喪失模糊2
現状だけ言えば、今日私のする事は我煉幸のお守りだ。
我煉とは、私の会社の社長の名前、その我煉の妹にあたる齢九歳の天真爛漫な子が、今回私のお守りの対象である。
私の職業は所謂取立て屋である、借家にて滞納された金を強制的に毟り取ったり、貸し出した金を回収する、人に恨みを買うような仕事が多い。
とは云うものの、社員は私を含めて五人、取立など月に一度か二度程度で、大抵は回収のみと、随分と楽な仕事だ。
ただ、余りにも暇だと言うことで我煉からたった一人の姉妹のお守りを担当することになった。
「模江さん、そんな面倒そうな顔をしてると、デートの際でその顔は女の子に楽しくないって言ってるようなものよ?」
幸は私の顔付きに不満があるのか、そんな事を云ってくる。
この顔は生まれ付きだ、幾らか自堕落していそうとも言われたが、真顔でこれなのだ、整形しろとでも言うのだろうか。
「事実だ、これ程までお守りがつまらないとは思わなかった、二度とやるまい」
なので、少々キツくあたってみる、我煉の妹だ、所詮は笑って済ますだろうよ。
案の定、幸は笑っていた、それも小悪魔的な笑みで、上から下まで黒い格好の幸には中々似合うような笑い方。
「あら?模江さん、これはお守りじゃないわ、デートよ? お守りは対象に必要な物を買い与えるだけけど、デートは私が必要な物を買って貰うの」
「どっちも同じだろうが、結局私の財布から金が出て行くだけだろ、ソレ」
「ニュアンスが違うわ、それとも模工さんは、女子小学生にお金を払えとでも云うの?」
……もしそんな事を言う奴がいるなら、そいつは犬畜生にも劣るだろう。
幸の言動故につい同年代と思えてしまうが、姿形は女子小学生、言うなればおませさんだ。
一応は成人を終えた私が金を払うべきだろう、……幸いにも、我煉から必要資金は得ている。
「分かった、もういい、何処に行きたいんだ?」
「ふふ、私、模江さんの簡単に折れる所は好きよ?」
女子小学生に好かれても意味はあるまい。
私は腕に抱きついてくる幸を振り解き、胸ポケットから五十円で買える安物のラムネ菓子を取り出す。
この菓子は好き嫌いが分かれるらしいが、私はこのチープな味が好きだ。
ソーダ瓶に似通ったプラスチック瓶から一つ菓子を掌に乗せて口元に含んだ。
カリカリと齧って、甘い粉薬に似た味がする。
「………模江さんって、子供ね、そのお菓子、今時の子供でも食べないわ」
緑色の菓子袋を見つめながら、幸はそんな事を云う。
人の趣向にケチを付ける物じゃない、と云おうとしたが、子供の頃、この菓子を好き好んで食べていたのは私だけだった気がする。
「懐かしい味なんだよ、今も昔も、昔の味があるってのは、何よりも嬉しい事なんだぞ?」
大人になれば分かる、と云って、ラムネ菓子を口に含む。
幸はそう云うものなのか、とそれ以上追求する事無く、服を見に行きたいと言い出した。
「服屋か、デパートに行くのか?」
「えぇ、大型のデパート店に行きたいわ」
大型、小物のアクセサリーとか、ファッション誌も見たいのか、と云いたかったが、猥褻な行為かもしれないと思って口には出さない。
まあ、女子小学生に何をそんな警戒していることやら。
「大型のデパートか………ブランドの服とか、止めてくれよ?」
「大丈夫よ、だって私が見るのは下着ですもの!」
………おい、無い胸に見栄を張るな。




