣くなんていつぶりだろう

久方ぶり過ぎて止め方もわからないからただただ流す

老いたと思っていた 諦めを覚えた心にこんな若く柔らかなところが残っていたなんて

『だいじょうぶ?』

「…君がいるから大丈夫だよ」

心配そうな彼女の声が心地いい

そうだな 最初の私は私しかいないから世界の役に立ちたかったんだ

でもそれは私だけの力で みんな褒め手伝ってはくれたけど共に歩んではくれなかった だから私は私の為に世界を保ち続けた

ただ誰か私と一緒に頑張って欲しかった

なのにこの子は カメイリは…

壊そうと 消そうとしたカメイリに 傲慢だろうと今はただ一緒に頑張って欲しかった

「カメイリ 一緒に頑張ってくれるの」

『うん、役に立てるように頑張るよ』

それは私の…いや俺の久しぶりのわがまま

これまで押し込めてしまった依り代には悪いと思うが、押し込める必要のない彼女にまでそうしようとはもう思えなくなっていた

俺は一人だったと何回も死んで今更気付いてしまった 気付いたからには戻れないし耐えられない

「ありがとう」

これからも私は世界を救う聖者を続けるだろう だけど俺を救える聖女は君しかいない

まだ口に出すのに気恥ずかしいこの気持ちはなんだろう

わからないが その気持ちと尊崇を込めて俺(彼女)の甲に口付けた


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