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18歳、今日からダンジョン探索者になります  作者: lala


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今日から探索者



時は2020年。


 世界各地にダンジョンへと繋がる《ゲート》が発生するようになって、およそ三十年。当初こそ未知の存在に世界中が混乱したものの、今ではダンジョンは人類社会に深く根付いている。


 内部から産出される魔石や鉱石、その他さまざまな資源。それらはエネルギー、医療、工業をはじめとする多くの分野で利用され、人類はダンジョン出現以前とは比較にならないほどの発展を遂げていた。


 そして、ダンジョンの内部へ足を踏み入れ、魔物と戦い、資源を持ち帰る者たちがいる。


 ――探索者。


 今では、それも一つの職業として当たり前に認知されている。探索者の活躍はテレビだけでなく、動画やライブ配信を通して世界中へ発信されていた。未踏階層への挑戦。巨大な魔物との戦闘。新しく発見された装備やスキルの検証。


 中には数百万人の登録者を抱え、企業と巨額のスポンサー契約を結ぶ探索者さえいる。ダンジョン攻略は危険な仕事であると同時に、一大産業であり、世界中の人々が注目する娯楽でもあった。


「……よし」


 鏡の前で自分の顔を見ながら、俺――天草大河は小さく呟いた。


 十八歳。高校を卒業したばかりの俺は、今日からその探索者になる。ずっと画面の向こう側で見てきた世界に、今日から自分も足を踏み入れる。そう思うだけで、胸の奥が妙に熱くなった。


 探索者になりたいと思ったのは、いつからだっただろう。きっかけらしいきっかけは、もう覚えていない。ただ、物心がついた頃には、探索者たちの配信を夢中になって見ていた。


 自分より遥かに大きな魔物へ向かっていく姿。昨日まで歯が立たなかった相手を、仲間と共にレベルを上げ、技を磨き、いつしか倒してしまう姿。それを見るたびに思った。


 ――俺も、強くなりたい。


 誰かに勝ちたい、有名になりたい、お金持ちになりたい。そういった動機がなかったわけではない。ただそれ以上に、自分がどこまで強くなれるのか。それを確かめてみたかった。


 机の上に置いていたスマートフォンと財布、それから必要な書類をリュックへ入れる。高校を卒業してすぐに借りたばかりの部屋は、まだ生活感が薄い。段ボールもいくつか残っているし、家具だって最低限しか揃っていない。


 それでも、今日からここが俺の生活の拠点になる。探索者として生きていくために、実家を出て始めた一人暮らし。そして今日は、その最初の日だ。


「……よし」


 忘れ物がないことを確認して、リュックを背負う。今日はまだダンジョンに潜るわけじゃない。まず向かうのは、探索者として活動するための登録を行う場所だ。


「今日からか」


 自然と口元が緩んだ。


 俺は部屋を出て、探索者としての第一歩を踏み出した。


            *


 探索者協会本部。


 東京都心に建つその巨大な建物を前にして、俺は思わず足を止めた。


「でか……」


 写真や配信で何度も見たことはある。それでも実際に目の前にすると、画面越しとはまるで印象が違った。正面入口には、装備を身につけた探索者らしき人たちが次々と出入りしている。中には、どこかの配信で見た覚えのある顔もあった。


 俺はそんな彼らを目で追いながら、胸の奥がまた少し高鳴るのを感じた。今日から、自分もここに出入りする側になる。


「……行くか」


 そう呟いて、俺は探索者協会本部の中へ足を踏み入れた。


 建物の中は、外から見た以上に広かった。正面にはいくつもの受付カウンターが並び、その上には「新規登録」「更新」「依頼受付」「素材買取」と、それぞれ案内表示が出ている。


 探索者らしき人たちの姿も多い。軽装の人もいれば、剣や槍を背負っている人もいる。その中を少しだけ見回してから、俺は「新規登録」と書かれた受付へ向かった。


「すみません。探索者登録をしたいんですけど」


 声をかけると、受付にいた女性がこちらを見て微笑んだ。


「新規登録ですね。身分証明書はお持ちですか?」


「はい」


 リュックから用意していたものを取り出し、カウンターの上に置く。受付の女性はそれを確認すると、手元の端末を操作した。


「天草大河さん。十八歳で間違いありませんね?」


「はい」


「では、最初に探索者登録について簡単な説明をさせていただきます。探索者として活動するには、協会への登録とライセンスの発行が必要になります。ライセンスはダンジョンへの入場や素材の売却、各種依頼を受ける際にも必要ですので、紛失には十分注意してください」


「分かりました」


「登録にあたって、このあと簡単な講習とステータスの確認を行います。問題がなければ、本日中にライセンスを発行できます」


 ステータス。


 その言葉を聞いた瞬間、思わず背筋が伸びた。レベルや能力。これまで配信やネットの記事で何度も目にしてきたものを、今日初めて自分自身で確認することになる。


「では、こちらの番号札を持って、奥の待合室でお待ちください」


「はい。ありがとうございます」


 番号札を受け取り、案内された方向へ歩き出した。


            *


 待合室には、俺と同じように新規登録へ来たらしい人たちが十人ほど座っていた。年齢はバラバラだったが、やはり俺と同じ十八、十九歳くらいの若者が多い。


 落ち着かない様子で足を揺らしている人もいれば、スマートフォンを眺めながら順番を待っている人もいる。俺も空いていた椅子に腰を下ろした。


 待っている間も、頭に浮かぶのはこれから確認する自分のステータスのことばかりだった。どんな能力を持っていて、自分はどこまで強くなれるのだろうか。


 そんなことを考えているうちに、


「番号三十七番、天草大河さん」


 名前を呼ばれた。


 すぐに立ち上がり、職員の案内に従って、俺は待合室のさらに奥へと進んだ。


 案内された先は、簡素な個室だった。部屋の中央には台座があり、その上に、人の頭ほどの大きさをした透明な水晶が置かれている。水晶の周囲には細いケーブルが何本も繋がれ、その先には大きなモニターが設置されていた。


「こちらへどうぞ」


 職員に促され、俺は水晶の前に立つ。


「これからステータスを測定します。水晶に手を置いて、そのまま動かさないでください」


「分かりました」


 目の前の水晶を見つめる。探索者になる者は、まずこの水晶で自分の能力を知る。俺は小さく息を吐いてから、右手を水晶の表面に乗せた。


「それでは、測定を開始します」


 次の瞬間、水晶の奥に淡い光が灯った。淡い光は徐々に強くなり、水晶全体を包み込んでいく。数秒ほど経つと光は静かに収まり、正面のモニターに文字が浮かび上がった。


【天草 大河】

【レベル:1】

【体力:11】

【筋力:12】

【耐久:10】

【敏捷:13】

【魔力:9】

【精神:14】

【スキル:《詠唱》】


「……詠唱?」


 思わず、その文字を口に出した。職員もモニターを確認し、小さく頷く。


「《詠唱》ですね。珍しいスキルではありませんが、現時点では単体で使える場面はほとんどありません」


「使えないんですか?」


「正確には、組み合わせるものがないと効果を発揮しにくいスキルです。魔法系統のスキルを取得できれば、将来的に活用できる可能性はあります」


「なるほど……」


 期待していたような派手な能力ではなかった。ステータスも、特別高いわけじゃない。でも、不思議と落胆はしなかった。


 これが今の俺なら、ここから強くなればいい。


 モニターに並ぶ数字を眺めながら、むしろ少しだけ楽しみになっていた。


「測定は以上です。天草さんのステータスはこちらで登録しておきます」


「はい」


 水晶から手を離すと、モニターに表示されていた自分のステータスが消えていく。少し名残惜しく感じながらも、俺は職員の案内に従って部屋を出た。


「このあとは新規探索者向けの講習を受けていただきます。ダンジョン内での禁止事項や緊急時の対応について説明がありますので、必ず最後まで受講してください」


「分かりました」


「講習終了後、問題がなければライセンスを発行します」


 いよいよ探索者になれる。そう思うと、さっき確認したばかりの《詠唱》のことよりも、そっちの方が気になって仕方がなかった。


            *


 新規探索者向けの講習は、一時間ほどで終わった。内容の大半は、ダンジョン内での基本的なルールや禁止事項、魔物と遭遇した際の注意点、緊急時の対応についてだった。


 どれも事前に調べていた内容ばかりだったが、実際に探索者になる以上、聞き流すわけにもいかない。


 講習を終えると、再び受付へと案内された。


「天草大河さんですね。お待たせしました」


 受付の女性が差し出したのは、一枚のカードだった。名前と顔写真、その下には探索者としての登録情報が記載されている。


「こちらが探索者ライセンスになります。本日から正式に探索者として活動できます」


 その言葉を聞いて、俺はカードを手に取った。


 探索者ライセンス。何度も見たことのあるただのカードなのに、自分の名前が印字されているだけで、不思議なくらい特別なものに見えた。


 カードには、名前や顔写真と一緒に探索者ランクも記載されていた。


【探索者ランク:G】


 探索者は全員、最初はGランクから始まる。そこから実績を積み、一定の条件を満たすことでF、E、Dとランクを上げていく。


 最高位はSランク。


 そして、そのさらに上には通常のランク制度とは切り離された特別な称号――《国家戦略級探索者》が存在する。一人で国家の戦力バランスすら変えてしまう、ほんの一握りの探索者たち。


 もちろん、今の俺には遥か遠い世界の話だ。


「Gランク、か……」


 ライセンスに刻まれたその一文字を眺めながら、自然と笑みがこぼれる。


 今は一番下。それなら、あとは上がっていくだけだ。


 ライセンスを受け取ったあと、俺は協会本部の一角に設置されている端末の前に立った。画面には、Gランク探索者でも入場できるダンジョンが一覧で表示されている。


 場所、推奨レベル、主な出現モンスター、過去の事故件数。どこを選んでも、初心者向けであることに大きな違いはない。


 それでも画面を眺めているだけで、胸が高鳴った。この中のどこかが、俺にとって最初のダンジョンになる。


「……ここにするか」


 俺が選んだのは、東京都内にあるGランク指定ダンジョン――《渋谷ダンジョン》。


 明日、俺は初めてダンジョンに潜る。



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― 新着の感想 ―
まだ1話目だからなのか、主人公の事が何も解らない。 何故高校を卒業した18歳で探索者を目指したのか? 何故18歳で部屋を借りる事が出来たのか? 何故高校卒業と同時に探索者をする事を親が認めたのか? 何…
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