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侵食の異世界  作者: なまなた
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自覚症状

何処かのビルの、何処かの研究施設。


医者とも博士とも見て取れる白衣を着た、男がが、焼け爛れた顔を此方に向け、私の顔を見て厭らしく笑っている。


「ふうん。君、両目の視力が失ったのは何時?あ、三年前?高校生の頃ね、ふーん、事故で視力を失った?ははあ、それは失うじゃなくて無くしたと云うべきだろうに、それから一年ほど前に、急に視力が戻ったと……へぇ君"代感症"か"殖感症"が働いていると思うよ?」


「……何だよそれ?」


「人には必ず五つの感覚が在る事を知ってるよね?"味覚"、『聴覚』、【嗅覚】、〔視覚〕、[触覚]の五つ、それらがあって、人は人らしい感覚を持つことが出来るんだけど、時折、その五つが欠けてしまう事態があるよね、例えばストレスのせいで味が分からないとか、鼓膜が破けて耳が聞こえない、とか、それらは所謂"失感症"と云うものでね、感覚がうまく働かない事を指すんだけど、一年前の君の状態はそれ、君の両目って、本来は永遠に治らないものでしょ?」


「えぇ、医者にそう云われて、一度死ぬ事も考えましたからね、ですがそれが?」


「ごくたまにね、その失った感覚を補おうと、他の感覚の反応が大きくなったり、新しい感覚が芽生える事があるんだよ、それも人間の技術じゃあ解明できない、超能力に類似された感覚さ、僕がさっき云った"代感症"と"殖感症"の二つ、今の君の状態を言うなれば後者に取れる、だって"代感症"は一つの感覚が使えなくなったとき、他の感覚がその失った感覚を補ってくれるんだ、目が見えなくなれば耳で音を認知したり、口でソナー信号に似た音波を発して反射してくる時間を計算し、それで何処に建物があるのかを確認したり、そう云う穴埋め能力に特化しているのが"代感症"って奴なんだ」


「だとすれば、"殖感症"は?」


「うん、"殖感症"ってのはね、言うなれば、他の所からその目の変わりになる機能を持ってくる事だね。オカルトになるんだけど、目の見えなくなった少年が、ある日悪魔と契約したお陰で、目の視力が戻ったって話がある。あれも"殖感症"の項目に入るね」


「―――なあ、私の目の事態をオカルトとごっちゃ混ぜにしないでくれ」


「でもさ、こういう例えがなければ、君のその"目"の説明はつかないよね?三年前に失った視力が、ある日突然回復しているなんて、そっちの方がオカルトさ、それに、君の目には三年前よりも、もっとも鮮明に見えているんだろう?僕としては、君の目の経由よりも、どんなのが見えているかを知りたいな」


「――――曖昧」


「ん?どういう意味?」


「目に見えるものが、それなんですよ、曖昧、なんていうか、形が無い、と云うべきか、一秒後には長方形が楕円形に変わるような、そんな感じ、色も無い、それなのに其処にあるのが分かる、強度も耐久も重くもないし軽くも無い、それなのに、私がそれを持つ事が出来る。私がそれを持てば、形状は三寸ばかりの定規の様な形になるが、やはり曖昧に近くて、模糊の様なもの…………」


「―――へぇ、そりゃ凄い、だとすれば君は"殖感症"何かじゃないね、というよりか、君は"失感症"なんてものは無い筈だ、だって君の目が使えない状態になっていたのは脳の一部の障害のせいだからじゃないか、君、感覚と云うものは脳から発信されている事は知っているね?肌に触れれば脳に伝達され、匂いを嗅げば脳が味の項目を選出し、食物を食べればその味が脳から引き出され、目で見ればその脳に情報を写し、耳で聞いた言葉を理解できる範囲に変換される、そう云った感覚の"起源"である部分は、誰がしも"脳"である事なんだ」


「じゃあ、私が今まで目が見えなかったのは?」


「君は事故のせいで目が見えなくなったんでしょ?その事故って脳に衝撃を残すものだった?へぇ、車に轢かれた?うん、じゃあその時だ、脳に衝撃を受けたせいで、君の脳は一部分の機能を扱うことが出来なくなったんだ、それも部分的に、視覚情報という部類にね、眼球ってのは本来カメラのレンズの役割でしかない、目だけで景色を見たとしても、その景色を景色として見ることは出来ない、レンズだけじゃ写真を取る事は出来ないでしょ?脳と云う本体がその景色を構成することで初めて僕達の見る世界は完成できるんだ、君が通っていた病院は、どうやらヤブ医者が多いようだね」


「じゃあ、私の視力の低下は、目が原因ではなく、脳本体が原因だと?だとしたら、私のこの"曖昧"なものはなんなんだ一体?」


「君は"代感症"、それも脳のね、脳の一部である視覚情報が、何らかの代わりを為している、それが何であるかは僕にも判らないけど、君の見る、その"曖昧"てのは、君の脳の何らかの機能がカバーしている為に見える物だよ、原色って知ってる?赤青黄の三つが見える奴、あれって脳がそう色を選出しているんだけど、最近は三原色以外に、もう一つの色を見ることが出来る人も誕生しているよね、テレビ見た?うん、そうそれ、君は四原色を見る様に、君は"曖昧"を目に写す、その原理は未だに判っていないけどね、ねぇ、一つ聞きたいことがあるんだけどさ、君の見える"曖昧"って、僕にも触れられる?それって感触とかあるの?」


「触れても意味はないね、私が触れても感触かあるのかどうかも分からない、本当に曖昧なんだ」


「ふーん、じゃあいいや、えっと、そう云えば君、誰からの紹介でここに来たんだっけ?」


「……『我煉(がれん)』とこだよ、下の名前は忘れた」


「あぁ、【蛾連(がれん)】さんね、懐かしいな、彼とはもう何十年も会ってないからね」


「……失礼だが、あんた何歳?」


「見て分からないかい?今年で百二十歳だよ」





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